Fate/XXI   作:荒風

21 / 35
ACT18:深淵の『皇帝』

 

 

 アサシンの願い。それが放たれたことで訪れた沈黙は、セイバーの願いを聞かされた時の沈黙よりも、僅かに長かった。

 

「て、敵の消滅? お、おい貴様、まさか自分を殺した敵に復讐する……それが聖杯にかける願いだというのか?」

「少し違うな。別に過去の復讐に囚われているわけではない。未来において我が障害となる、ジョースターの一族を取り除く。それが願いだ」

 

 ライダーが、セイバーに対して問い返した時よりも戸惑ったように言い、アサシンが周囲の戸惑いも気にせずに答える。次に、ランサーが口を開いた。

 

「貴様、己が敵を倒すことを、自分の手ですることなく、聖杯の力によって行うと? それでいいのか? それで貴様は満足なのか?」

「何の問題がある? 私が聖杯によって敵を殺すのと、貴様が槍によって敵を殺すのと、何の違いがある? ただ武器が、手段が違うだけだろう。まあ貴様らにはくだらん美意識による違いがあるのかもしれんが、このDIOにそれはない。『勝利して支配する』。それだけが満足感だと、言ったとおりだ」

 

 怒りを含んだ口調にランサーに、アサシンはむしろ嘲笑を浮かべて応じた。3番目に口を開いたのはセイバーだ。彼女は強い警戒と共に声をかける。

 

「いかなる願いも叶える、万能の願望器を使うに、釣り合う目的なのか? それほどそのジョースターの一族とやらを恐れているのか? お前にとって、ただ一つの宿敵の家系が、6組の英雄と魔術師、その背後にある血族や組織を敵にまわす以上の脅威であるというのか?」

「……恐れるなどと、勘違いしてもらっては困る。私は奴らに恐怖を感じてはいない。ただ奴らはこのDIOに、どこまでも鬱陶しくこびりついてくる。その運命じみた因縁だけは、このDIOをしてなお侮れないと言わねばならない。だからこそ断ち斬る」

 

 アサシンは拳を握り、顔の前にかざす。それはこの聖杯戦争の参加者へ向けたものか、それともここにはいないジョースターの一族へと振るうものか。あるいはそれは拳ではなく、欲するものを掴み、握り締めて決して離すまいという、強い欲望の表れであったのかもしれない。

 

「奴らを倒すということは、この聖杯戦争での戦いのように、ただ邪魔者を消すというだけではない。ジョースターを倒すと言うことは、このDIOにとって『運命』に打ち勝つということに等しい。ゆえに……私は絶対に成し遂げて見せる。『運命』を……支配するために」

 

 アサシンの宣言に、誰も何も言うことはなかった。言っても無駄だということが理解できた。このアサシンは、はじめから聖杯戦争の参加者など、敵としても、同格の存在とも見てはいない。彼の『世界』には自分しかいない。他は全て道具か食料か、塵に過ぎない。

 使うか捨てるか、それだけだ。『倒す』に値するものがあるとすれば、それは彼の語る『ジョースターの血統』だけだろう。

 

(危険すぎる)

 

 セイバーはこの場にいることの危険性に歯噛みした。

 この中でセイバーの陣営だけは、形兆たちからの情報でアサシンの能力を知っている。

 

『時を止める能力』

 

 およそ、人間にできることではない、神にさえできるかわからぬ、超越能力。このアサシンはいつでも、この場の全員の首を取ることが可能なのだ。だが、セイバーはこの酒の席でそれを使うとは思っていなかった。

 アサシンもまた『王』であるなら、『王』の誇りに賭けてこの場を血で汚すような真似はしないと、彼女の価値観から、そう判断していた。

 だが、このアサシンは、セイバーの知るような『王』ではない。行動の基となるような誇りはない。国を導くような理想はない。臣民への情さえない。ただどこまでも自分しかない、本物の悪。

 

(そんな男が、今この瞬間に我々を攻撃しない理由は、それをする利益がなく、不利益があるからに過ぎない)

 

 アイリスフィールから、アサシンが言峰綺礼のサーヴァントであり、その綺礼はアーチャーのマスターである遠坂時臣の、部下であるということは聞いている。マスター同士の関係性ゆえに、アサシンはアーチャーを殺すような行動に移れない。逆に言えば、それだけだ。

 自分の不利益になる枷が外れさえすれば、アサシンはいかなる卑劣な手段でも取るだろう。悪行のブレーキとなるものが、この男の中には何も無いのだから。

 

(む……しかし、それならなぜこの男はここにいるのでしょう。王としての挑戦などに意を介さないであろう彼にとって、敢えて、この酒宴に参加する必要は無かったはず。酒宴に参加することで、アサシンの利益となるようなこととは……)

 

   ◆

 

 アサシンは、周囲の様子を観察しながら時を待っていた。

 この宴に参加した理由の一つは、直接会話をし、それぞれのサーヴァントたちの性質を正確に見極めたかったという、ごく普通のものである。

 この狡猾なサーヴァントは、吸血鬼として、スタンド使いとしての戦闘能力のみならず、他人の心につけ込み、挑発や誘導を行うことも得意としていた。そのためには、相手の心理を見極める必要がある。傍から見ているだけでは完璧にはわからない。実際に会話をして、相手の反応を読み取ってこそ、相手の在り様が掴めるのだ。

 だが、理由はそれだけではない。

 

(順調に近づいてくるな……)

 

 彼には、それがこちらに向かってきているのがわかった。それに渡した、彼自身の一部が、それの動きを伝えてくれる。

 

(さすがに奴も、ここに着くまでは魔力が感知されぬよう、防備しながら行っているようだ。だが、奴の宝具と一体化している我が骨からは、今、奴が何か途方も無いことをやらかすために、魔術を行使し続けていることが伝わってくる)

 

 儀礼呪法クラスの多重節詠唱を数十人がかりで行っているのに匹敵する、強力な魔術が行使されようとしているのがアサシンにはわかっていた。

 

(何をするつもりか見ていたいが、下手をすれば、巻き添えを食いかねない強力な代物であるのは間違いない。下手に潜んでいるよりは、最初から表に出ていた方が動きやすい)

 

 やがて、アサシンが感じ取っていた通り、新たなる影が、この宴に乱入していた。

 

「こんばんわ、皆様方」

 

 黒のローブをまとう影であった。

 

   ◆

 

「キャスター……!」

 

 嫌悪感も露わに、セイバーが睨む。昨夜、大立ち回りを演じたばかりの狂人は、その剣呑な視線を前にしても、むしろ哀れみの笑顔さえ浮かべ、仰々しく頭を下げた。

 

「昨夜は申し訳ありませんでしたジャンヌ。私の力が及ばなかったために、貴方の心を正常に癒してさしあげることが叶わず、醜態をさらしてしまいました」

 

 自分の行動の正しさを微塵も疑わぬ怪人は、嘆かわしそうに首を振った。

 

「であればこそ、今宵こそはと、更なる『力』を用意してまいりました。どうかご覧ください。私の全身全霊を!! フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガ・ナグル・フタグン!!」

 

 そう言い放つと、手にした魔道書をかざし、そしてその術式を、隠していた魔力と共に解放した。直後、セイバーとランサーは互いにマスターを抱き寄せ、キャスターから離れるために飛び退いた。ライダーは【神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)】に、アーチャーは【天翔ける王の御座(ヴィマーナ)】に乗り込んで飛び上がり、アサシンもまた軽やかに跳躍して距離を置く。

 キャスターと彼らとの距離は20メートルほどあったが、解き放たれた魔力の奔流は、そんな距離など無意味にするだけの凄まじさを誇っていた。

 

「奴め! 今度は何を召喚するつもりだ!?」

 

 キャスターとの距離を200メートルほど広げたセイバーの目は、キャスターから外れてはいなかった。果たして、キャスターの周囲の空間が、その莫大な魔力によって捻じ曲げられ、渦を巻いたかと思うと、その渦の中心から、昨夜に召喚された海魔と同じ触手が姿を顕わした。

 キャスターの周囲に湧き出た数十本の触手は、キャスターの体を絡み取り、包み込んだ。そして、次から次へと触手が召喚され、触手同士で絡み合い、その質量を増していく。ものの数秒で高さ5メートルほどの醜い肉塊が形成され、更に成長を進めていく。

 

「こいつは何と……!!」

 

 さしものライダーも言葉にしようも無い、無茶な存在であった。キャスターが準備していた術式を行使して三十秒もした頃には、召喚され続けた触手は、見上げるほどの巨体へと変貌していた。

 目算にして50メートルはある大海魔が、周囲の木々を圧し折りながらその威容を誇り、英霊たちを睥睨する。全身に浮かんだ眼が周囲を凝視し、太い触手が禍々しくうねる。

 それはまさしく『深淵の皇帝』と呼ぶべき威容であった。

 

「そんな馬鹿な……こんなモノ、いくらキャスターのサーヴァントだって操れるわけがない!」

 

 アイリスフィールが青ざめた顔で、怪獣映画顔負けの光景を見つめ、悲鳴に近い声を上げる。

 

「あれはもはやキャスターの制御下にはない。キャスターはただあれを召喚しただけで、支配してなんかいない! あれを操ることも、消すこともできず、ただ滅茶苦茶に暴れさせるだけしかできやしない……! 今はまだキャスターの魔力供給によってその存在を維持しているはずだから、キャスターを倒せばあの怪物も消える。けれど、食事を始めて自力で魔力を補充できるようになれば、もう打つ手がない。このままじゃ、アインツベルンの森や城はおろか、この街ごとあの化け物に食い尽くされてしまうわ!!」

 

 冬木の町が滅びれば、当然、聖杯戦争も潰れることになる。キャスターが常軌を逸していたことはわかっていたが、よもやここまでとは誰も想像していなかった。

 

「こうなれば……!!」

 

 セイバーは剣を構える。両手が仕えるようになった今、彼女の剣はいつでもその真価を発揮できる状態だ。たとえ山のように巨大な魔物であろうと、彼女の切り札を持ってすれば敵ではない。

 だが、その一撃が迸るのを、一つの声が抑えた。

 

「まったく、どうやらこの宴もそろそろ終わりの時のようだな。ここは、宴の開催者として、この余が幕を引かせてもらおう!!」

 

 唸りを上げる怪物を前にして、なお轟き渡るライダーの声。戦車を駆って空を舞うライダーが、圧倒的質量差のある相手を前に、不敵に笑った。

 すると、アインツベルンの森に、熱く乾いた旋風が流れ込んだ。

 

「ん、な? これは?」

 

 ウェイバーは、その風の感触を知っていた。焼け付いたような風を知っていた。細かい砂の混じった、熱風の味を知っていた。

 

「砂漠の、風? なんでこんなところで?」

 

 かつて彷徨い歩き、死にかけた砂漠で味わった、忘れたくてもその肌が憶えこんでいる風のそれだった。

 

「諸君らよ! この宴の最後の問いだ! そも、王とは孤高なるや否や!!」

 

 ライダーが熱風を受け、身にまとうマントをなびかせながら、言い放つ。

 アーチャーは失笑した。孤高こそが王であると、無言の内に返答していた。

 

「王ならば……孤高であるしかない」

 

 セイバーもまた、躊躇わず答える。かつて彼女が王として過ごした日々を思い返せば、それがそのまま答えとなった。

 

「頂点は常にただ一つ。このDIOのみでいい」

 

 そしてアサシンもまた孤高を是とする。三人が三人とも、想いの違いはあれど、『王は孤高である』と答えた。その答えを受け、ライダーはかぶりを振る。

 

「駄目だな! まったくもってわかっておらん! やはりここは、余が本物の王と言うものを見せつけてやらねばなるまいて!!」

 

 ライダーが笑う。その笑いが世界を変え、夜の森が覆る。

 

「これは……くっ!!」

 

 アサシンが急に焦りを含んだ声をあげ、霊体化する。夜空であったはずの空間に、アサシンの天敵たる、照りつける太陽の姿が存在していた。

 

「そ、そんな……ッ!」

 

 雲ひとつない青空が広がり、木々は掻き消え、踏みしめる大地は砂へと変わる。ウェイバーとアイリスフィール、二人の魔術師は、その有様を理解し、驚愕を露わにした。

 

「固有結界――ですって!?」

 

 見渡す限り、果ての無い砂漠の世界。それこそは心象風景の具現化。世界を侵す、魔術の極限。

 

「これこそは、我が軍勢が駈け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが、等しく心に焼き付けた風景。魔術師でも無い余が、この世界をカタチにできるのは――」

 

 世界が変異した時、それぞれの位置関係もまた変化していた。ライダーを中心とすると、セイバーたち、宴の参加者たちはライダーの背後に退避させられ、大海魔はライダーの前方へ、数百メートル離れた場所にいた。化物の前に立ち塞がるはライダーただ一人だった。

 だが、それもまた変わる。

 

「これが、我ら全員の心象であるからさ」

 

 ライダーの周囲に、蜃気楼のような朧な人影が一つ、二つと、現れる。影は色と形をはっきりとさせていき、その数もまた次々と増えていく。イスカンダルの周囲を、無数の騎兵たちが囲みつつあった。

 人種は違う。装備も違う。だが誰もが覇気に溢れ、心身を鍛え抜かれた卓越した戦士であることは、誰の目にも明らかだった。

 その戦士たちを見て、ウェイバーは理解する。その途方も無さを。

 

「こいつら……一騎一騎が、サーヴァントだ……」

 

 サーヴァントの霊格を見抜き、評価する、マスターとしての透視能力で、ウェイバーは既に何百人もの軍団となった兵たちの正体を見抜いていた。

 

「肉体は滅び、魂は英霊として『世界』に召し上げられて。なお余に忠義する伝説の勇者たち。時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具――【王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】なり!!」

 

 召喚された兵士一体一体が英霊。千人に昇る軍団の、一騎一騎が人知を超えた伝説そのもの。これこそランクEX、すなわち計測不能の規格外宝具。独立サーヴァントの連続召喚。

 この場に現れた軍勢は、全員が偉大なるイスカンダルと共に時代を駆け、それを誇りとして生きた勇者たちだ。

 その軍勢の中から、巨大な軍馬が歩み出る。獣でありながら、ウェイバーの目にはその馬に確かな力が宿っていることがわかった。この馬もまた間違いなく、一体の英霊なのだ。

 

「久しいな、相棒」

 

 ライダーは笑ってその巨馬にまたがる。ライダーの巨体を難なく受け止め、駿馬は猛々しくいなないた。

 間違いなくこの馬こそ、イスカンダルの伝説を彩る彼の愛馬、ブケファラスである。かつてこの馬が命を落としたとき、イスカンダルはその名にちなみ、『ブケファラー』という町をつくり、その死を悼んだという。

 

「王とは、誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!!」

 

 そのブケファラスに騎乗したイスカンダルが、声を放つ。それに応えて、千の英霊が一斉に盾を打ち鳴らした。

 その光景に、セイバーが衝撃のあまり、その身を震わせる。その絶大にして完璧な臣下の支持。宝具にさえ成った絆の力。理想の王として高みに在り続けた騎士王が、最後まで手に入れられなかったものであった。

 

「すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に、王は孤高にあらず! その偉志は、すべての国民の総算たるが故に!!」

『然り! 然り! 然り!』

 

 王に応える、英霊たちの声は、重なり束ねられ、空に響き、大地を打った。かつて遥か彼方まで突き進んだ征服王の軍勢は、天を突かんばかりの怪物を前にしてなお、怖じることはなかった。

 

「いかに異界の魔物であろうと、我が軍勢に制覇できぬ敵ではない。では行くぞ諸君………蹂躙せよ!!」

AAAALaLaLaLaLaLaLaie(アアアアララララララライッ)!!』

 

 雄叫びと共に海魔へ向けて突き進む、無双の大軍団。

 しかしいくら征服王の宝具が桁違いとはいえ、敵対する相手もまた、並み外れた体躯の化物。たとえ数があろうと、このスケールの差では、どうにもしがたいように見えた。だが、軍の左翼の先頭を切る戦士が、右腕をかざした時、その見方は否定された。

 

 男の右手の中指に嵌められた指輪より、一条の光が放たれた。それはただの光と言うにしては、形が固定されているようで、言わば『光の矢』と呼べるようなものだった。『光の矢』は巨大海魔に突き刺さると、小規模ながら爆発を起こして肉を抉り飛ばし、灼熱によって体表を焼き焦がした。

 

「――sS! d!!! ――Bu!! ――Qaaaaaa!!!!」

 

 しかし、その損傷は瞬時に埋まり、完全に再生する。そして人間の耳では聞きとるのも難しいような奇怪な叫びをあげ、海魔はその身から生やした、巨大な触手の一本を振るった。

 右翼を走る男が、特に巨大な触手の標的となる。貨物列車ほどもある触手に対し、その男は剣を抜く。男は、片方しかない眼で触手を睨み、剣を一閃。どう見ても剣の長さよりも幅のある触手を、軽く切断してのけた。

 切り離された触手は落下し、焼けた砂の大地を転がる。兵士たちはそれを素早く避け、巻き込まれて潰されるような間抜けな者は一人もいなかった。

 

 その二人の力を見て、観衆は理解した。征服王の軍勢は、一騎一騎が英霊にしてサーヴァント。ならば、宝具もまた所有していて当然であるということを。マスターから十分な魔力を得られれば、それらの宝具を存分に駆使できるのだ。

 

 だが切り離された触手もまた、すぐに生え換わる。軍勢は魔物の触手を剣で切り裂き、槍で貫き、矢を射かけるが、どれも傷つけることはできても再生してしまう。ライダーの軍勢は攻めかかりながらも有効な打撃を与えられずにいた。どうやらこの怪物の再生能力は無尽蔵らしく、倒すには、強力な火力で一度に滅ぼす必要がある。

 

 しかし、ライダーの軍勢は、別の手段をとった。

 

 軍勢が触手を刻み、時に本体にまで剣を突き立てながら、なおも傷を治して前進しようとする海魔の皇帝。足止めするのが精いっぱいと言う中、後方に立つ二人の男が動いた。

 黒髪の美青年が、自分の右側に立つ、縞柄の頭巾(クラフト)を被った、いわゆる古きエジプトの(ファラオ)の装いをした男に話しかける。ファラオの男が頷くと、ファラオの周囲の空間に波紋が起こった。それはアーチャーが武器を無数に射出した時と同じ現象であったが、今回現れたのは武具でも酒でもなく、書物であった。冊子であったり巻物であったり、一枚の大きな紙を折りたたんだりしたものであったが、どれも古めかしく、そして異様な魔力を籠らせていた。

 その書物の一つの冊子を美青年は手に取る。静かな様子だったが、眼球の動きは凄まじい速度で動いており、書物を読む速さが相当のものであると、見る者に感じさせた。十秒ほど書物に眼を通した美青年は、あるページで手を止め、右手をかざす。右手から、エメラルド色に光り輝く、細長い霊体が顕れた。その形を良く見れば、どうやら蛇を模したものらしく、その『蛇』は翼も無いのに空を舞い、鳥よりも速く、最前線で海魔に剣を叩きつけるライダーへと向かった。

『蛇』がライダーのもとに辿り着いたかと思うと、『蛇』は閃光を放った後、消滅した。だが、どうやらそれで何らかのメッセージを伝えることができたらしく、ライダーが手ぶりつきで軍に命令を下した。

 

「パルメニオン! 左翼を率いてこやつを抑えよ!! その間に、重装歩兵部隊指揮、ペルディッカス! 騎兵隊指揮、フィロタス! 軽装歩兵部隊指揮、ネアルコス! 戦象部隊指揮、ポロス! それぞれの部隊を、我が意に従って動かすべし!!」

 

 命令に速やかに従った軍勢は、突然の指示だと言うのに非常に正確に、移動を開始した。陣形が正面から突撃する楔形から、海魔を取り囲むものへと移り変わっていく。やがて軍の動きが止まった時、海魔が一瞬、痺れたように痙攣した。

 

 そして、ファラオの男がパチリと指を鳴らす。すると、ファラオの男の背後に非常に高い『塔』が伸びあがった。空を貫かんばかりに高い『塔』は、伸び切った瞬間、その頂点から光を放った。光は真っ直ぐに海魔を撃ち、その体表を焼く。その規模、威力は対軍宝具に相当するものだったが、それでもこの大怪物にとっては、すぐに治る傷だった。

 

 そのはずだった。

 

 だが、今の攻撃は癒えなかった。再生することはなく、傷は開いたままであった。この異変に、ウェイバーは眼を凝らす。そして、先ほどまでと変わった、征服王の陣形を見て、その理由を察した。

 

「あいつら……軍勢で魔法陣を描いてやがる!!」

 

 軍の陣形は、今や海魔を中心とする、星の形。西洋では五芒星(ペンタグラム)、日本では晴明桔梗紋(せいめいききょうもん)、そして、ある特殊な宗教においては【旧き印(エルダーサイン)】と呼ばれるものを形成していた。

 それが、あの海魔の再生能力を封じているのだ。

 

「もはやあやつはただの木偶の坊よ!! 皆の者、盛大に蹂躙せよ!!」

AAAALaLaLaLaLaLaLaie(アアアアララララララライッ)!!』

 

 これで攻撃も通用するとわかった軍勢は、魔法陣を形成する兵士たち以外、一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 獅子をも素手で殺しそうな逞しい男が、駿馬に跨り、触手へと突撃する。馬の身から霊的な炎が放たれ、触手を焼いていった。

 さきほど、書物から海魔を弱体化させる方法を調べたらしい美青年が、『黒い蛇』の形をした呪気を放ち、海魔の肉を腐らせていく。

 白皙紅顔の美青年が戦車を走らせ、海魔の本体にぶつかっていった。左右で色の違う、黒の右眼と青の左眼で海魔を冷酷に観察すると、その身から強い香りを放った。香りは聖気を帯び、海魔の汚れた肉を浄化し、滅ぼしていく。

 

 蟻の群れが甘い菓子に群がっていくような光景だった。いくら巨体であろうとも、飛び道具の持ち合わせは無く、力任せに触手を叩きつけるか、絡みつくか程度の単純な攻撃しかできぬ魔物に負ける兵ではない。怪獣は、次から次へと押し寄せる攻撃に、積み重なる損傷に、だんだんとその体積を減らしていく。

 

AAAALaLaLaLaLaLaLaie(アアアアララララララライッ)!!」

 

 ライダーが海魔の、半分ほどにまで損壊した肉体を駆け登る。ブケファロスの蹄は、ただその上を走るだけで海魔の肉体に衝撃を与え、その肉を大きく抉り取っていった。

 大砲の轟音にも近い足音が響く中、ライダーは一瞬、その足音の質が違う時があったことに気付いた。

 

「む! そこかぁ!!」

 

 ライダーは、ブケファロスの足音が異質であった場所に戻って降り立ち、その手の剣をその場に突き立てる。

 

「ガ、ギャッ!?」

 

 そここそは、キャスターが隠れ潜んでいた場所だった。キャスターの潜む空間があった分、音が違った響き方をしていたのだ。剣の切っ先に肩を貫かれ、耳障りな悲鳴をあげたキャスターが、たまらずとばかりに肉塊の中から這い出してきた。ライダーに背を向けて逃げようとするが、そもそも軍勢に取り囲まれた状態で、固有結界に閉じ込められた状態で、一体どこへ逃げようというのか。

 

「待てい!!」

 

 一気に斬り伏せようと振るったライダーの剣から逃げたキャスターだったが、その剣はキャスターの右足を深く傷つけた。

 

「ヒ、ギャッ! ギイイイイ!!」

 

 叫び狂いながらも、キャスターは必死で逃げ延びるために手を尽くした。

 

「アァァァ……爆ゼヨッ!!」

 

 一言の呪文によって、巨大な海魔の肉体が、血と泥の混じったような汚水へと変じ、崩れ流れた。

 

「ぬおおお!?」

 

 足場となっていた海魔の巨体が、一転して液体となったのだ。さしものライダーも声をあげる。しかしそこは英雄にも等しい名馬ブケファロス。馬体が汚水に沈み込む前に跳ね跳び、宙に舞う。

 ライダーが落下を始めるより先に、巨獣が変じた汚水は流れ落ちる。それはほとんど津波同然に、軍勢たちに押し寄せた。それによって兵士たちは打ち倒されることはなくとも、押し流されて散り散りになり、陣形が完全に崩れてしまった。

 ライダーを乗せたブケファロスが、20メートルほどもの高さから落下して、それでも見事に着地した時、砂漠は赤い沼となり、先ほどまでいたキャスターの姿は見当たらなかった。

 

「ふん、また隠れたか」

 

 キャスターはあの時、海魔への魔力供給を止めたのだろう。それによって海魔はこの世界に存在することができなくなり、その身を崩壊させたのだ。そしてその崩壊に紛れ、キャスターはあの窮地から逃げることに成功した。

 

「だが、ここはまだ余たちの造り出した空間。結界の中。逃げ切れるものではない。さて……」

 

 おそらくキャスターは、この生臭い血の臭いに満ちた沼の中に隠れている。

 

「この世界を展開できる時間はもう僅かだ。的確に見つけねばならん。エウメネスあたりに頼むかのう?」

 

   ◆

 

 血の海に伏せて沈みながら、キャスターは理解してしまっていた。こんなものは時間稼ぎに過ぎず、いずれは見つかり殺されることを。

 だが、まだ終われない。キャスターは絶望に落ちながらも、それでも諦めきれずに渇望する。救いを。

 何に対してかは、キャスター自身にも解らなかった。ただ、神ではないことだけは確かだった。

 

 そして、骨が唸った。

 

   ◆

 

 イスカンダルは、魔力の変動を感じた。この自分たちの空間に、外から無理矢理異物がねじ込まれてくるのを、感じ取った。

 

「召喚……しかしこの期に及んでなにを……!!」

 

 違和感が強く感じられる場所に眼を向けると、そこで水面が渦を巻き、その渦の中心に、キャスターの姿が見えた。彼の手にある魔導書からは、ぞっとするような蒼さの妖しい光が生まれ、その光の中から、一人の男が歩み出た。

 杖をついた、一人の男。その目は開いていても光が無く、盲目であることが察せられた。

 

「…………」

 

 ライダーたちが様子を窺う中、男はポツリと呟いた。

 

狙撃(シュート)

 

 瞬間、ライダーの背後で水面から何かが立ちあがった。否、水面からではない。水面そのものが形を変え、鋭い爪の生えた腕となって、ライダーに襲いかかったのだ。

 

「ぬうっ!」

 

 咄嗟にライダーは剣を振るうが、相手は液体である。剣は水の腕を素通りしてしまった。爪が、ライダーの首筋を抉ろうとした直前、ライダーをかばう影が現れる。影はライダーを押し退けて代わりに自分が傷を負った。

 

「ッ!!」

 

 黒い肌の屈強そうな男が、右腕を鋼の鎧ごと切り裂かれて呻く。

 

「おのれっ!」

 

 部下を傷つけた敵と、自分の不甲斐なさの双方に怒りながら、ライダーは盲目の男に対し身構える。しかし、この状況の悪さはわかっていた。

 今、イスカンダルの軍勢は盲目の男を取り囲んでいるが、彼らの足元には水がある。いつでも攻撃を仕掛けられるのは、今やキャスターの側だった。だが、さすがにこの水を操るらしい男も、周囲の水全てを操るわけにはいかないらしく、攻撃はしてこない。

 さながら、西部劇で銃を抜く瞬間を見極めようと、互いに睨みあっているガンマン同士のような状況だ。いつ攻撃が行われてもおかしくないが、互いにそれができない。

 そんな膠着状態が解ける前に、空間が揺らぐ。世界が移る。

 

 ライダーの【王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】の効果時間が限界を迎え、元の世界に戻ろうとしているのだ。

 

「く……仕留めきれぬか」

 

 ライダーは口惜しげに唸る。固有結界が解け、元の世界に戻った時、人々の位置関係もまた、固有結界に巻き込まれる前の状況に戻っていた。ただ、既にキャスターと、盲目の男の姿は無い。

 元の世界に戻ってすぐに、霊体化して逃げたのだろう。キャスターが元々いた位置は、他のどのサーヴァントからも200メートル以上離れていた。元々距離のハンデがある以上、追いかけても追いつくことは難しい。

 

「うーむ、カッコ悪い結果となってしまったが、あのデカブツを早めに潰せたと言うことで、まあ良かったということにするか」

 

 気を取り直し、ライダーは杯に残っていた酒を飲み干す。

 

「アサシンの奴は霊体化したままどこぞへ消えたようだが……お互い、言いたいことも言い尽くしたよな? 今日はこの辺でお開きとしようか」

 

 言いながらキュプリオトの剣を抜き払う。切り裂かれた空間から、雷神に捧げられた戦車が現れ、轟きを放った。戦車に乗り込みながら、ライダーはセイバーに目を向ける。

 

「セイバーよ。余は、余の王道に基づき、貴様を王とは認めぬ。小娘よ。貴様はその痛ましい夢から早く醒めることだ。さもなくば、貴様はいずれ、英雄として最低限の誇りさえ失うことになるだろうよ」

「な、待てライダー! 私は――!」

 

 セイバーが何を言い返すか聞くことも無く、ライダーは空に舞い上がり、まさに稲妻の如き速さで駈け抜けて行った。

 何も言うことができぬままに終わったセイバーの胸に、やりきれない想いが残る。険しい表情で、ライダーが去っていった空を睨み続けるセイバーの横合いから、声がかけられた。

 

「奴の言うことなど気に留めることはないぞ、セイバー。お前は自ら信じる通りの道を行けばいい。お前が語る王道に、微塵たりとも間違いは無い。正しすぎて、その細腰にはさぞ、荷が重かろう。その苦悩、その葛藤……実に愉快だ」

 

 アーチャーは、アサシンのそれとはまた違う邪笑を浮かべた。アサシンのそれは他者を傲然と見下し、捨て去る、『拒絶』であったが、アーチャーのそれは愛玩するものに向ける、愉悦の感情から漏れ出た『興味』だった。

 

「おのれの器に余る『正道』を背負い込み、苦しみに足掻くその道化ぶり。これほど笑えるのは久方ぶりだ。セイバー、もっと我を笑わせろ。さすれば褒美に、聖杯を賜わしてもいいぞ?」

「……宴は終わりだ。これ以上は問答ではなく、戦争の再開となるぞ?」

 

 セイバーは質量さえありそうなほどの闘志をみなぎらせ、アーチャーに叩きつける。もし受けたのがウェイバーだったら、あるいは腰を抜かしかけたかもしれないが、アーチャーはそよ風を受けたかのように、心地よさそうだった。

 

「フフッ、我に向けるような態度ではないが、道化の狼藉にいちいち気にしてもしかたない。まあせいぜい励めよ騎士王とやら。そして我が寵愛を勝ち取ってみせよ」

 

 そしてアーチャーが霊体化して、この場から去った後、残されたサーヴァントはセイバー以外には、ランサーだけとなった。

 

「セイバー」

「…………」

 

 セイバーは、ランサーに対しては強気に出られなかった。他の者たちと違い、彼とは共通する価値観を持っている。にもかかわらず、ランサーはセイバーの願いを否定する。それは、ただ騎士のみであるランサーと、騎士であり王でもあるセイバーの違いなのかもしれないが、ランサーに理解されないことは、ライダーからの否定や、アーチャーからの嗤いより、更にセイバーの面持ちに影をもたらすことだった。

 

「俺は俺の意見を言った。俺はお前の願いに反対する。お前の国の歴史が、お前に仕えた臣下たちの戦いが、お前という騎士の生き様が、お前自身に否定され、歪められるなど見てはいられない。俺はお前を、誇りに値する、尊敬すべき、友に最も近い敵であると思っている。だから俺はお前を止める。王としてではなく、騎士として、俺の槍を持ってお前を止めよう。それでもなお願いを貫くと言うのなら、俺を納得させるだけの想いを、その剣を持って語ってみせるがいい」

「……是非も無い。必ず貴方とは、堂々とした戦いと決着を誓おう」

 

 これ以上は言葉ではなく、騎士としてはより雄弁に語りあえる方法――武によって語れと、ランサーは言った。セイバーもまたそれに頷く。

 ランサーのどこまでも清廉な態度に、セイバーの心も少しは暗さが消える。迷い落ち込むことに意味は無い。そんなことをしている暇があるなら、前に進まなくてはならない。まだ、セイバーは己の正しさを信じていたのだから。

 たとえ身勝手なやり直しと言われても、それでも国を救うことは、民を護ることは、正しいことなのだと。

 そして最後に、言葉を発したのはウェイバーだった。

 

「なあセイバー、僕には王の在り方だの、騎士の生き様だのはわからないけど、一つ言いたいことはある」

 

 ウェイバーは、セイバーの願いが間違っているとは思わない。王として騎士として、やり直しは許されないという意見はわからないでもないが、たとえ過去を無駄だと言われようとも、より輝かしい未来のためなら、あえて過去を否定することも、一つの選択なのではないだろうか。

 

「あんたは王になったら人ではないと言った。王ならば孤高であるしかないと言った。けど、それは違うと思う」

 

 ウェイバーは友の顔を思い浮かべる。あえて過去を受け入れ、前に進もうとする者もいるだろうし、間違いだろうと何だろうと、やり直すと決めたんだと言う者もいそうである。そんなものは、結局人それぞれの意見だ。言葉にしてどうなるものでもない。

 だからウェイバーは、セイバーの願いが正しいとも間違いとも言わない。彼女の正しさは、彼女自身が貫くべきことで、何も知らない自分が解った気になって応援するようなものでもないと、ウェイバーは思う。彼女と、友や仲間という関係ならそれもいいが、そもそもセイバーは敵なのだから、そこが線引きだ。

 

「王になろうと、人は人でしかないし、人である以上、きっと独りではない……あんたも自分で気づいていないだけで、やっぱり人間で、そして独りではなかったんだと、そう思うよ」

 

 そうでなければ、命をかけて、犠牲を費やして、それでもやり直したいと未練を残すほど、国と人々を、愛せるわけがないのだから。

 セイバーは応えなかった。彼女はそれでもやはり、自分は王として、人ならざる孤高の存在であるべきだと思っているのだろう。

 ウェイバーも、セイバーの考え直してもらいたいわけではなかった。ただ、何だか我慢できなくなっただけだ。彼女はもう少し、人間として報われてもいいと思う。周囲から認められない彼女が、周囲の無理解を被った自分と重なったと言えば、おこがましいであろうけども、とにかく何か、声をかけてやりたくなったのだ。

 それはやはり、確かに敵であるのだとしても。

 

 その後は、誰も何も言わず、ランサーはウェイバーを抱えて、アインツベルンの森を駆け去っていった。

 セイバーは、ただ黙してそれを見送った。

 

 こうして、聖杯問答は終わりを告げたのだった。

 

   ◆

 

 アインツベルンの森から出たアサシンは、今宵のことを思う。そして、

 

「完璧だな。完璧な夜だった」

 

 アサシンにとって、有用な情報を十分に仕入れることができた。

 まずはライダーの能力。宝具さえ使いこなせるサーヴァントを大量召喚する固有結界。さすがにあの数は脅威だが、アサシンにとってより最悪なのは、固有結界に太陽の光が満ちていることだ。霊体化すれば太陽光は防げるが、それでは十全な戦闘はできない。対抗手段が必要だ。

 そして最も重要なのはキャスターの能力だ。まず巨大海魔を召喚したことには流石のアサシンも驚いたが、もし敵にまわったとしても、対処はできる。念写によってキャスターの位置を探り、時を止めて近づいたうえで、眼からの圧縮体液発射攻撃『空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)』によって海魔の肉体を貫き、キャスターの霊核を討ち抜けば倒すことも可能だ。

 アサシンにとって真に重要なのはそこではなく、最後にキャスターが召喚した『盲目の男』が、アサシンの知っている人物だったということだ。

 

「これも運命か……運命は私に味方しているということだ。私に味方する運命と、敵対する運命……ククク、それが、このDIOが運命を支配する鍵と言うことか」

 

 何やら、自分で自分の言葉に納得しながら、アサシンは足を進める。『骨』が伝えて来るキャスターの位置に向かい、夜を行く。その胸の内には、再会への期待があった。

 

「今一度、私の役に立たせてやろう……喜ぶがいい、『ンドゥール』」

 

 キャスターと共にいるであろう男の名を呟いた時、アサシンは足を止めた。

 

「……貴様、見ているな?」

 

 人の気配の無い路地裏、建物と建物の間の影を指差し、アサシンが鋭い視線を向ける。すると、影からゾワリと這い出して来た者がいた。見た目は背の低い老人であったが、異様な気配はアサシンやキャスターにも匹敵する暗さと濃さであった。

 常人であろうと、魔術師や代行者であろうと、背筋に寒気を感じるくらいはする不気味さであったが、アサシンはむしろ興味深そうに見つめる。視線を受けた老人の口から、嗄れ声が発せられた。

 

「お初にお目にかかる。なるほど、こうしてじかに見ると、まさに金色の闇。輝きながらも暗黒そのもの。カカカ、おぬしが間桐のサーヴァントとして召喚されなかったのは残念じゃ。どうじゃ? 少し話でもせぬか?」

 

 この夜が、更に完璧なものになる確信を抱きながら、アサシンは笑った。

 

「ほう……貴様か。私も会ってみたかったところだ。いいだろう。話すとしようか……間桐臓硯」

 

 まだ、夜は終わらぬようだった。

 

 

 

 

 ……To Be Continued

 




 円卓の騎士たちが召喚されているのはよく見るけれど、イスカンダルの部下たちが描写されることはあまりないと思って書いた今回。
王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)】で召喚されたサーヴァントは、宝具を使えないというのが公式設定のようですが、この作品では使えるという設定にします。ご容赦ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。