スーパーメタルクウラ伝【本編完結】   作:走れ軟骨

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宇宙の墓場

「サウザー……現状を報告しろ」

 

自分が生きてることを喜ぶでもなく部下を労うでもなく淡々と告げる。

しかしサウザーはそれでも一向に構わないようであった。

 

「ははっ! 現在我々は地球から2時間の距離の宙域を航行しております。

 もうじき太陽系を離脱し――」

 

「目的地は」

 

「はっ! 申し訳ございません。

 目的地は安全圏奥深く…治安も安定しており、

 また設備が整っているフリーザ軍所属ソルベの管理する、惑星フリーザNo17でございます」

 

サウザーの報告を聞き、クウラはゆっくり瞼を閉じる。

 

(フリーザ……愚かであった弟よ………だが俺もまた愚かだった…!

 サイヤ人に2度も敗れ……そして今再び…勝利は叶わなかった。 ……だが!)

 

「目的地を変更………今から俺が送信する座標に向かうのだ」

 

少しばかり懐かしき弟に思いを馳せるが、郷愁の思いを復讐の心で掻き消し、

眼を開くと新たな指令を下す。

クウラの内のナノマシンが船のコンピューターへとデータを送り込むと、

メインルームの大モニターに見慣れぬ宙域が表示された。

その宙域とは、

 

「……宇宙の墓場? 聞いたことが無ぇな。 お前知ってるかネイズ」

 

「いや…こんな銀河の片隅、知るわけねぇだろ。 サウザーは?」

 

「…………知らん。 ザンギャ…お前は?」

 

「……………………宇宙海賊時代に聞いたことがある。

 そこを通る者は誰も帰ってこない呪われた魔の宙域……という伝説だったね。

 宇宙海賊ってのは意外と迷信深い所もあったから、

 私達ヘラー一族も気味悪がって近寄らなかったとこだよ」

 

誰も帰ってこない、一度迷い込んだら抜け出せない暗黒の宙域。

宇宙という星々の海を往く宇宙船乗り達にとっては気持ちのいい話ではない。

ドーレとネイズがしかめっ面で互いの顔を見合って、冷や汗一筋をタラリと垂らすが、

 

「くだらん。 我らクウラ機甲戦隊がそんな迷信に怖気づくと思うのか」

 

サウザーは鼻で笑って相手にしないのであった。

さすがは親衛隊長。

 

「しかし、迷信はともかくこのような辺鄙な所に一体何用で行くのでございますか?」

 

親衛隊長の言葉にクウラは、

 

「……………あそこには、俺の半身がいる」

 

「半身…?」

 

そう答えると、それきり口を開かず会話を打ち切った。

一抹の不安を抱えつつ、船は静かな宇宙を粛々と往くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に勃興する様々な種の様々な文明。

この宇宙墓場には興っては消えていく文明の残滓が自然と集まり、

そしていつまでも漂っているのだ。

海に潮の流れが存在し流木が流れ着きやすい岸があるように、

宇宙にも潮流のようなものが在るのかもしれない。

大量のスペースデブリが漂う宇宙の墓場は、

遠い昔から近隣の先進文明にとって都合の良いガラクタの投棄場でもあった。

その中に一つのコンピューターチップがあった。

機能が生き続けていたそのマシーンは、自らの能力で長い時間をかけ増殖していった。

それは宇宙空間に存在するあらゆる物を取り込み、

そのエネルギーを吸収することによって成長していった。

そして、今では惑星をも食い尽くすほどになった巨大機械惑星。

それこそがクウラの半身・機械星ビッグゲテスターであった。

 

地球を後にしてから約2年……。

今、クウラ達の前にはその機械星が悠然と暗黒空間に浮かび漂っている。

流れ着いたクウラの脳みそを獲得した以前の時空のビッグゲテスターと違い、

この世界のビッグゲテスターは知性が低い。

機械の本能……原初プログラミングであるファーストオーダー、

『増殖せよ』をひたすら繰り返すだけのマシーンで、

単細胞のアメーバと似通った存在であると言えた。

 

「こ、これが魔の宙域の正体…!」

 

船内モニターから異形の惑星を見てザンギャがそう漏らした。

 

「気をつけろ……奴は無差別だ。 ………来るぞ!」

 

クウラの警告と同時に機械星からドデカイ触手……

ケーブルやコードが生きた大蛇のように宇宙船へと伸びてきて、

次の瞬間にはクウラ達全員が船外へと飛び出していた。

クウラとザンギャはともかく、

サウザーら3人は宇宙空間での単独活動はそう長いことは出来ない。

戦闘服のサポートによる活動時間は10分程。

それを承知しているクウラであったから、行動は迅速そのものであった。

 

「機甲戦隊! お前達は適当に暴れて奴の注意を引きつけろ。

 俺は奴の最深部……コアに用がある」

 

「あの化け物の中に行こうというのですか!?

 あっ! ク、クウラ様、お待ちをっ!!!」

 

ドウッ、と気を放出すると一気に飛び去るクウラ。

サウザー達は慌てて主人を狙う触手達を切って払い、爆破し、殴りつけ、蹴飛ばす。

縦横無尽に視界を埋め尽くす無機質な触手の群体を華麗に躱しながら、

クウラは一目散にビッグゲテスターへと迫り、

 

「キィエアァッ!!」

 

勢いのまま突っ込むと機械星の分厚い鋼をボロ雑巾のように突き破り、

コアへと一直線に突き進んでいく。

星内部の未来的な構造物が瞬く間に破壊されて、

内部警報で動き出したセキュリティも全くの無力であった。

そして、

 

「………懐かしい、というべきか」

 

かつて見続けていた中心空間へと到達する。

無数の管が上下から伸び大樹のような柱を形作っていて、

その中央には淡く光るセンサー光………ビッグゲテスター・コアチップが鎮座していた。

 

(俺は、この世界に来てもう一人の俺と融合した。

 融合………………メタモル星人のフュージョンやナメック星人のそれと比べても、

 俺の力の伸び率は低かった……低過ぎた!

 もう一人の自分という最高の適合率を持っていたのにも関わらず、だ。

 それは何故か……!)

 

「そう、簡単なことだ。 俺はメタルクウラであってクウラではなかった。

 この世界のクウラと融合しただけでは要素(ピース)が欠けていたのだ!

 ビッグゲテスターよ! 今こそ俺に還れ!!」

 

言うや否やクウラがコアチップへと手を伸ばし、

柱に手を突っ込むと無理矢理それを引き千切った。

コアの喪失を阻止しようとする機械星が

触手の切っ先を槍のように細めてクウラを串刺しにしようと試みたが、

その全てはクウラの気によるバリアによって接近することすら出来ずに粉砕されるのだった。

 

コアチップが極細のケーブル・コードを瞬間的に伸ばしクウラにまとわりつかせる。

クウラを吸収し飲み込んでやろうというビッグゲテスターの本能がそうさせた。

しかし、

 

「喰うのは貴様ではない……この俺だ」

 

分解されているのはコアチップの方であった。

自らが伸ばした触手に引きずられ、徐々にクウラの体に吸収されていく。

 

「どうだ、ビッグゲテスターよ」

 

「エエ、素晴らしいデス。

 もう一つのワタシは、貴方と出会わなかった代わりに

 周囲の惑星を考え無しに吸収していたようデスネ。

 使い道も無かったのでしょう…充分なエネルギーを蓄エテイマス」

 

返事をした方のビッグゲテスターは、

エネルギー貯蔵庫と化していた自分のドッペルゲンガーにご満悦そうである。

クウラの肉体に徐々に沈んでいくコアチップだが、

 

「……残飯も処理するとしようか」

 

この世界のビッグゲテスターが集めた周囲の部品すらも分解し、クウラは頂くつもりである。

ガリッ、といつものように指先を噛み血を滴らせると、

生成した自身の機械触手を高速で周囲に展開。

機械惑星に無数に突き刺すとそこからも分解、吸収する。

コアとエネルギーを失った機械惑星は、少しずつ振動を始めて急速に崩壊しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ! 惑星が!」

 

突如崩壊を始めた機械星を見てサウザーが悲鳴を上げた。

 

「ま、まだクウラ様が中におられるのだぞ! まだ壊れるんじゃない!!」

 

などと無茶なことを無機物に要求していたが、

 

「センパイ、落ち着きなよ。 そのスカウターは何のためにつけてんのさ。

 というか気の修行もしただろ………」

 

冷静な後輩女に指摘されてしまった。

 

「そ、そうだったな!」

 

慌ててスカウターで主人の気を探り、併せて自身の気探知も行って精度を高めると

あっさりクウラの無事が確認できた。

あの崩壊しつつある機械星の中でも一際強い気が淀みなく存在していて

クウラの健在っぷりをアピールしていた。

だが……、

 

「……? こ、これは……一体どういうことだ………2000億どころのレベルではないぞ!?」

 

Pipipipipi…

 

いつまでも続く電子音。 スカウターは今も戦闘力の計算に忙しく、計測が終了しない。

そして、

 

ボンッ!

 

という音をたててサウザー、ドーレ、ネイズの超強化スカウターが同時に爆散してしまう。

クウラが改良して以来の随分と久々のことであった。

スカウターが爆発する………

それはつまり、計測対象の戦闘力がとんでもない事になっている証拠で、

4人は互いの顔を見合って何か恐ろしいことが起こっている…と覚悟した。

直後、

 

「あっ! 見ろっ!!」

 

ネイズが叫んで指を指すとその先には崩れつつある機械星……の筈であったが、

なんと崩壊し周囲に飛散を始めていた大小の残骸達が、

再び機械星の中核に向かって集い始めていた。

 

「お、おい、なんか……小さくなってねぇか?」

 

ドーレがそう指摘した通り、

金属の星は遠目で見てすぐに分かる程のスピードで異常収縮を始めていた。

星が爆発する直前、こういった動きをするモノもあることを機甲戦隊は知っていた。

だがそれらとも何か異なるように彼らには見えた。

 

「なんだ…何が起こっているんだ! クウラ様は本当に無事なのか!」

 

スカウターが壊れたとはいえ気の探知は既に出来るサウザー達だ。

クウラの気は未だに感じる。

感じるのだが、その大きさが尋常ではない。

今までの、勝手知ったる主人の気もとてつもなかったが、今はそれを遥かに上回る。

その気は、別段彼らに敵意を向けているわけでもなく、

戦いに向けて高められたものでもない。

ただクウラが垂れ流しているだけの気だ。

しかしそれでも………味方である機甲戦隊ですら寒気がするレベルであった。

 

「あ、あ……星が……」

 

不自然な程に一瞬。 瞬きよりも短い刹那に、整然と、

機械の星が圧縮されその全てが人型に吸い込まれていく。

その人型の正体…それは当然、

 

「クウラ様!」

 

ザンギャが真っ先に彼の名を呼ぶのだった。

 

(バカな! この俺がクウラ様の名を呼ぶ反応速度で、負けた!?)

 

そのことに対してサウザーがかなりどうでもいい敗北感を感じていた時、

すでにザンギャは機甲戦隊の陣形を飛び出してクウラの元へと飛び立っていた。

 

「き、貴様……新入りのくせに俺を出し抜いてクウラ様の元にいこうとは!」

 

やはりサウザーがどうでもいいことでキレつつ彼女の後を追ったが、

 

「お、おい落ち着けよサウザー。 そもそもアイツを焚き付けたの俺らじゃねぇか」

 

ドーレが、

 

「寧ろいい傾向だろう」

 

ネイズが続いて後を追いながら親衛隊長を慰める?のであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、特にクウラからの言葉もなく、

ただ静かに不気味な気を放つ主と共に大型宇宙船に戻った彼らだが、

クウラが船内に入り床に降り立ったその瞬間……、

クウラの足から無数の半導体集積回路に似た線が伸びてきて高速で船体中を駆け巡った。

幾何学的に広がっていくそれは瞬く間に大型宇宙船の全てを覆い尽くし、

 

「なっ!? クウラ様…こ、これは一体!?」

 

「ひっ……船が、い、一瞬で変な模様に…!」

 

サウザーとネイズが情けない声を出し、他の2人も畏怖する。

いくら崇拝するクウラの行いといえども、

全く理解できぬ行為はサウザー達に未知への本能的恐怖を与えたようだった。

 

「この宇宙船に改造を施す。

 以前とは違う……少々大掛かりな改修になる」

 

両足を半ば宇宙船と融合させたような姿となったクウラ。

その足は、膝から下が先程のものと同じような回路模様に覆われていて、

紫の皮膚はメタル化時のような白銀に変化していた。

ドクリッ、と船そのものが心臓のように脈動したように振動し、

直後、船を覆っていた回路模様はシュルシュルとクウラの足へと吸い込まれていった。

機甲戦隊はただ右往左往していただけで、

その内に、1分と掛からずにその現象は終わってしまった。

 

「も、もう改造は…終わったのですか?」

 

サウザーが恐る恐る聞くと、

 

「す、すげぇ……なんだこれ…!」

 

ネイズが船のコンピューターのコンソールを操作しながら驚愕し、

大モニターに船内図を表示して皆に見せてやるのだった。

 

「でっっっっ!!」

 

「かいっっっ!!!」

 

「これは……ちょっとした小惑星級だね」

 

サウザーとドーレが息の合った驚き方をし、ザンギャは至極冷静に感嘆する。

 

「機械惑星ビッグゲテスターの小型版……といった所だ」

 

必要なことすら余り言ってくれないことが多いクウラだが、

今回ばかりはさすがに説明してくれた。(一言だけだが)

 

「この移動要塞で、とうとう本格的に宇宙支配に乗り出すのですね!?」

 

サウザーが喜々として言う。

大モニターに表示されている移動要塞見取り図は、大工廠や各生産施設等を完備している。

明らかに大規模な戦闘への準備に思えた。

ザンギャは、クウラがそういった領土欲を持っているタイプに思えなかったので、

 

「そうだ」

 

という返事をしたクウラを意外に思った。

主君のその言葉にサウザーはいよいよ喜び、

彼の同僚が得意としていたという喜びのダンスでも踊りだしそうな勢いで、

 

「お、おお! とうとう亡きコルド様、フリーザ様の遺志を継ぐ決意をなされたのですね!?

 宇宙の帝王としてお立ちになると!! こ、これはいよいよ御嫡子の存在も必要になるぞ!!

 うははははは! やった! クウラ様のお子がいよいよ―――」

 

夢物語に思いを馳せる。 だが、

 

「―――俺はまだ甘かった」

 

「えっ?」

 

クウラの冷厳な声に現実に引き戻された。

 

「俺にはまだ……甘さがあった。

 生命エネルギーの集め方が温すぎた。

 ……………これからは4つの大銀河に対し、同時攻撃を仕掛ける。

 全ての星を破壊し、喰らうのだ」

 

「同時………攻撃?」

 

ドーレが、主君の静かな迫力に息を呑みながら聞き返すと、

 

「さすがに造り慣れているな………工廠で、早速10機完成したようだ………入れ」

 

5人全員がこの部屋に揃っているというのに、誰が外から入ってくるというのか。

クウラが何者かに許可を出すとメインルームの扉が開き、

そこには白銀に輝くメタルボディの男達が控えていたのだ。

 

「あああ! ク、クウラ様!!?」

 

「銀色のクウラ様が………10人、いる!!」

 

「銀色のクウラ、様…!」

 

機甲戦隊は余りの出来事にやや放心状態である。

 

「およそ1年…100万体といったところか…。

 100万のマシーン共で生命エネルギーを宇宙中から回収する。

 そうすれば……………………俺は神の領域に手が届く!!」

 

クウラの恐るべき宣言。

彼の目的は宇宙支配などという生易しいものではない。

それよりももっと恐ろしく、おぞましいもの。

全宇宙を生贄に、自らが神になろうというのだ。

 

「俺は甘かった………甘くならざるを得なかった。

 だが、今日この時より…それも終わる。

 破壊神とサイヤ人を………俺は超えてみせる。 どんな手を使おうともな…」

 

クウラは破壊神から1年以上逃げ切る自信ができたのである。

今までは無かった。 確かに破壊神を恐れ、安全策を打っていた。

だが今のクウラは融合が完成したことによってその戦闘力は100倍の20兆に到達……、

メタモル星人やナメック星人と同等以上の融合を果たしていた。

そして自分とビッグゲテスター、双方の能力増強の結果、

ビッグゲテスターの超テクノロジーそのものも神の領域に踏み込みつつある。

クウラは戦闘力数兆級のメタルクウラを大量生産出来るようになったのだ。 

粗製品でなければ、それ以上の戦闘力を与えることも出来るだろう。

1年をかけてメタルクウラ軍団で全宇宙から生命エネルギーを吸収した時、

ビッグゲテスターの試算ではクウラに集まるエネルギーは少なくとも戦闘力3600兆相当。

必要とされる有人惑星の数は最低でも730億と予想される。

 

(俺が最強となる為の贄としては大した数ではない)

 

その星に住む命の数を含めて考えてみても、やはりクウラにとっては些細なことだ。

しかも最終形態とメタル化の強化効率も同時に鍛錬出来れば……、

破壊神級となるのがいよいよ現実味を帯びてきたのである。

だが、クウラとてそこまで手広くやれば神々が自分を見逃す筈はないと理解している。

これは賭けであった。

自分と同質の気を有する宇宙中に散らばった100万体のメタルクウラの中から、

気を抑えた本体を破壊神が見つけることが出来るかどうか……。

しかも成長したクウラとビッグゲテスターは、

瞬間移動・時間移動の技術を転用し異次元空間へ滞留が出来る。

つまり違う次元空間に隠れ潜むことが出来るようにすらなっていて、

なかなかに分は悪くない賭けである…とクウラは踏んでいる。

 

1年、彼が破壊神から生き延びた時……。

その時は彼の戦闘力が『京』、即ち神の領域に足を踏み入れる時である。

 


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