捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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誘惑

 あれ、おかしいわね。嫌がられてるのかな?見た目にはそこそこ自信があるのだけれど……。

 いえ、怯んではダメよ絵里!!!

 せっかく亜里沙がくれたチャンスだもの。

 花の女子高生生活。厳しい生徒会長のイメージのまま過ごすなんて真っ平ごめんだわ。

 ちょっと離れた距離にいる彼でも、それはそれでロマンチックじゃない。え?亜里沙が彼に一目惚れ?亜里沙……恋は戦争よ。ハリケーンよ。

 ここは……日本の伝統に従うわ。

 私は彼に対して、さらに距離を詰める。

 彼はその分だけ後ずさる。少し傷つくわね。うん。

 しかし、ここまでは計画通りよ。

 やがて彼は背後の壁にぶつかる。

 その顔はやけに真っ赤だ。

 ふふふ。覚悟しなさい。

 右手を彼の顔の真横の壁に突き出す。

 ドンッと重い音が鳴り響く。

 これぞジャパニーズアプローチの一つ、壁ドンよ。

 マンガやアニメであんなにやってるんだから、効果は抜群のはずよ!

 でも……

 

「いったぁ~い……」

 

 な、何これ?痛いよぅ。周囲の視線も含めて二重の意味で痛いよぅ。

 彼の顔を見たら、割と本気で怖がっていた。あれ?こんなはずじゃ……。

 

「お姉ちゃん……何してるの」

「や、やばいよ。小町の想像の遥か斜め上を行くお姉ちゃん候補が……」

 

 *******

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

 金髪ポニーテールに頭を下げられる。あー怖かった。壁ドンが苦手な女子の気持ちが分かっちまったよ。

 

「お姉ちゃんがご迷惑をおかけしました」

 

 金髪妹が頭を下げてくる。妹の方がしっかりしているようだ。まるで比企谷家じゃないですか。思わずシンパシーを感じちゃったよ。

 

「いえいえ、うちの兄も滅多に女の子と話さないから、いい思い出になりましたよ!」

 

 決していい思い出などではない。胸が肘に当たったとか、いい匂いがしたとかそれだけだ。

 

「私、比企谷小町といいます!お二人の名前を聞いてもいいですか?」

 

 うわぁ……何か自己紹介始めようとしてるよ。俺もう帰ってよくない?

 

「私は絢瀬亜里沙です!こちらの……頭を下げているのが、姉の絢瀬絵里です」

 

 まだ、絢瀬絵里さんとやらは頭を下げ続けている。

 

「あ、あの……もう、本当に気にしてないんで……」

 

 また、人目を集め始めている。冷たい視線に慣れている俺はまだしも、小町はガチで居心地が悪そうだ。

 

「本当!?」

「っ!」

 

 だから近いっての!

 自然と距離をとってしまう。ぼっちのパーソナルスペースの広さは異常。そしてこの人の距離の詰め方も異常。普段から人が近づいてこないから、慣れもあるのかもしれない。

 

「え、絵里さんはどうしてお兄ちゃんの連絡先が知りたいんですか?」

 

 小町がやや引き気味に尋ねる。こいつのこんなテンションは本当に珍しい。つまり、俺がこの人を怖がっているのも、自然な流れ。

 そして、その質問の答えは俺の度肝を抜いた。

 

「一目惚れ!」

 

 ……………………は?

 

 


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