スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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S.H.Figuartsクウラ最終形態 発売決定記念投稿


クウラ’’ルート if章 金銀兄弟編
クウラと亀仙流の教え


「こんなバケモン連れてきてわしにどないせーちゅーんじゃ」

 

カメハウスにやってきた宇宙の帝王の兄を見て亀仙人は途方に暮れる。

連れてきた犯人、孫悟空は快活に笑って「またまたー」とか言っていた。

 

「そんなんじっちゃんに修行つけて貰いに来たに決まってるじゃねぇか」

 

「あほ。こんな奴に教えることなんてなんもないわい。

今更、牛乳配達や素手で畑耕すレベルじゃないだろうが」

 

亀仙人は遥か次元の違う高みに行ってしまった弟子を見て呆れ果てる。

だが、そんな今でもこうして師として頼ってくれることに対しては、一個の武人として純粋に嬉しいと武天老師は思うのだった。

 

「オラだって今更体作りとか教えてもらうつもりはねぇさ。

じっちゃんには、こいつと一緒にさー、昔のオラ達みてぇに一緒に暮らして貰いてぇんだ」

 

「なっ、なんじゃと!?」

 

亀仙人はサングラスがすっ飛ぶ勢いで驚く。

大人しく話を聞いていたクウラも「何を言い出すんだ」とばかりに目を見開いていた。

 

「そんなん嫌なんじゃけど。

こんなおっかない奴と一緒に暮らしたら安心してピチピチギャルのわんつー体操を見ることもできん。

わしゃーいやだもんねー。こいつだって嫌がっとるし」

 

じゃあね、とお手手をひらひらさせて亀仙人は踵を返す。

もうすぐ14:55。『ピチピチギャルのわんつー体操』の放映時刻が近いのだ。

愛弟子とはいえ荒唐無稽な青写真に何時までも付き合えない亀仙人であった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよじっちゃん!

頼むよ!ほんと、一緒に暮らすだけでいいんだ!

それがこいつには一番勉強になるとオラは思ってんだ!

こんなの頼めるのじっちゃんだけなんだよ!頼んます武天老師様!」

 

むむっ、と亀仙人が足を止めた。

 

「…本当に、こいつと組み手とかはしなくていいんじゃな?」

 

「うんうん!しねぇでいい!

よく動きよく学びよく遊びよく食べてよく休む…亀仙流の奥義を教えてやってくれよ!

クウラの体はもう充分鍛えられてっから後は武術に関する心構えだけなんだ」

 

亀仙人は長いひげをわざとらしく撫で回し、コミカルに大袈裟な仕草で考え込む…フリをする。

 

「…う~む。可愛い弟子からの頼みじゃしな。

じゃあピチピチギャルを連れてきてぱふぱふさせてくれたら家に置いてやってもええぞい」

 

「うひゃあ、またそれか。懐かしいなー」

 

悟空は感慨深いような、呆れるような嬉しそうな表情でサイヤ人特有の変わらぬくせっ毛をボリボリと掻いて困り顔。

無論、心底困っているわけではない。というように見えてその実、本当に困っているのかもしれない。

亀仙人と悟空の会話を聞いているうちにクウラは頭痛がしてくる思いだ。

既に帰りたくてたまらない。

 

(あまりに下らん…なんのつもりだ、孫悟空。俺への精神攻撃の一環か…?)

 

本当にこれが修行なのかとかなり強く疑っているクウラである。

 

「ちゅーわけでクウラ。おめぇんとこのザンギャ?っていったっけ?

あいつ、ちょっと連れてきてくんねぇかな」

 

「何故だ」

 

「あの子なら絶対じっちゃんも満足すると思うからさ」

 

「満足…?」

 

「うん。ザンギャにぱふぱふやってもらうんだ」

 

クウラの片目が怪訝そうに歪んだ。

 

「パフパフ…?」

 

「なんだおめぇ、ぱふぱふも知らねぇのか」

 

悟空とて幼少の頃はそういった知識が皆無で、ブルマにゴールデンボール(男のふかふか袋)がついていない事などに驚愕する純真無垢な少年だったものだが、月日が経つのは早いものである。

今では悟空はぱふぱふを教える側に成長していたのだ。

「ぱふぱふっちゅーのはな――」こんこんと動作付きで、クウラに説明してやる悟空という図は大変滑稽な光景だろう。

 

「な?分かったか?」

 

「…」

 

悟空がかんらかんらと朗らかに笑いつつクウラに確認をとれば、クウラは無言のまま薄く笑う。悟空とは逆に、その笑顔は酷薄だった。

その瞬間、カメハウス周辺の気温が10度近く下がった。

そう錯覚する寒気がクウラから発せられていた。

 

「あまり笑えん冗談だ、孫悟空」

 

「ちょ、ちょっと待てって。気を抑えろよ!」

 

苦笑いに変わった悟空が必死にクウラをなだめる。

クウラの顔は無表情だが、赤目の瞳孔は小さくなって三白眼で悟空を凝視していた。

鋭い目で睨まれるよりもある意味恐怖を感じる表情であり、悟空は必死に弁明を展開する。

 

「ちゃーんと理由があるんだって!

じっちゃんは若いギャルが好きなんだ!」

 

「…それで?」

 

「おめぇんとこのザンギャは、見た目は若くて可愛いだろ?じっちゃん好みのギャルだからよ!

だからあのザンギャって娘がじっちゃんにぱふぱふさせたりパンティーあげたりしたら、晴れておめぇはじっちゃんの弟子になれる!

オラが保証する!」

 

「………………………そうか」

 

「わ、わかってくれたか?そうすりゃおめぇは心が穏やかになって神の――」

 

ホッと悟空は安堵の息を吐いた。

が、次の瞬間には今までの和解ムードは何だったのか…

と言う程の苛烈な攻撃が開始されるとは流石の悟空にも予想できなかった。

 

「うおっ!!!?」

 

本能的かつ瞬間的に超サイヤ人ゴッドへと変身して亀仙人を小脇に抱えて身をかがめる悟空。

さっきまで悟空と亀仙人の上半身があった場所を

割と笑えない威力で繰り出されたクウラの回し蹴りが通過したのだった。

哀れ、カメハウスは屋根が切断され上半分がぶっ飛ぶ。

 

「ちょ、ちょっと待てよクウラ!?

変身しなきゃ避けられなかったし、当たったらオラやばかったぞ!?

じっちゃんまで危ねぇとこだったじゃねぇか!」

 

「一度死んだほうが良いと思ってな…貴様ら師弟は」

 

座った目で悟空と亀仙人、双方を見ているクウラは二撃目を繰り出すのが満々に見える。

 

「いや、オラ何度も死んでるし…じっちゃんもピッコロ大魔王の時に…――って、やべっ」

 

「おい悟空っ!?やっぱコイツまだ滅茶苦茶怖い奴じゃぞ!

う~む、こうなるとは思っとったがそれでもザンギャちゃんのぱんちーは拝みたい」

 

悟空は亀仙人を抱えたまま全力で空へ逃げた。

抱えられた亀仙人はずっとぶつくさ文句を言っている。

 

「うわっ!あっちゃっちゃっ!あぶねー!破壊光線連発しやがって!」

 

同速度で追いすがるクウラは瞳からレーザーを連射していて、その全てが悟空や亀仙人をギリギリ表面を薄っすらと焼いてくるものだから生火傷が次々に悟空の皮膚に刻まれた。

 

「あちゃちゃちゃ!おい悟空、わしにも当たっとる!」

 

「我慢してくれってじっちゃん!いやー参ったなぁ~!

クウラの奴あんな怒んなくてもいいのに!」

 

なんであんな怒るんだ、と悟空は本気でクウラの怒りの理由が分からない。

ザンギャはクウラの恋人や妻ではない。

それは当人達も認めていることだ。

だから(ただの部下のおっぱいやパンティーくらい別にいいじゃねぇか)と悟空は思ってしまったのだ。

だが、言い出した張本人とはいえ、その点はさすが亀仙人は年の功。

理解していた。

しかし理解はしていても男の浪漫(ぱふぱふ)を止められるかどうかはまた別問題なのである。

己は理解しつつもロマンの為に今現在こうした状況になっているが、理解出来ていなさそうな弟子を見て亀仙人は渋い表情となっていた。

 

「…やっぱお前の常識はもっと徹底的に教育しとくんじゃったかな?」

 

「じっちゃんは分かるんか?クウラが何で怒ってんのか」

 

「当たり前じゃ。伊達に長生きしとらんわい。

あれはな、つまりクウラはザンギャちゃんのぱいぱいを独り占めしたいんじゃ」

 

「そうか!!クウラのやつ結構あの娘のこと好きだっ―――」

 

腰にしがみつく亀仙人の顔を見ながら、悟空が両手をポンッと打ったその瞬間…。

 

「「うぎゃああああっ!!!?」」

 

クウラのエネルギー弾が二人に直撃して

二人は火だるま状態ながらどこかコミカルに眼下の海に落下していった。

直ぐに海上に顔を出した二人は不思議と大怪我はしておらず、たらふく飲んでしまった海水を噴水のようにピューっと吹き出した。

襲ってきた宇宙の帝王一族の長兄は変身もしなかったし、クウラからしてみれば一般人と大差ない程に戦闘力で遥か下を行く亀仙人が、結局軽傷程度で無事だったのを見てもクウラがきちんと手加減を心掛けていたのは間違いない。

だが、それでもその日…悟空と亀仙人はぼろぼろになるまでクウラに追い回されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クウラが悟空にそんな修行に半ば無理矢理突き合わされていた頃…、第7宇宙のとある惑星で秘密の計画を推し進める者達がいた。

 

「我々が生き返った理由は分からんが、折角生き返ったのだからやらねばならんことがある」

 

コアラのような鼻を持つ小柄な宇宙人。

彼の格好はとある組織でユニフォーム代わりに使用されているものだ。

言うまでもなくフリーザ軍の戦闘服で、それの旧式の物を彼は着用していた。

その者の名はソルベ。

フリーザ存命の頃、第7宇宙の第3星域の統治を任されていた頭脳型の内政官だった。

彼を守るように左右に控えているのはタゴマとシサミ。

タゴマはひょろ長い長身痩躯の禿頭…ゴーグル型のスカウターを装備している男であり、そしてシサミはがたいの良い筋肉質の男で、牛のような2本の角と赤い肌が特徴的な戦士である。

彼らは共に思いつめた鋭い目でソルベの言うことに頷き、

 

「フリーザ様を蘇らせ、そしてフリーザ軍のかつての栄光を再びこの手に…」

 

「…そして、臣従を申し出た俺達を突然襲い…殺戮の限りを尽くしたクウラ様に……いや、クウラに復讐をするのだ!」

 

そして憎悪に燃える瞳と口調で恨み節を各々が吐き出した。

ソルベもタゴマもシサミも、あの時の事を思い出すと心がどうにかなる程の恐怖が甦って震えが止まらない。

銀色のクウラ…メタルクウラを最初見た時はソルベ達は歓喜した。

宇宙の帝王フリーザは武運拙く死亡したが、その実兄でありフリーザ以上の実力者クウラが彼らの前に現れた。

残党はクウラ軍として吸収・再編されて新たな旗頭に導かれ、また宇宙に覇を唱えられる。

そう思ったのだ。

だが実態は真逆。

最悪の地獄が彼らを待っていた。

銀色のクウラそのものに思えるヒューマノイドマシーンが何体も現れ、フリーザ軍残党の同志らを生きたまま()()するという惨劇。

ソルベを含む残党は、混乱と困惑、怒りと絶望、そして圧倒的な恐怖の中で死んでいった。

尊敬と崇拝は逆転し、憎悪と怒りに変じてしまったのも当然と言える。

 

「ドラゴンボールが確実に存在する惑星に、早急に赴くぞ…!目指すは…地球だっ!!」

 

超ドラゴンボールによってクウラに破壊された者全てを蘇らせた結果…彼らもまたクウラに滅ぼされた事から復活したが、当時の惨状もそのままに復活したから現状は窮しているのだ。

復活した所で崩壊寸前の彼らが必要とするモノが地球にはある。

クウラへの復讐と、そして組織の維持と再拡張の為にも欠かせぬものだ。

地球に、またも不穏な影が近づいていたのだった。

 

 

 

 

――

 

 

 

とはいえ、フリーザもギニュー特戦隊もサイヤ人部隊もいないフリーザ軍など、チャーシューも麺も入っていないラーメンのようなもの。

あれだけ外連味たっぷりに復讐の狼煙をあげたものの、ソルベとタゴマの二人は極めてこっそりと、そしてビクビクと地球にやってきていた。

 

「なんか、我々…本当に情けないですね…」

 

タゴマが自虐的な表情をたっぷり浮かべて言えば、ソルベは逆ギレ気味に反論する。無論小声でだ。

ここで多少大きな声を出しても、かつてフリーザを倒したサイヤ人もこの付近にはいないし大丈夫なのだが、彼らの根っこの小心さが小声を出させているのだった。

 

「当たり前だ!我々なんぞが勝てるわけない相手がここにはわんさといるんだ…正直、地球だけは来たくなかった…!

ここはフリーザ様を倒したサイヤ人共が根城にしていて、しかも何故か…心底誤報であって欲しいが、クウラ様…いや、憎きクウラの姿まで観測されている始末。

なんなのだコレは…イジメか!?

ナメック星人は見つからず、こんな惑星にしか使えそうなドラゴンボールがないだなんて…我々は運命にイジメられているっ!」

 

コアラのような小男は、小声ながらも拳を振り上げて力説している。

なんとも情けない残党組だが、しかし目的はしっかりと果たしていた。

もはや残党軍の維持も難しい程に限界ギリギリのガタガタであったが、実に都合の良いことにドラゴンボールを集めている者達がいたのはスパイ衛星から既に分かっていた事。

その者達(ピラフ一党)から6つのドラゴンボールを奪い取ると、ソルベ達は落ちぶれたとはいえ圧倒的な武力的示威行為でピラフ一味を走狗として7つ目のドラゴンボールを取得。

そしてとうとうフリーザの復活に成功したのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ソルベとタゴマが小型宇宙艇で地球に来る少し前、地球――

 

 

『クウラ様』

 

クウラの脳内にテレキネシスの一種である超空間通信が響いた。

声の主はサウザーだ。

呼ばれたクウラはというと、なんとおとなしくカメハウスにて亀仙人と悟空と暮らしている真っ最中である。

それが修行であると、己に勝利した悟空が言うので仕方なく…であるが、それでもあのクウラが地球人とサイヤ人と共同生活をしているのはある種異様な光景だ。

クウラは、最初は独り屋外に立ち尽くして腕を組み、瞑想しているかのように長い時間そうしていたが、やがて悟空に「じっちゃんとオラと一緒にいるのが修行なんだぜクウラ。いいからこっち来いよ」と言われてしまってかなり渋い顔で従う。

結果…今、クウラ赤いソファーを独り占めして不機嫌そうに踏ん反り返り、亀仙人がテレビを見ている様を眺めている。

クウラ自身、「いったい俺は何をしているのだ」という思いが度々湧き上がってくるが、その度に(これも…精神修行と思えば…成程、この過度のストレスは中々だ)と己に言い聞かせた。

しかし、思ったよりも役立ちそうな技術に繋がるモノが学習出来ているのも確かだった。

 

例えば、暮らすだけでも精神の平静を保つ努力が必要な今の日々は、いかなる状況でも冷静さを失わない訓練になるし、また、全てのものが壊れやすく脆い地球人の道具を使った生活は、パワーの繊細なコントロールに繋がる。

クウラの種族…コルド一族は、あまりにも生命として強すぎる故に、パワーの細やかな調整を苦手とする種族的特性があった。

だからこそ、彼らの種は力を抑える省エネ形態を使用する。

個体差はあれど、第一から第三程度に分類し、エネルギーを抑制し…必要に応じて順次開放するのだ。

クウラは、そんな自種族の〝弱腰対応〟が好きではない。

 

「自分を強化する為の変身というならまだしも…パワーを制御出来ぬからと、わざわざ弱体化する変身に頼るとはな。惰弱に過ぎる…!己の不甲斐なさに腹が立たぬのか!何故克服しようとせぬのだ!」

 

そのように憤慨し、栄光ある種族である自分達にはあまりにも相応しく無い後ろ向きの変身だと思う。

だからこそクウラは真の形態(トゥルーフォーム)でもパワーコントロールが出来るようになるため常にその姿でいたわけだが、その結果、クウラは真形態でのパワー制御に成功。

それだけに留まらず、一族で初めて〝強化する為の進化的変身〟に辿り着いたのだ。

紛れもなく()()であったフリーザも辿り着けなかった〝もう一段階の変身〟。

クウラは自分を(才能では弟に劣る)と自己評価していたし、また父コルドも似た評価をクウラに下していたが…不断の努力が才能を凌いだ決定的瞬間であった。

そういう意味で、クウラと悟空は似た気質があると言える。

武の頂きへと至る為ならば、クウラも悟空も理不尽に思える理解し難い修行に望む。

そういう二人だった。

 

それはそれとして、今はサウザーだ。

従順一途な忠臣が修行に割って入る程の連絡だ。重要な事柄に違いない。

クウラは良く聞き知った部下の声に耳を傾けた。

 

『サウザーか。なんだ』

 

『修行の邪魔をしてしまい申し訳ありません』

 

『構わん。さっさと言え』

 

『ハッ。実は、ビッグゲテスターのレーダーに引っ掛かった宇宙船が一隻…地球に向かっております』

 

クウラは些かも動じずに、さも当然であろうという風に静かに返す。

 

『ふん…フリーザの部下共の事か』

 

『既にご存知でしたか!さすがはクウラ様!』

 

基本的にビッグゲテスターの捉える情報の全てはクウラが知る所だ。

なにせ機械惑星ビッグゲテスターのコアユニットはクウラその人であるのだから。

悟空への敗北を認めた際に、クウラは悟空の要請に従って量産型メタルクウラと量産型ビッグゲテスターを破棄している。

だが、実を言えば宇宙中に侵略と捕食用の…謂わば攻撃的(アタック)量産型ビッグゲテスターをバラ撒く事こそ止めたクウラだが、それらを改修して防衛と情報収集の為の防御的(ガード)量産型ビッグゲテスターとし、今も様々な宇宙の異次元に潜ませていた。

神々に見えぬよう、それ専用のジャミングまでして機密漏洩対策万全なのは勿論だ。

それは、クウラが悟空との約束を反故したわけではなく、万が一の為のバックアップとデータ収集の為のビッグゲテスターならば違反にはならないという判断の為だ。

勿論、悟空に報告も相談も無いのは、丸くなりつつあるとはいえ唯我独尊傾向の強いクウラならではである。

 

サボリ気味の一部の破壊神や、あまり下界に関心を持たない天使、大神官、全王よりも、ひょっとしたら宇宙の事に詳しいクウラ。

そんな主に相変わらずの敬愛の念を抱きつつサウザーは言う。

 

『我らの傘下にはないとは言え、今は亡き弟君フリーザ様の遺した軍。対応はいかが致しますか』

 

サウザーとしては、クウラがフリーザ軍残党を襲撃、吸収したのを知っている為に撃ち落としておきたいのが本音だ。

しかしクウラは、

 

『放っておけ』

 

素っ気無い態度で放置を宣言した。

主のその言葉にサウザーはほんの少しの杞憂を示す。

かつて、その一言が原因で(クウラ)は孫悟空に敗れさったからだ。

 

『…よろしいのですか?恐らく残党軍の狙いは…――』

 

『分かっている。その上で俺が言うのだ…放っておけとな』

 

重ねて言われればサウザーに否は無い。

 

『ハッ。かしこまりました。奴らの行動は黙認します』

 

主の言葉を直ちに飲み込んで、最後に「失礼します」と締めくくりそれきりサウザーの声が脳内から遠ざかり消えた。

 

「フッ…」

 

自然とクウラの口角が薄く上がったのは、クウラ自身、発した言葉に思うものがあったからだろうか。

それに気付いた悟空がテレビから目を離し振り返る。

 

「なんだぁ?クウラ、おめぇも今の面白かったんか?」

 

「さぁな」

 

素っ気無く、興味はさらさらないとでも言いたげにクウラは冷たく返した。

悟空の指摘は全くの的外れで勘違いであるが、だが彼が投げ掛けてきた言葉はある意味で当たっているだろう。

クウラは少々自虐的に(そうだ…、面白い。確かに、面白いのだ…俺はそう感じたらしい)と、そう心の中で独白する。

弟が蘇るかもしれない。

そして自分に挑みかかってくるかもしれない。

そう思うと、クウラは確かに面白いという感情がふつふつと湧き上がってくるのを実感できた。

悟空から見ても、クウラが徐々に変化してきているのが分かるらしく、

 

「へへへ…こういうのを見て笑えるようになってきたら、心にも余裕が出てきたってことだ。

ウイスさんも言ってたけどよ、いつも張り詰めてちゃいざって時に発揮する力の質が下がる。

でもウイスさんが言ってた事ってよぉ、オラはじっちゃんが言ってた〝武道を学ぶことで心身ともに健康になり、手に入れた余裕で人生を楽しむ〟っちゅーのと同じだって思うんだ」

 

彼は嬉しそうな顔で朗らかに笑いながらそう言った。

悟空は気さくに言葉を紡ぐ。

 

「ずいぶん前の事だから忘れてたけど…思い出せたんはおめぇのお陰だな、クウラ。

昔のベジータみてぇにいっつもピリピリしてるおめぇを見て、それじゃダメだって思ったから思い出せたんだ。

だからおめぇももっと余裕を持って無駄を楽しめよクウラ。

その方がいざって時に力が爆発するぜ」

 

 

クウラの無表情の中に、ほんの少しの〝楽しそう〟だとか〝嬉しそう〟だとかの感情があるのを見抜いた悟空は、彼がそういう感情を見せたきっかけを勘違いしたままとはいえ流石の慧眼だった。

クウラの心に()()()()()の片鱗が見え隠れし始めたのは、恐らく正解だ。

(…フリーザが蘇り、俺に立ち向かってくるのを待ちわびる。……俺にこんな感情がまだあったとは。俺も…まだまだ甘いということか)

唾棄すべき愚かな感情と断じていた〝甘さ〟。

今もクウラはそう思っている。甘さは捨てるべきだ。

だが、戦闘力で下回りながらも幾度も己に勝ってくる(悟空)が、〝その甘さを許容せよ〟と言うならば、再びこの感情に向き合う事に挑戦してもいい。

そういう思想に、クウラは傾きつつあった。

 

「…おっ、もうこんな時間か。そろそろ休憩時間終わりにして、オラと組み手しようぜ」

 

「ふん…くだらん時間もようやく終わりか。表へ出ろ、孫悟空…相手をしてやる」

 

立ち上がる二人。

亀仙人はそんな二人を見ることもせず、テレビ画面に釘付けになりながら両者へエールを送った。

 

「それが終わったら二人で晩飯も頼むぞい。今日はカレーがええなぁ~。

組み手はほどほどにするんじゃぞ~衝撃波で家壊すなよ~」

 

枯れ葉のような老いた手がひらひらと振られ、いってらしゃいと見送られる。

それをクウラはしかめっ面で見るのみだ。

 

「あんなジジイが孫悟空の師匠とはな……ふざけた野郎だぜ…」

 

呟くクウラが、この後の組み手を盛大に衝撃波を巻き起こす過剰なものにしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、夕飯のカレーはサウザーが作ったものをビッグゲテスターから転送(デリバリー)させた。

悟空ですらヒーヒー言うほどの激辛カレーだったが絶品だったという。

 


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