それでは今回もよろしくお願いします。
濃密な時が流れた昼食を終え、再びアトラクションへと足を運ぶ。ちなみに……全部絢瀬さんに食べさせてもらいました、はい。近くにいたカップルが真似したり、男子のみの集団が羨ましそうな目で通りすぎたりと、とにかく落ち着かない時間だった。
…………でも、滅茶苦茶美味かったな。うん。
「どうかした?」
「い、いえ、何も」
「あ!も、もしかして……デザート、食べたくなっちゃった?」
絢瀬さんは自分を指さしながら言う。……やはり喋ると残念だが。
「…………」
「ちょ、ちょっと!いきなりそんな無表情で歩き出さないでよ!」
「はいはい」
「今度、愛妻弁当届けてあげよっか」
「さりげなくジョブチェンジしないでください」
「つれないなぁ……あ、御飯粒ついてる」
絢瀬さんは俺の口元についていた米粒を取り、それをそのまま口に運んだ。
「…………っ」
一瞬で顔が赤くなったのがわかる。だから、いきなりそういう事を…………ん?
「やったわ!さっきこっそり御飯粒つけておいたのが正解ね♪」
「聞こえてますよ……」
その後は特にぶっ飛んだ展開もなく、穏やかなペースでアトラクションを楽しんだ。これまでがこれまでだけに、ありきたりなデートが珍しく思えてしまう。
…………そういや、俺は今日が人生初デートでした。
日が暮れ始め、空から青さが消えた頃、俺達は観覧車の列に並んでいた。遊び尽くして足には少し疲れが溜まっている。
「あの……絢瀬さんは、大丈夫ですか?」
「え、何が?」
「えっと……足……」
「あー、全然大丈夫よ!ありがと♪」
その笑顔を見る限り、嘘ではないようだ。体力も兼ね備えているらしい。
「そうっすか」
「ふふっ、照れなくてもいいのに」
「いや、別に照れてなんか……」
「ここでキスするわよ」
「いや、せめて言葉のキャッチボールくらいしましょうよ…………え?」
「ここで1回目のキスをします!」
絢瀬さんが無駄に真剣な顔で言い放ったのに対し、俺はポカンとするだけだった。
「…………」
チクチクと周りの視線が突き刺さる。
まあ、来るとわかっていれば心の準備をすればいい。
ベタだが、一番高い所でキスされるのだろう。
胸の高鳴りを無視して、いかに場の空気に流されないようにするかを考えた。
やがて順番が来て、係員の指示に従い、ゴンドラに乗り込む。絢瀬さんの対面に座ろうとすると、強く腕を引かれ、体勢を崩しそうになる。
「どうしまし……っ」
「…………ん…………んんっ」
絢瀬さんに隣に座らされると同時に、今、キスされているのだと認識する。
体中に火照りを感じながら、俺はぴくりとも動けずにいた。
上昇していく視界の端に、唖然とする係員と女子四人組がはしゃいでいるのが見えた。
「うお~、すっげえ!」
「ちゅーしてるのん!」
「あわわ……これが都会……」
「お、落ち着いてください、こまちゃん先輩!皆がやってるわけじゃないです!」
「…………んく」
「…………んんっ!」
四分の一も行かない内に息が苦しくなった。
それを察したのか、絢瀬さんはキスする場所を首筋にずらす。
「はあ……はあ……あ、絢瀬さん」
首筋を舐めるように這う唇にゾクゾクした感触を覚え始めていると、また唇を重ねられた。
そのじゃれ合うようなキスがひたすら繰り返される。呼吸とは別の問題で頭がクラクラしてきた。このままでは理性など吹き飛んでしまいそうだ。
額に、頬に、絢瀬さんが刻まれ、一つになっていく気がする。形而上と形而下の狭間を彷徨っている内に、ゴンドラはようやく下に到着した。係員が扉を開けると同時に唇が離され、つぅっと糸を引いた。
周りの音が判断できないくらいに蕩けた思考回路はしばらく機能しそうもない。
「はあ……はあ……」
「はあ……はあ……」
汗だくで息の荒い俺と絢瀬さんを、係員は顔を赤くして見送った。
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