はっ!いけないわ、絵里。
可愛い妹が迷子になっているというのに……いくら目の前の男の子の目が素敵だからといって、見とれている場合じゃないわ!
「あ、あの……どうかしましたきゃ?」
噛んだようだ。
か、可愛い!可愛いわ!……って、ち、違うでしょ、絵里!しっかりしなさい!
かしこい、可愛い、エリーチカはどこへ行ったの?
ここはいつも通り、冷静沈着に振る舞わないと……。
「ありがとうございます。でも大丈夫でしゅ」
噛んだーーーーー!
「あ……そうすか」
私が日本語を喋れると知って安心したのか、男の子は胸を撫で下ろす仕草をした。噛んだ事はバレていないみたい。セーフ。
「あ、お姉ちゃん!」
そこでいきなり、迷子になったはずの亜里沙が肩を怒らせながら歩いてくる。
「あ、亜里沙」
「もー、何迷子になってるの!?」
「え?何言ってるの?迷子になったのは亜里沙じゃ……」
「違うよ!私は目的のお店に着いたのに、振り向いたらお姉ちゃんがいないんだもん!」
「……あら」
「あら、じゃないよ!いきなりポンコツ発揮しないでよ!」
「ポ、ポンコツ?」
あれ、可愛い妹から酷い事を言われたような……。
「あ、じゃあ、俺達はそろそろ……」
「すいません、うちのお姉ちゃんが……」
可愛い妹にポンコツ扱いされた……可愛い妹に……。
心に尋常じゃないダメージを受けながら亜里沙の方を見ると、我が妹も素敵な目の男の子に見とれていた。
「ハラ……ショー……」
あれ、亜里沙-?お姉ちゃんはこっちよー?
*******
どうやら姉妹は再会できたようだ。
さて、何事もなく万事解決。めでたしめでたし。あとはこの場をクールに去るだけだ。
「お二人は千葉は初めてなんですか-?」
「…………」
回れ右しようとすると、無駄にコミュ力高めの我が妹は、臆する事なく美人姉妹に話しかけていた。何やってんの?
「は、はい!そうなんです!」
何故かぽ~っとしていた妹の方が、慌てて小町に答える。あれ?姉の方は……。
「む~」
「うわっ!」
いつ移動したのかわからないが、姉の方は俺との距離をかなり詰めて、こちらを覗き込むように凝視していた。
だが一流のぼっちたるこの俺は、パーソナルスペースを人よりかなり広めにとってある為、思わず飛び退いてしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「い、いえ、べ、別に……」
何、この距離感。海外の血が為せる技か。
……すごい甘くていい香りが。
しかも近すぎて腕に胸が当たりそうだった。当たりそうで当たらないっていうのがもうね。いっそ当てて欲しいぐらい。変な意味ではなく。本当だよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「あの、さっきは声かけてくれてありがとう。嬉しかったわ」
丁寧に礼を言われる。その優雅な立ち振る舞いから、隠しようのない育ちの良さを感じてしまい、ほんの少し萎縮する。
「あ、いや、どういたしまして」
実際に礼を言われる筋合い等ない。
むしろ、どちらも噛んで恥を晒しただけだ。この人も華麗にスルーしたけど……美人すぎるだけに、余計に軽いポンコツが目立っちゃうパターン。大抵の男子はこういう天然に弱い。だが俺はあー!また距離詰めてきたー!何この人、俺の事好きなの?
「ど、どうかしました、か?」
「あの……連絡先聞いていいかしら?」
「……は?」
不敵に笑う金髪碧眼ポニーテール美人の言うことを上手く飲み込めなかった俺は、きっと間抜け面をしていた事だろう。
……ていうか何でドヤ顔?