「さあ、京都に着いたわ!」
「お姉ちゃん、落ち着いて」
「はい」
つい大きな声を出してしまい、亜里沙から窘められる。おっといけないわ。いつものかしこい、かわいいエリーチカのキャラが崩壊する所だったわ。
「もう既に崩壊してる件について」
「希、心を読まないで」
駅は多くの人では混み合っていて、ひっきりなしに人が出入りしていた。さすがは日本最大の観光都市といったところだ。やっぱり伏見稲荷大社と清水寺は行っておきたいわね。それと龍安寺あたりも……。
あれこれ考えていると、こちらに対する視線を感じる。
目をやると、同い年くらいの女子達がいた。楽器のケースらしき物を持っている。部活帰りかしらね。
「わぁ~、綺麗な人ですね~」
「モデルさんかなぁ?なんか見た事あるような……」
「そうだねー(私も高校生の間にあのくらいは……)」
「久美子、どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
モ、モデルなんて……もう、正直なんだから!
つい嬉しくなって、ウインクしてみたら、ちょうど中間地点を人が通り、その人にウインクしてしまった。怪訝そうな目を向けられて気まずいわ。
「そういやエリチ。その黒くて細長い鞄は何なん?」
「これ?乙女の嗜みよ」
「な、何なのよ……」
「乙女の嗜みよ」
『怪しすぎる……』
これは……その……秘密兵器です。
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いきなり体がぶるりと震える。あれ、おかしいな?今日はまだそこまで寒くないはずなのに。風邪もひいていないはずなんだが。
「どうかした?」
「いや、今なんか寒気が……」
「もしかしたら、あなたが泣かせてきた女性達の恨みかもしれないわね」
雪ノ下が気遣いと罵倒の中間で話しかけてくるが、まず反論しておきたい事がある。
「人を女たらしみたいに言うんじゃねえよ」
「あら、違うのかしら?」
「一応、これでも品行方正を心がけてるんでな」
「……校門前」
「ぐっ……」
「それと屋上」
「ぐぐっ……」
「品行方正の言葉の意味を間違えてないかしら」
「……お前、そろそろ行かなくていいのか」
「そうね。そろそろ行くわ。じゃあ、また後で」
「ああ」
雪ノ下は颯爽とした足取りで、自分のクラスの集団へと戻っていった。
その背を眺めていると、視界に少し痛い行動をしている方が目に入る。
「ひ、平塚先生!もうそろそろ……」
「ま、まだだ!ペットボトル一杯に、この霊水を!」
もう、誰かもらってやってくれよぉ……。
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「エリチ、何でさっきから、そんなこそこそしとるん?」
「な、何となくよ!今出くわしても何も出来ないじゃない!」
「あ、比企谷君」
「ぴぎゃあっ!」
「あははっ、冗談やって」
「お姉ちゃん、驚きすぎ」
「はあ、まったく……何やってんだか。ほら、さっさと行くわよ」