捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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I LOVE YOUをさがしてる ♯5

「ただいまぁ!!」

「っ!」

 玄関の扉を開けた途端、笑顔の絵里が思いきり抱きついてきた。その勢いに危うく倒れそうになるが、しかし男の意地で堪えた。

「ただいまぁ!会いたかった、会いたかった、会いたかった!」

 yes!、じゃなくて……

「お、落ち着いてくだふぁい……」

 豊満な胸を惜しみなく顔に押しつけてくるせいで、呼吸がしづらい。あまりの柔らかさと甘い香りに、このまま色々と越えてしまってもいいような気が……

「お二人さ~ん、玄関でいちゃつくのは、色々と気まずいので止めてもらっていいですか~?」

 小町の困ったような声に、二人してそっと離れた。

「お、おう……」

「ごめんなさい……」

 はい。またしても安定のおあずけである。

 

 ひとまずリビングでコーヒーを飲み、落ち着いてから、絵里に話をふる。

「そういや、大丈夫だったんですか?帰って来た時とか」

「ええ。サインするのに、かなり時間かかっちゃったけどね」

 アメリカから帰って来る日に空港まで迎えに行こうとしたら、絵里から『今来たらパニックになるから、家で待ってて』というメールがきたので何事かと思ったら、空港はμ'sのファンで埋め尽くされていたらしい。

「八幡が来てたら大変な事になってたわね」

「確かに、な……」

「危うく芸能人でもないのに、婚約記者会見を開くところだったわ」

「え?何の心配?」

 昨日も散々秋葉原でファンに囲まれたらしいが、意外と大丈夫そうだ。

 アメリカでのライブが起爆剤になったのか、テレビでもこの前のライブや過去のライブが放送され、全国大会優勝チームであるμ'sは、爆発的に知名度を上げ、次のライブが期待される状態だ。しかし……

「μ'sは活動終わるんだろ?」

「ええ……皆と決めたの」

「……そっか」

 絵里は少しだけ俯き、寂しそうな顔を見せた。μ'sで重ねてきた時間は、決して長いとはいえないが、その密度はかなり濃いものだったのだろう。その事に、少しだけ嫉妬してしまう自分がいたが、それ以上にμ'sが続かない事を残念に思う自分がいた。

 しばらくリビングが静謐に包まれ、物音をたてるのも躊躇われたが、ゆっくりと顔を上げた絵里が、自らその空気を破った。

「実はね……最後に一日だけライブをする事にしたの。秋葉原の街で……全国のスクールアイドル達と……」

 絵里がそっと手を重ねてきたので、応えるように握り返す。自分が思ったよりも強い力で。

「……絶対に観に行く」

「あ、八幡。スタッフお願いしていい?」

 二つの青い瞳を見ながら告げると、絵里はあっさりとした口調で意外な事を言った。

「へ?」

「いきなりのライブで人手不足なの……お願い!」

 絵里は手を繋いだまま、ぴったりと体が密着するくらいに距離を詰めてくる。

 ……いや、別に上目遣いとか胸の谷間チラ見せとかしなくてもやるけどさ。

「べ、別にいいですけど……」

「その、出来れば……」

「ああ、生徒会の奴らに声かけときますよ」

 上手くいけば、雪ノ下経由で葉山グループを巻き込めるかもしれない。人手が増えれば、その分楽ができる。そして、俺がゆっくりステージを観る時間が増える……よし、やる気が出てきた。

「八幡、悪い顔になってるわよ」

「またロクでもないこと考えてそう……」

 




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