「それじゃあ、今日はどこ行こっか。八幡君?」
「いや、色々おかしい気が……」
何で普通に名前呼びになってんだよ。さらに何度もデートしてるみたいな言い方してんだよ。1話進んだだけでこれとか、10話進んだら子供が出来ていそうだ。絶対無いけど。
「ねぇ、八幡君。私、甘いものがたべたいなぁ~」
だあ~!聞いてねぇ~!精神が肉体を凌駕してんのかよ。天元突破してんのかよ。しかもさっきケーキ食べたじゃねえか!
「というわけで。さ、行きましょ♪」
するりと腕を組まれ、ふわりと甘い香りが漂い、むにゅりと豊満な胸が押しつけられる。思わず「あうっ」とか気持ち悪い声が出そうになってしまった。この柔らかな感触について、本人に言うべきか、言わざるべきか。
「私、スタイルには自信があるの」
……わざとかよ。てかドヤ顔すげえな。
あと本当にこのままデート始まっちゃうのん?
*******
YES!
やるじゃない私!
出会って数秒で虜にするなんて凄すぎるわ!ハラショーよ!
じ、実はアイドルの才能とかあるんじゃないかしら?
隣りにいる彼の顔を見上げると、照れくさそうにそっぽを向いていた。あらあら、お可愛いこと♪
「あ、あの……」
彼はそっぽを向いたまま声をかけてくる。とにかく緊張しているのが伝わってきた。
私は努めて声のトーンを柔らかくした。
「どうしたの?」
「い、いえ、少し離れていただけると……」
「どうして?」
「やっぱり照れくさいといいましゅか……」
「あ、噛んだ♪」
可愛いなぁ!!抱きしめたい!!!
まあ、ここは離れてあげようかしらね。お姉さんの余裕ってやつよ。
「それと絢瀬さん……」
「絵里って呼んで?」
「クリーム付いてますよ」
「……」
ま、まあ、こういうミスもたまにはあるわよ。
あと名前呼びさりげなくスルーされたわね。
*******
「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ」
「ごめんね。うちのお姉ちゃんが……」
「あっ、いいのいいの!あんな綺麗な人がうちのお兄ちゃんをもらってくれるのは小町大歓迎だから。ただ……」
「ただ?」
「絵里さんって行動がまったく読めない……」
「うん……そこが悩みなんだよ……」
*******
小町達が背後にいるのを感じながら、絢瀬さんと並んでショッピングモール内を歩く。頭は少々アレだが、その圧倒的な美貌に数多の視線が吸い寄せられていた。同時に俺へのヘイトも。
「おい、見ろよ、あの美人……」
「う、美しい!」
「モデルさんかな?」
「何であんなボッチと……」
何で見ただけで俺がボッチとかわかるんだよ。おかしいだろ、おい。当たってるけどな。
絢瀬さんはそんな視線など気にも留めず、笑顔を向けてきた。
「八幡君は部活は何かやってるの?」
「いえ、何も」
「じゃあ私と一緒ね。気が合うわね。運命ね」
「えっ、あ、いや、運命はともかく、そっちも部活入ってないんですか?」
「ええ、本当はチアか新体操やりたかったんだけどね」
こ、このルックスで、このスタイルで……。
健全な男子の習性で、良からぬ妄想が溢れ出してくる。
「あ~いやらしい事考えてる♪」
「そ、そんな事ないでしゅ……」
「もう、しょうがないなぁ~」
やばいやばいまたこの人のペースだ!引き込まれるな!
何とか持ち直そうとしていると、背後からよく通る声が聞こえてきた。
「エ~リチ♪」
その声に絢瀬さんがビクッと跳ね上がり、おそるおそる振り返る。どうやら知り合いのようだ。
「の、希……」
希と呼ばれた女性は口元に笑みを浮かべ、絢瀬さんと俺を、好奇心たっぷりに交互に見比べていた。