それでは今回もよろしくお願いします。
「小町ちゃん、八幡さん!いらっしゃい!」
「亜里沙ちゃん!お誕生日おめでとう!」
「……誕生日おめでとう」
6月。すっかり梅雨入りして、普段なら休みの日は絶対に外に出ないのだが、今日は小町に引きずられ、東京までやってきた。幸い、今日は曇り空だが雨は降っていない。これも普段の行いのおかげだろうか。俺、グッジョブ!
「あ、八幡さんはお姉ちゃんの部屋に行ってください!」
「……何か……あるのか?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ!さ、はやくはやく!」
「あ、ああ」
俺はゆっくりと階段を上がり、『絵里』と書かれた可愛い標識がぶら下がったドアの前で立ち止まる。
この前は公園で踊りっぱなしの絢瀬さんを止めるのに必死だったな……。
そんな悲しい過去を思い出しながら、軽くノックをした。
「絢瀬さん、比企谷ですけど……」
「あ、八幡君?いいわよ、はやく入ってきて!」
いつものハキハキした声が聞こえてきて、ガタッと椅子から立ち上がるような音が聞こえた。
意を決してドアを開ける。
そこにはもちろん絢瀬さんがいた。
…………水着姿で。
「どう?」
俺はドアを閉めた。さて、荷物はどこに置けばいいのかな?
「ちょ、ちょっと、八幡君!」
絢瀬さんが水着姿のまま飛び出してくる。
「何で感想も言わずに閉めるのよ!」
「……そんな事言われましても」
「ほら、この水着!次のPVで着るのよ!どう?似合う?」
「あー、世界一可愛いです」
小町をあしらう時に使うフレーズで誤魔化しておこうと思い、出来るだけ棒読みですらすらと言った。
「え?え?…………チカぁ」
絢瀬さんが顔を真っ赤にしながら、その場にへたり込む。……もしかして真に受けてしまったんだろうか。
「あ、あの……絢瀬さん?」
絢瀬さんに近寄ると、ばっと自室へ飛び退き、布団をかぶった。
「どうかしましたか?」
俺が部屋に足を踏み入れると、丸まった布団から、頭部だけ出した。金髪のポニーテールが少し崩れて、目は潤んでいるように見える。
「も、もう!バカ!いきなりそんな事言わないでよ!恥ずかしいじゃない!」
「す、すいません」
滅多に見せない恥じらいに、思わず胸が高鳴る。
普通のラブコメなら、『あれ、こいつ……こんなに可愛かったっけ?』とかなっているだろう。つーか、俺もそう思ってしまいそうになった。
「もしかして八幡君、今『あれ?絵里さんってこんなに可愛かったっけ?』なんて考えてた?」
この残念な発言がなければ。
「……はやく服着てくださいよ」
「あっ……ちょっと!」
バタンとドアを閉める。
この前の逆で、今度は比企谷兄妹が絢瀬家に泊まる事になっている。家に上がって約10分。わかっているのは、ものすごく前途多難という事だ……。
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