「ハラショ~♪」
亜里沙が初めての光景に目を輝かせる。
徒歩20分程度の場所にあるボウリング場は比較的空いていた。不規則なリズムでボールが転がりピンを倒していく音や、シューズが床にきゅっきゅっとなる音が響き、おそらくボウリング場らしい空気というものを演出していた。
「絢瀬さん、まずこっちです」
「も、もちろん知ってるわよ!」
ボール片手につかつか歩き出す絢瀬さんを止めて、昔の記憶を確認しながらカウンターへ行き、1ゲーム分の料金を払い、シューズのレンタルを済ませる。
「小町。亜里沙と一緒にボール選んでやってくれ」
「りょ~かい♪」
「八幡君、私はどれにすればいいの?」
「え~と、まあその……持ちやすくて重すぎない奴がいいですよ」
そんな当たり前の事しか言えない。
あれ?俺ってボウリング初めてじゃないはずなのに、何でこんなに慣れない気分になるんだろう。
……謎は解けた!
そういや俺が最後にボウリングやったのって小学生の時に家族で行った時でした。てへっ。
「これくらいかしら」
絢瀬さんが棚の下の方に置かれているボールを取ろうと、前屈みになる。
すると季節的なものだろうか、胸の谷間が割としっかり見えてしまう。本人の表情からすると、これはわざとじゃなさそうだ。
「…………」
さりげなく絢瀬さんを隠すような立ち位置に変える。どうしてこうも無防備なんですかねぇ。そして視線をあらぬ方向に向け、気になるのを必死に堪えた。別の事を考えるんだハチマン!このボール二つで東條さんと同じサイズになるかなぁ、んなわけないか~。
「どうしたの、八幡君?」
「えっ?あ、な、何でもないろ!」
「そう、私に惚れたならいつでも言ってね」
「いや……そんな、具合悪いなら言ってね。みたいに言われましても……」
「ふふっ♪」
ウインクする絢瀬さんに言い返す言葉が見つからないまま、俺はさっき見たものを忘れようとするように頭をがしがしと掻いた。
*******
空きレーンを一つ挟んで左隣のレーンでは、女子高生くらいの……一人だけ小学生みたいなのがいるな……4人組が、今まさにゲームを始めようとしていた。
「まったく……何で秋葉原まで来てボウリングなのよ」
「まあまあいいじゃん、かがみ。せっかく店長から無料券もらったんだから使わないと。あ、もしかして自信ないとか?」
「なっ……や、やってやるわよ!」
「こなちゃん、お姉ちゃん、がんばれ~」
「ふふっ、じゃあそろそろ始めましょうか」
賑やかだな~。つーか、こっちは男一人女子三人だからか、何となく浮いてる気が……いや、意識しすぎか。
「じゃあ、誰から投げる?」
絢瀬さんと亜里沙が早く投げたそうにしているが、ここは経験者が一回お手本を見せた方がいいだろう。
「は~い!小町行きま~す♪」
アムロみたいなノリで宣言しながら、小町が立ち上がる。そうか。小町なら友達と一緒に行った事がありそうだ。さすが我が妹。ただのアホの子だと思ったら大間違いだ!
こうして、絢瀬姉妹人生初のボウリング大会が幕を開けた。