「八幡君、体の力抜いて?」
「絢瀬さん……」
「緊張しなくていいのよ。焦らずゆっくりやればいいわ」
「じゃあ、いきます」
「ええ…………来て」
*******
2時間前。
「じゃあ、私と亜里沙ちゃんは出かけてくるから♪」
「お姉ちゃん、八幡さん、お土産期待しててくださいね」
先程の出来事の刺激を引きずったまま、のろのろと階段を降りると、小町と亜里沙がもう出かける寸前だった。あれ?お兄ちゃんはお留守番なのかな?かな?
「二人共、気をつけるのよ」
「うん、行ってくるね」
「お兄ちゃん、絵里さんと仲良くね!」
「え?あ……」
俺の返事を聞く事もなく、あっという間に外へ出て行った二人を呆然と見送りながら、さてどうしたものか、と頭をかいていると、絢瀬さんがぴょんっと俺の前に立った。
「ひとまず朝食にしましょ♪」
そんなにニコニコされても、何か企んでいるような気しかしないんですが……だが、さっきの出来事を思い出すと、あまりその顔を見れない。
そして食後……。
「ひとまずツイスターゲームにしましょ♪」
やはりおかしな事になってきた。
「あ、あれは封印したはずじゃ……」
「封印は解かれたわ!」
絢瀬さんが手をばっとかざそうとして、テーブルにがんっと強かにぶつける。
「いったぁ~……」
「だ、大丈夫ですか?」
たまにこういうポンコツかますんだよな、この人……。
「う~、ポンコツって言ったぁ」
「心を読まないでください」
「ツイスターゲームするの~!」
近寄ってきて、手をジタバタさせる。この姿を亜里沙にも見せてやりたい……少し可愛いけど。
まあ、いくら可愛くても、それとこれとは話が別である。
「いえ、やめときます」
「胸触ったくせに……」
絢瀬さんの言葉に、体がびくぅっと跳ね上がる。それと同時に、右手にさっきの感触が蘇ってきた。
「い、いや、あれはですね……」
「八幡君になら……何されてもいいんだけどね」
いいのかよ……あんまそういう事連発すんなよ……さっきの唇の感触はまだ鮮烈に刻まれているので、あまり刺激しないで欲しい。
表情は演技だろうが、しゅんとされると、やはり強くは出れない。思春期男子の性である。
「……じゃあ、少しだけ」
*******
そして今に至る。紛らわしい?何の事でしょうか。
「さあ、来て……」
「は、はい……」
俺は絢瀬さんの胸…………の付近の緑色へ手を伸ばす。
す、す、少し腕が当たっているような気がするが、気のせいですよね……わ、わざとじゃないですよ?
いらん事を考えたせいでギリギリの態勢が崩れ、そのまま絢瀬さんを押し倒してしまう。
「「…………」」
目の前に絢瀬さんの顔がある。
少し驚いているその顔は、やはり綺麗だ。
宝石のような青い瞳が僅かに潤んで、しっとりとした色気がある。
さっき重ねたばかりの唇もやはりそこにあった。
絢瀬さんには普段のノリが見られず、リビングには静謐な空気が流れる。
いつにもまして……なんかこう……。
「「…………」」
数秒間の沈黙の後、お互いはっとして離れる。
「す、すいません」
「いいのよ!ち、ちょっとびっくりしちゃった!」
「……そろそろ止めますか」
「いや、もうちょっと続けるわ。…………これは中々おいしいわ……ふふ」
…………さっきのときめきを返して欲しい。