捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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SPECIAL THANKS ♯2

「お兄ちゃん、早く早く!」

「おう」

 人が溢れ行き交う秋葉原の街を、誰にもぶつからないようにしながら歩く。時折ポケットの中に入っている、絵里さんへのプレゼントを気にしながら。最近の朝は風も冷たく、冬はすぐそこまで近づいていた。

「わあ、やっぱりコスプレ凄いね!さすが秋葉原!」

「ハロウィンっぽさはあまりないけどな」

 周りにはアニメキャラが溢れて、二次元に迷い込んだ気分だ……とはならないが、かなり賑やかだ。視界の端に、材木座らしき中二病の戦国武将がいるが、見なかった事にしておいた。

 待ち合わせしていた建物の前まで行くと、いきなり変な奴から声をかけられた。

「八幡!小町ちゃん!」

「こんにち……は?え、絵里さん?」

「あ、絵里さん……何のコスプレですか?」

「いえ、これは変装よ」

 サングラスとマスクでその派手な美貌を隠した絵里さんは、コスプレではなかったら、ただの不審者にしか見えない。今日は残念可愛いエリーチカさんである。

「さ、こっちへ来て!」

「「…………」」

 俺達の視線など気にもせずに歩き出す絵里さんの後について、とりあえず目的地へと急ぐ。全速前進ヨーソロー!と行きたいところだが、スピードは変わらなかった。

 

「俺が控え室とか入って大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。あまり他の女の子を見なければ」

「でもちょっと心配だね。最近、お兄ちゃんの女性関係がだらしないから」

「いや、何もしてねーから。一応、仮恋人がいる身なんでな」

「「…………」」

「……何だよ」

「ふふっ。まあ、いいわ」

 絵里さんがノックをして「皆、入るわよ」とドアを開けると、そこにはμ'sのメンバーがいた。

 美少女達の視線が一気にこちらを向いたので、萎縮していると、絵里さんが紹介の為に間に立った。

「八幡、小町ちゃん。もう知ってるとは思うけど、μ'sの皆よ」

「……どうも」

「初めまして!わあ、映像で見るより可愛いですね!」

「え、そ、そんな事……」

「あ~!花陽ちゃんに凛ちゃんだ!可愛い~!」

 小町はそのコミュ力を以て、早くもμ'sメンバーと打ち解けていた。

「絵里ちゃん!その人が?」

「紹介します。彼が私の比企谷八幡君です」

「関係とかじゃくて、いきなり所有権の主張ですか」

「あ、ごめん!私の旦那の比企谷八幡君です」

「だ、旦那?」

「夫の比企谷八幡君です」

「さっきと変わっていませんよ」

「フィアンセの比企谷八幡君です」

「フィアンセって紹介する人、初めて見たよ」

「恋人の比企谷八幡君です」

「あの……」

「…………」

 絵里さんが『何も言うな』という視線を送ってきたので、黙っておく事にする。

「ねえ、比企谷君!」

「は、はい……」

「絵里ちゃんのどこに惚れて告白したの?」

「え?」

 高坂さんの問いに、絵里さんが「忘れてた!」と呟いた。

「だって比企谷君から告白したんでしょ?すごいなぁ。あのクールな絵里ちゃんを」

 クールな絵里ちゃん?ああ、学校ではそうなのか。いや、それより……

「あの……告白って」

「さ、さあ、皆!円陣!気合い入れるチカ!」

 絵里さんは動揺しているのか、語尾がおかしくなっている。そういやこの前、変な要求をされたな。まあ、この状況からして、嘘をついて引っ込みがつかなくなったとかだろう。

『…………』

 皆のしらーっとした目が絵里さんに集中する。

「え、円陣するチカ!」

『…………』

 突き刺さりまくりの冷たい視線に、最初は身を捩るだけの絵里さんだったが、やがて数秒間瞑目し、かっと目を見開いた。

「あぁ、もう!わかったわよ!」

 そして、顔真っ赤・涙目のコンボを決めながら、叩きつけるように喋りだした。

「そうよ!私が八幡を好きになったのよ!一目惚れよ!あまりに素敵な、可愛い目をしてたからよ!そんでキスしちゃったのよ!ショッピングモールのど真ん中とか、八幡の高校の校門前とか、観覧車とか、ファミレスとか、色んな場所でディープな奴かましたわよ!全部私からよ!だって好きだもん!大好きだもん!デートしていく内に優しくって、楽しくって……たまに頼りになって……手を繋いだら温かくて……とにかく!……私は……比企谷八幡が大好きだーーーーー!!!」

 その叫びは耳を通り、鼓膜を揺さぶり、脳を奮わせ、心の奥深くに突き刺さった。

 何度も何度も聞いたはずなのに、今までに無い響きを聞いた気がした。





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