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それでは今回もよろしくお願いします。
「お姉ちゃん」
「はい」
腕組みをする亜里沙の前で正座する絵里。
お姉ちゃんの威厳は遙か彼方へと吹き飛んでしまい、見ているだけで切なくなる光景がそこにはあった。
絵里の表情は親に叱られる幼い子供そのもので、怒られる準備万端といった感じだ。言い訳をしない潔さは認めてもいいと思うの。
「お姉ちゃん、私に何か言う事あるでしょ?」
「はい」
何だ?まだ何か問題を抱えているのだろうか?
余計なお世話と思いながらも、つい口を挟んでしまう。
「な、なあ……一体……」
「お姉ちゃん、私のプリン食べたでしょ!?」
そうか、プリンかそりゃ大変だ……は?
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
絵里は両手を合わせて何度も謝る。
「でもね、亜里沙。これは事故みたいなものなのよ。浪人が決まってショックを受けていた時に冷蔵庫を開けたら、美味しそうなプリンがあったの。そして、気づいたら食べてたのよ!仕方ないのよ!お風呂上がりだったのよ!」
「…………」
確かμ'sは芸術を司る9人の女神らしいが、一人くらい駄女神が混じっているのかもしれない。おい、先週の甘々な稲妻が迸ったような空気はどこへ行った?
亜里沙もドン引きしていた。
「ま、まさかここまで残念とは思ってなかったよ」
「止めて!残念とか言わないで!もう最終回近いのに、ポンコツとか誤解されちゃうじゃない!」
もう手遅れな件について。
「なあ、亜里沙。そろそろ許してやってくれ、な?後でプリンぐらい買ってやるから」
「え、本当に!?」
「あの、私の分も……」
「お姉ちゃん!」
「べ、別にそれぐらいなら構わん」
「もう……あ、そうだ!二人共、結婚おめでとう!」
「亜里沙……うん、ありがとう!」
「え……」
何故知ってる?正座したまま祝福の言葉を受ける絵里はさておき、真っ先に疑問が浮かぶ。
「雪穂の家にスマホを取りに行ったら、こんなデータが……」
亜里沙がスマホを操作して、画面をこちらに向けた。
『俺と結婚しろ』
そこからは聞き覚えのある声が響いてきた。
「はあ!?」
「グッジョブよ、亜里沙!」
絵里が亜里沙を抱きしめた。
「亜里沙。あなたって本当に可愛いわね。最高の妹よ。今すぐ、クリームプリン買ってくるわね。だから、その音声を至急私の携帯に送ってくれるかしら」
「本当に!?ありがとう、お姉ちゃん!」
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「観念するチカ。証拠を残すチカ」
「嫌チカ、恥ずかしいチカ」
俺の必死の抵抗むなしく、東條さんが録音したらしいあの音声は、結婚式で使われる事になった。一体いつ録ってたんだよ。つーか、プリンの話の方が先だったが、もしかしてそっちの方が重要だったのかしら。
そこで、自分が手ぶらなのに気づく。
「そういや俺、何の準備もしてないから、今日は泊まれねーな」
「八幡、着替えは奥のタンスに一式揃えてあるから」
「お義兄ちゃん、歯ブラシやお箸も揃えてますから、安心してね」
「……あ、ああ」
問題解決。じゃあ、心おきなく泊まろう。
あとは総武高校の奴らに、礼を言わなければいけない。
「八幡、はやくプリンを買いに行くわよ」
「はいはい」
そういや、絵里は一週間後にアメリカに行くんだっけ。全世界にライブを配信とか、東京ドームとか、俺には想像もつかない。
普段はポンコツな癖に、やっぱりすごい人だ。
そんな彼女の隣に、胸を張って立てる自分でいたいなんて、柄にもなく考えてしまった。
まあ、まずは束の間の休息を、より充実したものにしてやりたいと思いながら、絵里の手をそっと握った。
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