ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第09話 ドラゴン

——グリフィンドールが勝った。それなのに

箒置き場へ階段を上るハリーの心情は複雑だった。

——自分は何故、素直に喜べないのだろう。

窓の外には夕日が輝いていた。しかし、ハリーの目にそれは入らなかった。

——自分が三分でスニッチを取れないから?

階段を登りきったことにも気づかず、あやうく転ぶところだった。

——僕は負けたんだ。そう、自分に……。

無意識のうちに、ニンバス二〇〇〇片手に『森』を眺めていた。

 

「ん!?」

 


 

観客席を降りて選手であるキキちゃんが競技場から戻ってくるのを待っていると、使い魔(?)の黒猫であるジジが足をつついてきた。何か言いたいことがあるんだろうか。

 

「ジジくん、だっけ。どうしたの?」

 

にゃーん、と鳴くが、残念ながらわたしには猫の言葉はわからない。ジジはそれを思い出したのか、尻尾を曲げて競技場のほうを指した。

 

「ついて来いってこと?」

 

同意と思われる『にゃーん』が返ってきたので後を追うと、『禁じられた森』の方へ向かっているキキちゃんに追いついた。訳を聞いてみると、ジジから『森』へ向かうスネイプ先生の姿を目撃した、との報告を受けたらしい。そして、そのままジジにわたしを呼ばせたと。

 

「だから、空から追っかけよう、ってわけ。明らかに怪しいでしょ?」

「でもわたし、箒使っても使わなくても、そんなに飛ぶの上手く……」

「飛べないわけじゃないんでしょう? じゃ、ほら、こっち!」

 


 

「あら、なんでポッターがいるのかしら?」

「こっちこそ聞きたいよ。君たちもスネイプを……?」

「そうなるわね」

 

「ちょっとキキちゃーん! まって〜!」

 

わたしはキキちゃんのはるか十メートルほど後方にいた。飛行魔法の腕はからっきしで、それ単体ではとても飛べたものではない。これまた上手とはいえない学校の『流れ星』による飛行を組み合わせて、やっとのことで飛んでいる、というのが現状である。

 

「大声出したら聞こえちゃうわよ」

「あっ、そうだね。えーっと、えいっ」

 

そんなこと言われても、この距離では大声を出さないと聞こえないではないか。仕方がないので、盗聴防止魔法をかけた。

 

「それで、スネイプ先生はどこにいるの?」

「あそこよ」

 

スネイプ先生は彼らしい忍び足で、どんどん森の奥に進んでいる。森には木が鬱蒼と生い茂っていて、その姿をずっと視界にとどめておくのは困難だった。道らしい道もなく、まもなく行方はわからなくなってしまった。困った顔でキキちゃんが提案してきた。

 

「アル、どうにかなる?」

「わかんないけど、やってみる。魔力を探知すれば……」

 

杖を森のほうに向けて、空間内の魔力を探知する魔法を使う。普通はこれだけ広範囲となると人間一人の魔力なんかでは分からないことの方が多いので期待していなかったが、今回は違った。

 

「なんか、すごく強い魔力の反応が向こうに……」

 

そして、その強力な魔力の周りに範囲を絞って再検知すると、今度はスネイプ先生のものと思われる波長の魔力が検出された。つまり、スネイプ先生とは別に魔力源がある。

 

「しかもこれ、スネイプ先生のとは別っぽいよ」

「スネイプはそっちに向かってるのかしら?」

「えーっと……うん。距離は縮まっていってる」

「行くわよ」

 

その魔力の出所まで飛んでいって探知魔法を使うと、スネイプ先生もほぼ同時にそこに到達したことが分かった。しかし、木々が密集しているため、それを目視することは不可能だった。

 

「どうするの、これ以上下がったらバレちゃうかもしれないわよ」

「でも、ここからじゃ何も聞こえないぞ」

 

うーん、困った。遠くの音を聞く魔法はまだ使えないし、不安定な飛行をしている現状では、同時に複数の人間に視覚妨害の魔法をかけることはできそうにない。かといって、ここまできて何もしないで引き返す、という考えも当然持ち合わせていない。そう伝えると、ハリーはこう提案した。

 

「なら、アルーペが聞きに行って、後で教えてちょうだいよ」

「ちょっとポッター、アルだけに押し付けようって——」

「仕方ないよ。そうするしかないもん」

「——アルが言うなら仕方ないわ。くれぐれも箒から落っこちたりしないでよね」

 

一瞬ハリーに反対したキキちゃんだったが、合理的だと判断したわたしが同意すると、意見をひっくり返した。なんというか、信頼されてるのは分かるのだが、これはちょっと複雑だぞ。ともかく、覚えたばかりの視覚妨害魔法を自分一人にかける必要がある。

 

「成功率、は八七・五パーセントか……。『フェアベルゲン(verbergen)』!」

 

魔法名を詠唱するとイメージの構成が少し簡単になるので、成功率が上がる。時間はかかるが失敗する危険があるときは唱えてみるものだ。その甲斐あって、自分の姿は見事に周囲から見えなくなった。ハリーに怪しまれているが、まあ今更だろう。上級生向けの魔法とでも思っておいてくれ。

準備が済んだので高度を下げると、二人の会話が少しづつ聞こえてきた。魔力が持つのは五分ほど。そのうちに話が終わることを祈るばかりである。

 

「——あいつをどうやって出し抜くのかは考え付いたのか?」

「で、でもセブルス、私は——」

 

どうやらスネイプ先生と話しているのはクィレル先生のようだ。では、あの強力な魔力はクィレル先生から出ているというのか? あまりそういう風には感じられないが、ほかに人のいる気配もない。

 

「私を敵に回したくはないだろう?」

「な、なんのことやら——」

「何のことかは貴方が一番分かっているだろう」

 

魔力を透明化に割いているため、飛行はさらに不安定になった。バランスを崩し、あやうく真っ逆さまに落ちてしまいそうになる。ここからノーガードで落ちたらバレるとか以前の問題だ。気を引き締めねば。

 

「——あなたの『怪しげなまやかし』について教えていただけるかな……?」

「で、でも私はなにも——」

「よかろう。今度までに考え直しておくんですな。……どちらに忠誠を誓うのか」

 

会話は途絶えた。もう一度魔力探知を行うと、スネイプのものと思われるそれは遠ざかっていくようだ。用は済んだので、魔力が尽きる前にすぐに上昇して透明化を解除した。

 

「何かわかった?」

 

上空で待機していたハリーが聞くが、わたしは一刻も早く地面に足を付けたいので、話している余裕はない。

 

「うーん。ちょっと話し合う必要はありそうだけど、とりあえず早く戻らないと落っこちちゃいそう」

「それは危ないわね。戻りましょ」

 

転移魔法で帰るだけの魔力は残っていなかったので、飛んで戻るしかない。転移も透明化も飛行も風属性なのはなかなかに厄介であった。

 


 

「三人ともどこ行ってたの!」

「キキ、ハリー! 君たちの、ぼくたちの勝ちだ!」

 

談話室に戻るとハーちゃんとロンが待っていたが、キキちゃんは線香花火に水をぶっかけるように二人の歓迎を遮った。

 

「どうやらそんなことを言ってる場合じゃないみたいよ」

 

困惑する二人、そしてハリーとキキちゃんに、聞いた会話の内容をそのまま話した。終わると、ハーちゃんが冷静に分析を述べた。

 

「これまでどおり、中立の立場からその会話を聞くと、『怪しげなまやかし』や『あいつ』を『出し抜く』ことを企んでいるのはクィレル先生になるわね」

「『あいつ』って、たぶん『犬』のことだよね。名前は……フラッフィーだっけ?」

 

それを聞いて、わたしは出し抜く対象とは『三頭犬』のことだと結論づけたのだが、ロンの考えは違ったらしい。

 

「こうは考えられないか? スネイプは、『あいつ』を出し抜く方法をクィレルを脅して聞き出そうとしている。『怪しげなまやかし』ってのは、スネイプの目を盗んでクィレルが『石』の防衛を固めているのかもしれない。もともと、『犬』以外にも護りがあるのかもしれない」

「スネイプがいつも不機嫌なのは、なかなか聞き出せないからかもね」

 

ハリーもこちらの意見に賛同した。彼の中でのスネイプの印象は最悪だ。弱々しい防衛術教師とどっちが怪しいかと聞かれたら、そう思うのも無理はない。なにしろ手がかりは非常に少なく、どちらの話も可能性は十分にあるのだ。こういう時、どう考えるべきかをキキちゃんは知っていた。

 

「そうすると『石』が最も危ない——すぐに取られてしまいそうなのはウィーズリーの説ね。無事なのはスネイプがクィレルから三頭犬の出し抜き方を聞き出すまで。つまり、クィレルが抵抗を続けている間だけ」

「それじゃあ、三日と持たないよ。クィレルみたいなのじゃ、すぐに口を割るさ」

 

状況が分からないときは、常に最悪を想定する。仮に被害者がスネイプ先生だったとしても、損をするのはわたしたちだけだ。

 


 

ロンの心配は杞憂だったようで、三日どころか何週間か経ってはいてもスネイプは不機嫌なままで、クィレルもなんだかやつれているようだった。これではどっちが石を狙っているかなど分かったものではない。

 

「心を読む魔法? みたいなのがあればいいんだけど……」

「それって『開心術』のこと? 無理よ、あれはとても難しい魔法で、そうそうできるものじゃないのよ」

 

いっそのこと、どっちが何を企んでいるのかを本人から魔法で知ろうとも思ったが、ハーマイオニーによるとわたしたちにできるほど簡単なことではないらしい。ミーティスの魔法にも『開心術』に近いものがあったような気がするが、難しいのは変わらないだろう。今のところこれ以上の進展は期待できそうにないので、話題を変えた。

 

「ところでハーちゃん、それ、なにを書いてるの?」

「これ? 復習計画表よ。……あっ忘れてた、ハリー、ロン、あなたたちも作りなさいよ」

 

どうやらわたしの作った話題は男子たちに災いをもたらしてしまったらしい。ハーちゃんの提案に、ロンは「ずっと忘れていてくれ」といった調子で答えた。

 

「ハーマイオニー、試験はずっと先だよ」

「十週間先よ。ニコラス・フラメルからしたら一瞬よ」

「ぼくたち、六百歳にはまだ程遠いぜ」

 

残念ながら、先生たちもハーちゃんと同意見らしい。各教科から山のような宿題が出され、イースターの休暇はお世辞にも楽しいものではなかった。大半の時間は図書室にこもり(閉じ込められ)、まだ寒さの残る青空を横目に、とても覚えられそうもない教科書の内容を必死に頭に叩き込むのであった。

 

「それにしても、今日は久々に晴れたな」

 

ロンはもはや諦めているのか、手を止めて窓の外を恨めしく眺めていた。もっとも、記憶力については問題ないわたしは別のことを進めている。机に置いた帳面には複雑な数式が書き並べられていた。

 

「ふんっ! うーん、こうじゃないなぁ……」

「ねえ、それは何かしら?」

「えーっと、なんでもない」

「なんでもないようには見えないけど……」

 

ハーちゃんに聞かれるが、ミーティスの魔法に関することなので、とりあえずはうやむやにするしかない。ハーちゃんの方を向くと、ふと視界の端に場違いな影があることに気づいた。

 

「……あれ、ハグリッドじゃない?」

「怪しいわね」

 

本棚の間に挟まりそうなその巨体に、キキちゃんも違和感を覚えたらしい。会話を聞いて、ロンは椅子から離れるとハグリッドのほうに向かった。

 

「ハグリッド! こんなところで何してるんだい?」

「あ、いや、ちと見てるだけだ」

 

ロンの問いに答えるハグリッドの様子から、また何か隠しているのは明白だった。隠し事は苦手なようだ。

 

「お前さんたちは何をしてるんだい? まさか、ニコラス・フラメルをまだ……」

「とっくに見つけたわよ。あのおぞましい犬が何を護ってるかも」

「けんじゃ——」

「黙れっ」

 

石の名前を言いそうになったロンをハグリッドが制止した。確かにそんな重要なことを図書室などで言うべきではなく、妥当な判断といえる。

 

「何かあるなら後で小屋に来てくれ。教えるという保証はせん」

「分かったわ」

 

とりあえず話はできるようなので、その時を待つことにした。しかし、ロンは待っていられないからなのか、勉強したくないからなのか、ハグリッドのいた場所の本棚を確かめると言って席を立った。無駄な抵抗かと思われたが、案外そうでもなかったらしく、どっさりと本を抱えて戻ってきたロンは声を低めて報告した。

 

「ドラゴンだ。ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ」

「そういえば、初めて会った時に買いたいとか言ってたよ」

 

ハリーの証言もあって、ハグリッドが何を隠していたかは明白になった。しかし、それが事実だとすると大きな問題であることをロンは知っていた。

 

「でも、ドラゴンの飼育は違法だ。あんなのを飼って、マグルから隠すなんてできっこないからね」

「ねえ、ドラゴンって、その辺にいるものなのかしら?」

「もちろんいるさ。そいつらの存在をもみ消すために魔法省が苦労してるんだ。マグルに見つけられるたびに『忘却魔法』をかけないといけない」

 

キキちゃんの問いに対するロンの答えに、これは面倒事が起こっていると直感した。なぜそんな生き物について調べていたのか、それをなんとかして聞き出さなければならない——。

 


 

一時間後、『森』の入り口のハグリッドの小屋にやってきてみると、カーテンは全て締め切られ、中の様子が見えないようにしてあった。怪しい雰囲気だだ漏れである。相当なことをしているのだろう。

ドアをノックすると、ハグリッドは確認を取ったうえで素早くわたしたちを招き入れた。

 

「何か聞きたいんだったな?」

「うん。えーっと……」

 

ハリーは口ごもった。前回のことを反省しているのか、聞き出しはわたしに任せるつもりらしい。期待通り、ハグリッドに単刀直入に聞いてみた。

 

「……あの『犬』のほかにも、何か『石』を護るものがあるのかなーって」

「もちろん教えることはできん。第一、俺自身それを知らん。第二に、おまえさんらはもう知りすぎとる。知ってたとしても言わん」

 

やっぱりすんなり教えてはくれないよね……。もちろんこのぐらいは想定済みで、ハーちゃんが追い打ちをかけてくれる。

 

「ねぇ、ハグリッド。本当は知ってるんでしょう? ここで起きていることで、あなたが知らない事なんてあるわけないわ。

私たちはただ興味本位で『石』を誰がどう護ってるのかなって思っただけよ。あなた以外に、ダンブルドア先生が信頼を置かれている方は誰かしら」

「……まあ、それぐらいなら言っても構わんだろう」

 

ダンブルドア校長からの信頼を持ちだす作戦は見事成功。話したことがバレたらその信頼は欠けてしまうこと間違いなしだが……。

 

「えーっと、俺がフラッフィーを貸して、罠をかけたのが、スプラウト先生……フリットウィック先生……マクゴナガル先生……ダンブルドアはもちろん……。

あと、スネイプ先生に……クィレル先生」

 

ハグリッドがスネイプ先生とクィレル先生の名前を挙げると、ハリー、ロン、ハーマイオニーはそれを確かめるかのように目を見合わせた。そんな反応を見て、ハグリッドは続けた。

 

「まだそんなことを考えているのか? スネイプ先生もクィレル先生も、石を護る手助けをしているんだ。盗もうなんて考えるわけがない」

 

つまり、これは深刻な状況である。護る側にいるということは、その情報は容易に得られるに違いない。これまでの出来事から考えて、スネイプとクィレルどちらかの護りと、ハグリッドの『犬』の出し抜き方以外はもう全て見抜かれてしまっているのではないか。最後の防衛線を確認すべく、聴取を続ける。

 

「ねえ、ハグリッド。あの『犬』におとなしくしててもらう方法って、ハグリッドにしかわからないんだよね?」

「もちろんだ。あと、ダンブルドアもだ。俺とダンブルドア以外には絶対にわからねえ」

 

ハグリッドは得意げに答えた。クィレル先生もスネイプ先生も知らない、これが本当ならひとまずは大丈夫そうだ。話が一段落ついたところで、ハリーが悲鳴を上げ始めた。

 

「ハグリッド、窓を開けていい? 茹だっちゃうよ」

「悪いが、それはできんな」

 

即答しながら、ハグリッドは燃えさかる暖炉の方に目配せをした。つられて見てみると、その炎の中になにか球体があることに気付かされた。もう分かり切ったようなものであるが、キキちゃんは一応確認することにしたらしい。

 

「あれ、なにかしら?」

「えーと、あー……」

「どこで手に入れたの? 高かったでしょ?」

 

ロンは答えを待つことなく聞いた。ハグリッドは諦めてその質問に答えることにしたようだ。

 

「賭けに勝ったんだ。昨晩、ちょっと村まで行ってな。そいつは厄介払いできて喜んどった」

「けど、どうするの? 育てるのは難しいんでしょう?」

「それで、これをだな……」

 

ハーちゃんが不安げに聞くと、ハグリッドは先ほど図書館で借りたのであろう『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』などという本を取り出した。

 

「ちと古いが、なんでも書いとる。……ここを見てくれ。『卵の見分け方」。俺のはノルウェー・リッジバックという珍しい種類らしい」

 

目を輝かせて語ってくれたが、聞いている側からすれば恐ろしいことこの上ない話であった。なにしろ、この小屋はドラゴンの炎で焚き火をするにはとてもちょうどいい木造なのだから。

 


 

一週間ほど経ったある日、いつものように大広間で他愛もない会話をしながら朝食をとっていると、ハリーのもとにハグリッドからの手紙が届いた。内容は「いよいよ生まれるぞ」だけ。そういえば、ふくろう便には検閲があるのだろうか。

 

「すぐに行こう!」

「授業があるわ。さぼったりなんてしたら、面倒なことになるわよ」

「でも、ドラゴンの卵が孵るところなんてそうそう見られるもんじゃ——」

「まって!」

 

ロンとハーちゃんが言い合っていが、それどころではないので止めた。ドラコ・マルフォイが聞き耳を立てていたのだ。恐らくこの話は筒抜けだっただろう。盗聴防止魔法をかけておくべきだったと後悔しても後の祭りである。

 

結局、『薬草学』の授業が終わり次第、休憩時間にハグリッドの元へ行くことになった。鐘と同時に教室を飛び出し、校庭を横切ってハグリッドの小屋に飛び込んだ。

卵にはすでに深くヒビが入っていた。

 

「ちょうどよかったな、まさに今、産まれるところだ」

 

耳をすませなくとも聞こえるほどの音が卵からし始めた。ヒビもだんだん深くなってきたようだ。

息を潜めて見守っていると、突然ヒビが全体に走り、引っ掻くような音とともに卵が割れた。卵の中からは、可愛らしいとは言いがたい黒いびしょ濡れの折り畳み傘のようなものが飛び出してきた。真っ黒でひょろ長い胴体とは不釣り合いに、顔は大きかった。

 

「美しいだろう?」

 

とても同意はできない感想を述べるハグリッドがその頭を撫でようとすると、尖った牙で手を突いた。

 

「こりゃすごい。ちゃんとママが分かるのか!」

 

うむ、やはり同意しかねる。はじめからこんなで、無事に育て上げることができるとは到底思えなかった。ハーちゃんは一つ、ハグリッドに質問をした。

 

「これ、どのぐらいで大きくなるの……?」

「えーっとな——」

「あぁっ!」

 

ハグリッドが答えようとしたとき、キキちゃんが窓のほうを見て叫んだ。カーテンの隙間から、ドラコ・マルフォイに覗き見られていたようだ。今度は盗聴防止の魔法こそかけていたのだが、覗き見防止の魔法はかけていなかった。——これはけっこうマズいかもしれない。

 


 

また、一週間が経った。わたしたちはハグリッドにドラゴンをなんとかするよう説得し続けたが、目立った進捗はないままだった。

 

「逃してあげれば?」

「そりゃできん。まだこんなにちっちゃいんだ、死んじまうよ」

「ちっちゃいって、一週間で三倍ぐらいになってないか?」

 

ロンの言う通り、はっきりとドラゴンと分かるぐらいの大きさになっていた。鼻の穴からは煙が吹き出している。小屋の中はドラゴンの世話をするためのブランデーやら鶏の羽やらが散らばっていて、ハグリッドがドラゴンを飼っているというよりは、ドラゴンの住処にハグリッドがお邪魔しているような惨状だ。

 

「この子をノーバートと呼ぶことにしたんだ。

ノーバートや、ママちゃんはどこ?」

 

ハグリッドは愛情どころか時間までもを、ロンに言わせれば『狂っている』ほど注ぎ込んでいるようだった。

 

「チャーリーだ」

「ハリー、君まで狂っちゃったのかい? ぼくはロンだ。チャーリーは——」

「知ってるよ。君のお兄さんだ」

 

突然のハリーの発言に、しばらくその意味を理解できなかった。チャーリー・ウィーズリーとこの状況と一体何の関係が……。チャーリーってどんな人だったっけ。確か——

 

「なるほど、チャーリーさんに面倒を見てもらえばいいんだね!」

 

そうか、それは名案だ。以前、ロンからチャーリーがルーマニアでドラゴンの研究をしていると聞いていたのを思い出した。ハグリッドはノーバートと別れることに抵抗はあったようだが、ノーバート本人(?)にとってもその方がよい、と説得することでしぶしぶ話に応じてくれた。

 

チャーリーからの返事は、喜んで引き受ける、友達が連れて行ってくれる、バレてはまずいので土曜日の真夜中に、一番高い塔のてっぺんで受けわたす、というものだった。まあ、妥当だろう。

問題はどうやって塔までノーバートを運ぶかであるが、ハリーは『透明マント』を使う案を提案した。まあ、使い慣れた道具を使うのが一番確実だろう。とても上手くはいかないだろう、という不吉な予感もしているが、気にしないことにした。その予感は的中してしまうのだったが——。




久々にジジ登場。基本、好き勝手に歩き回ってると思っていただいて大丈夫です……?
そろそろ原作に沿っていくのも飽きてきた。アルーペさん、自重しなくていいのよ?

魔力探知
 金属探知機みたいに杖をかざして使います。

87.5%
 16分の14。魔法名を詠唱した場合の確率。詠唱そのものも確率を上昇(6.25%,1/16)させるが、詠唱することで集中力が高まるなど、他にも成功率上昇の要素がある。
 アトリエ乱数ではないのでそこそこ成功する。
 ちなみに、慣れている魔法や簡単な魔法の成功率は100%を超える。また、アルーペがパーセントで言っているのは杖の力で瞬時に計算しているため。チート行為。

フェアベルゲン
 ドイツ語で「隠れる」の意。verbergen

本気で自動化
 アルさんならやってしまいそう。

目の前で使うわけにはいかない
 同じ話で思いっきり使っているんですがそれは

この話はだいたい2017年3月〜4月にかけて書いてます。作品の中も同じぐらいの季節。そういえば、クリスマスのときもクリスマスを書いてました。
つまり、この調子でいけば7年かかります。

そんなのいやだあああああああああああ!?

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