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それでは今回もよろしくお願いします!
「大丈夫?」
「ええ……」
二人でベンチに腰掛け、絢瀬さんが濡らしたハンカチで顔を拭いてくれる。唾液やら何やらでベタついた顔を、すれ違う人がギョッとした顔で見るので、かなり気まずかった。
「昨日思いついた時はいい考えだと思ったんだけど……濃密な1回目になるし……」
「え?アレって1回だけになるんですか?」
「そうよ」
あっけらかんと言い放つ絢瀬さんに、何も言い返せなくなる。……実際に俺も色々とヤバかった。まだ毛布のような温もりや、甘い香りが体に残っている気がした。
「満足した?」
「……ノーコメントで」
「むぅ、何よ……さり気なく胸触ってたくせに」
「え?俺、そんな事は……」
「ウ・ソ♪」
何だよ、嘘かよ。ホントに触っちまうぞ。つーか、してやったり、みたいな顔が無駄に綺麗なのも腹立つな。
仕返しにポニーテールにデコピンをかます。こんな時もおでこに仕返しできない自分のヘタレ具合が情けない。
「ふふっ。可愛いことするじゃない」
絢瀬さんが顔を近づけてくる。慣れたように思えたその覗き込むような視線は、相変わらずこちらの心に不安定な揺らぎを与える。空振りする自分のデコピンを引っ込め、俺の左手はベンチの背もたれを掴んでいた。
「じゃあ、もう一度……」
唇がいつの間にか触れ合う寸前になっていた。そして、そのまま時間が止まったように動かない。
「…………」
「…………」
これはおそらく試されているのだろう。このまま本能的な欲求か、場の空気に流されてしまうのはそれはそれでいいのかもしれない。
ただ…………それは恋愛感情ではない。似ても似つかぬ何かのように思える。
俺は絢瀬さんの肩をゆっくりと押し戻す。
「あ…………」
その寂しそうな顔に少し罪悪感を覚えたが、今の俺にはこれが精一杯の誠意だ。
「…………」
「まだ……ダメかぁ」
空を仰ぐ絢瀬さんの顔はもう笑顔に戻っていた。
「あの……」
「いいのよ。今日、八幡君のいいところを一つ見つけられたから」
「……そ、そうすか」
「君は……優しい」
「…………」
「私、こんな気持ち初めてだから、正直言って何をどうすればいいかわからないの」
そっと手を握られた。だがさっきまでと違う感触がするようだ。
「それで……少し暴走しちゃって」
「少し?」
「う、うるさいわね……でも、君は付き合ってくれる」
「…………べ、別に」
「ありがとう♪」
礼を言われる筋合いはない。思考回路を使い、様々な理由を挙げようとすると、耳に直接、甘い言葉を吹き込まれた。
「大好き」
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