感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!
それでは今回もよろしくお願いします。
「え?」
時間が止まったような感覚がする。
しかし、今はあの甘い香りはない。
背中に嫌な汗を感じる。
口の中は渇き、喉の奥はヒリヒリしていた。
今いる場所が現実なのかどうかも疑いたくなる。
そんな俺の視線の先にはスマートフォンの画面があり、そこにはある物が映っていた。
朝に届いたメール。
差出人は東條さん。
メッセージは添えられていない。
そこにはロシア行きのチケットと、ロシアの大学のパンフレットが映っているだけだ。
どういう……事だ?
μ'sがラブライブ全国大会で優勝し、電話越しに喜びを語り合った。
「おめでとうございます」
「うん、ありがとう!!」
祝いの言葉に、絵里は涙混じりの声で応えた。他には矢澤さんや高坂さんをはじめとしたメンバー全員の喜びの声が漏れ聞こえてくる。
不覚にも、こっちの涙腺まで緩んでしまった。
「本当に、おめでとう」
「あれ?八幡、泣いてる?」
「いえ、違いますよ。そういや、卒業式は明後日ですよね」
「ええ、それさえ済めば落ち着いて八幡の部屋に連泊できるわ」
「それは俺が落ち着かないのでちょっと……」
「観念するチカ。何なら春休み中、こっちに泊まるチカ」
「本当に、おめでとう」
「あ、数秒前に戻った!」
「…………」
絵里さんは電話に出ない。
おかしい。
昨日は普通に会話をして、春休みの予定を話していたのに……。
そういえば絵里さんはどこの大学に進学するか、明言しなかった。
『そ、その内、教えるわ!』
……ロシアに帰るつもりだったのか。
何で……。
超特急で準備して、俺は家を飛び出していた。
「誰もいない……か」
呼び鈴を何度か押したが、絵里さんも亜里沙も出てこない。
「待つか……」
その日、日が暮れるまで待ったが、誰も帰ってくる事はなく、誰とも電話が繋がる事はなかった。
「お姉ちゃん、本当に言わなくていいの?」
「ええ、まだ……」
「お姉ちゃんが言わなくたって……いずれはわかるんだよ」
「そうだけど!……やっぱり、辛いじゃない……」
「絵里。アンタとアイツの間の事に口出しする気はないわ。でも、親友としてアンタに言わせてもらう……後悔だけはしないで。ちゃんと……まずは自分自身と向き合って。辛いのはわかったけど……」
「にこ……」
「エリチ……ウチはエリチの決めた事を応援するから」
「希……」
「お姉ちゃん、私がついてるよ!」
「亜里沙……」
「あなた……やけに嬉しそうね」
「そりゃそうさ。どんな事情であれ、久々に可愛い娘達に会えるんだから」
読んでくれた方々、ありがとうございます!