これは、絵里の家で暮らし始めてから初めて迎えた正月の出来事である。
初詣を終え、大晦日から絵里のハイテンションに振り回された俺は、疲れて眠ったのだが……。
「ん……んん……」
「…………」
……なんだろう。
唇に違和感を覚える。
普段なら「まあ、気のせいか……」ともう一度眠るところだが、直感で自分の身に何が起こっているか察した俺は、すぐに目を開けた。
すると、そこには見慣れた青い瞳がこちらに熱い眼差しを送っていた。
その瞳は宝石以上に輝いて見えるのだが、いきなり至近距離に現れると、ぶっちゃけ怖い。
とりあえず、少し距離をとると、鮮やかな金髪に青い瞳が印象的な美女、絢瀬絵里が不敵に微笑んだ。
「あ・け・お・め・こ・と・よ・ろ♪」
「……明けましておめでとうございます……一応聞いておきますが、何やってるんですかね……」
「新年の挨拶だけど?挨拶は基本よ基本」
「いや、俺がおかしいみたいな方向に持っていかないでくださいよ。まあ、何かしてくるとは思いましたけど……」
「あら、そんなに期待してくれてたの?嬉しいわ。さすが八幡ね」
「新年早々ポジティブシンキングっすね……少しくらいは見習いたいです……」
「ちなみに新年初キスはさっきすませたわ!」
「……新年早々アクティブっすね……」
「当たり前じゃない。人生は止まらずに進んでいくのよ。だからこうしてしっかり八幡を全身で感じなきゃ」
「お、おう……」
なんだよ、八幡を全身で感じるって。むしろ俺がどんな存在なんだろうか。神にでもなったのだろうか。
そうこうしているうちに、すっかり目が冴えてしまったが、まあいいだろう。どうせ冬休み中だし。寝ようと思えばいつでも寝れる。
絵里はこちらの胸元に額を当て、さっきとは違う落ち着いた声音で囁いた。
「ねえ、八幡。今年もたくさん色んなもの見て、色んなことしましょう。一緒に、ね」
「……はい」
彼女との仲を深めた日々は、不思議なくらい驚きの連続で、彼女といれば、これからもこんな騒がしい日が続くと確信してしまうくらいに。
新年早々、こんな気持ちに気づかせてくれる彼女を見ていると、胸の中にまた一つ、温かな灯がともった。
こんな時、柄にもなくふと思ってしまうのだ。
世界中が幸せでありますように、と。
そんな事を考えながら、俺は絵里をそっと抱き寄せ、今度は自分から唇を重ねた。
「ん……今日はやけに積極的ね……はっ、もしかして!八幡、まだ二度目のプロポーズは早いチカ!」
「語尾がまた変に……とりあえず、もう少し静かにしないと、亜里沙が起きて、また叱られると思うんだが……」
俺は、一人でMAXハイテンションな絵里を宥めながら、そろそろ起きてくるであろう、亜里沙のお叱りを受ける心の準備をした。