「そういや、今からどうするんだ?」
午前10時。雨も降っていない事だし、出かけるにはちょうどいいのかもしれない。ただ、雲はいつ雨を降らすかわからないくらいにどんよりとしていた。
「ボウリングよ!」
服を着て、出かける準備万端の絢瀬さんがドアを開け放ちながら言う。もちろん普通の洋服だ。しかし、その下の体のラインを思い出して、なんか変な気分になるんですけど……。さっきエキゾチック胸キュンパンチを喰らって、LOVE微炭酸が溢れちゃってるのかもしれない。……気のせいだよな。
「あ、いいですね!私も久しぶりに行きたいです!」
小町が立ち上がり、フォームチェックを始める。
「……亜里沙はいいのか?」
もう既に確認はとっているのかもしれないが、今日の主役という事で、一応聞いてみる。
「あ、はい!実は私が行きたいって言ったんです」
「そうか」
「実は私とお姉ちゃん、ボウリング初めてなんです♪」
「お、おう……」
亜里沙はともかく、絢瀬さんからは嫌な予感しかしない。何であんなにドヤ顔出来るんだよ。うっかり経験者かと思ったじゃねーか。
いや、この人はこれでかなりのハイスペックではあるから、案外すぐにストライク連発するかもしれない。
「こうして……こうよね!……きゃっ!」
「っ!」
小町みたいにフォームチェックをした絢瀬さんが盛大にずっこけたので、慌てて支える。幸い倒れずに済んだ。
「……大丈夫ですか?」
「え、ええ……ありがとう」
鼻先に熱い吐息がかかり、落ち着かない気分になる。青い瞳が生きた宝石みたいに輝きながら震え、いつまでも見ていたいような気持ちにさせられた。ぞっとするほどの美しさは、人を金縛りにさせるらしい。
やがて艶のある唇が小さく動く。
「合格ね」
そう、合格…………何の事?
「い、今のは八幡君の反射神経をチェックするテストだったのよ!まあ、今のは及第点ね!」
「…………」
体勢を立て直した絢瀬さんは胸を張り、堂々と宣言するように言い放つ。ここまでドヤ顔が似合う金髪はこの人かギルガメッシュくらいだろう。
「本当なら私が転ぶ前に受け止めて欲しいところだけど」
「いや、それ予知能力テストになってませんか?」
「じゃあ、さらに前に抱きついてもかまわないわ」
「それ反射神経関係ないですから。ただ俺が暴走しただけじゃないですか」
……この胸のときめきを返してください。
なんか映画のタイトルっぽい、とかしょうもない事を考えながら、深い溜息を吐いた。
「さあ、行くわよ!」
「はいはい」
「やっぱり絵里さんって、いつ見てもすごいよね……色々と……」
「はあ……肝心なところでポンコツ発揮しちゃうんだから」