捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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Blue Jean ♯4

「あ、比企谷君だ」

 

 ショートカットの美少女は俺の方を見ると、トコトコと駆け寄ってきた。……誰だったかしら。記憶にないんだけど。

 その謎の美少女は、ある程度近づいてきたところで滑ったのか、こちらに倒れ込んでくる。

 

「わわっ!」

「っと」

 

 受け止める、というより巻き込まれた形だが、何とか堪えた。

「ご、ごめんね」

「ああ……大丈夫だ」

 

 顔を上げた美少女がはにかんだ。

 それと同時にふわりと甘い香りが漂ってくる。絵里さんのより甘めの香りだ。胸は……ないな。間違いなく雪ノ下よりも小さい。そう思いながら雪ノ下を見ると、何故かきつく睨まれた。

 

「今、物凄く不愉快な視線を感じたのだけれど」

「気のせいだろ」

 

 胸のせいだろ。

 

「あ、あの……」

 

 少し固めの声が聞こえて、美少女の肩に手を置いたままなのに気づいた。

 

「あ、悪い!」

「いや、こちらこそごめんね」

「むむっ!」

「エリチ。どうどう」

 

 後ろのやり取りはとりあえず置いておこう。

 

「え~と、誰だっけ?」

 

 俺の言葉に由比ヶ浜が反応する。

 

「嘘!?信じらんない!!同じクラスになってもう何ヶ月も経っているんだよ!」

「いや、ほら……俺、クラスの奴らあまり知らないし」

「八幡君……」

「可哀想に……」

「はあ……まあ、知ってたけど」

「は、八幡さん!元気出してください!」

「ぐっ……ほ、ほっとけっての」

 

 余計にダメージを受けた気がする。からかい役の東條さんまでドン引きしている辺りが特に……。

 忸怩たる思いを胸の奥底に仕舞い込み、俺は全力で話を先へ進めた。

 

「いや、ほら男子ですら大して知らないのに女子とか……」

「さいちゃんは男の子だよ」

「男の娘?」

 

 そっかぁ。最近流行りだからなぁ。盲点だったわー。

 

「何やら視線がいやらしいわね」

「んな事ねーよ」

「あはは。僕、男の子です」

「そ、そうか。え~と?」

「戸塚彩加です」

「……ひ、比企谷、八幡だ」

「あたしの時より緊張してる……」

 

 あ、危ねえ。マイナスイオン全開の笑顔にちょっとときめいてしまった。

 すると、絵里さんが俺と戸塚の間に割って入ってきた。

 

「初めまして。絢瀬絵里です」

 

 戸塚に対抗してか、己の美貌をフル活用した笑みを向けている。はっきり言って嫌な予感しかしない。

 

「は、初めまして。比企谷君の彼女さん、ですよね?」

「妻よ!」 

 

 な、何だってー。

 ……いや、何かしょうもない事言うとは思ってたけどさ。あまりにも嘘くさすぎる。

 

「あ、おめでとうございます」

「いや、信じなくていいから」

「え?」

「い、いや、事実ではないし……」

「あはは……絢瀬さん、相変わらずだね」

「……凄いわね。色々と」

 

 くだらないやり取りを交わしていると、再び視線を感じた。

 さっきと同じように辺りを見回すと、やはり……

 

「おい、見ろよ」

「女が増えてやがる」

「あの黒髪の子、めっちゃ美人だよな」

「いや、あの茶髪の子のスタイル見ろよ」

「ショートカットの子、最高だよな」

「……ったく、ぼっちのくせに」

「やっぱり、はやはちだよね」

 

 あいつ、まだいたのかよ。

 いや、それよか『はやはち』とかいう謎の単語も気になる。

 

「何なら一緒にどう?」

 

 絵里さんの提案に三人は顔を見合わせ、すぐに頷いた。

 まあ、別に5人も8人も変わりはない。男女比はあれだが。嫉妬の視線は気になるが。

 

「八幡君、行きましょ!」

 

 絵里さんに促された俺は、これから訪れる出来事に特に思いを馳せるでもなく、どうやって時間を潰そうかを考えていた。

 


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