「八幡君!見て見て!」
プリキュアがこちらに駆け寄ってくる。子供っぽい衣装を抜群のスタイルで着るものだから、周りの男子は目のやり場に困っている。おい、そこ。前かがみになってんじゃねえよ。
「どう!?この恰好!小町さんから、八幡君がプリキュア好きって聞いたから着てみたの!」
だあぁぁぁぁぁぁぁ!!大声で何言ってくれちゃってんの!?周りの総武校生徒の俺を見る目が、変態を見る目に変わる。
「まじかよ。あんな美人と……」
「う、羨ましい……」
「彼女にあんなコスプレさせるなんて……」
「きっと恐ろしい変態よ」
「ぱねぇな」
「だな」
「っべーわ。てか、あれ俺らのクラスのヒキ……ヒキタニ君じゃね?」
「ちくしょう……ただのぼっちのくせに」
あいつら……誰だか知らんが聞こえないように言えっての。つーか、同じクラスの奴がいるみたいだ。あと早くもぼっち認定されてやがる。いつもの事だ。
「ほら八幡君!感想は?」
この前と同じように、ずいっと顔を寄せてくる。近い近い近いい香り近い近い!
「そ、その恰好で電車に乗って来たんですか?」
なるたけ平静を装いながら訊ねる。
「え、ええ…………」
絢瀬さんは少し気まずそうな顔になり、頬が赤く染まった。そして、そのままぽつぽつと語りだす。
「いや、貸衣装屋でこの衣装を借りて、秋葉原まではよかったのよ」
秋葉原でもそんなにコスプレしている奴はいないような……。
「その勢いで電車に乗ったら、コスプレしているのが私だけで……」
当たり前だろ。何考えてんだ。
「最初はすごくジロジロ見られて恥ずかしかったんだけど、県境を越えた辺りで私も色々と乗り越えちゃって♪」
乗り越えんなよ。引き返せよ。あと上手い事言ったみたいな顔してんじゃねえよ。……ダメだ。出会ってからこの人のまともな所を殆ど見ていない。この人、本当に生徒会長なのだろうか。俺の中学時代の妄想が具現化した何かじゃなかろうか。
「わ、私、八幡君の頼みなら、どんなコスプレだってするから!」
「あ、俺そろそろ……」
ここは逃げるが勝ちである。つーか、それ以外に手がないまである。
「ま、待って!私のコスプレ似合ってない?どこかおかしい所ある?」
「いや、おかしいといいましゅか……」
この場においておかしいのは間違いなく絢瀬さんの頭だろう。つーか、何度見ても、このプリキュア無駄にエロい。これをプリキュアと認めていいのだろうか。
「そう……何かが足りなかったのね。何がいけなかったのかしら」
「あ、ああ、はい」
絢瀬さんはしゅんとしてしまう。その姿さえも様になる程に、やはり彼女は綺麗だ。見とれていると、周りの視線がどうでもよく……ならねーよ。やばいよ。野次馬がこんなに……。
「はあ、仕方ないわね……。じゃあ、これだけ受け取って」
「は?……っ」
突然の感触に、体中が痺れるような驚きで満たされ、指1本動かない。
「…………」
「…………んくっ」
俺と絢瀬絵里は、二回目の邂逅で二度目のキスを交わしていた。
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