周囲が再びざわめく。
今度は東條さんがするりと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。そして、絢瀬さんよりも豊満と思われる感触がふにゅりと腕に押しつけられる。
「希っ!?な、な、何やってるにょ!?」
「ふふっ、だってこっちの方が面白そう……エリチの可愛いリアクションが見れるやん♪」
今言い直す意味ありましたかねぇ!アンタ本当に何しに来たんだよ!
「の、の、希ぃ~~~~!!!!」
絢瀬さんが俺と東條さんを引き剥がす。やっとあの温かくて柔らかい胸が離れてくれた。べ、別に寂しいなんて思ってないんだからね!
「人の彼氏を何誘惑してんのよ!」
あなたの彼氏になった覚えはありません。てか本当に、プリキュアの姿で大声で言うの止めて?
「あれ~、比企谷君。エリチと付き合ってんの~?」
東條さんがニヤニヤしながらこっちを見る。
それと同時に、絢瀬さんが不安そうな目をこちらに向けてきた。
「八幡君。うぅ~……」
そんな捨てられた子犬みたいな目で見られましても……。
「…………うぅ」
その目が再び潤み始めた時、俺の体は自然と動き出していた。これ以上ないくらい華麗なロケットスタートである。
「きゃっ!」
「おぉっ!」
俺は絢瀬さんの手を引き、全力で駆け出した。
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「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……は、八幡君?」
やっと人気のない所まで来れた。
片手でチャリを引きながら、さらに絢瀬さんと手を繋いで走ったので、かなり疲れた。自分の意外な火事場の馬鹿力に驚いてしまう。
しばらく走って頭を空っぽにしたせいか、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。
「……なんて恰好してんすか」
「うっ……ごめんなさい」
制服の上着を脱ぎ、絢瀬さんに渡す。
そしてそれをたどたどしい手つきで受け取るのを見て、背を向ける。
すると、背後から声をかけられる。
「あの、ご、ごめんなさい!」
振り返ると、キュアハート……絢瀬さんが頭を深く下げていた。……やっぱりシュールだ。ヒーローから謝られるとか。
「お、怒ってるよね?」
「いや、別に……」
別に怒るほどの事はされていない。ただ人前でプリキュアの恰好をした金髪ポニーテールに告白され、グラマーな似非関西弁から修羅場に陥れられただけだ。何の事はない。何の事は……ない……はず。
「あの……」
「何?」
「絢瀬さんは……その……どうして、俺なんかを好きになったんですか?」
これに関しては、全く理由がわからない。俺はそこそこ整った顔を自負しているが、一目惚れされるほどのルックスではない。それなのに何故ここまで……。
「わからないわ!」
「……は?」
「わからないわよ!初めてなんだもん!でも……あなたと出逢ってから……体が妙に熱くて……温かくて……」
絢瀬さんは涙をぽろぽろ零しながら、いつの間にか距離を詰めていた。その唇を見ると、さっきの事を思い出し、頭に血が上ってしまう。
そして、蕩けるような甘い囁きを口にした。
「あ、あの、その……何度でも言うわよ。あなたが……大好き……」