並盛町妖奇譚   作:雪宮春夏

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 間を置かずに投稿出来ました。雪宮春夏です。

 半端な状態で放置しているものはまだまだありますが、次もあまり間を置かないように頑張りたいと思います。

 それではどうぞご覧下さい。


第五譚 急がば回れ……?

 器具に縛られていた少年……山本武によると、彼が縛られていた理由は、こういう事らしかった。

 彼等、この並盛中学と言う建物に通う一年生は、本日スポーツ大会と言う催しがあるらしく。

 その催しで行われる競技は、多種ある競技の中で彼の最も得手とする二つの内の一つ、「剣道」と言う個別競技らしい。

 そして、本日発表された、そのスポーツ大会の優勝者に贈られる()()()()を、学年中の男達が狙っており……。

「そんで、自分のクラスからも他のクラスからも優勝をとられたくないって理由で団結された俺は、準備のどさくさに紛れて、ここに閉じ込められたのなー」

 でもあんたがここに閉じ込められた理由までは知んねぇわ。ごめんなー……と。

 呆気からんと周囲による裏切りの顛末をホケホケと語った男、山本には悲壮感のひの字もない。

「そ……そうですか……」

 誰と尋ねただけでここまで喋ってくれた山本は、子どもからすればかなりの口達者だった。その口周りの良さは軽く犬や千種を上回っていると言って良い。

 それと同時に、距離を測りにくい彼の挙動に怯みながら、彼の言葉から気になった所を子どもは問いかけた。

「それで、そこまで皆さんが欲しがっている()()って……?」

「あぁ。「笹川京子」なのな」

「へ?」

 てっきり出て来るのは何らかの食べ物や金目の物かと思っていた子どもは、あまりに場違いな……どう控えめに考えても人名にしか聞き取れないその単語に、ポカンと口を半開きにしてしまった。

(いや……俺が知らないだけで、もしかして最新型のパソコンとか?いやでも、ささがわ……きょうこ……って、どう考えても)

「正確には、そいつを一日デートに誘える権利?だったっけなー。俺は全然興味ないから、出来れば実用品が良かったのなー」

 注釈のように付け加えられた山本の言葉は、しかし子どもの耳を素通りしていく。

 情報が手に入ったように見えて、しかし実際は、謎がその分多くなった様な損得どちらか分からない会話に、子どもはただ頭を抱えて項垂れた。

「結局俺……どうすれば良いんだろう……?」

 

「よろしいのですか?委員長」

 手元の携帯の通話ボタンを切った男に、一人の男は声をかけた。

「別に……動く必要は無いだろう。この学校にはいつも通り、妖怪なんかは「彼等」以外入っちゃいない。依り代だかなんだが知らないけど、人同士の諍いにまで口を挟むつもりはないよ」

 面倒くさいと一言の元に切り捨てた「委員長」……彼は黒い学ランを肩にかけ、窓から人が雑多に行き交うグラウンドを見下ろしている。

 彼が気に入るこの場所が栄えるのは結構だが、このような雑多な人の群れは気に入らない。そんなジレンマに襲われながら、彼……並盛中学風紀委員長、雲雀恭弥は、ここ数年連絡を絶えていたある腐れ縁の男の子飼いからもたらされた情報を思いおこしていた。

「大体……こんな所で野垂れ死なせるくらいなら、あの子にとっても依り代は最早不要ということだろう?それであの子とまた戦えるようになるんなら、こちらとしては大歓迎だよ」

 その時を想像したのか、薄らと微笑みを浮かべて舌舐めずりまでする姿に、男……草壁哲矢は言い知れぬ恐怖と、それ以上の歓喜を覚えた。

 出自は「京妖怪」である雲雀恭弥………現在はそう名乗る闇烏(やみがらす)と言うこの妖怪には、人を襲うことに対する躊躇いや後ろめたさなどは無い。

 ここら一帯を仕切る奴良組……彼等の言い分は一理あるかもしれないが、人を襲わない妖怪など、彼からすれば、畏れられる事こそが本分である妖怪の価値を一つ損失させるような馬鹿馬鹿しい話でしかなかった。

 無論、今となっては人間を絶滅させるという羽衣狐の夢物語も鼻で笑える代物ではある。

 妖怪は、人に恐れられなければ存在出来ない。

 その知る彼からすれば、人間を絶滅させるという目的は愚考でしかないのである。

 自滅するのは勝手だが、巻き込まれる事を由とするほどきょうやはまだ生を謳歌してはいない。

「さて。あいつの子飼いとボンゴレの犬がどうでるか……高みの見物と行こうじゃないか…」

 

 「闇烏(やみがらす)」……彼等の組織においては「駆喪(くも)」と呼ばれるその幹部の思惑など知る由もなく、依り代の捜索をしていた柿本千種は、今し方その当人に切られた携帯電話を見て、零しそうになっていた溜息を呑み込んだ。

 依り代の捜索における救援を頼んだのだが、断られてしまったのだ。

 妨害をする気は無いが、援護もしない。平たく言えば、それが相手のスタンスだった。

 依り代の内にいる「宇宙(そら)」が心配ではないのかと問うても、己の認めた彼ならばこの程度の窮地に助けは入らないと返された。

(こうなってくると……犬を気絶させたのは失敗だったかも……)

 並盛中学は、この並盛と言う町において唯一の公立中学。町内にある中学校は、他には私立で緑中という女子専門の中学ともう一校、名門高校進学を目的とした、「進学校」と呼ばれる一校しかない。

 その内情もあってか、町の住民の多くを学生として招き入れる場所と言う事実も加わり、その敷地内は決して狭くは無かった。

 その上、寄りつかない場所であったが故の土地勘の無さと、犬を気絶させた事で生じた人不足である。

 この国に来てまだ間のない黄のアルコバレーノと、己のみ。そんな人員で人一人を捜すことのなんと難しいことか。

「援軍は無し……となると別れた方が無難みてぇだな」

 消沈する千種とは異なり……おそらく相手と面識もないが故、端から期待も持たなかったのだろう、黄のアルコバレーノは、軽い口調で断りを入れてから、一人行動を開始した。

(アレもマフィアである以上「沈黙の掟(オメルタ)」に縛られている筈の身の上……!関係の無い生徒の目に付くようなおかしな行動はしないはずだけど……!!)

 己に言い聞かせるかのような思考へ走りながらも、その実、全く信用をおけないのはおそらく、あれが()()()と同じアルコバレーノであるからだろう。

(バカじゃないの……あんなの、どちらも悪いわけじゃない。分かっている筈なのに)

 自分達ファミリーの人間が、鬼罹達幹部が、今も理解は出来てはいるものの納得が出来ない()()()の「裏切り」を、最初に許したのは誰であろう己達の大将たる「宇宙(そら)」だった。

 あの女にとっては、「宇宙(そら)」は大恩ある相手だった筈だ。少なくとも彼らはそう認識していた。

 そのような存在の裏切りにも関わらず、彼は僅かに泣きそうな顔で仕方がないと笑ったのだ。

 悲しくないはずが無い。家族という物を知っていながら、既に持たない宇宙(そら)だからこそ、何よりも彼女と、生まれてくるであろう子どもを大切にしようとしていたのだから。それにもかかわらず、それを知っていたあの女は、子を宿したまま宇宙(そら)から離れたのだ。人間で言えば、「離縁」と呼べるそれを、一方的に突きつけて。

 当然、それを知った周りの幹部達は荒れに荒れた。

 中でも神業(かみなり)等は、見つけ出して八つ裂きにするとまで息巻いたのだ。

 しかしそれを、強い口調で禁じたのは他ならない、宇宙(そら)であった。

 しかもその時浮かべた泣きの混じった苦笑顔にはどこか周りにいた筈の幹部格の者達にさえ有無を言わせない力があった。

(僕らには……理解できないのかな?)

 その当時のことを思い出し、千種はらしくも無い感情を覚えた。

 幹部格でない千種や犬には、事の詳細など直属の上司である鬼罹から聞かされること以上の事など知らない。

 その鬼罹とて、必要以上の事は語りたがらないのだから、そんな彼しか満足な情報源が無い千種達が知っていることは更に限定される。

 そんな断片的な情報だけで全てを理解しろと言うのは誰が聞いてもどだい無理の話であった。

(……まぁ、アルコバレーノの事は取りあえずどうでもいい。今は依り代の事……)

 無理矢理でも気持ちを切り替えるために意識して呼吸を整え、千種はこれからとるべき行動の最善を考える。

 つらつらと脇道に逸れる思考を繰り返しているこの現状はどう考えても最善とは言えない。

 無自覚ながらも、己もまた平静を欠いているのだと、自らの心を戒める。

 これからの選択肢としては、一度犬が彼を置き去りにしたというところに戻ってみるという道もあるが、自発的に離れたという可能性が低い以上、そこに戻っていると言う可能性は低いだろう。

(幹部の駆裳がいる以上、この地に敵対勢力の妖怪は居ないと見るのが確実……だとすれば、依り代を襲ったのは人間である可能性が高い……)

 ならば自然と、探らなければならない対象も見えてくるというものだ。

(ならば、諍いの種もまた……人間……?)

 しかし、既に数年単位で人とは関わっていないはずの依り代が何故狙われたのか、そればかりは千種にも分かりようが無かった。

 

(さて……どこを探すかな)

 人が多く居そうな場所を探りつつ、リボーンは人目に触れない様に隠れながら移動していた。

 まだ邂逅して数時間にも満たないリボーンには、当然ながら彼の子どもの行動パターン等分からない。

 その上、この土地自体がリボーンにとっては訪れて間もない場所。土地勘も無しに探すとなると、おいそれと簡単にはいかないものだろう。

(まともに探そうと思えばな……)

 しかしそこは一流の殺し屋と言われたリボーンである。そもそも殺しの仕事において、標的の位置が不明瞭というのは珍しい事態ではない。

 狙われている自覚のある者は得てして、逃げる力にも長けている。

 だからこそ、そんな厄介者を何人も葬ってきたリボーンが逆に逃げる獲物を見つける力に長けていった事は当たり前と言えよう。

(あいつが今日ここに来たのは予定されていた行動じゃねぇ。原因の俺が言うのも何だが昔からあいつを狙っていた何者かが行動を起こしたというよりはこの場所であいつと偶然居合わせた人間が、何らかの理由で場当たり的にやった可能性が高い……となると)

 キラリと、リボーンの目が光る。

 そこに映ったのはこの学校の制服だろうそれに身を包む、子供達で出来た人集り。

「ビンゴだぞ」

 小声で言うや否や、リボーンは目にも止まらぬ早さで、人集りの中に紛れ込む。

 勿論、この中にその下手人がいない可能性もある。

 しかし、事情報の収集と言うことならば、人は多ければ多いほど、最終的な情報の精度は跳ね上がるというものであった。

 




 情報はあるようでないようで……。

 まだまだ全体像は見えにくいかもしれません。

 皆さん中にいろいろ抱える方ばかりだから仕方ありませんが。

 それではここまでどうもありがとうございました。

 ではまた次の機会に。

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