ガウリールドロップアウトが面白いです!
それでは今回もよろしくお願いします。
簡単な紹介を終え、その場に何とも言えない空気が流れる。斜陽がその場にいる全員をほのかに赤く照らしていた。
由比ヶ浜が意を決したように口を開く。
「あの……二人も、ヒッキーの事が……好きなんですか?」
その質問に東條さんは穏やかな笑みを浮かべる。
「好きか嫌いか、と聞かれたら好きやけど……由比ヶ浜さんの言うてる好きとは違うから安心してええよ」
そう言いながら、由比ヶ浜に向けてウインクをする。「私も……そうですね。私はお姉ちゃんを応援しているだけですよ!」
亜里沙はそう言いながら、絢瀬さんの腕に抱きついた。その際に一瞬だけ目が合い、すぐに逸らされた。
「そう……なんですか」
由比ヶ浜は少し呆けたような表情をして、二人と俺を交互に見た。
「希……」
絢瀬さんは微笑みながら東條さんの肩に手を置く。
「てっきり愛人の座を本気で狙ってるのかと思ってたわ」
『…………』
この空気で真面目にそんな事を言い出せる絢瀬さん、マジぱねぇわ。
「お姉ちゃん、帰ったらお説教ね」
「え?何で……」
「エリチ……」
「なあ、由比ヶ浜」
話が逸れる前に由比ヶ浜に声をかける。
「な、何?」
いきなり俺が真面目な声を出したので、少し驚いているようだ。
「お前は何の用があったんだ?」
「え、えっと……」
手をもじもじさせながら、視線をあっちこっちに動かす彼女の顔がほんのり赤いのは夕陽のせいなんだろうか。俺にはわからない。
ふわりと微かな風が通り過ぎていった後に、こちらに一歩踏み込み、言葉をぶつけてきた。
「あ、あたしもヒッキーが好きなの!」
「…………は?」
「おお、ストレートやね」
「ラ、ライバルだよ、お姉ちゃん……って、どうしたの、お姉ちゃん!いきなり白鳥の湖なんて踊らないで!」
……いきなりすぎて思考が追いつかない、なんて言ってる場合でもないようだ。
しかし……
「何で、俺なんだ?」
最近、そこのバレリーナのおかげで悪目立ちはしたが、スクールカースト最底辺に変わりはない。トップクラスカーストの由比ヶ浜に好かれる理由等思いつかない。
「ヒッキー……入学式の日、犬助けてくれたでしょ?」
「……ああ」
「あの犬……私が飼ってるやつなんだ……」
入学式当日……俺は道路に飛び出した犬を助けて、車に撥ねられた。結果として入院する程の怪我を負った。入学ぼっちはこの時に確定したが、入院しなくてもぼっちだったように思える。
しかし、飼い主が由比ヶ浜だったとは……世界は案外狭い、なんて思えてくる。
「さ、先に謝らなきゃだよね。……ごめんなさい。それと……ありがとう」
由比ヶ浜はぺこりと頭を下げた後、柔らかく微笑んだ。この笑顔が見れたんだから、あの日の事故も無駄ではなかったんだろう。
「……あたしね。あれから……ヒッキーの事、気になってて……頭から離れなくなって……」
俺は先の言葉を何となく予想してしまい、何故かはわからないが、ある女の子の顔が頭の中をよぎった。色んな表情が浮かんだ。
やがて由比ヶ浜の口が動く。
「好きです」
真っ直ぐすぎる言葉。
不思議と冷静な自分がいて、なら精一杯の誠意は尽くそうと思えた。
「…………悪い」
由比ヶ浜に頭を下げる。
経験した事のない不思議な沈黙が生まれた。
「……そっか」
小さい呟きの後、地面を蹴る音が聞こえた。
そうやって少しずつ足音が遠ざかるのが聞こえる。
完全に聞こえなくなってから俺は頭を上げた。もう由比ヶ浜の背中も見えなかった。
東條さんは優しく微笑み、亜里沙は溜息をついている。
「♪~♪~」
「……はあ」
俺も溜息をつき、ひとまず絢瀬さんを正気に戻す事にした。
読んでくれた方々、ありがとうございます!