それでは今回もよろしくお願いします。
それぞれ適当に遊んでいる内に時間が過ぎ、もう寝る準備に入っていた。小町は亜里沙の部屋で、残りのメンバーは絢瀬さんの部屋で寝るようだ。もちろん俺の寝る場所はリビングである。
無事(?)に風呂を済ませ、リビングの隅に布団を敷き、薄暗い部屋の中でのっぺりとして見える天井を見ていた。比企谷家の時みたいに風呂場で何も起こらなかったのは意外といえば意外だが、別に冴えない彼女を育てているわけではないので、お約束については特にどうという事もない。
どうでもいい事を考えながら、眠りがやって来るのを待つ。
この男女比で女子の家に泊まる事になるとは思わなかったが、まあ……楽しかった。
ただ、ちょっと前から絢瀬さんの様子がおかしいのだが……。
目が合ってもすぐに逸らされるし、話しかけてこない。
でも、隣にはいる。
ふぅ、と溜息を一つ吐き、目を閉じる。俺なんぞが時間をかけて考えても意味がない事のような気がした。
そうこうしている内に、やがて心地良い眠りへと誘われていく。
『絵里って呼んで』
ぼんやりとした闇の中で、やけにはっきりとした絢瀬さんの声が聞こえてくる。夢の中のシチュエーションとはいえ、すぐ隣に本人がいるみたいな感覚だ。
『絵里って呼んで』
「絵里」
その声に応じるように呟く。
「っしゃ!!」
「わっ!え、ええ!?」
耳元で鳴った大きな音に体が跳ね上がる。
慌てて電気を点けると、そこにはキョトンとした顔で手はガッツポーズの絢瀬さんがいた。
「どうしたの?」
「いや、それ俺のセリフですから」
ほっとしたせいか体が脱力し、自然とまた仰向けに寝転がる。
……何で絢瀬さんから声をかけられた事に少し安心してんだろうな。
「さっき……どうかしたんですか?」
「さっき?」
「いや、その……何かおかしかったといいますか……」
改めて考えると、口に出すのは恥ずかしい。自分と目が合ってすぐ逸らしたからといって、何かおかしいと考えるなんて、自惚れもいいところだ。
しかし、絢瀬さんは何か思い当たる事があったようで、申し訳なさそうに笑う。そんな小さな笑いも深夜のリビングには響き渡っているように思えた。
そして電気を消して、俺の隣に寝転がりながら言う。スムーズに何やってんだ。
「八幡君も私の事、好きなんだなって思ったら恥ずかしくて♪」
「…………はい?」
あれ?何か部屋の静謐な空気がコントのセットみたいに思えてきた。
「だ、だって……あんな物欲しそうな目で私を見るんだもの……ドキドキするじゃない」
「…………」
……何を言ってるんでしょうか、この人は。ハチマン、ワカラナイ。ワカリタクナイ。
「いや、前からそういう視線はたまに感じてたのよ?私が屈んだ時に胸をこっそり見たり、短いスカートの時とか……」
止めて!それ以上言わないで!だって思春期だもの!
「それじゃあ……ハグ、しよ?」
「しません」
脈絡がなさすぎる。
あとそのセリフは色々まずい気が……。
「冗談よ。ねえ、話でもしましょう」
「……な、何の話ですか?」
「そんなに警戒しなくても……普通の話よ。この前、八幡君の事が少しわかったから、今度は私の事を知って欲しいの。何なら朝までつまらない話をしていたいわ。そして朝には亜里沙から叱られるの」
そこも含まれるのかよ、と心中でツッコむと、絢瀬さんはさらに近寄ってきた。肌が少し触れ合う。
「好きな食べ物とか好きな音楽とか。小さな事からしってもらうの。そして……」
その笑顔は暗闇の中でも確かな輪郭があった。
「あなたの事、もっと好きになる」
シリアスの似合わない二人は他愛ない事をぽつぽつ語り始めた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!