捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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ここではない,どこかへ

 

 俺達は必要な買い物だけ済ませ、絢瀬家へと戻った。

 空は相変わらずどんよりとしていて、いつ雨を降らせるかもわからないぐらいに薄暗い。

 しかし、絢瀬家のリビングはやたら賑やかだった。やはり女子が六人も集まると、一人が口を開けばどんどん話が広がっていく。

「しっかし、あの絵里がねぇ~」

「そんなに意外かしら」

「まあ、エリチやしね」

「ちょ、ちょっと、希まで……」

「絵里さんって学校ではどんな感じなんですか?」

「目つき鋭くてきっつい感じしかしなかったわよ」

「にこ!」

「だって本当じゃない。他の生徒会役員とかも最初怖がってたわよ」

「うっ……」

「3年になってから急に雰囲気変わったから、皆驚いていてるわよ」

「え、そうなの?」

「あはは……やっぱりお姉ちゃん、学校ではいつもと違ってたんだね」

「学校でもたまに素が出る事もあったんよ。前に福引きで何かが当たった時も、誰もいないと思って一人で踊ってたし」

「希!変な事ばらさないで!」

「ア、アンタ……さすがにそれは痛いわよ」

「お姉ちゃん……」

「絵里さん……」

「二人共、そんな哀しそうな眼を向けないで!」

「…………」

 俺は安定の黙って話を聞くポジションを確保して、絢瀬さんのちょっと痛々しい話を苦笑いで聞く。……どこでも舞うとかボン・クレーじゃねえんだから。

 まあ、あまり笑うのもあれだ。

「飲み物のお代わり持ってきます」

「あ、私も行くわ!」

 俺を追いかけるように絢瀬さんが立ち上がる。嫌な予感がして、絢瀬さんの方へ一歩踏み出すと、案の定ずっこけた。

「きゃっ!」

「っと!」

 慌てて受け止める。

「あ、ありがとう」

「……はい」

 青い目が照れながら、こちらの顔を覗き込んでくる。正気に戻ってから、こんな感じで長く見つめてくるので、どうしたものかと反応に困ってしまう。何か言いたそうに唇が動きかけるが、結局何も紡がれる事はない。

「あの~、にこ達がいるんですけど」

「「!」」

 矢澤さんの言葉に反応して、絢瀬さんから手を離す。

 僅かに息苦しく、だけど不快ではない空気は霧散して、賑やかな空気が戻ってきた。

「にこっちにはまだ早かったね」

「何でいきなり子供扱いするのよ!」

「二人共、はやくくっつけばいいのに……」

「うん」

「「…………」」

 二人して逃げるように飲み物を取りに行った。

 

「……どうかしたんですか?」

 談笑する小町達を見ながら、絢瀬さんに尋ねる。

 しかし絢瀬さんはこっちを見ずに、指をもじもじさせ、顔はさらに赤くなっていた。

「八幡君、しゃがんで」

「はい?」

「いいから」

 言われた通りにしゃがむ。すると絢瀬さんもしゃがんで……

「……ん」

「……っ」

 こちらが反応する余裕もないくらいに素早く、火照った唇を熱く押しつけられた。

 





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