捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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SPECIAL THANKS ♯3

 ハロウィンライブは想像を超える熱狂ぶりだった。μ'sは贔屓目なしに見ても、トップクラスの盛り上がりを見せたように思う。俺みたいなのでも、つい手拍子をしてしまった。

「お兄ちゃん、まだ顔真っ赤だね」

「ほ、ほっとけ」

 まだ先程の絵里さんの言葉が頭の中で反響したままだ。どうしてなのかはわからない。いや、わかってはいるんだ。ただ、俺が目を逸らしてきただけだ。

「お兄ちゃん」

 小町がそっと手を握ってくる。

「お兄ちゃんはね、いつもだらしなくて、目つきと性格が悪くて、捻くれてて……」

「いきなり何だよ……」

 お兄ちゃん、傷つくんだけど。

「でも、たまにすっごく優しい世界一のお兄ちゃんだよ」

「…………」

「だからさ。自信持って」

「……ありがとな」

「何々?もう一回言って?」

「言わねーよ」

 小町から目をそらし、辺りを見渡すと、祭りの盛り上がりは最高潮に達していた。うわぁ、あの4人組のコスプレのクオリティ高ぇ。まるで異世界から来たみたいだ。

「カ、カズマ!見ろ!まるでお前みたいにいやらしい視線をした、むくつけき男達が変な機械を向けてくるぞ!こ、この辱め……たまらん!!」

「バカヤロー!少しはこの状況に疑問を持て!何さっそく発情してんだ!このド変態!」

「カズマ、カズマ!向こうに見えるやたら高い塔は何ですか!?魔王の城ですか!?爆裂魔法で木っ端微塵にしていいですか!?」

「おい、止めろ!この世界に魔王なんていないから!つーか、この世界で爆裂魔法は使用禁止な」

「カズマー。ここ秋葉原でしょ?すた丼食べに行きましょうよ!」

「んな事言ってる場合か!金持ってねえだろ!くっ……悪そうな金持ち見つけてスティールするしか……」

「カ、カズマさん……いきなり泥棒を働くのはちょっと……」

 何だアレ……コントか?

 

 控え室の近くで待っていると、絵里さんが駆け寄ってきた。

「……お疲れ様です」

「八幡、見ててくれてありがとう。どうだった?」

「あー、やっぱり……すごいっすね」

「そ、そう?」

「普段の絵里さんに見せてやりたいですね」

「あれー?褒められてるのか、馬鹿にされてるのか、分からなくなってきたわね」

 そう言いながら、じりじりとにじり寄ってくる。

「え?ち、ちょっと待ってください。さすがにここは……」

「誰も来ないチカ。観念するチカ」

 絵里さんは狩りをする獣のように、鋭い動きで間合いを詰め、唇を重ねてきた。

 甘い香りと感触が混ざり合い、周りの音がシャットダウンされる。

 回を重ねる毎に、心の震えは大きくなり、抗いがたい欲求が、その爪を研ぎ澄ましていた。

「…………ん」

「…………」

 そして、いつもなら離れていくその瞬間……

「は、八幡?」

 思いがけない力で絵里さんの手を強く握っていた。

「絵里さん……その……」

「うん……」

 絵里さんは柔らかく微笑んで、俺の言葉を待ってくれていた。その青い瞳を見つめ、さっきの小町の言葉を思い出し、なけなしの勇気を振り絞る。

 自分でも何を言えばいいか分からないまま口を開きかけたその時……

「きゃっ!」

「うおっ!」

 誰かがぶつかってきた。

 突然すぎて、対応できなかった。絵里さんが誰も来ないように細工をしたみたいなので、安心しきっていた。

「ごめ~ん。大丈夫?」

「…………」

 うっすら目を開くと、そこにはA-RISEの優木あんじゅがいた。

 さらに、俺の手の平には、優木あんじゅの豊満な胸が乗っかっていた。後頭部の痛みよりもそちらの柔らかさに気を取られていた。

 それは2、3秒で離れていった。べ、別に名残惜しいだなんて思ってないんだからね!

「ごめんね?でも君もいい思いしたからおあいこね」

 そう言いながら、デコピンをしてくる。

「え、あ、はい……す、すいません」

「それじゃ、バイバイ」

 優木あんじゅはひらひらと手を振りながら、足早に去って行った。その優雅な立ち振る舞いに、こちらも自然と手を振り替えしてしまう。まじか。俺の身にあんなギャルゲーみたいなラッキースケベが……。

「ふ~ん、嬉しそうじゃない」

 その声にはっとして向き直る。やべえ、つい……。

 目の前にはプルプル震える絵里さんがいた。

「いえ、今のは事故で……」

「チカーーーーーーーーーー!!!!!」

 絵里さんから怒りのエクスプロージョンを喰らう羽目になった。





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