スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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クウラの戦い方は映画でのジャネンバを意識してもらえるとイメージし易いかもしれません


クウラとビルス とびっきりの最強対最強

宇宙が2人の気のぶつかり合いで揺れる。

先のビルスと悟空の戦いに似た激しい衝撃が宇宙中に木霊しだす。

それを見てウイスが、

 

「うーん、悟空さん。 私達はもうちょっと離れたほうが良さそうですね。

 あと…ご家族や友人が大切なら地球を背にして守ってあげたほうがいいですよ?

 クウラは貴方ほどじゃないにしても神の領域の強さを持っていますから、

 戦闘の余波で地球が壊れるかもしれません」

 

「へっ? あ、ああ…わかった」

 

そう言うと、ウイスの言に従って、

ビルス、クウラの2人と地球を遮る壁のように悟空が位置取った。 その時。

 

ゴウッ、

 

と宇宙の真空に気の突風を巻き起こしたビルスの拳がクウラの頬に突き刺さる。

動かぬビルスの真横に超高速で回り込んだクウラを、

ビルスは微動だにせずに捉え、迎撃したのだった。

 

「……舐めてるのかい?」

 

視線だけをクウラに向け抑揚のない声でクウラへ言うと、

 

「キェェァアアッ!!」

 

クウラは頬に受けたビルスの拳を掴むと、破壊神を逃すまいと固定。

石火の蹴りを後頭部目掛け放つ。

だがそれも当然のようにあっさりと空を切り、

 

「さっきから何のつもりだ」

 

うっすら額に青筋を浮かべたビルスが、

怒りも顕に蹴りの返礼をクウラの土手っ腹に見舞うと、

光を超えた速さで遥か後方にぶっ飛ばされたクウラは、

3つ程惑星を砕いた所でようやくスピードが衰えて止まるのだった。

 

「く…!」

 

僅かに呻きながらクウラは即座に体勢を立て直し、

飛ばされた方向……ビルスがいるであろう場へ視線と右腕を向け、

 

「ハァァァ!!」

 

エネルギー波を放つ。

しかし、

 

「こっちだけど」

 

クウラの真後ろから破壊神の声が聞こえるのであった。

が、クウラは微塵も狼狽えずに、

 

「…知っているさ」

 

そう言うと自身が放ったエネルギー波の僅か先に次元ホールを展開。

エネルギー波が渦巻く空間に吸い込まれそのまま、

 

「っ!? おお?」

 

ビルスの真横からクウラのエネルギー波が襲いかかり大爆発する。

クウラは、巻き起こった爆炎に自ら突撃し炎を切り裂き、

顕になったビルスの脇腹へ渾身のボディブローを叩き込んだのだった。

破壊神の眉間に浅い皺が刻まれて、

 

(気功波を瞬間移動させたのか! 器用な真似するね全く!)

 

「…っ! やるじゃないか……本気出してない君に一撃貰うとは、ねっ!!」

 

言い終わるや否や自分がくらった場所と全く同じ部位にボディブローを仕返す。

 

「………っ!!」

 

光速を凌駕する速度でまたも殴り飛ばされたクウラが、

苦悶の声を置き去りにして惑星の数個に激突し弾き飛ばされると、

ぶっ飛ぶクウラの軌道上に無言のまま待ち受けるビルスの姿。

そして、ドンピシャのタイミングでダブルスレッジハンマー。

星喰をどこぞの惑星に叩き落とすのだった。

 

クウラが吸い込まれていった惑星がヒビ割れ、

赤いマグマが星全体に縦横に浮かび上がり血のように滲むと、

やがてけたたましい音を立てて星はゆっくりと崩壊し強制的に超新星爆発へと誘われる。

 

それを遠目に見ながらビルスは、

 

「お~~~い、聞こえてるかァ~?

 その姿でボクに一発いれたんだ。 満足だろー!

 準備運動はお互いコレぐらいにして、お前はさっさと変身するんだ。

 実力も出さないまま破壊されたくないだろーー?」

 

光の渦の只中に向かって大声で叫ぶのだった。

声に気を乗せているせいか、宇宙の真空に破壊神の声は実にハッキリと響くが、

その声に対して返事は帰っては来ないのだった。

だが……

 

「…………………へぇ…それがフリーザよりも1回多いって噂の変身か」

 

惑星の終焉を告げる光が徐々に消えゆき、その中心……

薄光の向こうにユラユラと浮かび上がる逞しい体躯の人影を見、ビルスがにんまりと笑う。

一回り以上に精悍な体つき。

隆々とした筋肉。

獅子の(たてがみ)のように鋭く広がった頭部外骨格。

マスクから覗く、血のように赤く光り輝く眼光が暗黒の宇宙を不気味に照らす。

 

「通常形態ではさすがに無理だな…さすがは破壊神…。

 さぁ、第2ラウンドを始めようか…!」

 

「いいじゃないか………どうやら見た目だけじゃなさそうだ」

 

ビリビリと破壊神の肌を刺激するクウラの気に、ビルスは笑みを更に歪ませ、

その姿が陽炎のように消えた。

クウラの首が僅かに動き、

その場から一歩も動かずに己の顔の横、やや後ろへと神速の裏拳を叩き込めば、

 

ドンッ、

 

と銀河系に衝撃が広がる。

 

「…っ! へぇ…やるじゃないか!」

 

並の戦士には瞬間移動にしか見えぬ超高速でクウラの背後へと回り込んだビルス。

その顔面スレスレに迫ったクウラの大きな拳を、

破壊神は頬に触れるギリギリで掌で受け止めていたのだが……、

殺しきれなかった衝撃がビルスの顔面へと伝わり、

彼の猫のような鼻からは僅かな血が一滴……滴るのだった。

 

「ボクの速度を目で追ったな…? ハハハッ! こいつはいい!

 超サイヤ人ゴッドの後にこんなデザートまであったなんて!!」

 

嬉々とした顔でそのまま蹴り、拳の弾幕を乱れ飛ばすビルスに、

クウラは一歩も引かずそのラッシュの応酬を受けて立つ。

惑星を一撃で破壊する拳がマスクをかすめ、

星々の大海を割る蹴りが命中の寸前にクウラの肘と膝に遮られ…、

 

「素晴らしい! 8割じゃお前に失礼だったかな!? じゃあ9割だ!!!」

 

ビルスが玩具を与えられた子供のようにはしゃぐ。

グングンと速度を上げていくビルスのラッシュに、

 

「む…? ヌゥゥゥ……!」

 

「ほらほらどうした! コレぐらいで音を上げるなよクウラ!

 ボクの宇宙を喰った成果はこんなもんじゃな―――」

 

クウラの反撃の比率が徐々に減り、捌き防ぐ比率が増えつつあった。

しかし、

 

「―――っ!?」

 

ビルスが頭を咄嗟に真後ろに退く。

すると、さっきまで自分の頭があった場……

ビルスの目の前スレスレをクウラの豪腕が雷光のような速さで通過していき、

腕がまとう衝撃波が彼の鼻先をかすめた。

 

ニヤリ、

 

クウラのマスクから覗く真っ赤な目が歪んで笑う。

 

「貴様…! 避けられたパンチを瞬間移動させて!?

 ぬわっ!? お…おぉ!? うぐっ!?」

躱し、弾いたクウラの拳と蹴りが、その軌道の先に開かれた次元ホールに吸い込まれ、

次の瞬間にはビルスの周囲からランダムに襲いかかるのだ。

 

「つくづく器用だな!? うおっ! うっ、おごぉッ!?」

 

そしてとうとうクウラの重々しい膝蹴りがビルスの細い腰に真横から突き刺さり、

嗚咽が漏れたビルスのその口へ、クウラの掌底が迫る。

 

「むがっ!? モゴゴ!」

 

破壊神の半開きの口をすっぽりと大きな紫の掌が覆い隠し、

 

キィィィン…

 

甲高い収束音を響かせて、口を覆う掌に気が充実し白く輝き出す。

 

(こいつ!! ボクの口の中に気弾をぶち込む気か!!!)

 

ビルスが、口を掴むクウラの腕へ上下から手刀を振り下ろし挟み撃ちにし、

 

「ぐわぁぁ!?」

 

メギキッ、という鈍い音と共にクウラの腕が山なりに歪みマスク越しに悲鳴が響く。

そして、

 

「グハッ!?」

 

クウラの顎に真上へ蹴り上げたつま先を馳走し、その巨体を浮かす。

だが、よろけながらもクウラはその振り上がった足首を空いた左手で掴み、

 

(掴むな! いい加減離せよっ!!)

 

「もごごっ! むががががっ!!!」

 

しかも右腕は間違いなく折れたであろうに尚もクウラは手を離さず、気の充填も止めない。

そして、

 

「ハハハハハハハッ!! 俺は弟のように甘くないぞ!!」

 

「っっ!!!?」

 

クウラは猛々しく笑いながら、

折れた右腕からフルパワーのエネルギー弾をビルスの口内へしこたま乱射しだした。

嵐のように吹き荒れる口内への攻撃。

それは執拗に続けられ、まだまだ終わる気配を見せない。

しかも攻撃だけではない。

ありえない角度にひん曲がっていた右腕が徐々に矯正され真っ直ぐに治療されていき、

クウラのあちこちにあった外傷もいつの間にか塞がっている。

彼の体内のナノマシンが順次、宿主を修復しているのだ。

傷を負わせた相手の攻撃を分析し、更に強化しながら……。

かつて悟空とベジータを苦しめたメタルクウラの強化修復機能は、

オーバーヒートしていない今のクウラ本人に存分に活きていた。

 

衝撃と爆炎がビルスの口内を駆け巡り続け、

クウラは気弾を撃つ右手を休めること無く、握る力を増し始めて……

そしてビルスの足首を掴む左腕にも同時に満身の力を込め始め、

ミシミシと音をさせながらビルスの体を首と股関節から引き裂こうとしだすのだった。

だがその瞬間、

 

「うっ! なにィ!?」

 

クウラの驚きが声となって漏れた。

ビルスの左手に充分に溜められていた気砲が放たれてクウラの右手首が消し飛び、

気功波を放った左手をそのまま拳にし、驚くクウラの首筋に抉りこむように殴りつける。

超高速でそのままぶっ飛ぶ……かと思われたクウラは、

掴んでいたビルスの足首を意地でも離さず、

そこを基点として吹っ飛ぶスピードを殺さぬままに半円を描き、

逆にビルスの背へと後ろ回し蹴りを見舞うという無理矢理の反撃を試みたのだった。

 

「がふっ!? ク、クウラぁぁぁ!!!」

 

背骨に重たい衝撃を受けたビルスの口から煙と一緒に血と肺の空気が押し出される。

クウラに掴まれていた足首を体ごと無理矢理に捻ると、

ズルリ、と足首の皮膚が剥ぎ取れてクウラの掌に付着する。

皮膚を捨てることで自由になれるのなら安いものだ、というビルスの判断である。

続けざまにクウラを踏み台にしてジャンプするように蹴り、跳ねて距離を置くビルス。

 

互いに数歩分、間合いを広め仕切り直す形となるのだった。

 

破壊神が悪鬼の如き形相でクウラを睨みながら笑う。

彼の鼻と耳、笑みに歪む口からは煙が立ち昇り、

口唇から垣間見える歯はボロボロで所々が欠けていた。

 

「頭きちゃったな………こんな歯と口じゃ、しばらくは美味しくモノを食べられん…!

 正直言って予想以上だ……礼を言わなきゃね、クウラ。 こんな気持は久しぶりだ。

 ……………………………10割だ。

 全力で…君を『破壊』する」

 

吹き上がる神の気が、星雲を、銀河を、宇宙を揺らす。

遥か彼方で地球を両者の闘気から守りつつ、ウイスの水晶球から観戦していた悟空も、

 

「う、うわっ…! も、もっとでけぇ気が……っ!

 くっ……くそ………ハァ、ハァ…! 地球、守んのも……く、ぐ…く…!

 こ、このボロボロの体にゃ、け、結構…つれぇや…へへ」

 

両腕を左右に突き出し、壁のように張り巡らせていたゴッドの気の厚みを更に増して踏ん張る。

脂汗が全身に浮かび、息も荒く苦しげで、ビルスとの戦いで消耗した悟空には辛いものがある。

そしてそれは悟空だけではない。

あのウイスが、

 

「…………これは」

 

真顔となって呟き、やはり汗を一筋……ツーっと青い肌に伝わす。

 

(まさかクウラがここまで力をつけているなんて………。

 無数の命と機械が混じっていたせいで…私の目が曇らされていた…?

 クウラの力は3では収まりきらない……4…いや、5。 ひょっとしたらそれ以上…!

 ビルス様の10に対し、今のクウラは12以上あるのでは……。

 万が一が起こり得る…………かもしれませんね)

 

上司たる破壊神の言いつけを破ることも視野に入れ始めるのだった。

彼らの戦闘の推移によっては自分が参戦し、

主の不興を買おうともクウラを破壊せねばならない。

そうしなければいけない、危険な予感がウイスの第六感にぴりぴりと感じられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途方もなく高まるビルスの気が、宇宙全体を揺らす。

その発生源たるビルスとクウラは、

戦いに熱中する余りいつの間にかその場を太陽圏から大きく離脱していて、

今では数百億光年離れた大銀河のど真ん中で睨み合っているのだ。

宇宙でも存分にその真価を発揮できるクウラの種族であるから、

悟空に対するような気遣いを抱かず、破壊神が存分に暴れることが出来た結果である。

全力を宣言したビルスに対し、クウラも

 

「クックックックッ………ようやく本気を出す気になったか。

 この姿で貴様の本気を叩きのめすことも出来るが………。

 神に対する、俺の最後の敬意だ……俺も本気になってやろう!」

 

自身に満ち溢れた声で応えるのだった。

 

「なに?」

 

星喰もまた、本気ではなかった。

その事実は破壊神に少々の焦りを生む。

 

見開かれたビルスの瞳に飛び込む光景……、

それは瞬く間に金属で覆い隠されていくクウラの姿。

クウラの逞しい肉体の表層を這うように銀色が覆っていき、

消滅したはずの彼の右手も、

極細のケーブルやコードが傷口から飛びててきて欠損部位を型取ると、

細胞と機械が見る間に増殖し完全に復元してしまう。

全ての変化は1秒と経たぬ内に行われて、

紅く光る瞳以外が白銀に包まれてメタル化最終形態へと変貌するのだ。

傍目には色が変わっただけに見えるが、その実情は大きく異なる……、

ということに破壊神は気付いていた。

気付いてはいるのだが、何故か危ない…という意識だけがざわめき立ち、

クウラがどれ程の力を持っているのかがビルスには視えなかった。

思えば目の前の敵の強さは先程から予想の上を行く。

 

(何故だ……神であるボクが、何故コイツの強さを見誤るんだ…)

 

ビルスが、ほんの僅かだが…狭い額に汗を滲ませ、

だがその焦りをおくびにも出さず

 

「……………またテカテカと派手になったもんだ。

 (スーパー)シルバークウラ? いや、(スーパー)メタルクウラ………かな。

 本気を出すというから、もう一段階変身でもするのかと思いきや……

 ただ色が変わっただけじゃないか」

 

憎まれ口を叩いてやるが、

クウラは肩を張った仁王立ちで破壊神を圧し歯牙にも掛けない。

 

「フッ……色が変わっただけで無いことは貴様なら分かっている筈だ。

 本当ならば、通常形態のまま貴様を超えてやるつもりだったのだがな……。

 下らぬ貴様の挑発に乗って出てきてやったせいで、

 未だ俺は中途半端なレベルとなってしまった…。

 全王の頭を踏み潰してやるにはまだまだ時間がかかりそうだ」

 

「っ!? 貴様……全王様の存在を知っているのか!」

 

下界に住む者には、その存在を知る機会すら与えらない至高の絶対神・全王。

その存在を知る方法は下界には存在しないし、存在してはならない。

驚愕に染まるビルスの脳裏に、ある過去の記憶が呼び起こされ、

 

「――っ! そ、そうか! ズノーだな!?

 あいつの脳から機械で情報を引き出した……!」

 

そういう推理に行き着く。

確かにクウラは全てを知ると豪語する宇宙人ズノーを全住民と惑星諸共抹殺し、

その脳髄を入手したビッグゲテスターはそれを存分に解析したのは正解だ。

しかし、そうではない。

 

「ハハハハハハ……違うな。 破壊神でも知らぬ事はあるようだな……安心したぞ。

 全王の存在など、俺はズノーからのデータが無くとも既に知っていた。

 ビッグゲテスターの超テクノロジーは、もはや神の叡智に手が届いているのだ。

 今の俺ならば界王神の真似事も出来るし破壊神の代わりも務まる!

 神程度!! この俺に踏み倒される障害に過ぎんのだ!

 破壊神を破壊し、孫悟空を倒し、全王を殺す!

 宇宙の全てを俺の前に跪かせる!

 俺に敵う者などいない!!」

 

より強靭に再生された銀の右腕で、

まるで宇宙そのものをもぎ取るように強く握り締めれば宇宙が呼応したように震え、

 

「俺こそが宇宙最強だ!!!!」

 

力強い言葉に合わせ、左腕で星々を掴み上げるように打ち振るえば

何百もの惑星がクウラの念動力で持ち上げられ粉砕され塵と化す。

正に宇宙を震撼させるパワー。

数十年の月日をかけ、途方もない数の命を生贄に…とうとうクウラはこの高みに来た。

破壊神と同じ、雲を見下ろす天空の頂きに。

残るは頭上に輝く太陽一つ。

 

クウラの、この常軌を逸した上昇志向と力への信奉。

そして、ただの念動力で多数の惑星級の物体をも粉微塵にする力を既に持ちながら、

未だに成長途上であるという彼の言動。

そして何より、この世界の絶対の神君へ対する敬意の欠片もない彼の傲岸不遜な精神。

全てが破壊神ビルスにとって許容できぬことだった。

 

「お、お前は……とんでもない分不相応を望む男だ…!

 科学の力で神の領域を侵し汚す! ……まったく知的生命体って奴は業が深い!!

 貴様如きが全王様をどうこうすることは絶対に出来ない………、ボクがさせない!

 身の程を知れ………クウラ!!!」

 

ビルスは駆け出す。 目の前の怨敵へ向かって。

その速さはもはや光と比べることすら生温い。

並の者からすれば時が止まっていなければ説明がつかない……

そう思える、それ程の超高速で破壊神はクウラの腹目掛け掌底を繰り出した。

 

(もはや闘争は不要…! こいつはここで…『破壊』しなくてはならない!!)

 

破壊神にだけ許された権能…『破壊』の力。

念じれば万事を破壊する単純明快にして無比の力だが、

強大過ぎるパワーであるが故に制御が難しい。

対象を絞って使用しても大銀河ごと消し去ってしまうレベルで制御が困難なのだ。

単体の惑星……単体の人などだけを『破壊』したい場合、対象に手を触れる…

或いは触れるほどの近距離で手をかざさなければならない。

その制約は、容易に宇宙を破壊し過ぎぬ為のある種の制御弁で、

破壊神ビルスならば誰が相手であろうとマイナスにならぬ制約であった。

 

―――今までは。

 

「っキィエアァァァァァァッッ!!」

 

まさしく裂帛の気合。

迫るビルスの掌底をクウラの渾身の手刀が瞬時に叩き切り、

ビルスの右腕、手首から先がくるくると宙を舞うのだった。

破壊神は猫目を見開いてその様を、まるでスロー映像のように唖然と見つめる。

 

「……!!!」

 

余りの衝撃に声も出ない。

 

(ば、バカな…ボクの腕を一撃で!? …だが!)

 

しかし、自失はほんの一瞬のこと。

この程度で戦意を失うほど破壊神はヤワではない。

ビルスは即座に残った腕……左手をクウラにかざそうとするが、

 

「――ヌゥアアアアアアアアッ!!!!」

 

それよりも速く、クウラの鋭い声と共に繰り出された巨大な足が超速でビルスの胸を直撃し、

メキメキと音を立ててビルスの胸骨と肺を破壊していく。

 

「ぐお…ごォッッ!!?」

 

大きく太い3本の足の指で呻くビルスの細い胴体をそのまま鷲掴み、

脚を突き出した態勢のままに一気に加速したクウラ。

数百光年を一息に飛び、遥か後方に輝く巨大な恒星へ突っ込むと…

 

「うがあああああああああ!!!」

 

「ハハハハハハッ!!」

 

燃え盛る巨大恒星の表層深くに破壊神を蹴り埋め、

己が燃えるのも厭わずにビルスを焼いた。

だが勿論、彼はこのまま共に燃え尽きる気はない。

転瞬、クウラは即座に二撃目の蹴りをビルスに見舞い彼をより深く恒星へと抉り込み、

その反動で大きく跳躍し破壊神が埋もれる恒星から離脱していくのだった。

 

「その超熱の中、消耗した体で未だ健在なのはさすが破壊神といったところか!

 ならば…………これはどうだァ!!」

 

高々と掲げた右腕の掌……

その先に瞬時に形成されるのはクウラが得意とする業火の大気弾・スーパーノヴァ。

今のクウラがその気になれば、それは容易に赤色超巨星級以上に膨れ上がり、

炸裂した時には破壊エネルギーが大銀河中に行き渡ってあらゆる物を滅却できる。

それ程のエネルギーを凝縮し月程度のサイズまでに圧縮…、

 

「その星ごと…消えて無くなれェーーーーーーッ!!!」

 

超エネルギーを一極に集中させビルス目掛けて放つのだった。

 

体力が低下してきたビルスの皮膚が業火にジリジリと焼かれ始めるが、

破壊神が尚も力強く鋭い瞳で眼前の大敵を見据える。

恒星を破壊しての脱出…という手間も惜しんで、

一秒でも早く目の前の『宇宙の病』を消し去りたかった。

 

「な、舐めるなよ…! この程度の炎でボクがくたばるか……!!

 お前の技など……宇宙ごと消してやろう、クウラ!!」

 

ビルスはこの時、手を添えての個別破壊を選択肢から消した。

地球の料理は美味しかった。

孫悟空には無限の可能性を感じたし、気に入った。

ベジータにも、ブロリーとかいうサイヤ人にもゴッドの芽はあると思える。

だが、もはやそれも終わりだ。

ビルスは眼前に広がる全てを『破壊』すると決意した。

破壊神が念じれば、迫るスーパーノヴァもクウラも…全てが破壊されるのだ。

遥か後ろに位置するであろう、地球も孫悟空達も。

それはビルスにとって大変惜しい、残念なことであったが…神の責務はその全てに優先する。

 

(これで終わりだ……『破――)

 

ビルスがそこまで念じた時、

 

pipipi…。

 

燃えゆくビルスを見つめる白銀の戦鬼のコンピューターが、

宿主にしか聞こえぬ電子音を奏でる。

破壊エネルギーを対象へと転送するロックオンバスターの起動音であった。

転送先は無論、『破れかぶれに全てを破壊しようとする』ビルスの、

 

「う…ぐ…!? が、あ……? ぐ…」

 

脳漿、である。

破壊神の脳内にけたたましい破裂音が広がって、頭蓋を直接揺すって耳朶へ届ける。

同時に思考が掻き乱され、視界がぐらぐらと揺れ、歪み、激しい嘔吐感に襲われた。

 

「な…んだ…、何を……さ、れ―――っ!? う、ぐあああああああああああ!!!」

 

この次元の戦いにおいては、一瞬、思考が乱れればそれで充分であった。

動きを制し、破壊の力を僅かな間、封じることが出来れば……。

ビルスにスーパーノヴァが伸し掛かり、

彼の細い体を圧迫し、燃え盛る星へと更に押し込みながら超熱で焼き尽くさんとする。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!

 俺はフリーザのように甘くないと言ったろう!

 それにしても脳を直接エネルギー弾で攻撃されても頭が消し飛ばんとはな。

 破壊神というのは随分と丈夫だ! 驚いたぞ!

 さすがは神だ! ハッハッハッハッ!」

 

メタルのボディが、紅蓮の業火の赤炎を妖しく照り返し、輝く。

ビルスの脳内は執拗に続くロックオンバスターによって未だ()()()()()()()いて、

堅牢な脳は原型を保っているもののさすがのビルスも既に意識は朦朧としてきている。

神の気による防護もみるみるうちに衰え、

前後より迫り来る獄炎はいよいよビルスを包み込み、彼を灰燼に帰そうと荒れ狂っていた。

 

「俺の勝ちだ! 俺は破壊神を超越した!!

 孫悟空……次は貴様だ! 嬲り殺しにしてやるぞ! ハハハハ!」

 

勝利を確信し、雄々しく笑う宇宙の覇者。

だが…、

 

「ハハハハハ―――はっ!?」

 

そんな彼の頬を突然、強烈に殴りつける者がいた。

クウラが吹き飛ばされ際に見たその者……それは青い肌の、破壊神の付き人。

破壊神の武道の師たるウイスその人であった。

 

「…くっ!!」

 

直ぐ様、気の放出によってブレーキをかけ態勢を立て直し、

視線を己が立っていた場へと向ける。

すると、

 

「な、なにっ!?」

 

ビルスを焼いていたあの恒星も、クウラが放ったスーパーノヴァも幻のように消え去っていて、

焼け爛れた破壊神をその手に抱くウイスが静かに立っているだけであった。

ビッグゲテスターの冷徹・冷静な思考を持つクウラもこれには驚きを禁じ得ない。

冷ややかな瞳でクウラを見つめるウイス。

だが、彼の視線には明らかな怒りの炎が灯っていた。

 

「………やれやれ。 ビルス様の言い付けを破ってしまいました。

 これは後で大目玉を食らってしまいますねぇ。

 星喰のクウラ………あなた、本当に大したお人ですよ。

 あなたの性根がそんなでなければ、是非とも次期破壊神に……とお願いする所です」

 

「…ふん、くだらん」

 

ウイスの一撃によってヒビが入ったマスクが強化再生される中、クウラが一笑に付す。

 

「……あなたの今の強さは、既に私に近しい所まで来ていると見て良さそうですね。

 ビルス様と私があなたの強さを見誤った理由……。

 あなたの中の…ビッグゲテスターとかいう機械が邪魔をしていたから……

 で、当たってますか?」

 

「フッ、正解だ。

 ビッグゲテスターは幾百万のメタルクウラと戦う貴様らのデータを集積し、分析し続けた。

 超テクノロジーが貴様らの神の目をジャミングし、節穴に変えてやったのだ。

 科学は無限に発展し……留まるところを知らない。

 神などもはや時代に取り残された遺物に過ぎん」

 

「おやおや、凄い自信……。

 大言壮語もそこまで行くと感心してしまいますよ。

 ………本気で、全王様に楯突くおつもりで?」

 

ウイスの細められた目がより鋭くなり、

それを受けてクウラは赤い目を弧にして瞳だけで嘲笑うのだった。

 

「当たり前だろう。 この宇宙に、俺以上の存在など必要ないのだからな」

 

「……あなたは強い。 それは認めましょう。

 ですが、戦いぶりを拝見していた所……私には勝てないと断言できますよ。

 だというのにどうやって私の上を行く全王様を倒すのです」

 

ウイスの神の気が噴出する。

それはビルスを更に上回る尋常ならざる莫大なものであり、

しかも敵意に満ちる攻撃的な色を多分に含んでいた。

しかしクウラは、

 

「いや、俺の勝ちだ」

 

きっぱりと言い切り、勝ち誇るのを止めはしない。

 

「…? なんですって? 幾ら何でも―――う…? こ、これ…は」

 

ぐらり、とウイスの体から力が抜ける。

何故だか、体中から気が抜けていくのを止められないのである。

 

「力が…入らない? 何故………?

 っ!!! ま、まさか!!!」

 

ウイスは気付いた。

腕に抱く主…ビルスから熱が失われていることに。

右手を切り落とされ、全身に酷い火傷を負ってはいたが確かに一命は取り留めた。

間違いなくウイスはビルスを助けることに成功していた。

自分の神の気でビルスを守っていたし、

ハッキリ言ってクウラが不穏な動きを見せればビルスとは違い気付くのは確実だ。

考えられることは一つだった。

 

「か、界王神を………!」

 

「そうだ…。 今、殺した」

 

情け無用の宣告がクウラの口から紡がれる。

 

ドラゴンボールをクウラの手に渡さぬ為に身を粉にして働いた界王神。

ナメック星人を界王神星に避難させたのは妙手だったが、同時に悪手であった。

クウラは既にナメック星人達の気を知っていた。

それで終わりである。

ナメック星人の気を探り、瞬間移動でメタルクウラを送り込めば界王神達に為す術は無い。

ならば界王神はナメック星人を捨て置けば良かったのか、と言われればそれも違う。

ナメック星人を助けなければ、それはつまりドラゴンボールがクウラの手に渡るということ。

後はナメック星人から脳を摘出しデータを取得…、

ナメック語でドラゴンボールを使用し、界王神星への道を開けば良いのだし、

そもそもクウラは全知のズノーの脳を獲得したのだから

界王神星の座標情報は何時でも入手できる。

つまり、最初から破壊神の心臓はクウラに握られていたのだ。

 

(どれ程危機に陥ろうとも、確実に勝てる保険をかけこの勝負に臨んでいた…。

 ビルス様の挑発に乗ったのは…この為…ですか。

 界王神星の様子には……常に…気を使って、いた…つもりでした、が…)

 

出し抜かれたことを今際の際にウイスは悟り、その整った顔を大きく歪ませる。

 

「破壊神と同等以上に戦えることが分かり、

 ビルスを俺の手で叩きのめした時点でもはや俺の気は済んだ。

 後は後顧の憂いを絶ち、貴様らを殺すのみ。

 しかし……さっさと殺すにしても、

 界王神星に侵入するメタルクウラに貴様が気付く可能性は大きかった。

 それが出来る程に貴様は強く、優れているからな。

 だが、貴様が健気にもビルスの奴を助けようと俺の目の前にノコノコやって来たことで、

 貴様の注意が俺に逸れたことを確信した。

 ふふふふ………正解だったろう?」

 

ウイスの視界がどんどんと暗転していく。

破壊神の対たる界王神が死に、ビルスもまた死に引きずられ、

そして天使のウイスも破壊神の死と共に全ての活動を停止する運命にあった。

 

「む、無念…です……。 申し訳、あり…ません…ビルス、様……」

 

異常に気付いた時には力の大部分が喪失され、

とっくに『やり直し』の力も使えはしない。

苦悶をその表情に刻みつけながら、ウイスは生命活動を止めたのだった。

 


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