捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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サバイバル ♯2

 

 ピリピリとした空気にごくりと唾を飲む。

 絢瀬絵里と由比ヶ浜結衣。睨み合う両者を見て思う事はただ一つ。

 ……どうしてこうなった。

 落ち着け、比企谷八幡。

「あの……ヒッキーとはどういう関係なんですか?」

 だあぁ!こっちが状況を整理する前に始めやがった!

 由比ヶ浜の言葉に絢瀬さんは、ピクッと反応する。もう既に嫌な予感しかしない。

「まあ、あれだ……色々……「フィアンセよ!」は!?」

 絢瀬さんの方を見ると、汗が一筋流れ落ち、目が泳いでいる。多分、『勢いでフィアンセとか言っちゃったけど、どうしようかしら』とか考えているんだろう。

「フィ、フィアンセ!?」

 由比ヶ浜が驚愕の表情を見せる。……まじか。信じやがったよ。

 アホの子・由比ヶ浜が将来騙されやしないかと心配していると、その表情を見た絢瀬さんが得意げな顔になる。……変わり身はえぇな。

「そうよ!なんてったってキスまですませてるんだから!」

 あなたはなんてったってアイドルなんだから、そういう事、人前で言うのは止めましょうね。

「キスしたからって結婚するとは限らないじゃないですか!」

「甘いわね。それだけじゃないわ!」

 それだけじゃない?一体何を言う気だろうか…………まさか。

 絢瀬さんがこれから言おうとしている事に思い至った俺は、絢瀬さんを止めようとするが、間に合わなかった。

「八幡君は私の裸を見ているわ!」

「ええぇぇぇ!?」

 またもやあっさり信じる由比ヶ浜。いや、事実なんだけど。

 いつの間にか周囲にできていた人だかりから、変な歓声が聞こえてくる。恥ずかしいから止めて欲しい。そして絢瀬さんはこの状況で何故ドヤ顔を浮かべる事ができるんだろう。

「は、は、裸……」

 由比ヶ浜はわなわな震え、顔を真っ赤にしている。

「う、羨ましい……」

「あんな美人と……」

「うわ~、あの人すっごく綺麗」

 周囲も俺にはあまり、いや全く興味がない様子で、絢瀬さんが視線を独り占めしていた。……何故だろう。今、野郎共の方に苛立ちを感じている。俺らしくもない。

「二人共、場所変えよう」

「え?いいけど……」

 絢瀬さんはキョトンとしながらも、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。しかし、絢瀬さんだけではなかった。

「ていっ!」

 由比ヶ浜も空いている左腕に絡んでくる。体全体でしがみつくようにしているので、色々と柔らかい。

「お、おい……」

「むむっ!」

「よし、場所変えよう!」

 由比ヶ浜は俺に返事する事なく、ずんずん歩き出した。自然と俺の体も前へ進む。

「あ、あなたが何で腕を組むのよ!」

「こっちの方が動きやすいからです!」

「嘘でしょ!認められないわ!」

「そ、そっちだって!フィアンセなんて嘘ですよね!」

「…………」

「あ、やっぱりそうなんですね!」

「こ、これからなるのよ!」

 止めて!仲良くして!あと左右から豊満な膨らみが挟んできて、かなり心臓に悪いから離して!

 俺は為す術もなく、二人にどこかへ引き摺られていった。

 背後からは、男の怒りの叫びが夕焼け空に響いていた。





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