総武高校、放課後。
俺は平塚先生により、校内一の有名人と思われる雪ノ下雪乃が一人で読書をしているだけのよくわからない教室に連れて来られていた。
「君にはこの部活で人格を矯正してもらう」
「……俺は品行方正なつもりなんですが」
「君の彼女に聞いてみたいものだな」
「いや、だから彼女じゃ……」
「違うのか?」
ガールフレンド(仮)とか言えるわけない。
「先生、そこの……キス谷君は、一体……」
「おい、初対面から変なあだ名つけてんじゃねえよ。つーか、俺の名前知ってんの?」
「ええ、もちろんよ。だって校内一の有名人だもの」
雪ノ下は肩にかかったその美しい黒髪を軽く払いながら言葉を続けた。
「校門前で彼女にコスプレをさせて、盛大にキスをして、浮気相手と修羅場を……」
「ち、違うっての……」
どうやら校内での共通認識となっているらしい。俺は大きく溜息をつき、窓の外の夕陽に赤く染まるグラウンドに目をやった。
このままぼーっとしてやり過ごせないか、なんて考えていると、平塚先生が俺の肩に手を置く。
「まあ、安心したまえ。私も君がそんな極悪非道な人間とは思っていないさ」
「はあ……」
「ただ雪ノ下の発言通り、君の一件は校内中に知れ渡っている。もちろん教師にもだ。なので朝も言ったように、お咎めなしという訳にもいかないんだよ」
「先生。ちょっとまってください。彼を入部させる気でしょうか」
「不満かね?」
雪ノ下は俺の方を見て、体を庇う姿勢になった。俺を見る目は警戒心に満ち溢れている。
「正直不安です。二人きりになれば、彼の歪んだ性欲をぶつけられそうなので」
「あー、それは絶対に無いから安心しろ」
その慎ましすぎる胸に欲情などするはずがない。
俺は右肘辺りに残る絢瀬さんの柔らかい感触を思い出した。べ、べ、別に意識してないんだからね!
「……今、何故かあなたに殺意を感じたわ」
「まあまあ、落ち着きたまえ。とりあえず比企谷は仮入部でいい。奉仕部として、2、3件の仕事をしてくれれば後は好きにしてくれていい」
「奉仕部?」
聞き慣れない単語につい反応してしまう。
その後俺は、雪ノ下と平塚先生に奉仕部の活動内容やら何やらを聞かされ、帰る頃にはグラウンドで部活をしていた生徒も帰り支度を始めていた。これもまた、青春の在り方なのだろう。
帰宅部だった俺はその見慣れない光景を横目に、自転車を押しながら校門を出た。
昨日の一件が原因で部活に仮入部させられたわけだが、不思議と絢瀬さんに対する不快感等は一切感じなかった。むしろ……
「……っ」
思考を中断させ、頭をかく。
彼女は一体何を考えているのだろうか。
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「せ、生徒会長!土下座なんてしなくていいですから!」
「あ、頭を上げてください!」
「わわっ、ど、どうすればいいの?」
「エリチ……さ、さすがにそれは……」