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それでは今回もよろしくお願いします。
「やっぱり浴衣買えば良かったかしら」
周りの女子の浴衣着用率を確認した絵里さんが呟く。小町達に上手くはぐらかされ、二人で花火大会の会場まで来たのだが、やはり人が多い。そして、ここぞとばかりに浴衣を着ている女子が多くて、絵里さんが少し羨ましそうだ。
「八幡君はどっちがいい?」
「今から家に帰る」
「も、もう!まだ夕方よ!その……嬉しいけど、まだ色々と早いわよ!」
「すいません。その切り返しは予想外でした……」
何か色々と残念すぎる。自分も残念さには定評があるので多少の残念さには同類相憐れむ事は出来るが、ここまで来るともう……手後れだ。金髪ポニーテール繋がりで、どっかの素晴らしい世界のドMクルセイダーぐらい手後れだ。
「あれ、違ったの?」
「違います……」
「まあ、花火を見ずに帰るのももったいないわね」
「いや、花火を見たら普通に自分の家に帰りますからね。何もしないですからね。本当に何もしないですからね」
大事な事なので二回言ってしまった。つーか、本来なら俺はそこまでツッコミキャラじゃないと何度言えば……。
「え~、本当に?」
「明日学校あるんですが……」
「FINAL ANSWER?」
「唐突に懐かしいっすね」
「あ、綿菓子!八幡君、行くわよ!」
ポニーテールをぴょこぴょこ跳ねさせながらはしゃぐ絵里さんは少し幼く見えた。
予定時刻になると、夜空をバックに花火が打ち上がり始めた。大勢の観客が咲いては消えての繰り返しをその目に焼き付けていた。
何となく俺は絵里さんの横顔を確認すると、花火に見とれている青い瞳も、夜の闇に映える金髪も、陶器のような白い肌も、今まで見てきた何よりも鮮やかに世界を彩っているような錯覚に陥る。……おかしい。これは絵里さんのはずだ。いつもはハチャメチャなトラブルメーカーで、人の話なんて聞いてなくて、割と天然で……
「八幡君」
突然名前を呼ばれ、隣を見ると……
「…………ん」
「…………」
絵里さんはこの前より優しく、それでも熱い何かを伝えるようなキスをしてきた。
人混みの中という事もあってか、ほんの数瞬の口づけだったが、回を重ねる毎にそこから伝わってくる温もりみたいなものが変わってきている気がする。そして、前はもっとふわふわした感覚に捕らわれていたが、今は甘さの割合が増しているようだ。
「ねえ……」
絵里さんは火照りを隠そうともせずに笑いかけてくる。周りの喧騒はどこか遠い。
「来年もあなたとこうして花火が見たい」
花火がどんなに破裂していても、その声が掻き消される事はなかった。
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