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それでは今回もよろしくお願いします。
卒業式当日。
総武高校も卒業式の為、学校全体が厳かな空気に包まれている。
しかし、俺はもう既に終わってからの事を考えていた。
終わったら、速攻で学校を飛び出し、何がなんでも絵里に会いに行く。電話が繋がらない以上、直接会うしかないのだから。
東條さんとも電話が繋がらなかったので、向こうの状況はわからなかったが、さすがに卒業式には出るだろう。
このまま離れたくないという気持ちが妙に心を揺さぶり、さっきからどうも落ち着かない。
たまに冷たい視線をもらうが、気にしてなどいられなかった。
「ヒッキー、どうかしたの?さっきから」
「……いや、何でもない」
「そっか、そんなに気になるなら行ってくれば?」
「いや、そりゃそれが一番だが……は?」
心の中を読んでいるかのような由比ヶ浜の一言に、思わず見返してしまう。由比ヶ浜は当たり前の事だと言わんばかりの表情と口調で伝えてきた。
「どーせ、絢瀬さんの事でしょ?」
「…………」
「何があったかは全然わからないんだけどね」
「……いや、今行くのは無理だろ。一応、生徒会だし」
「ほら、やっぱり何かあるんじゃん」
「ぐっ……」
な、何て事だ……。
由比ヶ浜の誘導尋問に引っかかるなんて……。
「ほら、後の事は私とゆきのんといろはちゃんで何とかするから!」
「今、さり気なく巻き込まれた気がするのだけど……」
「ですよね……まあ、別にいいですけど。頑張るのは雪ノ下先輩ですし」
「一色さん、今聞き捨てならない事を言わなかった?」
雪ノ下は俺の方をジロリと睨む。
「あなたは何故ぼーっとしているのかしら?自動販売機じゃないんだから、あなたが突っ立っていても、何の利益もないのだけれど」
正論すぎる。今の俺では弱音ぐらいしか吐き出せそうにない。
「あーっ!そういえば……」
いつの間にか傍にいた平塚先生が、わざとらしく大声を出す。
「忘れ物をしたから取りに帰らなければいけないな、うん。さあ、車を使ってひとっ走りしてくるか」
平塚先生は俺の腕を取り、有無を言わさず車へと連行していった。
……何だよ、こいつら。最高じゃねーか。
平塚先生に駅まで送ってもらい、そのまま電車に乗り、秋葉原まで向かう。
窓の外には、絵里との約一年の間に、すっかり見慣れた景色が流れていた。
それと同時に、色んな思い出が頭の中を巡った。
俺はただ、その二つの景色を眺め続けていた。
「エリチ、大丈夫?」
「ええ。……希、にこ……私、八幡には会わずに、ロシアに行くわ」
「え!?本当にええの!?」
「うん、やっぱり……甘えちゃうから……」
「……そっか」
「……ほら、もう式が始まるわよ」
「そうやね。ほら、エリチ……今は式に集中しよう?」
「……そうね」
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