スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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ビルスの地球来訪

破壊神と付き人は、頭を引っ込めて中々殻から出てこない星喰を一先ず置いておき…、

久々の息抜きを兼ねて超サイヤ人ゴッドの探索を始めた。

勿論、その間はクウラのロボット達が好き勝手に宇宙を荒らす事になるだろうが、

もうビルスとウイスはギリギリまで被害を許容するつもりでいる。

メタルクウラをどれだけ速攻で倒そうが焼け石に水であると断じ、切り捨てたのだ。

狙うはクウラ本体、ただ1人。

そして……クウラが今回の『炙り出し』にも応じなかった場合は………、

『第7宇宙を完全に破壊する』予定であった。

 

だが今は、それはさて置いて取り敢えずお楽しみのゴッドだ。

ビルスはそう切り替えて久々に職務を忘れてウキウキで、

 

「よーし、ではフリーザを倒したとかいうサイヤ人がいる界王星に出発だ!」

 

ウイスに界王星まで瞬間移動するよう命じるのだった。

が、そこで出会った孫悟空は超サイヤ人3までしか変身できず、

ビルスの興味をそこそこ誘ったものの、悟空をデコピンと手刀の二撃でダウンさせると、

破壊神は次なるサイヤ人を求めて地球へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊神ビルスの管轄であり、孫悟空の存在する第7宇宙。

今現在、ビルスは地球へ向けて界王星から飛び立った所で、

辺鄙な宇宙の片隅に居るはずはない。

だが、第7宇宙のその辺鄙な所に破壊神はいるのだ。

これはどういうことか。 

破壊神は第7宇宙には2人いたのだろうか。

いや、違う。 

よく見れば………その破壊神はビルスとは違い太っている。

その他はとてもよく似ているが、その人物はぷくぷくとふくよかな腹をしていた。

付き人の青い肌の天使もウイスに似てるようで違い、

その者は女性で長い白髪の髪をポニーテールで流している。

彼らこそ、第6宇宙の破壊神シャンパとその付き人ヴァドス。

シャンパはビルスの双子の兄弟で…

ヴァドスはウイスの姉なのだ……似ているのも当然であった。

 

「願い玉を探しに来てみれば……随分と酷い有様だな」

 

星々と命が大量に死に絶え、第6宇宙全体が空間から歪み出しているのが、

破壊神であるシャンパには理解できた。

ヴァドスも、

 

「そうですね…確かにちょっと酷いようです……ウイスはなにをやっているのやら」

 

上司の言葉に全面的に同意した。

シャンパの第6宇宙とビルスの第7宇宙は対の存在であり、

互いの存在は無視できない重要なものである。

惑星の一つ二つ、十や百や千の誤差があろうと大したことはないが、

さすがに数百億単位の星々の有無の差があると、

二つの宇宙が内包する総エネルギー量に差が出過ぎる。

 

「ちょっと、惑星と生命が少なすぎないか?

 宇宙が殺風景すぎね? まずくないか? これ」

 

破壊神として自分の宇宙にも影響が出るのを心配するのは当たり前だが、

この惨状を許してしまっている自分の双子のことも気になるシャンパ。

かなり砕けた口調だが、彼の言っていることは的を射ている。

 

「……ちょ、ちょっとだけ…ビルスの様子見に行くか?」

 

「シャンパ様がそう仰るなら行きましょうか」

 

まさかあの憎たらしい兄弟に限って大丈夫だとは思うが……と、

シャンパはビルスの体調だとか職務への情熱具合だとかが気になり始めていた。

第6、第7の二つの宇宙に跨って散らばる超ドラゴンボールの探索を一時切り上げ、

シャンパとヴァドスは予定よりも少し早くビルス達に挨拶に赴く事にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその地球……そこでは今、ベジータの妻・ブルマの誕生パーティ真っ最中である。

お呼ばれした参加者だけでの気が置けない身内達によるパーティは、

非常に和やかで和気藹々としたものだったが……

1人、非常にムスッとした顔の黒髪の青年がお好み焼きをつついていた。

 

「なぜ俺がカカロットの仲間のパーティになど………」

 

「文句言わないのブロリー!

 ブルマさんは村の復興に何千万ゼニーも助成金をだしてくれたんだよ?

 それに、村のクリスタル貿易が軌道に乗ったのも

 カプセルコーポレーションのお陰なんだからぁ…ね? 機嫌直して?」

 

隣にいる淡い金髪の美少女・ココに顔を覗き込まれながらそう言われてしまうと、

ブロリーはそれだけで文句を封じられてしまうのだ。

ブウとの戦いの折に孫悟空と再会してしまったのを契機に記憶を取り戻したブロリーだが、

それまでにココから受けた恩義(調教)によって

(手料理、ケガの介抱、カカロットの悪夢にうなされる睡眠中ブロリーの頭ナデナデetc…)

例の暴走癖が「ブロリーやめて!」という彼女の涙目の一声で治まるようになっていた。

初めてその様をベジータが見た時、

 

「し、信じられん…! 完全にブロリーを抑え込んでいやがる……! なんて女だ!!」

 

チチやブルマとはまた異なるベクトルの強い女の出現に驚愕したとか何とか。

ブロリーを射んと欲すれば先ずココを射よ。

そんな合言葉がZ戦士一同に浸透したのは言うまでもない。

未だに悟空を見る目には僅かに怒気が孕んでいるが、

取り敢えず大人しくなったブロリーとココは孫悟空とその身内に仲間入りを果たしていた。

ココの重要性を認識したブルマは彼女とその故郷を優遇しまくって、

しかもクリスタル貿易の仲介にココと接触してる内にココ本人の人柄も気に入ってしまい、

今では損得抜きに年の離れた良き姉御分、友人となっていた。

プライベートでココの恋愛相談に乗ったりもしているようで、

恋愛にどんくさい喧嘩バカのサイヤ人の落とし方なども、

サイヤ人妻の諸先輩方がレクチャーしているらしい。

そんなブロリーとココが座る小さな円卓に、

 

「おい、ブロリー! 貴様、さっきからお好み焼きばかり食いやがって!

 貴様のせいで常にお好み焼きだけが無いんだぞ! 少しは違うのを食べやがれ!」

 

いつの間にか近寄ってきていたサイヤのプリンスが、

ブロリーの食事にイチャモンをつけだした。

だがお好み焼きを頬張りながらブロリーは、

 

「………虫ケラめ……あっちへ行っていろ」

 

チラリとベジータを見たきりそのまま食事を敢行するのだった。

 

「なにぃ!? 招待してやったこの俺に対してなんて口の利き方をしやがる!

 フランクフルトもたこ焼きも、それ以外だってあるんだ……そっちを食え。

 お好み焼きを待っている奴は貴様以外にもいるんだぞ…! この俺だ!」

 

「ご、ごめんなさいベジータさん…!

 ブロリー、このお好み焼きというお料理が気に入ってしまったみたいで……

 ほら、ブロリー……ごめんなさいしなきゃ。 同じサイヤ人同士で喧嘩しちゃダメっ」

 

歳は14となったココ。

美少女で鳴らしたチチやブルマの14才当時にも劣らぬ容姿で、

尚且つ身長が少し伸び出るところは出て引っ込むところは引っ込んできたが、

2m近いブロリーの横にいると相変わらず小柄で、

愛くるしい美少女っぷりも相まって小動物のようだ。

ブロリーとはまさに美女と野獣と形容したくなるツーショットであった。

そんな小動物にしぶしぶ従う野獣…という図がまた珍妙である。

 

「フン………ココの料理に比べればこの船の飯は全て不味い。

 お好み焼きなど貴様にくれてやる。 食いたければ食え」

 

ベジータから目を逸らしながら、皿をフリスビーのように彼に投げよこす。

 

「何だと? カプセルコーポレーションお抱えの職人達が作った料理がココに劣るだと?

 ふん、面白い………ならば今度、この俺が直々に食べ比べてやる」

 

皿からお好み焼きを落とすこともなく見事にキャッチする様はさすがに戦闘民族。

常人では目で追えぬ速度の食べ物キャッチである。

 

「はい、いつでもナタデ村にお越し下さい。

 ブルマさんとトランクス君と一緒に……後、皆さんも!

 あ………その前に、ブロリー? まだベジータさんに謝ってないよ」

 

にこにこと笑いながら圧力感を醸し出すココ。

うっ、と小さくブロリーが唸り……

 

「………………………悪かった」

 

「はっはっはっはっ、分かればいい! 分かればな!」

 

不器用に謝る彼に対し勝ち誇るサイヤ人の王子。

居丈高な態度は大分和らいだ彼だが、

同じサイヤ人相手だと王子気質が全面に出てしまうらしい。

一昔前の彼ならばここから更に

「なにぃ~? 聞こえないぜ」とか言いつつ頭をグリグリと踏んでいたことだろう。

やはりベジータは丸くなったと言える。

だが、

 

「……ぬ、ゥゥゥゥゥウウウウウウウッッ…………!!」

 

当然、ベジータの態度にブロリーはわなわなと震え怒りを徐々に露わにする。

やはり彼も一昔前ならばここで怒りの超化が発動しただろうが今では、

 

「ブロリー、良く我慢して謝ったね。 ナタデ村に帰ったらオカズ一品増やしたげる!」

 

ココが大柄な彼を屈ませ、抱き込むようにして頭を撫でると彼の怒りは萎んでいくのだった。

こちらも成長した………と言えるかもしれない。

成長したのはココの母性かもしれないが……。

今では悟空もピッコロも悟飯も天津飯もヤムチャも、

ベジータも含め皆がブロリーを受け入れている。

ココという安全装置有りきで、だが。

 

そんな和やかなパーティ会場に、突如として現れたのが破壊神ビルスである。

ベジータ以外の者達は彼の素性を知らず、

ブルマの紹介のままにベジータの友人の一宇宙人と思い普通に接していた。

ビルスが破壊神であると承知しているベジータだけが、

周囲の者たちの無礼とも言えるフランクで砕けた態度にハラハラドキドキであった。

誇り高きサイヤ人の王子としてのプライドを削って削って削ってビルスのご機嫌伺いをし、

自らたこ焼きまで作って馳走するほどの泣ける孤軍奮闘ぶりであったが、

彼の努力もとうとう無駄に終わる。

ビルスと魔人ブウがプリンを巡って衝突………とうとう武力衝突が発生してしまった。

暴れだすビルスを止めようと、悟飯やゴテンクス、ピッコロ、クリリン、天津飯にヤムチャ、

ブルマを張り倒されたベジータまでもが怒りも顕に破壊神に挑んだが全く歯が立たない。

ビルスが、

 

(……やれやれ、サイヤ人も落ちぶれたな。

 これじゃクウラの玩具の方がよっぽど強いよ)

 

心で溜息をつく。

ビルスが星喰退治を開始したばかりの頃の初期型メタルクウラの戦闘力は平均で約5兆。

しかし、つい先日まで戦っていた後期型はなんと戦闘力が1000兆を超える。

ビルスに破壊されればされるほど、

後に生産されるマシーン達は強化されていったのである。

後期型は、超3化のゴテンクスを上回り、

修行を怠らなかった悟飯でさえ究極(アルティメット)化してようやく勝てるかどうか…である。

その性能で量産されているというから、恐ろしいの一言だ。

そんな例外中の例外のような存在達と比べられては、

如何な戦闘民族とて見劣りしてしまう………と思いきや、

 

「ん~~~? なんだ、ベジータ……まだやんの?

 それに…………お隣の君もどうやらサイヤ人みたいだね。

 君もゴッドじゃないっぽいけど、かかってくるのかな?」

 

やはりサイヤ人は飽くことなき戦闘民族であり強戦士族なのだ。

闘争心が未だ萎えぬベジータと、

憂いを帯びた顔の黒髪・長身の男…ブロリーの2人がビルスの眼下に立っていたのだった。

 

「当たり前だ…! よくも俺のブルマを……!!」

 

「…………ウサギ頭め……貴様が船を揺らしたせいでココが……!

 楽には殺さんぞ……!!」

 

船酔いに陥ったココの復讐という何とも言えぬ理由でブロリーが参戦し、

彼が気を高めるとその頭髪が淡い青に変化する。

己の力を大幅にセーブしたブロリー特有の超化だ。

女の為に立ち向かうサイヤ人2名の顔には怯えは見えず、

ビルスの口元が僅かに弧を描いて、ほんの僅かだが愉快そうにも見えた。

 

「ふぅん…ボクを殺す? サイヤ人ってのはつくづく傲慢だよねぇ。

 ……………予定よりちょっと早いけど、地球を破壊するかな」

 

だが、自分に対してベジータは怒気を、ブロリーは殺気を向けてくるという不敬に対し、

とうとうビルスが微量の怒気を見せつつ地球を破壊する”素振り”をし始めた、その時、

 

「ちょっと待ってくんねぇか、ビルス様!」

 

瞬間移動によってビルスとベジータ達との間に割って入った孫悟空が止めに入る。

片目を見開き怪訝な顔となったビルスは、

 

「なんだ……また君か」

 

出てきたのが目当ての人物でないと分かり少々不満気であった。

その後の展開は御存知の通り………ドラゴンボールでゴッドの情報を神龍から聞き出し、

5人のサイヤ人が正しい心を持ちそのパワーを1人に注げば良いらしいとの事実を得たが、

 

「……………正しい心ってなんだ…?」

 

頼み込んで協力してもらった6人目のサイヤ人はこの有様。

悟空もこれには、

 

「あちゃー!

 そうだよなぁ…………。

 ブロリーは、ゴッドが対抗しようとしたサイヤ人の方っぽいよなぁ」

 

頭を抑えて悩みこんでしまった。

確かに、『昔のサイヤ人はブロリーのような伝説の超サイヤ人に対抗するために、

ゴッドの秘法を編み出したのではないか』……そう思える超化をするのがブロリーだ。

そんな彼をこの儀式に誘うのは少し無理があった気が、しないでもない。

だが、長年の宿敵でありサイヤ人の王子が意外にも助け舟を出す。

 

「おい、カカロット。 そもそも正しい心という定義がこいつには伝わらんのだ。

 サイヤ人としての正しさというならば、寧ろ闘いと破壊こそが正しいんだからな。

 誰よりも伝説の超サイヤ人としての特性が濃いあいつに分かるわけがない。

 ようは穏やかな心だろう?

 平穏に暮らすことを望む感情こそが闘争から遠ざかりたがる原因だ。

 正義だ悪だので対立したと言っても、

 所詮は平穏に暮らしたいか、戦いに身を置きたいかの主張の衝突だろうが。

 ブロリー……ココとの穏やかな生活を思い浮かべろ。

 ココの飯を食って、ココの横で眠る自分自身を強く想像してみろ」

 

さすが純サイヤ人の王族だけあって、ブロリーが要領を得ぬ点を正しく指摘した。

ベジータの命令口調に一瞬、目を鋭くしたブロリーだったが、

ブロリーがちゃんと出来るかを不安そうな瞳で見てくるココをちらりと見て、

 

「………チッ」

 

瞑目し、心を落ち着けて言われた通りの心象風景を思い描く。

結果、見事に儀式は成功し…

孫悟空はゴッドの力を得てビルスの欲求を満たすことに成功したのであった。

超サイヤ人ゴッドへと変化し、神の気を宿した孫悟空。

研鑽を積み続け、幾多の強敵達との激闘をくぐり抜け……とうとう彼は神の領域に至る。

眼前のサイヤ人が神の気を放ち始めたのを見、

 

「くくく……どうやら待ったかいがあったようだね」

 

破壊神ビルスが目を細めて笑う。

そんなビルスに悟空は、自分が勝ったら地球も仲間達も破壊しないよう提案すると、

ビルスもそれを快諾……己を楽しませろと言い放ち、神と神の闘いが始まった。

破壊神級の気のぶつかり合いに、彼方の惑星までが震える。

クウラの大量破壊行為によってバランスが崩れ、

徐々に歪みが生じている第7宇宙にとってこれは中々に危険であった。

遠く離れた界王神界……その中心に浮かぶ界王神星でさえ波動で揺れる有様で、

 

「なにやっとんじゃあの『バカい神』は! この宇宙にとどめ刺す気かぁ~~!!

 あほたれっ!! うんこたれっ!! オシッコちびりっ!!!」

 

と、昔馴染み且つ自分を封印した恨みがあって、しかも最近生命創造を不眠不休でやって

疲労でイライラの老界王神がご立腹だったとかなんとか。

第7宇宙全体を地味に巻き込みながらも、

2人の闘いはどこかスポーツ的な気楽さと爽やかに溢れている。

だが悟空のパワーが落ち始めたのを機にビルスは、

 

「……ここまでかな。

 まぁ充分楽しめたよ……ここまで力を出したのは久しぶりだ。

 …では、もう終わりにしようか。 約束通り地球を破壊する」

 

勝ち誇った笑みを浮かべ上天に突き出した両手に破壊のエナジーを漲らせた。

ビルスは今も尚涼し気な顔で……比べて自分は傷だらけで体力も落ちてきているし、

ビルスが担いでいる大きなエネルギー弾は間違いなく危険な代物だ。

しかし、その危機的状況でも悟空は、

 

「わりぃなビルス様……超サイヤ人ゴッドのパワーがオラに言ってるんだ。

 上に…まだ上に行けってよ!!!」

 

サイヤ人らしい飽くなき闘争への欲求で満たされ、笑っていた。

迫りくる大エネルギー弾をしっかり見据え、

腰を落とし両腕を腰の右側やや後方に添えて…

 

「か…め…は…め……波ぁーーーーー!!!!」

 

孫悟空が最も得意とし、最も信頼を寄せる気功波を最大パワーで撃ちだした。

ゴッドの気が乗ったそれは破壊神の気弾に真正面からぶつかり、

 

「んん!?」

 

自らの惑星破壊弾を押しのけ迫るかめはめ波に、

ビルスも思わず驚きの声を出したのであった。

自分が放った大エネルギー弾とかめはめ波を眼前で破壊したビルスはほぼ無傷。

相変わらずの余裕を見せて完全に凌いでしまった。

二つの巨大な気が乗ったエネルギー流を苦もなく相殺してしまったビルスを見て、

さすがの戦闘狂(孫悟空)も引きつった苦笑いをするしかない。

 

「ククク……サイヤ人ゴッドか………面白い奴だよ、君は。

 健闘を褒め称えて地球の破壊は勘弁してやろう。

 と、言いたい所だけどね………」

 

そんな悟空を見ながらビルスが静かに口の中で笑うと、

 

「ボクにもちょっとやんなきゃ駄目な理由って奴があってさ。

 お互い、思い通りにならないよねぇ……孫悟空。

 やはり地球は破壊することにするよ」

 

両腕を、先と同じように高々と掲げると…

そこに莫大なエネルギーが急速に渦巻くのが悟空には分かった。

 

「ビ、ビルス様…! や、やめてくんねぇか……た、頼む…!

 オラ、もっと修行して必ずビルス様を満足させられるぐらい強くなってみせる!!」

 

必死に懇願する悟空だが、ビルスは

 

「………いいのかなぁ~? 本当に破壊するよ、ボクは。

 地球も、孫悟空も………コソコソ見てる君の目の前で、ね」

 

明後日の方向を見ながら、明らかに悟空ではない誰かに声をかけているようだった。

不審に思い悟空は辺りを見回すが、

 

(な、なんだ…? ウイスさんに対してでもねぇ……ビルス様には何か視えてんのか?)

 

周囲には自分とビルス…

そして勝負の決着を見て自分達の元に瞬間移動してきたウイスだけだった。

その時、

 

「っ!!? な、なんだこの気は…!!」

 

ざわり、と今まで悟空が味わったことのない異質な気が突如として辺りに立ち込める。

身にまとわりつく、ドロドロとした不快さ……

全身がざわつく不気味な感覚に悟空だけでなく、ビルスやウイスも眉をしかめた。

 

バチッ、バチバチ、

 

という激しい放電が悟空の後方、何もなかった空間に巻き起こったかと思うと、

次の瞬間には空間が波打ってたわみ…、

 

(あの波打ってる所だ…! あそこからすげぇ嫌な気が流れてくる!!)

 

悟空は慌てて振り返り構えをとるのだった。

ゴッドの力をその身に取り入れ、神の気を会得した悟空でさえ感じる悪寒。

もはや、ビルスと悟空が醸し出していた爽やかな闘争の空気はどこにもない。

 

ズ、ズ、ズ…と歪む空間から徐々に出現する者……それは、

 

「お、おめぇは……クウラ!!?」

 

当時、死んでいた悟空があの世からしっかりと観察した人物……

忘れる筈もないその男の名はクウラ……フリーザの兄、その人であった。

ビルスとウイスもまた、悟空と同様にクウラを厳しい目で観察していた。

 

「やっぱり出てきたね……良かった良かった。

 じゃないと宇宙ごと破壊しなきゃいけない所だった。

 そうなってたらガッカリだもんねぇ……君は是非、ボクの手で破壊してやりたかったんだ。

 しかし……ふぅーん……なるほどね~~。 あのロボット共とは色も雰囲気も違う。

 どうやら君が正真正銘本物らしい………会いたかったよ、クウラ」

 

悟空と話している時よりも一段低い声色のビルスの迫力はさすが破壊神といえる。 

威圧感と威厳で満ち溢れ、どこか神々しさも感じる声。

神の気を感じることが出来ぬ者でも恐ろしいし、神の気が感じ取れるのならば尚更だ。

だが、その威圧を向けられているであろうクウラは、

 

「…………俺もこの時を待っていた……ずっとな。

 ビルス…孫悟空………………貴様らをこの手で殺す…この時を」

 

感情の伺えぬ涼し気な顔で破壊神の重圧を受けきり、

ビルスに負けず劣らずの威圧的な低い声でそう答えたのだった。

破壊神の従者はクウラのその様子を見て、

 

(神の気が感じられない……というわけでもなさそうですけど…。

 ビルス様にあれだけの殺気を向けられて平然としているのは、

 神経が図太いだけなのでしょうかねぇ?)

 

彼の冷静過ぎる様子を少々疑問に思う。 

ウイスの見立てでは、主ビルスを10とすれば、自分15・悟空6…

そしてクウラは悟空に及ばず3、或いはそれ以下……という比率に見えた。

 

(クウラは変身型種族………彼の最終形態は通常の凡そ3倍と聞いてますが……。

 それにしてもあの自信はどこから来るのでしょうか)

 

例え変身をしようがビルスの相手にはならない。

ウイスはそう確信していた。

ビルスもまた、

 

(…………思ったよりは強いけど)

 

そこそこ楽しめそうだが、所詮はその程度。

クウラの持つ気の不快さは群を抜いているが、

それ以外のあらゆる点でビルスが上回っているのは確実に思えた。

しかも、今回は悟空相手ではない。

ビルスは本気で殺しにかかる。

 

「……随分とドロドロした…嫌な気だ。 クリアな神の気とは対極だね。

 神の領域に土足で足を踏み入れる……その為に、一体どれだけの生命を吸ったんだ?」

 

「さてな。そんなくだらぬ事を一々覚えてはいない」

 

「お前の気は………数え切れぬぐらいの命が混ざりあったモノなんだねぇ……。

 不愉快だよ。 吐き気がする……これは比喩じゃない。

 本当に吐きそうなぐらい気持ちが悪い気だ。

 さながら、神の気に対抗する為に練り上げられた悪魔の気…ってとこかな」

 

ビルスの瞳に静かだが激しい怒りが湧き上がり、

悟空との闘いでは一切見せなかった憎悪の殺気と純然たる神として義務感による殺意。

その二つが際限なく膨れ上がり……、

 

「う、うわっ! こ、これが……ビルス様の本気だってのか…!!

 へ、へへへ………やべぇな。

 絶対ぇやべぇのに、何かワクワクしてきちまった…!」

 

間近でそれを感じた悟空が無意識に一歩退いてしまっていた。

だが孫悟空もまた、どこか普通ではない。

これから宇宙が見るも無残なぐらいに破壊されるのが容易に想像できるのに、

悟空は顔を引きつらせながらも何と笑っていたのだ。

彼も、戦いを心の底から望み楽しむ狂気の戦士の片鱗を持っているのであった。

そんな悟空の気の昂ぶりに気付いたのかビルスは、

 

「…おい孫悟空。手を出すなよ……コイツはボクの獲物だ。

 ウイスもだぞ……絶対に手を出すな……手を出したらお前達を破壊するから」

 

しっかりとバトルジャンキーとお節介焼きに釘を刺すのを忘れない。

ビルスの神の気とクウラの得体の知れぬ気が、

本人達に先んじて宇宙空間の()()()()()でぶつかり合い、せめぎ合いを始めている。

ビルスとクウラの視線が交差し、

 

「一対一だ。君を、ボクの宇宙と同じ有様にしてあげるよ…クウラ。ボクの手でね」

 

「俺を舐めると後悔することになるぞ………破壊神。

 貴様も孫悟空も超えて……俺は最強となる」

 

悟空とウイスが見守る中とうとう2人の火蓋が切られた。

 


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