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それでは今回もよろしくお願いします。
人気のない場所まで連れて行かれ、ようやくひと息つく。……この人なんで校内を迷う事なく移動できるんだ。
「それで、どうしたんですか?絵里さん」
「な、何の事かしら?……かな?」
「いや、もういいですから。ごまかせてませんから」
「何……ですって……」
いや、そんな腕組まれた状態で言われても……。
絵里さんも俺の視線に気づいたのか、俺からぱっと離れ、視線をあらぬ方向へ向ける。
そして数秒後、花が咲いたような笑顔を向けてきた。
「来ちゃった♪」
「…………」
「あれ?も、もしかして怒った?」
「いや、その……」
「?」
「絵里さんは、やっぱり絵里さんだなって……つい、安心しただけですよ」
「そ、そうかしら……これって褒められてるのよね?」
「ええ、かなり」
「……ありがとう。それじゃあ……」
絵里さんはポケットから何かを取り出した。
「こ、ここにサインと判子をお願い。時期が来たら、私が出しておくから」
「いや、さらっと何言ってんですか。書きませんよ」
「お願い!判子だけでいいから!」
「いや、押さないから。持ってないから!」
「観念するチカ。何なら自分で書くチカ」
「ちょ、何やってるんですか!」
「あの~比企谷君?」
突然現れた声に目を向けると、そこには顔を引き攣らせた城廻先輩と、生徒会の連中がいた。その視線が捉えているのは言うまでもなく、知らない人から見れば男にしか見えない絵里さんと、彼女の手を捕まえている俺。
絵里さんの手から離れた婚姻届が、城廻先輩の足下に落ちる。
何、この最悪な流れ。
それを拾った城廻先輩の表情は、案の定ドン引きだった。それでも一瞬で笑顔に戻す辺りは、流石なのかもしれない。
彼女は笑顔のまま無言で婚姻届を返して……
「何て言えばいいのかな……やっぱり比企谷君って最低だね」
そう言い残して、その場を立ち去った。あとにはぽっかりと沈黙だけが残った。
「「…………」」
「ごめんなさい」
「いや、別にいいですよ」
ひたすら謝ってくる絵里さんの肩をポンと叩き、大丈夫だと告げる。
「で、でも私のせいで八幡君に変な噂が……」
「もう既に立ってますから大丈夫ですよ」
「えっ……」
「いや、いきなり引くの止めてもらえます?すごい傷つくんですけど」
「冗談よ。じゃあ気を取り直して、屋台巡りでも……」
その声を断ち切るようにスマホが震えた。
画面に目をやると、平塚先生からだ。
「はい、もしもし…………相模が?」
開会式の失敗のせいで、これまで必死に守ろうとしていた面子やプライドやらが潰れたのか、相模が逃げ出したらしい。逃げてどうこうなるものではないが、それでもそうするしかない人間も確かにいるのだ。
「すいません、ちょっと……」
駆け出そうとする俺に、絵里さんは柔らかく微笑んだ。
「いってらっしゃい」
その言葉に、少しだけ顔を熱くして、俺は柄にも無く駆けだした。
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