ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第05話 いざ、空へ

「さん——にい——いち、始めぇ!!!」

 

スニッチが飛び出した。ハリーも同時に飛び出した。早速スニッチを見失ってしまったようで、高いところから探そうという作戦か、ハリーは高度を上げた。スニッチは金色に輝いているため、逆光よりは探しやすいはずだろう。

しかし、十分経ってもハリーの動きに変化は現れなかった。観客席からもスニッチの場所を見つけるのは困難だ。ふと地上で待機しているキキちゃんのほうを見ると、視線をせわしなく左右させている様子だった。まさか、スニッチを目で追い続けているとでもいうのか。よし、ちょっとズルしちゃおう。空間を魔法でスキャンしてみると……あった。不規則な動きとは聞いていたが、え、これ本当にキャッチなんかできるの? と疑問に思うくらいそれは激しかった。そして、やはりキキちゃんの視線はこれを捉えているものだった。

結局、ハリーはその十分後にスニッチを捕まえた。どうやら、二十分というのは十分に速すぎるタイムだという。

二番のスリザリン生と、三番のレイブンクロー生は、それぞれ地面に激突したり箒の制御ができなくなったりでリタイアした。正直何故試験を受けたのか謎だ、と隣の赤毛——ハリーの友達でロン・ウィーズリーというらしい——が言っていた。

その後の二名も失格。次はドラコ・マルフォイの番である。こちらはスニッチを見失いこそしなかったものの、あと少し、というところで制限時間の一時間が過ぎてしまった。

そして最後はいよいよキキちゃんだ。ホグワーツでは珍しい日本人だからか、はたまたマグル生まれ(転生前は魔女だが今世での『生まれ』はマグルだろう)だからか、注目が集まる。

 

「七番、グリフィンドール寮、桔梗、渡邉!! スタート位置につくのじゃ!」

 

いや、注目の原因は頭にいつもつけている赤いリボンか。飛ぶ時もつけてるのかそれ。

 

「さん——にい——いち、はじめぇ!!!」

 

スニッチとキキちゃんが飛び出した。が、その速度はキキちゃんのほうがわずかに速かった。猛スピードで上昇し、スニッチを三十センチほど引き離すとその場で振り返り、突っ込んでくるスニッチを捕まえようとした。

さすがにスニッチもそこまで馬鹿ではないらしく、手は空気を掴むのみだった。キキちゃんはすぐさまスニッチの方へ加速。反応速度が尋常ではない。箒の名『流れ星』が可愛く思えるほどの操縦で、キキちゃんはスニッチとの距離をじわじわと詰めていった。決着はまもなくついた。開始十六分、急降下するスニッチをキキちゃんが追う。側から見れば、重力に任せて落下しているように見える。しかし、加速度は重力加速度を超えている。さらに下方向へ力をかけているらしい。

地面まであと数メートル。このままでは地面に激突しそうだが、減速する気配はない。思わず息を飲んだが、地面ギリギリでキキちゃんは重力がひっくり返ったかのように『上に落ちた』。観客が呆然としている中、キキちゃんは静止すると笑顔で手を掲げた。その手にはスニッチが握られている。

ハリーの二十分に続いてさらに十六分、これにはダンブルドア校長も驚きを隠せなかったらしく、結果を書き込む手は震えていた。

 

合格者には後から個別に通知が来るらしいが、既に結果は明らかであった。グリフィンドールの優勝が確実すぎて賭けにならないぞ、と嬉しい悲鳴を上げている男子——ロンと同じ赤毛だ。兄だろうか——もいた。

 

「やったね、キキちゃん!」

「学校の箒が言うことを聞いてくれるか不安だったけど、無事、この通りよ」

「そんな不安定な状況であんなアクロバティックなことしてたの……。見てるこっちが怖かったよ」

 

急降下からの切り返し。あれは箒との息も合わないととてもできないことだろう。しかも学校の箒はお世辞にもいい箒とはいえない『流れ星』。もしものことがあったら悲しむ人もいるんだぞ、と訴えた。

 

「はは、ごめんねアル。でも、本番では好きな箒が使えるみたいだから大丈夫よ」

「好きな箒って……。あれ以上のわけわからない動きをするの?」

「あんなの楽勝よ。本番のスニッチはもっと複雑な動きをするみたいだし」

 

おいおい、この子、さりげなく『自分はスニッチを取る』、つまりシーカーになる、と宣言しおったぞ。事実、ハリーと桔梗の箒の腕は上級生の誰よりも上だと、とあるクィディッチ選手は言っていた。スリザリン生も恐怖を覚えたという。シーカーに選ばれること必至だろう。

 

「ポッターのほうは箒、どうするのかしら? さすがに『流れ星』ではないわよね?」

 

そういえば、キキちゃんと『こっち』の世界の魔法使いでは飛ぶ仕組みが全く違っていて、ハリーたちのほうは箒の性能に依存する部分があるんだっけか。箒といえば、さっき……。

 

「えーっとね、さっきマクゴナガル先生が話してたのを聞いたんだけど……。多分聞いちゃダメなやつだったと思う。ニンバス二〇〇〇? って箒をキキちゃんとハリーに内緒で買ってあげようかって……」

「え、あたしもその箒使うの……? できれば使い慣れたやつを使いたいんだけど……。でも、買ってもらって使わないわけにはいかないし……。

……それじゃ、マクゴナガル先生にお断りしてこないといけないじゃない!」

 


 

夜七時。桔梗はクィディッチ競技場に到着した。ポッターを呼ぶ声が聞こえたので行ってみると、キャプテンのオリバー・ウッドとポッターが話していた。

 

「おぉ、渡邉か。ポッターによると箒を貰ってないらしいが……」

「大丈夫よ。ちゃんと自分のがあるわ」

 

あたしは『袋』から箒……いや、デッキブラシを取り出した。これを見たその他二人は目を丸くしている。それもそのはず、これは魔法の道具ではなく掃除道具であるのだから。

 

「君……。それで飛ぶというのかね?」

「ええ。見ますか?」

 

どうやら疑われているようなので、競技場をぐるっとひとっ飛びしてみせた。が、ウッドがそのブラシに跨って見ても、足は地に着いたままだった。当然だ。これは正真正銘愛すべき掃除道具だ。

 

「これは驚いた。掃除道具で飛ぶ魔女がいるだなんて……。なんてことだ。

……まあ、飛べるのだから問題ない。では、まずは君たちにルールを理解してもらう。これは簡単だ。クィディッチは頭では理解できてもそれを実行するのが難しい競技。来週からは週三回チーム練習をする」

 

ウッドはひととおり説明をした。言う通り、ルールはそこまで難しくなさそうだ。反則が何百もあるというのは驚きだが。

 

「——で、シーカーだが……。情けないことに、うちのチームで最優秀なのは一年生二人っぽくてね。今年ことは優勝杯を手にすべく、どちらかにやって貰うしかないんだが……」

「あたしが」

「いや僕だ」

「こうなると思ったので、交代でやってもらうことにする」

 

なんだ、二回戦をするわけではないのか。それなら順番を決めなければならないが……、最初の試合は対スリザリンチームか。うん、ポッターに押し付けよう。

 

「よし。次は練習だ。といっても、もう暗い。スニッチを使った練習は出来ないよ。代わりにこれを使おう」

 

ウッドはゴルフボールを取り出した。何故マグルのスポーツであるゴルフの球があるのか。多分本人は自分が手に持っているのがそれだとは知らないのだろうけど。

とりあえず、あっちへこっちへと投げられるゴルフボールをつ残さずキャッチして見せると、ウッドはとても喜んでいた。ポッターのほうも同じだ。

 

「——ってわけで、スリザリン戦はポッター。あたしはチェイサーよ」

「でもそれじゃあ、ハリーの方が出番多いよね」

 

練習が終わって早速にアルに報告をすると、そんな指摘が入った。たしかにポッターがスリザリンとレイブンクロー、あたしはハッフルパフ戦だけだ。この友人は割と細かいことを気にしているらしい。

 

「スリザリンの選手なんてどんなのがいるか分かんないでしょ」

「うーん。言われてみれば。そのほうがいいかも……」

 

一試合しかなくても二試合分、いや、それ以上の存在感を発揮するまでだ。久々に飛び回れるんだ、暴れさせてもらおうじゃないか。

 


 

学校生活に慣れ、魔法もそこそこ分かってきて、気づけば一ヶ月が経ち、今日はハロウィンだ。が、空間把握の魔法地図は埋まりきっていない。実際に歩かなくても把握できる魔法はあるが、いくら練習してもできずに諦めた。かといって探索するのも楽ではない。他にも、『転生』やミーティス家に関することは何も進捗がない。

朝食を食べに大広間へ向かうと、かぼちゃの匂いが漂ってきた。どうやら今日の朝食はかぼちゃパイのようだ。

そして、その日の『呪文学』は『浮遊術』の実習だった。フリットウィック先生は、二人組を作らせて練習させた。わたしはいつも通りキキちゃんと組んだが、普段ハリーの相手をしているロンはハーマイオニーと組まされてしまったようだ。あの二人はとても仲がいいとは言えない関係だったような気がするが、大丈夫だろうか。そんな余計なことを考えていると、キキちゃんから声がかかった。

 

「そういえばアル、ロングボトムにこんな感じの魔法使ってたわよね」

「あー、そうだね。でも、あれは速度を落とす魔法。今日やるやつみたいな上昇させる魔法じゃないよ。まあ、こういうのもあるにはあるけど、落下中に使ったら衝撃が強すぎるから……」

 

速度を変化させるということは、それだけの力がかかるということである。急に運動の向きが変わるほどの力を加えたら、地面にぶつかるよりひどいことになるかもしれない。

さて、授業のほうだが、先生は杖の振り方を「ビューン、ヒョイッ」という擬音で説明した。そして、呪文を正確に唱えるように、と念を押して練習を始めた。振り方も呪文もそこまで難しくはない。言われた通りにやるだけのことだ。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)

 

羽ペンに杖を振ってみたがペンは動かない。うーん、そう上手いこと行くものではないのか。羽ペンに問題があるのかと普段使っている魔法をかけてみると、ちゃんと持ち上がる。

キキちゃんにもやってみてもらうと、こちらは少しだけ浮かせることができた。人によって相性があるのだろうか。もう一度やってみると、こんどは持ち上げられた。成功するイメージがないとだめなのかもしれない。

 

「皆さん見てください! ミーティスさんがやりました!」

 

高く持ち上げたため先生が気づいた。みんなの視線がこちらに集まる。褒められて嬉しくないわけではないが、あんまり注目されるのは恥ずかしというか、好きではないのだが。

 

「ウィンガーディアム・レビオサー!」

 

と、間違った呪文を唱えるロンの声が聞こえてきた。見てみると、杖の振り方も間違っているようだ。一体何の話を聞いていたのか。

 

「そんなめちゃくちゃに振り回しちゃダメよ。ビューン、ヒョイよ。で、呪文はウィンガーディアム・レビオーサ。『ガー』ってちゃんと伸ばさないと」

 

ハーマイオニーが指摘すると、ロンは言うのは簡単だ、とばかりにハーマイオニーに手本を要求した。ハーマイオニーが成功させてみせると、また先生は「やりました!」と言った。

どうやらこれは二人の間の空気をさらに悪化させたらしい。授業終わりに近くを通りかかったとき、ロンがハリーに彼女についての愚痴をこぼしていた。それも結構失礼な。さらに悪いことに、偶然通りかかった本人がそれを聞いてしまったらしく、泣きながら突進してそのまま去って行ってしまった。

 

「……泣いてる。今の聞こえちゃったかな」

「どうでもいいさ。今改めて聞かなくたって、自分が嫌われてることぐらい分かってるだろ」

 

そして、今日はそれっきりハーマイオニーの姿を見かけることはなく、大広間にはご馳走が並んでハロウィンも終わろうとしている。

 

「かぼちゃ料理ばっかりね」

「こんなにあったら、さすがに飽きちゃいそう……」

 

並べられた料理を眺めていると、誰かが全速力で息を切らしながら大広間に突っ込んできた。頭に巻いているターバンで、クィレル先生だとすぐに気づくことができた。クィレル先生はダンブルドア校長のもとまでよろけながら歩きたどり着くと、喘ぎながらこう言った。

 

「トロールが——地下室に——お知らせしなくてはと——思って——」

 

そして、その場で気を失って倒れた。大広間中が大混乱に陥るなか、キキちゃんはわたしに聞いてきた。

 

「トロールって何? そんな危ないものなの……」

「トロールはね、たしか、こーんなにでっかくて、力は強いんだけど、すっごく馬鹿なんだって」

「『こーんなに』がどんなになのかは分からないけど、力が強いのなら危険なのね」

 

あれ、今ので伝わらなかっただろうか。まあいっか。(いち)段落して全体が静かになると、ダンブルドア校長は監督生に生徒を寮に返すよう命じた。流れに乗って戻ろうとすると、ハリーとロンとすれ違った。反対方向に向かってる? なんで?

 

「あの二人、どこに行くんだろう?」

「あっちには何があるのかしら?」

 

そうだ、行ったことがある場所なら空間把握魔法が使える。幸い、近くを通ったことがあるらしく、地下への階段があることを知ることができた。

 

「地下……。そういえば、グレンジャーが地下のトイレで泣いてるとか言ってたわ……。もしかして……」

「トロールから助けようと……? 危ないよ! 行かなくちゃ!」

 

彼らにも良心というものがあったのだろう。そして、それはわたしも同じだ。助けないで放っておけるほど冷たくはないと自覚している。

 

「でもそしたらアルが……」

「わたしは大丈夫!」

 

いざとなれば転移魔法で逃げればいい。それでキキちゃんも納得してくれたようだ。とりあえず、二人を追うことにした。階段を降りて歩き続け、ほどなくして、汚い公衆トイレのような臭いが漂ってきた。そういえば、トロールは異臭を放つと聞いた。何やら大きな唸り声も聞こえてくる。とりあえず臭いのもとへ向かってみることにする。

 

「うわぁ!? なんでここにアルーペが!? あっちにはトロールがいる! 危険だ!」

 

前から突然ハリーとロンが飛んできた。どうやらトロールから逃げてきたらしい。もう少し詳しく話を聞くと、鍵のかけられる扉の中に入っていったので鍵をかけてしまったらしい。

 

「それって……。女子トイレなんじゃ……」

 

空間把握の範囲外であったが、そんな気しかしない。つまり、二人はハーマイオニーと同じ空間にトロールを閉じ込めたことになる。これはまずい。

走りだすと、男子二人も自分たちのやったことに気づいたらしくついてきた。扉の前まで来たとたん、叫び声が中から聞こえて来た。

 

「はやくしないと! えーっと、えいっ!」

 

杖を振って鍵を吹き飛ばす。開錠魔法など使っている暇はないので物理的に破壊した。不思議そうな顔で見るハリーとロンを横目に、扉を開いた。

目に入って来たのは、三、四メートルほどの不気味な巨体と、その奥で恐怖に満ちた顔をしているハーマイオニーだった。トロールを生で見るのは初めてだが……うん、気持ち悪い。しかし、目を背けている暇は内容で、トロールは洗面台をなぎ倒しながらハーマイオニーへと向かっていった。

 

「こっちに引きつけよう!」

 

目の前の光景に唖然としていると、ハリーが床に落ちていた鉄パイプを拾い上げてトロールに投げつけた。狙い通り、トロールはこちらに向かって来た。キキちゃんはなぜか『袋』を探っている。

 

「こっちに来たぞ!」

「えっと、そのままトロールを引きつけておいて! わたしはハーマイオニーを!」

 

状況を把握したので、ハリーに慌てて指示を飛ばした。杖をしまってハーマイオニーのほうへ走る。トロールと壁の隙間を潜り抜けて、なんとかハーマイオニーのもとまでたどり着く。

 

「大丈夫? 立てる?」

 

どうやら大丈夫ではないらしい。腰が抜けてしまったらしく、自力では立てないようだ。仕方がないので、ハーマイオニーをかつぐ形で運び出そうとした。しかし、力が足りないのか、ハーマイオニーが重いのか、このままではここから脱出する余裕は……。

頭を上げてハリーたちのいる方を見ると、キキちゃんがデッキブラシに跨っていた。『袋』から出したかったのはこれか。こちらに気づいたキキちゃんが上を指さした。視線を上げると、トロールの頭から天井までは少しばかり隙間がある。

——なるほど!

 

すぐにキキちゃんは飛び上がり、トロールの頭上を通過して側までやってきた。だがしかし、動きの速い物体に気を取られたのか、トロールは後ろを振り向いて視線をこっちに移してしまった。

 

「三人は無理よ!」

「大丈夫、わたしは自分で戻る!」

 

ハーマイオニーをなんとかキキちゃんのデッキブラシに乗せる。飛び立ったキキちゃんを追うようにして視線をトロールに戻すと——まずい。トロールが棍棒を振り上げている。体をこちらに向けるだけの時間を与えてしまったらしい。どうやらわたしはしっかり捉えられてしまっているようだ。

だが、こちらは魔女だ。その程度の物理攻撃など——胸ポケットの杖を両手で構え——キキちゃんの悲鳴が聞こえる——減速の魔法を発動すれば——

 

できない。魔法が発動しない。なぜ? たしかにわたしは杖を——ああ、なんて情けない。これは万年筆だ。杖ではない。取り違えてしまったようだ。もうどうしようもないな——

 

「——あれ……?」

 

しかし、いつまでたっても衝撃はこない。おそるおそる目を開くと、棍棒はとっさに突き出した万年筆の先で止まっている。ハリーたちの方を見ると、みんなも同じく目を丸くしているところだった。トロールのほうも状況を飲み込めずに固まっている。えっと、助かった、のだろうか。……なんで?

 

「どうなってるんだ?」

「分かんない! でもはやく、これをどけて!」

 

訳も分からず、それだけ言って。わたしは意識を手放した。

 


 

一体何が起こったんだ。デッキブラシを着陸させて振り返ってみたら、アルが()()()()()()()のだ。とりあえず、棍棒をアルとトロールの手から離す必要がありそうだ。でも、どうやって……。考えていると、ハーマイオニーがなにやら震える手を意味ありげに動かしていた。

 

「ビューン、ヒョイッ……そうか!

ウィンガーディアム・レビオーサ(浮遊せよ)!」

 

なるほど、杖の振り方か。ウィーズリーが呪文を唱えると、棍棒が浮き上がった。ウィーズリーはそのまま棍棒をトロールの頭まで持ち上げ、勢いをつけてぶつけた。トロールはアルの隣に倒れこんだ。あれ、アルも腰を抜かして……違う、気を失っている。急いでデッキブラシを担いで救出に向かう。

戻ってくると、ハーマイオニーはようやく口の動かし方を思い出したらしく、アルを地面に下ろすあたしに声をかけてきた。

 

「あっ、ありがとう……」

「ハ、ハーマイオニー、大丈夫?」

「えっ……、えっ?」

 

人が心配してあげているというのに、なんだその応え方は。何か変なことを言ったかのような驚き方を……あれ? あたし今彼女のことをなんて呼ん——

 

「……っほら、はやく戻るわよ!」

 

顔が熱いのは気のせいだ。友人を名前で呼んで何が悪いというのだ。そう自分に言い聞かせていると、まもなくアルが目を覚ました。

 

「あれ? えっと、わたし……。トロールは?」

「あなたと……キキが私を助けてくれたのよ。……ありがとう」

 

ハーマイオニーはアルーペにも礼を言った。いや、あだ名で呼んでもらえて嬉しいとか思ってないし。そんな呼び方をする許可を与えた覚えはないぞ、ハーマイオニー。そんなことはどうでもよい。どうやらアルは先ほどのことを覚えていないらしく、状況が掴めていないようだ。そして、唐突にハーマイオニーの呼び方を考え出した。

 

「ハーマイオニー……ハー、ハーちゃん! ハーちゃんって呼んでいい?」

「えっ……、別にいいけど……」

 

なぜか喜しそうな顔をするアルだが、廊下の方から足音が聞こえてくると、とっさに杖を構えなおして音のする方を振り返った。が、その必要はなかった。鍵の壊れた扉から入ってきたのはマクゴナガル先生と、後からスネイプ先生とクィレル先生だった。クィレル先生はトロールを見たとたんその場に倒れこんでしまったので、来る意味があったのかは謎である。マクゴナガル先生は今までに見たことがないぐらい怒っている様子だった。

 

「いったい、あなた方はどういうつもりなんですか。一歩間違えてたら死んでいたんですよ。寮に戻るようにと言ったはずです」

 

口調こそ冷静だったが、全身から怒りが滲み出ている。

スネイプ先生のほうは視線だけで顔が切れてしまいそうなほどにハリーを睨みつけていた。アルが説明しようと口を開きかけたが、ハーマイオニーの方が先だった。

 

「マクゴナガル先生! 四人は私を助けに来ました! もしも来てくれなかったら……。私、死んでました。私はトロールについて知っているつもりになってて、どうにかできると思い込んで……。みんなは悪くないです!」

 

嘘だ。怒っているマクゴナガルよりも、『嘘をつくハーマイオニー』という存在がハリーには信じられない様子だった。でも、あたしたちを庇ってくれているらしい。とりあえず、ハーマイオニーの言った通りだ、という顔をしておくことにした。

 

「そうですか。……グレンジャー、どうして一人でトロールをどうにかできるなどと考えたのですか? 愚かしいことです。とても残念です。グリフィンドールから十点減点します。他の四人、あなたたちは運がよかったのです。一年生でありながらトロールに立ち向かえる人など見たことがありません。その運に、一人五点与えます。

……パーティーの続きは寮で行われています。さっさと帰りなさい」

 

わたしたちは一目散に女子トイレを出て寮へと戻った。




そういえば、アトリエシリーズが20周年を迎えました。

スニッチを追うキキ
 原作で手紙を風にとられて追っかけたシーンがあったかな?

上に落ちる
 変態。Gがやばそう。

渡邉か
 日本名、違和感やばい

擬音で説明
 アルーペは擬音での説明(全くわからない)が特異得意です。

デッキブラシに乗るハーマイオニー
 魔女宅(原作)では箒の二人乗りはできないという設定でしたが、ここではできることにしておきます。
 重量については、荷物が重くて不安定という描写も、船を持ち上げることができるという描写もありましたので、重量は無制限だが重くなるにつれて制御が不自由になるということにしておきましょうか。

名前呼び
 かわいい

ハーちゃん
 ハーちゃんだと違和感がやばいけどハーさんにするのもなぁ……

本当は四話に試験入れてこのタイトルになる予定だったけど始まった時点で1万字いってたので急遽別の話に。
減速魔法の魔法名をシュテーレン(stören)(ドイツ語で妨害の意)にしようと思ったけどダサかったのでやめる。

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