それでは今回もよろしくお願いします!
「ただいまぁ!!」
「っ!」
玄関の扉を開けた途端、笑顔の絵里が思いきり抱きついてきた。その勢いに危うく倒れそうになるが、しかし男の意地で堪えた。
「ただいまぁ!会いたかった、会いたかった、会いたかった!」
yes!、じゃなくて……
「お、落ち着いてくだふぁい……」
豊満な胸を惜しみなく顔に押しつけてくるせいで、呼吸がしづらい。あまりの柔らかさと甘い香りに、このまま色々と越えてしまってもいいような気が……
「お二人さ~ん、玄関でいちゃつくのは、色々と気まずいので止めてもらっていいですか~?」
小町の困ったような声に、二人してそっと離れた。
「お、おう……」
「ごめんなさい……」
はい。またしても安定のおあずけである。
ひとまずリビングでコーヒーを飲み、落ち着いてから、絵里に話をふる。
「そういや、大丈夫だったんですか?帰って来た時とか」
「ええ。サインするのに、かなり時間かかっちゃったけどね」
アメリカから帰って来る日に空港まで迎えに行こうとしたら、絵里から『今来たらパニックになるから、家で待ってて』というメールがきたので何事かと思ったら、空港はμ'sのファンで埋め尽くされていたらしい。
「八幡が来てたら大変な事になってたわね」
「確かに、な……」
「危うく芸能人でもないのに、婚約記者会見を開くところだったわ」
「え?何の心配?」
昨日も散々秋葉原でファンに囲まれたらしいが、意外と大丈夫そうだ。
アメリカでのライブが起爆剤になったのか、テレビでもこの前のライブや過去のライブが放送され、全国大会優勝チームであるμ'sは、爆発的に知名度を上げ、次のライブが期待される状態だ。しかし……
「μ'sは活動終わるんだろ?」
「ええ……皆と決めたの」
「……そっか」
絵里は少しだけ俯き、寂しそうな顔を見せた。μ'sで重ねてきた時間は、決して長いとはいえないが、その密度はかなり濃いものだったのだろう。その事に、少しだけ嫉妬してしまう自分がいたが、それ以上にμ'sが続かない事を残念に思う自分がいた。
しばらくリビングが静謐に包まれ、物音をたてるのも躊躇われたが、ゆっくりと顔を上げた絵里が、自らその空気を破った。
「実はね……最後に一日だけライブをする事にしたの。秋葉原の街で……全国のスクールアイドル達と……」
絵里がそっと手を重ねてきたので、応えるように握り返す。自分が思ったよりも強い力で。
「……絶対に観に行く」
「あ、八幡。スタッフお願いしていい?」
二つの青い瞳を見ながら告げると、絵里はあっさりとした口調で意外な事を言った。
「へ?」
「いきなりのライブで人手不足なの……お願い!」
絵里は手を繋いだまま、ぴったりと体が密着するくらいに距離を詰めてくる。
……いや、別に上目遣いとか胸の谷間チラ見せとかしなくてもやるけどさ。
「べ、別にいいですけど……」
「その、出来れば……」
「ああ、生徒会の奴らに声かけときますよ」
上手くいけば、雪ノ下経由で葉山グループを巻き込めるかもしれない。人手が増えれば、その分楽ができる。そして、俺がゆっくりステージを観る時間が増える……よし、やる気が出てきた。
「八幡、悪い顔になってるわよ」
「またロクでもないこと考えてそう……」
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