捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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ピーク果てしなく ソウル限りなく ♯4

 体育祭当日。

 体育祭は文化祭に比べれば、格段に負担が少なかった。力仕事は増えたが、文化祭の時のようにのべつまくなしに仕事を押しつけられていたあの状況よりは遥かにマシだ。自分から実行委員長に立候補した相模も、自分から進んで色々やっていた。ただ、相模が俺に仕事の指示を出しに来た時、取り巻きの女子が割って入り、結局そいつから指示を貰う事が何度もあった。……女子の連帯感の怖さを改めて知りました。

 まあ、何はともあれ、雲一つない青空の下、無事に本番を迎えられたのは運がいい。

 10月後半という事もあり、少し肌寒さを感じるが、動いている内に気にならなくなるだろう。

「比企谷君、おはよう!」

 太陽の眩しさに目を少し細めた城廻先輩が、朝からめぐりっしゅ成分を振りまきながら、にこやかに話しかけてきた。

「おはようございます」

「今日は頑張ろうね!」

「まあ、やれるだけやってみます」

「あはは、相変わらずだね!じゃあ、今日もよろしく!」

 活を入れるように背中をポンポン叩いて、テントの中へと入っていく。後は赤組が優勝するだけか。……難易度たけーな。向こうには葉山がいて、やたら士気が高い。

「葉山君頑張って~!」

「こっち向いて~!」

 学外からも応援かよ。しかもこっち向いてってアイドルかよ。黄色い声援に控え目に応える葉山は男から見ても好印象だ。

「女子から声援を受ける葉山君に嫉妬の混じった視線を向けるヒキタニ君……ぐふふふ」

 アレは無視しておこう。地表に露出した地雷ってのも珍しい。

「ヒキガヤ君頑張って~!」

 エレン先生の黄色い声援と共に、男子の憎悪がこちらに向き、やる気と不安が同時に湧いて、プラマイゼロになった。ゼロだよ!悔しいじゃん……。

「ヒキタニ、お前からエレン先生を取り戻す!」

「ぼっちの癖に……チッ……」

「由比ヶ浜と相模……目を付けてたのに!」

「戸塚戸塚戸塚戸塚……」

「私の材木座君まで……」

 呪詛のような言葉は、聞こえなかったふりをしておこう。絵里さんに鍛えられた俺のスルースキルはこの程度では動じない。早くもカオスになりかけている体育祭だが、とりあえず無事に終わればいい。

 

 

 始まってみれば、やはり赤組がやや劣勢だった。どうにか逆転の芽を摘まれないように、城廻先輩や由比ヶ浜が応援し、男子が気力を振り絞っているが、やる気だけで身体能力は上がらないのが、現実の残酷なところだ。しかし、それだけで決まる競技ばかりではない。

「続いては、借り物競走でーす!」

 反対を押し切りねじ込んだ競技。

 これなら徒競走に比べれば、運動神経の差を気にせずに済む……かもしれない。

 

「おい、比企谷の野郎にこのカード引かせてやろうぜ」

「ああ、いい気味だな」

「…………」

 

 こちらの意図が上手く働いたのか、赤組も割と善戦している。

「ヒッキー頑張れ!」

「頼んだわよ」

「……おう」

 由比ヶ浜と雪ノ下の声援を受け、スタート位置につく。スターターの平塚先生が頑張れよと言わんばかりに、ウインクをしてきた。こっちは少し気恥ずかしいので、軽く首肯するだけにしておく。

 程なくしてスタートし、自分のレーンの紙を取り、内容を確認する。

「は!?」

 カードに書かれていたのは……

『アニメキャラのコスプレをした金髪美人』

 こ、こんなの誰が書きやがった……。

 辺りを見回すと、白組のモブモブしい奴がニヤニヤこっちを見ていた。どうやら奴らの嫌がらせのようだ。

 だが今はそれどころではない。制限時間は5分。エレン先生にコスプレをお願いしても時間オーバーだし、何よりコスプレの衣装など持ち合わせていない。

 手詰まりかと頭にちらつき始めた時、応援席からざわめきが聞こえてきた。

「お、おい……」

「何だあれ?」

 皆の視線を辿ると、そこには騎士の格好をした金髪ポニーテールがいて、そいつはこっちに全力疾走で向かって来ている。

 お、おい……。

 女騎士は俺の前に立ち止まり、無駄に格好良く地面に剣を突き刺し、定番の台詞を高らかに告げた。

「問おう。貴方が私のマスターか!!!」

『…………』

 突然の出来事の連続にしんと会場が静まり返る。

 通りすぎた風がやけに冷たかった。

 ……うわぁ……マジかよ……絵里さん。

 なんでこの状況でドヤ顔できるんだよ。

 

 




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