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それでは今回もよろしくお願いします。
「お兄ちゃん、早く早く!」
「おう」
人が溢れ行き交う秋葉原の街を、誰にもぶつからないようにしながら歩く。時折ポケットの中に入っている、絵里さんへのプレゼントを気にしながら。最近の朝は風も冷たく、冬はすぐそこまで近づいていた。
「わあ、やっぱりコスプレ凄いね!さすが秋葉原!」
「ハロウィンっぽさはあまりないけどな」
周りにはアニメキャラが溢れて、二次元に迷い込んだ気分だ……とはならないが、かなり賑やかだ。視界の端に、材木座らしき中二病の戦国武将がいるが、見なかった事にしておいた。
待ち合わせしていた建物の前まで行くと、いきなり変な奴から声をかけられた。
「八幡!小町ちゃん!」
「こんにち……は?え、絵里さん?」
「あ、絵里さん……何のコスプレですか?」
「いえ、これは変装よ」
サングラスとマスクでその派手な美貌を隠した絵里さんは、コスプレではなかったら、ただの不審者にしか見えない。今日は残念可愛いエリーチカさんである。
「さ、こっちへ来て!」
「「…………」」
俺達の視線など気にもせずに歩き出す絵里さんの後について、とりあえず目的地へと急ぐ。全速前進ヨーソロー!と行きたいところだが、スピードは変わらなかった。
「俺が控え室とか入って大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。あまり他の女の子を見なければ」
「でもちょっと心配だね。最近、お兄ちゃんの女性関係がだらしないから」
「いや、何もしてねーから。一応、仮恋人がいる身なんでな」
「「…………」」
「……何だよ」
「ふふっ。まあ、いいわ」
絵里さんがノックをして「皆、入るわよ」とドアを開けると、そこにはμ'sのメンバーがいた。
美少女達の視線が一気にこちらを向いたので、萎縮していると、絵里さんが紹介の為に間に立った。
「八幡、小町ちゃん。もう知ってるとは思うけど、μ'sの皆よ」
「……どうも」
「初めまして!わあ、映像で見るより可愛いですね!」
「え、そ、そんな事……」
「あ~!花陽ちゃんに凛ちゃんだ!可愛い~!」
小町はそのコミュ力を以て、早くもμ'sメンバーと打ち解けていた。
「絵里ちゃん!その人が?」
「紹介します。彼が私の比企谷八幡君です」
「関係とかじゃくて、いきなり所有権の主張ですか」
「あ、ごめん!私の旦那の比企谷八幡君です」
「だ、旦那?」
「夫の比企谷八幡君です」
「さっきと変わっていませんよ」
「フィアンセの比企谷八幡君です」
「フィアンセって紹介する人、初めて見たよ」
「恋人の比企谷八幡君です」
「あの……」
「…………」
絵里さんが『何も言うな』という視線を送ってきたので、黙っておく事にする。
「ねえ、比企谷君!」
「は、はい……」
「絵里ちゃんのどこに惚れて告白したの?」
「え?」
高坂さんの問いに、絵里さんが「忘れてた!」と呟いた。
「だって比企谷君から告白したんでしょ?すごいなぁ。あのクールな絵里ちゃんを」
クールな絵里ちゃん?ああ、学校ではそうなのか。いや、それより……
「あの……告白って」
「さ、さあ、皆!円陣!気合い入れるチカ!」
絵里さんは動揺しているのか、語尾がおかしくなっている。そういやこの前、変な要求をされたな。まあ、この状況からして、嘘をついて引っ込みがつかなくなったとかだろう。
『…………』
皆のしらーっとした目が絵里さんに集中する。
「え、円陣するチカ!」
『…………』
突き刺さりまくりの冷たい視線に、最初は身を捩るだけの絵里さんだったが、やがて数秒間瞑目し、かっと目を見開いた。
「あぁ、もう!わかったわよ!」
そして、顔真っ赤・涙目のコンボを決めながら、叩きつけるように喋りだした。
「そうよ!私が八幡を好きになったのよ!一目惚れよ!あまりに素敵な、可愛い目をしてたからよ!そんでキスしちゃったのよ!ショッピングモールのど真ん中とか、八幡の高校の校門前とか、観覧車とか、ファミレスとか、色んな場所でディープな奴かましたわよ!全部私からよ!だって好きだもん!大好きだもん!デートしていく内に優しくって、楽しくって……たまに頼りになって……手を繋いだら温かくて……とにかく!……私は……比企谷八幡が大好きだーーーーー!!!」
その叫びは耳を通り、鼓膜を揺さぶり、脳を奮わせ、心の奥深くに突き刺さった。
何度も何度も聞いたはずなのに、今までに無い響きを聞いた気がした。
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