捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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pure soul ♯3

「奇遇ね。まさか千葉で会うなんて」

「奇遇やね~」

「希は買い物に来たの?それとも気分転換?」

「どっちもやね~」

 

 絢瀬さんの変わり身の速さは異常。それとさっきからちらちらこっちに向けられる視線にプレッシャーを感じる。しかし、迫力を感じるのはそこだけではない。胸部に備え付けられた巨大兵器のせいで、目のやり場に困る。こういう兵器はもっと厚着で隠すべきだろう。

 

「八幡君、何を見とれているのかしら?ちょっと失礼」

「はい?」

 

 頭を掴まれ、視線を絢瀬さん側に固定される。え、何?何なの?

 

「うん。これでよし」

「あの……」

「これでよし」

「つーか、その、お友達ですか?」

「あ、紹介してなかったわねこの子は……」

「うちは東條希。エリチと一緒に生徒会やってるんよ。よろしく~」

「……比企谷八幡です」

「へ~、比企谷八幡君か~」

 

 東條さんは身を乗り出して、こちらの顔を覗き込んでくる。垂れ気味の目とぽってりと厚いくちびるがやけに色っぽい。絢瀬さんのような健康的で開放的な色気とは違い、しっとりとした仄かに漂うものだ。

 ……さっきこちらに身を乗り出してきた時に、胸が揺れてたような……!

 

「むむむ……!」

「ん~♪それにしてもいい天気やね~」

 

 東條さんは絢瀬さんを横目に、思いきり伸びをする。

 春物の薄手の生地がさらにその胸を強調し、すれ違いざまに見た男が、連れの女性にどやされていた。俺?俺は紳士なので3秒しか見ていない。3秒ルールである。違うか。違うな。

 

「の、希?何をしているのかしら?」

「うん?ただ伸びをしただけやよ~」

「そう……」

「ところで、比企谷君はエリチとはどんな関係なん?」

「…………初対面「で恋人になりました」」

「…………」

 

 東條さんがポカンとして、俺達二人を交互に見比べる。

 

「エリチに恋人?」

「ええ、そうなのよ」

 

 そうなのよじゃねーよ、と言おうとしたら、再び腕を組まれる。あああ、またかよ~!ダレカタスケテェ~!

 

「ふ~ん、あのエリチに……」

「あ、あのって何よ!私だって恋人くらい……」

「比企谷君は乗り気じゃなさそうやけど」

 

 あれ?もしかしてこれ、逃げ出すチャンスじゃね?

 もしかしたらこの人は地上に舞い降りた最後の天使なのだろうか。君の瞳は百万ボルトなのだろうか。

 

「いえ、そんな事ないわ。むしろ彼の方が乗り気なくらい」

 

 おい。新しい捏造事実作ってんじゃねーよ。火のない所に煙を立たせるとかスゴ技すぎるだろ。

 ていうか東條さん。絢瀬さんがこういうリアクションとるのが面白くてやってんだろ。やっぱり悪魔じゃねーか。明らかに絢瀬さんの嘘がばれている。

 すると悪魔は微笑みながら、とんでもない事を言った。

 

「恋人ってことはキスくらいするんやろ?」

「は?」

「…………」

「ふふっ、冗談冗談♪二人はただの初対面なんやろ?」

 

 からかい終わって、実はわかってました-♪みたいな流れになろうとしていた時、隣の絢瀬さんは俯き震えていた。

 

「……絢瀬さん?」

「エリチ?」

 

 俺はこの後の事は生涯忘れられない。

 彼女は真っ赤にした顔を上げたかと思ったら、力の限り俺を引き寄せ……

 

「…………っ」

「…………ん」

「…………おお」

 

 俺の顔を両手で挟み込み、自分の唇を俺の唇に押しつけていた。

 柔らかい唇の感触に理解が追いつく前に2、3秒で彼女からすぐに離れていった。

 そして、しばらく見つめ合う。あまりの出来事に思考回路はパンクしてしまっている。潤んだ瞳がさっきとは違う甘やかな輝きを見せていた。

 絢瀬さんは、口元に手を当て、ふるふると小刻みに震えていた。さっきまで自分の唇があそこに重なっていたと思うと、こちらもさらに落ち着かなくなる。

 やがて彼女の唇が動いた。

 

「エ、エ、エリチカおうち帰る!」

 

 そのまま回れ右をして逃げ出した。

 彼女の言葉は耳の中を通り抜け、虚しく空気を震わせていった。


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