捻くれた少年と強がりな少女   作:ローリング・ビートル

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口唇 ♯3

「八幡君!見て見て!」

 

 プリキュアがこちらに駆け寄ってくる。子供っぽい衣装を抜群のスタイルで着るものだから、周りの男子は目のやり場に困っている。おい、そこ。前かがみになってんじゃねえよ。

 

「どう!?この恰好!小町さんから、八幡君がプリキュア好きって聞いたから着てみたの!」

 

 だあぁぁぁぁぁぁぁ!!大声で何言ってくれちゃってんの!?周りの総武校生徒の俺を見る目が、変態を見る目に変わる。

 

「まじかよ。あんな美人と……」

「う、羨ましい……」

「彼女にあんなコスプレさせるなんて……」

「きっと恐ろしい変態よ」

「ぱねぇな」

「だな」

「っべーわ。てか、あれ俺らのクラスのヒキ……ヒキタニ君じゃね?」

「ちくしょう……ただのぼっちのくせに」

 

 あいつら……誰だか知らんが聞こえないように言えっての。つーか、同じクラスの奴がいるみたいだ。あと早くもぼっち認定されてやがる。いつもの事だ。

 

「ほら八幡君!感想は?」

 

 この前と同じように、ずいっと顔を寄せてくる。近い近い近いい香り近い近い!

 

「そ、その恰好で電車に乗って来たんですか?」

 

 なるたけ平静を装いながら訊ねる。

 

「え、ええ…………」

 

 絢瀬さんは少し気まずそうな顔になり、頬が赤く染まった。そして、そのままぽつぽつと語りだす。

 

「いや、貸衣装屋でこの衣装を借りて、秋葉原まではよかったのよ」

 

 秋葉原でもそんなにコスプレしている奴はいないような……。

 

「その勢いで電車に乗ったら、コスプレしているのが私だけで……」

 

 当たり前だろ。何考えてんだ。

 

「最初はすごくジロジロ見られて恥ずかしかったんだけど、県境を越えた辺りで私も色々と乗り越えちゃって♪」

 

 乗り越えんなよ。引き返せよ。あと上手い事言ったみたいな顔してんじゃねえよ。……ダメだ。出会ってからこの人のまともな所を殆ど見ていない。この人、本当に生徒会長なのだろうか。俺の中学時代の妄想が具現化した何かじゃなかろうか。

 

「わ、私、八幡君の頼みなら、どんなコスプレだってするから!」

「あ、俺そろそろ……」

 

 ここは逃げるが勝ちである。つーか、それ以外に手がないまである。

 

「ま、待って!私のコスプレ似合ってない?どこかおかしい所ある?」

「いや、おかしいといいましゅか……」

 

 この場においておかしいのは間違いなく絢瀬さんの頭だろう。つーか、何度見ても、このプリキュア無駄にエロい。これをプリキュアと認めていいのだろうか。

 

「そう……何かが足りなかったのね。何がいけなかったのかしら」

「あ、ああ、はい」

 

 絢瀬さんはしゅんとしてしまう。その姿さえも様になる程に、やはり彼女は綺麗だ。見とれていると、周りの視線がどうでもよく……ならねーよ。やばいよ。野次馬がこんなに……。

 

「はあ、仕方ないわね……。じゃあ、これだけ受け取って」

「は?……っ」

 

 突然の感触に、体中が痺れるような驚きで満たされ、指1本動かない。

 

「…………」

「…………んくっ」

 

 俺と絢瀬絵里は、二回目の邂逅で二度目のキスを交わしていた。

 




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