スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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トレーニング

まずクウラは最も手軽な所から手を付けた。 最終形態への慣熟である。

もともと彼の最終形態は完成度が非常に高い。

弟のフリーザにあったパワーダウンなどは見られず、安定してフルパワーを発揮できる。

だが、変身型種族である彼の一族であるならば、

かつて自分が第4形態(彼ら種族の真の姿)へ慣れたことで

次の形態(現在の最終形態)を手に入れたように、

 

(最終形態に慣れれば更なる変身を手に入れられるかもしれん…)

 

という発想になるのは当然だった。

マスク型の外殻まで装着し、ガタイも一回り以上大きくなって母船を彷徨いているクウラを見て、

 

「ク、クウラ様…なのですか!? そのお姿は、い、いったい!!(か、かっこいい!)」

 

と、機甲戦隊隊長のサウザーが

 

「な、なななんて戦闘力だ…! これがクウラ様の力……す、すげぇ、すげぇぜ!」

 

新緑の肌に優れた体躯のドーレが

 

「クウラ様……な、なにをそんなに怒っておいでなのですか!」

 

ひょろ長いカエル風宇宙人のネイズが、

三者三様に敬服したり驚いたり顔面蒼白だったりで体を震わせていた。

そんな三人を気にも留めずクウラは、

 

「…………この姿を維持して1ヶ月………そろそろ良かろう。 機甲戦隊!」

 

「「「はッ!!」」」

 

赤い目をマスクの下からギロリと覗かせて三人を跪かせる。

 

「トレーニングルームへ向かえ………この俺が直々に相手をしてやる」

 

「なっ、なんたる光栄!!」

 

「う、あ、ああ…お、終わった……かあちゃぁん……俺、もう駄目みたいだ……」

 

「お、落ち着けよネイズ! まだ俺達が処刑されるって決まったわけじゃねェ!」

 

宇宙最強一族である主人からの衝撃発言に、これまた三者三様の反応であった。

 

「…………心配するな。

 この形態に体が馴染んだかどうかの確認だ」

 

心配するな、と言うが

今のクウラはがっしり体型のドーレ以上のガタイ+背丈のあるネイズ以上の身長で、

瞳も血のように真紅に染まっておりマスクに口元は覆われ声もややエコーが掛かっている。

威圧感が凄まじい。

しかも、この滲み出る戦闘力。

クウラは戦闘力を押さえているつもりのようだし、

彼の目標は遥か遠いのだから自分自身、今は弱いと思っているのだろう。

だが、今の時代、戦闘力が数万もあれば宇宙でも強豪なのだ。

孫悟空が本格的に活動をはじめて以降の時代がハッキリ言って異常なのである。

 

そしてトレーニングルームへと連行された精鋭の部下三名。

 

「遠慮はいらん……殺す気で来い……でなければ、俺が貴様らを殺す」

 

「は、ハハッ! かしこまりました!」

 

もうどうにでもなれ。

そんな意気込みで破れかぶれに主へと突っ込んだ三人であった。

結果は…………。

 

 

 

2秒後。

 

 

 

「…………ガクッ」

 

「ぐふ…………」

 

「あ、あぁ……かあちゃぁん……」

 

各員、16万を超える戦闘力を誇る精鋭部隊は敢え無く撃沈した。

倒れた彼らを見るクウラの赤い瞳は無感情である。

 

「ふむ……この姿にも慣れ、気の操作も出来てきたが………、

 俺がこの形態にたどり着いた時のような感覚が無い……欠片も無い。

 まぁいい………新たな変身が出来ぬのならば、このまま強くなればいいだけだ……」

 

母船の窓から遥か遠くに輝く恒星を見つめる。

クウラの紅い眼はただまっすぐにその光を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ、クウラが占領した惑星……また駄目だよ」

 

「……またか。クウラめ……一体何を考えている」

 

惑星フリーザNo79・衛星軌道上………

そこに停泊している大型宇宙船内で頭を悩ませる者がいる。

息子の領地視察に来たコルド大王はフリーザからの通信に思わず眉間を押さえてしまう。

 

コルド一族は惑星を武力で略取し支配し、宇宙に広大な領地を築いていた。

そして領地内から軍に不要な惑星をリストアップし、

それらを金持ち宇宙人等に売りつける等で更なる利潤を得ている。

コルド一族と言っても、彼らの種族は温厚で戦闘タイプは実は希少で、

強大かつ冷酷非情なのはコルドを筆頭に息子のクウラ、フリーザの三名だけだ。

コルドの二人の息子はそれぞれに独自の私設軍隊を持ち、

一族の更なる繁栄のため惑星を次から次へと攻撃しているわけであるが……

ある時を境にしてクウラから上納される惑星の質が一変した。

星という星…尽く砂漠と荒野だらけの

命の一つも生きて行けぬ荒廃した惑星だらけになったのだ。

事前調査で潤沢な生命が息づく豊かな星であっても、

クウラが侵攻した後は例外なく”その有様”であった。

まるで搾りカスだ。

そんな惑星、勿論誰にも売れぬし

軍の拠点として使うにしても施設を築くにも多大な労力を要する砂だらけの地面。

草木一本なく水の一滴もなく悪化しまくった環境で空は常に曇天で暴風と雷が吹き荒れ…

しかも惑星のコアも熱を完全に失っていて星の寿命は尽きる寸前。

いつ崩壊し爆発するか分からない死の星なぞ軍の拠点には使えなかった。

 

クウラから納められる惑星は全てこんな様子だった。

コルドの頭痛は悪化する一方だ。

救いはフリーザの領地経営の巧みさと惑星略取の手際の良さ。

 

(…やはり儂の後継者はフリーザの方が相応しいようだな。

 クウラは強く、他者を惹き付ける力が有りながら寧ろ他者を拒む性質(たち)がある。

 孤独な覇王が関の山……帝王としての素質はフリーザの足元にも及ばん)

 

何が切っ掛けでこうなったのか。

遅く来た反抗期か。 

そんな埒もない事を考えながら、コルドは今日も頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当のクウラはというと。

 

「ク、クウラ様……宜しいのですか?」

 

「構わん」

 

「しかし………その、私が多少のコネから得た情報によりますと、

 最近、コルド様とフリーザ様はご立腹だとか」

 

おっかなびっくりとではあるが、忠臣であるサウザーは敢えて進言する。

最強の一族である主の父と弟は、やはり主同様に強い。

 

(万が一クウラ様と父君、弟君が仲違いすれば…クウラ様とて無事では済まない。

 出来れば家族仲良くして頂きたいものだが…)

 

との思いからであった。

サウザーの忠誠心に嘘偽りはない。

しかしクウラはコルドらの話題など欠片も相手をする気がないようで、

 

「機甲戦隊、留守を任せる」

 

「「「ハッ」」」

 

上部ハッチからクウラは単身、宇宙空間へ飛び立つのだった。

クウラはそのまま惑星へと降り立つと、騒ぐ原住民を尻目に

 

「さぁ、マシーン共よ。 存分にエネルギーを喰らうがいい!」

 

叫ぶと同時に右手を強く握りしめる。

自らの爪で掌の皮を裂き、流れ出た血を大地へ振り撒くと、

 

ズズズ、

 

と濃い紫の血が変色しながら、まるで生きたスライムのように迫り上がり、

やがて血は完全な白銀へと変貌し、尚もウネウネと形状を変える。

血中のナノマシンが自己複製を猛烈な勢いで繰り返し、流体金属へと変貌したのだ。

流体金属から無数の超小型ロボットが飛び出し、

 

「ハイッ、静かに静かに! これからアナタ方を磨り潰シマスゥ。

 出てきた生命エネルギーは全てクウラ様のエネルギーとサセテ頂キマス。

 感謝するヨウニ」

 

個々のメカがそれぞれにそのようなアナウンスを繰り返しながら

雲霞のように惑星中へと散っていくと原住生物らを次々と()()()()()()()()()()

不要な肉体を破壊し生命エネルギーだけを抽出、回収。

あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した惑星に、クウラは更なる追撃をする。

眼下の大地へ向けて右手を突き出すと、

先程の傷口から血液が変化した無数の細い糸のような物が這いずり出て、

クウラはそれを超高速で射出し、星の核…コアに突き刺す。

それはかつて超サイヤ人からエネルギーを吸い取る為に使用された

白銀のケーブルと同じ性質のもので、つまり惑星のエネルギーをも喰うつもりであった。

 

「くくくくく……いいぞ、中々のエネルギーだ。

 これならば戦闘力は数十万は伸びる……!」

 

ドクリ、ドクリ、と星の命がクウラに吸われていく。

 

クウラに滅ぼされた星々が枯渇している理由はコレであった。

機械惑星であった時代の経験が存分に活きたようで、

新ナメック星で行おうとした行為の焼き直しである。

聞こえてくる原住民達の悲鳴も命乞いもクウラの耳には入らない。

みるみるうちに枯れていく草木。

失われていく生命。

潤いある大地が乾き、ひび割れて崩れる。

 

「さぁ、もっとだ! もっと俺にパワーをよこせ!

 この俺が宇宙最強となるための礎となれ! ハハハハハッッ!!」

 

星を包み込む怨嗟の声を引き裂くように、

クウラの冷酷な笑い声だけが聞こえてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビッグゲテスターに改造させた自らの母船。

その中でも特に肝煎りで改修させたのがトレーニングルームであった。

星々を襲撃し喰らう時以外は、ほぼずっとトレーニングルームに籠もりきりのクウラ。

煩わしい雑務やコルドへの報告などは全てサウザーを全権代理として行わせていた。

 

重力は凡そ惑星ベジータの10倍。(地球の100倍)

その他の設定は『精神と時の部屋』に酷似していて、

これは時空規模で情報収集を行ったビッグゲテスターがそれを参考にしたと思われる。

過去に跳躍したことから時間操作もある程度は行えるようになったビッグゲテスターは、

オリジナルの精神と時の部屋を見習って時の流れも遅くする空間バリアを張った。

だが、流石に1年=1日というわけにはいかなかったようで、

ビッグゲテスターが実現出来たのは10日=1日相当の時間減速。

しかしそれでも充分に脅威の超テクノロジーと言える。

 

だが、

 

「ビッグゲテスター………温度差が温すぎる。

 真空でも生きていける我が一族には50℃からマイナス40℃如き訓練にならん。

 上限は350℃、下限はマイナス270℃に再設定。 重力も30倍に引き上げろ」

 

クウラは満足していない。

それどころか彼の心には常に焦りが僅かに見える。

1日20というハイペースで星々を喰らい、原住生物のエネルギーも残さず食す。

健康な食事と適度な運動を繰り返しはや5年。

クウラが上昇させた戦闘力は182億5000万。

現在の戦闘力はそこに元の数値15億を足した197億5000万。

最終形態でのMAXパワーを考慮しても約600億である。

 

(……話にならん!)

 

クウラの眉根が歪み凶相の度合いを強める。

5年を掛けて到達した戦闘力が1000億に満たないでは、破壊神に手が届くのはいつの日だ。

天才であった弟は訓練もなしに1億を超える戦闘力を誇っていた。

もしフリーザが本気で訓練に励めば、1年とかからずに1京という神の領域に手が届くだろう。

クウラは苦々しげにそう確信していた。

しかも、このまま星を食い荒らしていけば、

そう遠くない内に何らかの神々に目をつけられるのは明白。

界王や界王神が動き出せば、自然と破壊神をも誘うことになってしまう。

いずれはこちらから乗り込んでやろうという心算だが、

今の自分のレベルで破壊神と遭遇しては鎧袖一触。話にならない。

界王神達を皆殺しにすれば……つまり500万年前に魔人ブウに殺された界王神の生き残り、

東の界王神を殺せば破壊神を殺すことが出来ると、クウラは既に知っている。

だがそれをするのは十分な実力をつけ破壊神に挑み、

それでも勝てなかった時の最終手段であると決めていた。

 

「………孫悟空が超サイヤ人になるまで、後何年だ」

 

苛立つ心を抑えて、惑星ベジータの30倍相当となったトレーニングルームの中、

平然と立ちながらビッグゲテスターへと尋ねる。

 

「この世界が以前の世界通りになるかは保証デキマセンガ……

 最新の時空観測を元に計算しますと5年後にカカロットとして生まれ、

 エイジ762年・25歳にて超サイヤ人に覚醒すると思ワレマス。

 今ノウチニ惑星ベジータを襲いサイヤ人を根絶ヤシニスレバ 貴方の勝利は確実デスガ」

 

ビッグゲテスターの言外に、どうせ殺さぬのでしょう?という意志がありありと見える。

 

「ガキの時分の孫悟空を見逃し、その甘さ故に俺は一度奴に負けた。

 甘さを捨て、今のうちに始末するのがベストだろう。

 それは確かだ…………だがッ!!」

 

クウラの拳が忌々しげに握りしめられ、屈辱を思い返したのかワナワナと僅かに震えている。

 

「俺はサイヤ人共の全力を打ちのめさなくてはならんのだ!

 孫悟空とベジータ………

 この二人を真正面から打ち破った時、俺は初めてプライドを取り戻せる!」

 

それまでは精々生かしておいてやる。

クウラはそう言うと、それきりただ黙々と過酷な訓練に没頭する。

到着地点は破壊神抹殺であるが、

そこまでの道のりは平坦ではないことをクウラは覚悟していた。

 

「もっと……良い餌を喰う必要がある……」

 

聞く者の心胆を寒からしめる、恐ろしく冷厳なクウラの呟きであった。

 


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