捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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Together ♯2

「お兄ちゃーん。冷蔵庫の中何もないから、雨が降る前に買い物行ってきてくれない?」

「え?あ、ああ……」

 

 小町の声で我に返る。……危ねえ。うっかり場の空気に流されるところだった。

 俺は特に意味もなく、首筋をぽんぽん叩きながら立ち上がる。

「じゃあ、私も行くわ」

「いや、俺一人でも……」

「遠慮しないの」

「……はい」

 

 絢瀬さんのスクールアイドル活動の話を聞いていたら、割とすぐにスーパーに到着した。

「じゃあ……買うわよ!」

 止めて!静かにして!

 何故か気合いの入った絢瀬さんと僅かに距離を取りながら(しかし、すぐに詰められる)、買い物カゴをカートにセットする。すれ違いざまに、お年寄り夫婦が微笑みながらこちらを見ていた。……入店早々ダメージを受けてしまった。他には何もないよな?

「…………」

「どうしたの?キョロキョロして……」

「いえ、何でも……」

 俺が総武高校に通っているのは、中学時代のクラスメイトと同じ学校に進学したくなかったからだ。なので、基本的に俺の生活圏内で総武高校生と出会う事はない…………はずである。だが、もしもの可能性がある。二人で買い物をしているところなんて見られたら……………。

 いかん。警戒しすぎだ。不安定な精神状態で犯罪係数が上昇しているかもしれない。近くに執行官はいないだろうか。

「…………」

 気がつくと、絢瀬さんもキョロキョロしている。まさか本当に執行官が……!なんて事はなく、その視線の先には家族連れの客が何組かいた。

「どうかしましたか?」

「いえ、何でもないわ。行きましょう、あなた」

「ああ、はい…………今なんて?」

「どうしたの?あ・な・た♪」

「…………どうしたんですか?次は何ですか?」

 くっ!また斜め上な事をやろうとしてんな。

「あなた、今日はお義父さんとお義母さんは帰り遅くなるの?」

「聞く気はないんですか。そうですか」

 無理だ。話の通じる相手じゃない。

「ほら、やっぱりいついかなる時でも爪跡を残す努力をしないと」

「お笑い芸人じゃないんですから……」

 あなたぐらい爪跡を残されると、こちらは引っかき傷だらけになるんですが。いや、もう既に満身創痍なんですが。

 しかし、あまり誤解を生む訳にはいかない。ここはガツンと言うべきだろう。ワイルドに吼えるぜ!

「あの……絢瀬さん」

「ちょっとだけ家族を思い出しちゃった」

 少し離れた所にいる家族連れを見つめる絢瀬さんの表情に、僅かに翳りが見えた。雲が月を覆うように訪れたその翳りに、俺は自然と口を噤んでいた。

「実は私の家族って、亜里沙以外は皆ロシアにいるの」

「…………」

「あ、ごめんなさい!いきなりこんな話……」

「別にいいですよ……それより……俺に、料理でも、教えてください」

 自分でも何が言いたいかが分からぬまま言葉にした。

 しかし絢瀬さんは、クスッと笑って、俺の左腕にしがみついてきた。

「もちろんよ!あなた♪」

 ……どう考えてもその笑顔は反則だと思う。

 

 


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