それでは今回もよろしくお願いします。
「八幡君……」
絵里さんが切なそうな顔をして、俺の正面に立つ。
立ち入り禁止の屋上に、他校の生徒会長。しかもクォーターの美人が男装して立っているのは、かなりシュールだ。
絵里さんの言葉を待っていると、急に笑顔になり、ガッツポーズをしてきた。
「ナイスな作戦ね!他の女の子を押し倒したのはマイナスだけど、100エリー上げるわ」
「……何すか、その謎のポイント」
「八幡君が私を自由にできるポイントよ」
「初耳ですね。今、何ポイントですか?」
「8万ポイントよ!」
「いや高すぎでしょ。……待ってください。もしかして俺の名前にちなんで8万ポイントとか、そんなつまらないギャグですか?」
「…………」
少し顔を赤らめながら、こちらを不安そうに窺う絵里さんを見ていると、元気づけてくれようとしているのが伝わってきた。
その事が微笑ましかったのか、頬が緩みそうになる。
「……ありがとうございます」
「…………んっ」
一歩踏み出して来たかと思えば、いきなり唇を重ねられる。
あまりの不意打ちに全身の力が抜け、壁に押しつけられてしまう。
「……っ」
「……んく」
絵里さんはこちらを限界まで押しつけて、ゆっくりと離れていった。
二人の唇が離れる際につぅっと糸を引き、体がやけに火照っていた。周りの空気が甘さで満たされている気がした。
「……いきなり、ですね。つっても、これまでもそうでしたけど」
「ご褒美よ。本当にお疲れ様」
最初から最後まで予想外の事しか起こらない文化祭。
まあ、これはこれでよかったのかもしれない。
ちなみに、相模を押し倒した件は、男装版絵里さんと手を繋いでいた件と共に、瞬く間に広がり、同時に周りの人間との距離がさらに広がった気がした。
文化祭が終わり、10月に入ると、もう季節はすっかり秋だった。夏の暑さに別れを告げ、冬の厳しい寒さの足音が近づいてくるこの季節は割と好きだ。独書の秋というから、独書好きのぼっちには過ごしやすい季節だろう。漢字が違う?まあ、気にしないでくれ。別に平塚先生の真似じゃない。
「えー、先日一身上の都合により帰国したルーシー先生に代わる新しい英語の先生を紹介します。どうぞ……」
のんびり考え事をしている内に、どうやら授業が始まっていたようだ。そういや海外から来ている先生が帰国したから、今日代わりの先生が入ってくるとか……。
ぼーっと黒板の辺りを見ていると、新しい先生とやらが教室に入ってきた。
そして、その姿に俺は…………体がギクリと反応した。
何とその先生は見事なまでの金髪碧眼だった。
……一瞬、絵里さんかと思ったじゃねえか。
その金髪先生(読み方だけ少し紛らわしい)は少し不慣れな手つきで、黒板に自分の名前を英語で書き、振り返って、ニコリと笑顔を浮かべた。近くにいる男子二人のテンションが目に見えて上がっている。
「エレン・ベーカーです。ヨロシク、お願いシマス」
「あー、皆。エレン先生はまだ日本に来て日は浅いが、日本の事についてはかなり勉強してきているらしい。皆も色々と話してやってくれ。休み時間にな」
『はい』
「それと比企谷」
「?」
「エレン先生に手を出すなよ。絶対だぞ!絶対だからな!」
「え?あ、はい……」
やたら血走った目の英語教師に、つい頷いてしまう。やだ何この展開。
「お前らもしっかりエレン先生を守るんだぞ!」
『はい!!!』
おい、何だよ。このいらない包囲網。いつからこんな協力関係が生まれたんだよ。教壇前の席の福島とか『あいつの授業ツマンネ』とか言ってたじゃねーか。
エレン先生はドン引きしているかと思いきや、こちらをニコニコと見ている。……気を遣ってくれているのかもしれない。彼女は何かに納得したように頷き、俺の方に向かって言った。
「ヒキガヤ君、デスネ。覚えマシタ」
……こんな形で覚えられたくない!
その日の夜。
「そういや今日、海外から新しい先生がきました」
「へえ、どんな先生かしら」
「金髪碧眼の……」
「ファッ!!!!?」
読んでくれた方々、ありがとうございます!