スーパーメタルクウラ伝【本編完結】 作:走れ軟骨
父である孫悟空が、占いババの力で一日限定だが第25回天下一武道会の日に蘇る。
孫悟飯はその日を心待ちにしながら、母チチの許しも得て日々修行に勤しんでいた。
オレンジスターハイスクールの学友達とも上手くいっているし、
サタンの娘・ビーデルにはグレートサイヤマンの正体が自分だとバレてしまったものの、
何だかんだで上手くいっている。
父が、母と自分に残していってくれた思わぬ置き土産、
忘れ形見の孫悟天は少しノホホンとし過ぎているが可愛い弟だ。
クリリンは18号と結婚し子を授かって、
父のライバル・ベジータも心を持ち直して孫悟空との再会を楽しみに修行を再開。
恩師ピッコロは修行しつつも下界のこと、自分のことを見守ってくれている。
今、孫悟飯は順風満帆だった。
犯罪は相変わらずあるものの、地球全体としては平和そのもの。
修行に学業に精を出し、少し気になるビーデルとは
家族ぐるみで付き合いが始まりつつある程の仲になっていて、今は…
「神龍が見てみたい!」
と言い出して実弟の孫悟天、甥っ子のような存在のトランクスと共に
ドラゴンボール集めをしつつピクニックをしている頃だろう。
(まぁ、たまにはいいさ……修行の息抜きに丁度いい。 もう地球も平和だしね!)
悟飯は修行しながらもビーデル達のことを思っていたが、
(ん? ……………凄い気だ! しかも、一つじゃない!!
二つも……ま、まさか!!)
顔つきがサイヤ人らしい鋭いものとなって、全開の舞空術で空を駆け始めた。
▽
地球・寒冷地帯のナタデ村近郊は破壊の限りが尽くされていた。
強力なエネルギー弾によって幾つもの山や森が破壊され焼き尽くされている。
「カカロット………カカロットォ…………カカロットぉぉ!!」
怨嗟の呟きを繰り返す、見た目は20代にしか見えぬ男が膨大な気を撒き散らす。
ボロボロの悟天とトランクスを狙うトドメのエネルギー弾が、
淡い黄緑の尾を引いてまっすぐに彼らに吸い込まれていった。
朧気な瞳でそれを見ているしか出来ない悟天だったが、
彼の目の前で別の気弾が割り込んで
その破壊エネルギーを遥か彼方にふっ飛ばしてくれたのだった。
「ブロリー……! まさか生きていたのか!」
間一髪、孫悟飯は弟とトランクスの命を救えたことに安堵した。
ブロリーが作ったであろうクレーターに着陸すると、
弟達はガバリッ、と起き上がって悟飯目掛けて涙目で駆け寄っていく。
「おにいちゃーーん!!」
「ご、悟飯さぁーーん!!」
サイヤ人の血を引くとはいえまだ子供。
化け物染みた本物のサイヤ人の襲撃は恐怖そのものだったろう。
「ブロリー相手によく無事でいられたもんだ」
悟飯は弟を片手で抱きかかえ、
足元に駆け寄ってきたトランクスの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「ブロリー?」
「誰なの、ブロリーって」
「…7年前に父さんがやっつけた『伝説の超サイヤ人』だ」
自分達を襲っていた化け物の衝撃の正体を知ったトランクス。
大口を開けながら、
「うへぇ! どうりでオレや悟天や、ビーデルの姉ちゃんが勝てないわけだ!」
今度は悟飯にとっても衝撃の発言をするのだった。
「え、えええええ!? ビ、ビーデルさんもぉ~~!?」
(な、何してるんだあの人は! ブロリーと戦ったのか!? い、生きててくれよ!!)
ブロリーが空からコチラを鋭い目で睨んでいるというのに、
思わず悟飯はズッコケそうになる。
クリリンやヤムチャ達のように、
長年厳しい修行と激しい戦いを繰り返してきた地球人ならまだしも、
最近、舞空術をマスターしたばかりのビーデルとブロリーでは…
かつての大敵の言葉を借りるなら「蟻と恐竜」以上の差がある。
「う、うぅ……カカロット…………カカロットォォーーーーッッ!!!!」
突然、大人しく宙から悟飯らを見ていたブロリーが叫ぶ。
脈絡無く感情を高ぶらせ気を爆発させて悟飯目掛けて脇目も振らず突進する。
カカロット……父・孫悟空のサイヤ人として名を叫ぶブロリーを見て、
「そうか……お前は父さんを追って…! だが、父さんはもういない!
父さんに代わって……僕がお前を倒してやる!!」
ブロリーが何故地球にいるのか。
ブロリーが何故戦うのかを、薄っすらとだが悟る。
(だけど…ブロリーは一人なのか? 大きな気は二つあった!
もう一つは、もう一つはどこだ……!)
正気を失っている様に見えるブロリーだが、それでも攻撃の苛烈さは7年前と変わらない。
繰り出されるパンチの一つ一つが、恐ろしい破壊力を秘めているのが悟飯には分かる。
ブロリーの拳を捌いて隙をみては悟飯も仕掛けるが、
(相変わらず化け物だ……! 僕だってあの頃より相当パワーアップしてる筈なのに!)
7年前の少年時代に感じた力の差を今も尚感じる。
しかも悟飯は目の前の化け物に集中しきれていない。
ブロリーに勝るとも劣らないもう一つの馬鹿でかい気の正体が、
どうしようもなく不吉なものである気がしてならないのだ。
だが、
「ごっ!?」
集中力に欠いた状態で対処出来るほどブロリーは生易しい相手ではない。
超サイヤ人の豪腕が悟飯の腹に突き刺さり、
「ぐはっ!!」
風を切り音を置き去りにする速度の鋭い蹴撃で悟飯の顔面を蹴り抜く。
高速で大地を抉り滑っていき、
岩山の麓に突き刺さるようにして衝突しやっと止まることができた。
「………フフッ」
ブロリーが愉快そうにほくそ笑み、わざわざゆっくりと歩いて悟飯の元へ進みだした。
と、丁度その時、岩陰から飛び出す華奢な人影が一つ。
ビーデルであった。
ブロリーの顔に、彼女のなかなかの蹴りが突き刺さり、
ブロリーの皮膚がほんの僅かにへこんだ気がするが、気のせいかもしれない……
という程にノーダメージであった。
「悟飯くんに何するのよ!」
黒髪の少女の言葉を受けてもブロリーは少女に視線もよこさず、
ただ孫悟飯の元へ着実に歩みを進める。
「こ、この…! 聞きなさいよ! やぁ! はぁっ!!」
諦めずにサタンと悟飯直伝のパンチにキックのコンボを叩き込むが、
ギュピ、ギュピ、ギュピ、
というブロリーの足音は全く淀み無く悟飯目掛け進んでいく。
「ビ、ビーデルお姉ちゃん!! なにやってんだよ! 殺されちゃうよ!」
ビーデルの蛮勇にさすがの怖いもの知らずのお子様二人組も慌てて、
急いでビーデルの元に駆け寄ろうとした、その時であった。
「……強大な戦闘力………孫悟空が生き返ったのかと思い来てみれば…。
貴様のせいで予定が狂ったぞ。 何者だ。
その変身…………………孫悟空の超化とは少し異なるようだが…」
太陽を背に、遥か上空から彼らを見下しながら語りかける者。
その姿は、陽光によってただ黒い影にしか判別できない。
ギュピ、
ブロリーの足が初めて止まり、視線を太陽へと向けた。
(い、今の声……ま、まさか! 嘘、だ…! 奴は、父さんと、トランクスが……)
ヨロヨロと立ち上がり、瓦礫を乱雑に払い除けながら孫悟飯は恐怖した。
今では自分の方が強いはずだ。
しかし、幼少期に味わったあの宇宙人の怖さは、
戦闘力云々の問題ではなく悟飯の脳裏に強烈に焼き付いていた。
グレートサイヤマンのセンスはその時に出会ったギニュー特戦隊の影響……かもしれない。
影が、ゆっくりと地上に降下し、そしてそれに続いて4人の人影も何処からか現れ……
「なんだぁ? またバケモンみたいな奴が出てきたぞぉ?」
「うひゃー、白くて紫で尻尾だよトランクスくん! 宇宙人だ!」
「だ、誰なのアンタ達! 次から次へとなんなのよ!」
トランクス、悟天、ビーデルが各々の感想をぶちまける。
ブロリーは悟飯達を一先ず眼中から追いやり、今ではその宇宙人をジッと見つめていた。
「き、貴様は、フリーザ…なのか? 何故貴様まで生きている!」
「悟飯くん!」
気を漲らせ全力でビーデルらの元に戻った悟飯は、
彼女らを庇うように一歩迫り出して大声でフリーザの面影が見え隠れする異星人に対面した。
すると、フリーザらしき人物の前に…
「この御方はフリーザ様の御兄君、クウラ様だ!
フリーザ様を知っている黒髪男に黒髪女……ということは貴様らが超サイヤ人か。
フフフッ……5人まとめて葬ってくれる」
傍らに控えていた青肌の優男が一歩踏み出して、代わりにつらつらと喋りだすのであった。
「フ、フリーザの…兄!? どうりで凄い気だ……フリーザの何倍も強い!
ブロリーと同じくらいの、デカイ気だ!!」
ブロリーは、カカロットの面影を強く残す悟飯を倒したい。
クウラは、孫悟空の血を引くサイヤ人を始末したい。
だが両者は、己に近しいパワーを秘めた互いを無視できないし、
それにクウラの目的の一つにはサイヤ人の絶滅がある。
栄光の一族たる自分達を脅かす強戦士族の存在は許し難く、
クウラの眼によるアナライズは、
眼前の男が服の下に尻尾を隠し持っていることを看破している。
サイヤ人の生き残りであることは間違いあるまい。
二人の視線は交差し続け、やがてその眼にふつふつと殺気が宿り……
「クククククッ…サイヤの猿は皆殺しだ……機甲戦隊、雑魚どもは任せる!
俺の相手は…貴様だ、超サイヤ人ッ!!!」
気を爆発させたクウラがブロリー目掛け一気に地を滑り跳んだ。
「……!! 邪魔をするな……虫けらァ!!」
ブロリーが吠え、二人が繰り出した拳はほぼ同速で二人の眼前でぶつかり合い、
衝撃で空気が震え互いの気の余波が周囲の地形を破壊する。
「うわっ! くっ……悟天、トランクス、ビーデルさんを頼んだぞ!!
なるべく遠くに逃げ―――っ!?」
叫ぶ悟飯が咄嗟に避ける。
青く細い腕が悟飯の髪をかすめ、毛の数本が宙に舞った。
「どこ見てんだい? 戦いの最中に女に気を取られちゃダメだよ坊や」
腕の持ち主……不敵に笑うターコイズ色の肌の美女が、殺気を込めて悟飯を見ていた。
「悟飯くん! 私が逃げるわけないでしょ……ってちょっと、何するのよ!
離して、トランクスくん、悟天くん!!」
「ダメだって! あいつらのパンチ見たろ!? あいつら、本当の化け物だよ!!」
「はやくいこうトランクスくん! ここにいたら巻き込まれちゃうよ!!」
ビーデルの両腕を抱えて全力疾走で逃げようとした悪ガキ二人組だったが、
「おっと、何処へ行くんだ? 暇なら俺達が遊んでやるぜガキ共」
「あぁ…! は、速い!!」
一瞬で彼らの目の前に深緑の肌をした大男が回り込み、その進路を塞いでいた。
左右を見れば既に青肌の男とカエルのような宇宙人。
トランクスと悟天の顔色がみるみる悪くなり、
さすがの強気娘・ビーデルも今の状況に冷や汗が滲んでくる。
Pipipi……
かつて、悟飯がナメック星で嫌というほど…
そしてトランクスと悟天、ビーデルは初めて聞いた独特な電子音が響き、
「へっ、ゴハンとかいうサイヤ人は700億だからザンギャに譲ったが…。
ガキ共も戦闘力8億か。 たまげたなコリャ…さすがサイヤ人だぜ」
「おい、見ろよサウザー、ドーレ! 女は戦闘力たったの10だぜ!?
こいつサイヤ人じゃねぇ、地球人のゴミだ。 ウヒャヒャヒャヒャ」
ビッグゲテスターの技術を取り入れた特別仕様のスカウターは壊れること無く戦闘力を計測した。
ドーレがトランクスと悟天の戦闘力に驚嘆し、ネイズがビーデルを笑い者にする。
だがサウザーは、
「……ドーレ、ネイズ。
かつての俺達だったら、このガキ1人にも瞬殺されていたということを忘れるな。
それにサイヤ人と地球人は瞬間的に戦闘力が上昇するというクウラ様のお言葉を思い出せ。
全力で………殺すっ! 我ら、クウラ機甲戦隊!!!」
「「おおっ!!」」
バッ!ババッ!バッ!
三方に陣取っていてもお決まりのスペシャルファイティングポーズはやめない。
新入りのザンギャは生意気にも「絶対にやらない」等と言っているが、
いつか必ずやらせてやる…とサウザー達は密かに誓っているのだった。
今、悟飯達の激闘の幕が切って落とされた。