あれから1年後……。
「引っ越し完了!八幡は荷物が少ないから、思ったより早く済んだわね」
「そりゃどうも」
俺と絵里は無事に東京の大学に合格し、在学中は絢瀬家に住まわせてもらう事になった。もちろん、絵里の両親には挨拶を済ませてある。まあ、色々あった1年だったが、いつか話す時が来るかもしれない。
まあ今のところ、絵里の両親は仕事でロシアを離れられないから、3人暮らしになるのだが、この二人相手ならそこまで気兼ねすることはない。
「さ、そろそろ小町ちゃんも買い出しから戻ってくるから、皆でどこか食事にでも行きましょうか」
「そうっすね。あー、疲れた」
自分で肩を揉む俺を見ながら、絵里は小さく笑う。最近はポニーテールにはせず、金髪を下ろしているが、俺が褒めちぎったのを小町から聞いたのだろうか。
「ふふっ、運動も本格的にやってみたら?大学では何かサークル活動はする予定なの?」
「いや、そんな予定はない」
「言うと思った。あ、希からだわ。そろそろ来るって」
「そっか。じゃあ、先輩に挨拶するとしますかね。二人で」
「八幡。そこに直りなさい」
「すいません、冗談です」
「まったく……」
ちなみに現役で受験したμ'sメンバーは全員無事に合格したようだ。パリへ留学した南さん以外の二人は、同じ大学になる。学部が違うけど、もしかしたら構内でばったり会うかもしれない。
総武高校の生徒会メンバーも無事に進学した。
なんとあの由比ヶ浜が、雪ノ下と同じ大学に合格した。学科は違うようだが、アホの子の影はもうどこにも……いや、その辺りはあまり……。
ちなみに葉山と三浦も同じ大学で、こちらは雪ノ下と同じ学科になるらしい。こちらはこちらで、騒がしい毎日になりそうだ。
材木座は……誠に遺憾ながら、同じ大学になってしまった。流れ星に三回以上祈っても、戸塚に変わる事はなかったので、これが現実なのだろう。
「にこが来れないのは残念ね」
「まあ仕方ないですよ。忙しい身だし」
矢澤さんは大学に通いながら、プロのアイドルとして活動している。μ's時代の活躍もあり、A-RISEと同じくらいの知名度は獲得している。確か765プロとかいう事務所に所属していて、この前は同じ事務所のアイドルと料理番組に出ていた。
『うっうー♪』
『にっこにっこにー♪』
……どちらも割と癖になりそうだ。
「うっうー!ほら、どう?八幡」
「さてと、じゃあリビングで皆を待つとしますか」
「む、無視しないでよ!」
そう言いながら、後ろから抱きついてくる絵里の手を握る。甘い香りにひんやりとした白い手。このまま眠ってしまいそうなくらいに安らいだ気持ちになる。
「八幡、どうかした?」
「絵里、その…………好きだ」
少し間を空け、何度も重ねてきた言葉を告げる。
そして、何度も重ねていこうと誓った。
きっとその言葉は幸せをよんでくれるから。
振り向くと、絵里はいつものように青い瞳を輝かせ、優しく微笑んだ。
「……私もよ。八幡」
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1時間後……。
「そういや比企谷君、この前、外国人の女の子にナンパされよったね。顔赤くしとったやん?」
「いや、その……それは……」
「チカァ!!」