翌朝目を覚ますと、隣のベッドではキキちゃんも同時に起きていた。どうやら少し早かったらしく、他には誰かが起きている気配はしない。音量を抑えてキキちゃんに声をかける。
「とりあえず下に降りようよ。ここじゃあ他の人を起こしちゃうかもしれないし」
「そうね。昨日の話の続きでもしましょう」
そっと部屋を出て談話室への階段を降り、ふかふかのソファーに座った。キキちゃんはこれを『今まで座ってきた椅子の中で一番座り心地が良い』と評価した。そして、早速ホグワーツ特急で話しそびれたことを話し始めた。
「あたし、前世の記憶があるって言ったじゃない?」
「そういえば、そんなこと言ってたね。そっちでも魔女だったって。薬なんかも作ってたって言ってた」
「そう。そして、あなたはその時デジャヴがどうとか言ってた。……その気持ち、すごく分かるわ」
「どういうこと?」
デジャヴに共感することは特に変なことでもない。どういうこともクソもない。普段なら。だけど……。
「分かってるでしょ? あなたは……」
「わたしは……」
「記憶がわずかに残った、『転生者』」
やっぱり、というべきか。分かってはいたが、受け入れられなかった。自分から思い出せるほどしっかりはしていないが、「知っているような気がする」ぐらいのぼんやりとした記憶が残されているのだ。
もっとも、
とはいえ、それだけでは説明できないこともある。
「でも……」
「でも?」
「仮にそうだとしても、『前世』でキキちゃんやホグワーツを知ってるって、結構限られるんじゃない?」
「……そうね。あたしの名前、そんなにある名前じゃないし……。うーん」
仮に前世の記憶があるからだとしても、ピンポイントすぎる。しかも別に名前だけではない。キキちゃんの『前世』そのものに既知感があるのだ。
これは、『転生』についてもっとよく知る必要があるかもしれない。たしか、そんな感じの本をどこかで見かけたような……。とりあえず、休みに家に帰って探してみよう。正月あたりに休みがあったはずだ。キキちゃんにそう話すと、どうせ暇だから、と協力を申し出てくれた。
「どっちにしろ、みんなにはなにも言わない方がよさそうね。混乱させるだけだから」
なるほど、『転生者』としても先輩な訳か。なんとも頼もしい。
まもなく授業が始まった。『生き残った男の子』として有名なハリーは学校中で噂され、わたしたちの耳にも入ることとなった。生き残ったというぐらいだから、相当な魔法の使い手に違いない、と自分の魔法は上手い方だと自負しつつ思った。
しかし、まもなく自分の魔法はまだまだだと痛感させられた。校内図が大体把握できたので経路探索の魔法を使おうにも、自由気ままに動く階段のせいで教室までたどり着けない。
ゴーストのビンズ先生が教える『魔法史』は退屈すぎて、眠くならないようにする魔法だけで魔力が切れてしまう。
唯一救いだったのが、マクゴナガル先生の授業、『変身術』だった。
「変身術は、ホグワーツで学ぶ事の中で最も複雑で、危険で、……そして興味深いです。その危険さ故、私の話を聞かずに勝手なことをする生徒は、直ちに帰ってもらいます。警告しましたよ。よろしいですね?」
さすがに自分たちと話すときとは全く違う雰囲気だったが、マクゴナガル先生だ、という事実だけで安心感がある。刷り込み……なのだろうか。
先生が変身術を実演すると、みんながその術に興味を示さずにはいられなかった。理論についての複雑なノートをとった後、ついに生徒の実演となった。マッチ棒を針に変えろとのことだ。
「どうしよう、いつも通りにやれば簡単なんだけど……。だめだよね」
「それはずるいわ。これを針に……。火をつけたら中に針が入ってて……、なんてないわよね」
「ないですね」
周りを見ると、成功している人はいないようだ。論理は分かっても——分かってない人の方が多そうだが——実践は難しいというのはよくあることなので仕方ないものなのだろう。マクゴナガルも初回でできるとは思っていないようで、特に不機嫌というわけではなさそうだ。
しかし、ここは是非成功させたい。理由はない。成功させなければならないと、本能が言っている——
「——どうだっ!」
数秒後、めっちゃの前には一本の針が転がっていた。なぜかめちゃくちゃ疲れた。背もたれにひっくり返りそうになっていると、マッチに似合わぬ火力で炎上した棒を消火したキキちゃんが目を丸くしていた。
「……アル、どうやったの?」
「わかんない……。気づいたら、えいって感じで……」
遠くから見ていたマクゴナガルも、驚きを隠せない様子だった。やはり、成功者が現れるとは思っていなかったのだろう。我に返って、グリフィンドールに五点をくれた。ちょっと誇らしい。
結局、その後成功させた者はハーマイオニーだけだった。グリフィンドールの初得点は十点となった。
「ところで、『生き残った男の子』ってヤツはさっきのできなかったの? もっとすごい魔法使いなんじゃないかと思ってたんだけど?」
「わたしもそう思ったんだけど、そうでもないみたいだね……。ちょっと残念かな」
『生き残る』ために変身術は不要だったのだろうか。とてもそれほどの力がありそうには見えないハリー・ポッターを横目に教室を出た。
続いて、『闇の魔術に対する防衛術』はクィレル先生の担当だが、この人がなかなかおかしな人だった。
終始何かを恐れるようにオドオドして、バンパイア避けと称するニンニクの匂いをまき散らしていた。頭のターバンはアフリカでゾンビを倒したお礼に貰ったものだと言っているが、いざゾンビの倒し方を聞いてみると、突然天気の話をはじめたりと、なかなか怪しい話であった。しかも、いちいち仕草が演技くさい。
「クィレル先生、なんか怪しくない?」
「そうね。もしこの挙動が本心だとしても、何を恐れてるのかしら……」
一週間も経てば、皆が授業に慣れてきたようだ。しかし、どの授業でも『生き残った男の子』がその能力を発揮することはなかった。むしろ、やたら知識を披露したがるハーマイオニーの方が目立っていると言えるだろう。
だが、九月七日金曜日、はじめての『魔法薬学』のスリザリンとの合同授業でやっと『生き残った男の子』の存在が再認識させられることとなった。
この教科の担当はスリザリンの寮監のスネイプ先生だが、聞くところによるとスリザリン贔屓が激しいらしい。そう言われると、どうしても贔屓の余地を与えないようにしたくなる。これまた理由はないが、ミーティスとしてのプライドとでも名付けておこう。
「スリザリンって、なんかマグルが嫌いな人が多いらしいわ」
「そうみたいだね。そういえば、列車の中で会ったドラコ・マルフォイ、だっけ? その人もスリザリンに組み分けされてたんだっけ」
「ハリー・ポッターに向かって純血主義がどうとか言ってたわね。スリザリンで大正解なんじゃない?」
寮で性格を決めるのは差別には当たらないのだろうか。性格で決まった寮だから事実として問題ない……のかもしれない。そんなことを考えつつ、教室へと向かう。
授業は地下牢を教室に改装したような部屋で行われた。ただでさえ気味が悪いのに、さらに不気味な生物の標本やらが並べられていてなおさらだった。授業が始まると、スネイプはまず出席を取った。ハリーまで来た。すると、なにやら嫌味を述べ始めた。
「ああ、さよう」不気味な、柔らかな声だ。「ハリー・ポッター。我らが新しい……スターだね」
冷やかすような笑いが聞こえた。声の方を見てみれば、ホグワーツ特急で会ったドラコとその取り巻きだった。スネイプは減点する気配がないどころか、本人も笑っているようだった。
出席確認を取り終わり、あたりを見回し、授業についての説明を始めた。
「ここでは、魔法薬調剤の微妙な科学、そして厳密な芸術を学ぶ。杖を振り回すような馬鹿げたことはない。それでも魔法か? フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這いめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……。
——期待はしない。諸君がその見事さを真に理解するなどということはな」
説明になっているのかは謎だが、まあまあ面白そうだとは思った。——一瞬の静けさ、そして唐突に指名。
「ポッター! アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
ハリー・ポッターは答えられなかった。単語の意味すらわからない、いや、聞き取れたかどうかも怪しい、といった様子だ。隣にいる赤毛のほうを助けを求めるようにちらっと見たが、こちらも分からないようだ。が、ハーマイオニーは高々と手を挙げている。
「そんなのわかるわけないじゃない……。ね、アル……」
「『生ける屍の水薬』ができるよ。でもこの二つだけじゃ足りないっぽいね」
「え、なんで分かるのよ」
「なんでって……。教科書に書いてあったからだよ」
なにも魔法を記録するだけがミーティス家の杖ではない。『知識』だって杖に記録できる。ずっと覚えておきたいことがあれば記録しておけばいい。とりあえず教科書の内容は全て頭、ではなく杖に叩き込んだのだ。容量は不明だが、一生かかっても使い切ることはないらしい。
「分かりません」ハリーが答える。
「『生き残った男の子』も名前だけか……。残念だな」
スネイプ先生の言う通りだ。キキちゃんもそう思ったらしく、微妙な角度で頷いている。まだハーマイオニーの方がマシだろう、と。
「もう一つチャンスをやろう。ベゾアール石はどこを探せば見つかる?」
「アル、これも分かる?」
「分かるっていうか、覚えてるよ。山羊の胃から採れて、強力な解毒剤になるんだって」
教科書の何ページに載っていたかも覚えてるぞ。試験の暗記問題は申し訳ないが満点を取らせていただこう。
ハーマイオニーのほうを見れば、手は限界まで伸ばされた。ハリーはベゾアール石が何なのかすら分かっていない様子だ。ドラコとその取り巻きは笑っているが、君たちは分かっているのかね? おおかた答えは否だろう。
「分かりません」
「授業前に教科書で予習をしようとは思わなかったのか? ポッター。
最後だ。モンクスフードとウルフスベインの違いは?」
「違いはって聞かれても、呼び方が違うだけだよ……」
「グレンジャーが手を上げてるけど、なんで指さないのかしら」
ハーマイオニーはついに耐えられなくなったらしく、椅子から離れた。スネイプ先生はハリーだけをにらみ続けている。
「分かりません。——でも、ハーマイオニーが分かってるみたいですよ」
「座れ、グレンジャー。ポッター、教えてやろう。アスフォデルとニガヨモギを混ぜあわせると眠り薬になる。あまりに強力で、成分を間違えると二度と起きないこともあるので、『生ける屍の水薬』と呼ばれる」
「それだけじゃ足りませんけどね」
少し教科書にはなかった説明もあったのでメモを取りつつ、小声でつぶやいた。スネイプ先生は無視した。これがもしもスリザリン生であったら、とっさに聞きつけて加点をするだろう。むしろ、私語を慎めと減点されなかったことを感謝するべきなのだろうか。
「次だ。ベゾアール石は、山羊の胃から取り出せる石で、強力な解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベインはどちらも同じ植物で、トリカブトの事だ。……どうだ? 諸君、なぜ今のをノートに書き取らない?」
一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音がした。そして、被せるようにスネイプは言った。
「ポッターの態度が無礼なのでグリフィンドールから三点減点。メモを取っていたミーティスは……仕方ない、グリフィンドールに一点やろう」
おっと、ちゃんと見ていたのか。なんと、スネイプ先生がグリフィンドールに点を入れた。恐らく他にメモをとっていたスリザリン生にも加点するためだが、その事実はスリザリン生にもグリフィンドール生にも驚くべきものだったらしい。しかし、その後はスリザリンに加点し、グリフィンドールから減点することに努めているようだった。
次の週の木曜日。いつも通り一番に起きて談話室に下りると、壁に『お知らせ』が貼られていた。うーん、これは……。その場でくるっと一八〇度回って階段を戻った。そして、キキちゃんを布団から引っ張り出して掲示の前まで持ってきた。
「ふあぁ……。にゃに?」
「キキちゃん見て! これ!」
「これ……、おひらへ? うーん……。ん!?」
お知らせの内容は、『飛行訓練は本日、木曜日から行われます。スリザリンとの合同授業です』というものだった。
「やった、ついに! 思う存分飛ぶわよ! ……そういえば、アルの魔法では空を飛ぶのとかあるの?」
「うーん、あるにはあるけど、わたし、苦手なんだよね……」
飛ぶのが好きらしいキキちゃんはテンションを上げつつ興味津々に聞いてくるが、飛行魔法は苦手分野だ。
どうやら飛ぶことに興味があるのはキキちゃんだけではないらしく、その日の朝食では、あちらこちらで飛行訓練や『クィディッチ』に関する話題が飛び交っていた。クィディッチとは、魔法界で人気のある箒を使ったスポーツらしい。
本人が言うには、ドラコ・マルフォイはクィディッチが得意なようだ。それを聞いたキキちゃんはどんなものか見てみたい、と言っていた。少し挑戦的な口調だったのは気のせい、だろうか。
午後三時。わたしたちが校庭に到着した頃には、グリフィンドール生とスリザリン生のそれぞれ半分ほどが到着していた。しばらくすると、残りの生徒と教官のマダム・フーチがやってきた。
「ぼーっとしてないで! 箒の隣に立ちなさい! はやく!」
言われるままに箒の横に立つと、いくつか注意をしたのち、箒の持ち方を説明し始めた。
「右手を箒にかざして、『上がれ』と言ってください」
「「あがれ!」」
ハリーとキキちゃん、わたしと何人かの箒は飛び上がってその手に収まったが、途中で落ちたりした箒の方が多かった。朝食のとき得意げに本で得た知識を披露していたハーマイオニーの箒は、その場で転がっただけだった。
「あんなに偉そうに言ってたのに」
「実践するのは難しいからね……」
フーチは箒の落ちないまたがり方を説明すると(キキちゃんがどんな乗り方をしても落ちはしないわ、とつぶやいた)、何名かの持ち方を正しに歩いて回った。自慢話をしていたドラコも指摘を受け、その信憑性は揺らいでしまったようだった。
「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴って少しだけ上がり、前かがみになってゆっくりと降りてきてください。決して上がりすぎてはいけませんよ。危険です。——三——二——一——」
そのとき、笛がなっていないのに突然ネビル・ロングボトムが大砲の弾のように飛び出した。フーチが戻ってこいと叫ぶが、とても制御をする余裕があるようには見えず、高度をどんどん上昇させていく。
万一に備え、杖に手を伸ばそうとしたが——あれ? 胸ポケットに入ってない?
そのとき、ネビルの体は箒から離れ、再び重力の支配下に戻ったそれは落下を始めた。箒はひとりでに「禁じられた森」のほうへ吹っ飛んでいった。
「そうだった、落としちゃうといけないから袋の中に……!」
いくら自分を不快な目に合わせたとはいえ、人間を見殺しにすることはできない。慌てて『袋』に手を突っ込み、杖をつかんで、照準を合わせて、減速の魔法を発動した。しかし、完全に止めることはできず、鈍い音を立ててネビルは地面に突っ込んだ。これで致命傷は回避できただろうか。
フーチは「絶対に動くな」と指示を出し、ネビルを医務室へと運んでいった。が、そんな指示は守られるはずもなく、すぐにドラコが騒ぎ出す。
「あいつの顔を見たか? まさに大マヌケさ! ん……。おい、これを見ろ!」
ドラコはネビルの落ちたあたりから何やら白い煙が詰まったようなガラスの玉を拾い上げた。多くの人はこの玉に見覚えがあった。朝食のとき大広間でネビルに送られてきた『思い出し玉』だ。握って中身が赤くなったら、何かを忘れているということらしい。もっとも、何を忘れたのかは分からないままなので意味があるのかは分からないが……。
「あいつの婆さんが送ってきたバカ玉だ!」
「……返せよ。ネビルのだ」
ハリーはドラコに突っかかっていった。なんというか、これぞまさしく犬猿の仲、なのだろうか。
「返せって言ったって、お前のじゃないぜ。そうだな、あいつが取りに来れる場所に置いておくか。木の上なんかどうだい?」
「渡せって!」
ハリーが怒鳴ると、ドラコは箒を掴んでふわりと浮き上がった。どうやら箒の腕はそこまで下手ではないらしい。そして、上からハリーを煽る。そのときすでにキキちゃんが箒を手にしているのには、誰も気づかなかった。
「ここまで取りに来いよ、ポッター!」
ハリーは挑発に乗り、箒を乱暴に掴むとすぐに空を飛ぼうとした。——その横を何かが通り過ぎた。上を見てみれば、ものすごい勢いで誰かが箒に乗ってドラコに接近している。ハリーの位置からでは驚きに満ちたドラコの顔しか見えない。
飛んで行った誰かはすぐにドラコのもとへたどり着き、くるっと一回転。箒の房をドラコにぶつけた。ドラコはすこしバランスを崩した。顔が見えた。キキちゃんだ。
「ちょっとキキちゃん!?」
思わず叫んだ。なんというか、行動力の化身か。
「それ、渡しなさい。そうしないと……」
「お、お前はあの時の……。ふん、できるもんならやってみろ」
ドラコは強気に言うが、声は震えていた。言われた通りに、とキキちゃんはドラコに突進した。ドラコはギリギリのところでかわしたが、顔は恐怖に満ちていた。
「あなたの取り巻きさんも、ここまでは来れないわね。どうする?」
「と、取れるものなら取ってみろ!」
ドラコは思い出し玉を真上に放り投げると、落ちるように地面に戻って行った。
だが、さすが『前世』からの箒のベテラン。ただ落ちるだけのものを捕まえるなど朝飯前らしい。既に数十メートル下まで落ちた思い出し玉まで一直線。すぐに追いつき、地面ギリギリのところでキャッチし——そのまま地面に突っ込みそうなものだが——すぐに切り返してその場に静止した。
「桔梗!!!!!」
が、すぐにマクゴナガルが叫びながら飛んできた。そういえばフーチが「動いたら退学だ」と言っていたか。
「まさか……首の骨を折ったかもしれない……ホグワーツでは一度も、そんなこと……」
「先生! キキは悪くないです!」
キキちゃんは弁解する気力もなさげに、ただマクゴナガルについていった。
今覚えば、なぜあんなことをしたのだろうか。箒を悪用するのが許せなかった? のかもしれない。自己分析もほどほどに、これからどうなるのかを考える。さすがに退学というのはただの脅しだろうけど、危険なことをしたのだから、相応の罰があるに違いない。
マクゴナガル先生はとある教室の前で立ち止まると、そこで授業をしていたフリットウィック先生に『ウッド』を要求した。 ウッド? 翻訳魔法が間違っていなければ『木』だ。木の棒で殴られる体罰でも受けるんだろうか? しかし、出てきたのは人間だった。
「ここで話をすませましょう……。桔梗、こちらはグリフィンドールのクィディッチのキャプテンです——」
「えぇ!? キキちゃんが、シーカー!?」
夕食。キキちゃんはマクゴナガルと『ウッド』との話をしてくれた。シーカーとはクィディッチにおいて最も重要なポジションだったか。驚異的な箒の腕を見せたききちゃんの才能を生かしたい、と言ったという。だが、本人はそれを快く思っていないようだった。
「まだあたしとマルフォイ以外飛んですらいないのに、それだけ見て、規則を曲げて、なんて……。試験をして、とかなら分けるけど、こんな偶然でなるのはあまり嬉しくないわね」
「うーん……」
特別扱いが気に入らない、というのは共感できない話ではない。どうせシーカーになるのなら、相応の正当性をもってなってくれたら、友人としてそれ以上誇らしいことはない。
わたしたちが話している側で、なぜかドラコとハリーが喧嘩をしていた。そのまま話を聞いていると、どうやら『魔法使いの決闘』を今夜するらしい。もちろん、ちょうど今ハーマイオニーに突っ込まれている通り、夜中に出歩くのは校則違反であるが、ハリーはどうしてもドラコを倒したいらしい。
その日の夜。談話室の方が騒がしいのでキキちゃんと二人で降りてみると、ハリーとロン、そしてハーマイオニーが口論をしていた。どうやら二人が規則を破ることによってグリフィンドールが減点されるのを、ハーマイオニーが阻止しようとしているらしい。キキちゃんはこれを睡眠を妨げるに十分な理由ではないと判断したらしく、不機嫌を一切隠さない声を投げた。
「うるさいわグレンジャー。眠れないじゃないの」
アルーペの姿に気づいたハーマイオニーは、状況を説明しようとする。
「あら、あなたたちまで。聞いて、この二人……」
「マルフォイと決闘するらしいわね」
夕食での話は聞いていたので説明をもらう必要はない。キキちゃんはハーマイオニーの言葉を制止した。
「そう。あなたたちも聞いてたのね」
同じ話を聞いていたのは、同じ場所にいたのだから別に不思議なことではない。
「夜中に出歩くのに賛成はしないけど、わざわざ止めにくるなんて。あなた、相当お節介ね。好きに行かせておきなさい。罰則を受けるだけじゃない」
キキちゃんはハーマイオニーの行動に意味はない、と結論付けたらしい。まあ、共感できる。相応の罰を与えるシステムはちゃんと機能しているのだから、わざわざ介入する必要もないだろう。
「点数なんて後で稼げばいいんだしね。わたしはもう寝るよ」
しかし、ハーマイオニーは二人を止め続けることにしたらしく、ぐちぐち言いながら二人を外まで追いかけた。おいおい、自分も一緒に規則を破っていくとは……。
息を切らせたハーマイオニーがわたしたちの寝ている部屋に戻ってきたのは、それから数時間後のことだったらしい。
「マクゴナガル先生、このままではあたしはシーカーになることはできません」
「えっ、なぜですか? 箒を買うお金なら、私が負担することも……」
金曜日の放課後、マクゴナガルの部屋に来客があった。入学前の案内をした日本人、桔梗だ。話は唐突だった。
「あまりに不公平じゃないですか」
「どういうこと、ですか?」
「あそこであたしが飛んだのは単なる偶然、それも指示を無視して。他の人は飛ぶのが下手だったわけじゃなくて、ただ指示に従って待っていただけよ。『やってできる』のと『やらせてもらえずできない』。全員にチャンスが与えられるべきだと思うわ。あたしもそうやって自分を証明したい」
なるほど、一理ある。たしかに、冷静に振り返ると、少々どころでなく無理矢理なことをした。クィディッチのことになるとついつい熱くなってしまうのは反省すべきだろう。しかし、どう対策すべきか。スリザリンに優勝を奪われ続けている今、こんなに優秀な人材を諦めるわけにはいかない。
「——分かりました。校長先生と相談します」
それに、この生徒はまだ私のことを信頼してくれているようだ。それに応えるのが教師の役目というものであろう。
夜が明け、土曜日となった。朝食が終わると、何故か一年生は大広間に残るよう指示された。桔梗はその理由をすぐに理解した。
さてと、どんな策を考えてくださったのかしら?
「朝からすまない、少し、この爺のたわごとを聞いてくれるかの。みな、席に着くのじゃ」
何かあったのか、とざわつく一年生たちは次の言葉を待った。
「入学前に、一年生は箒を持参できないと案内した。みんなよく知っておるじゃろう」
ハリーやドラコもなんの話かに気づいたらしく、あたしの方をちらっと見た。そう、こんな顔を向けられながらクィディッチをするのは御免だ。
「どうやら儂や先生方は君たちを見くびっていたようだ。そこで——」
ほぼ全員がダンブルドアの意向に気づいたらしく、ざわつきが大きくなった。
「——今年は、この規則を一部無効化する!」
歓声が上がった、が、一部の人は『一部』という言葉が気になったらしい。もちろん、ダンブルドアはそれに答えた。
「一部、ということについてだが、今年は、一年生について、とても厳しいクィディッチの試験を、任意で受けてもらう! これに合格した者のみが持参した箒を使える! 試験は今日午後三時、とても危険なものなのでよく考えておくこと。以上じゃ」
ダンブルドアが衝撃の発表を一気に終わらせたため、みんなの反応は少し遅れることとなった。それにしても、当日に発表とは意地悪な校長である。しかも、とても危険な試験とは……。飛んで『一生』を過ごしたこのあたしをどう歓迎しようというのか、楽しみじゃないか。
午後三時、クィディッチ競技場。前例なしの試験が始まる。試験を受ける人だけでなく、見に来ただけの者も、二年生以上含め多数いる。わたしもその中の一人だ。
「どんな試験をするんだろう?」
「うーん、まさか、スニッチを捕まえさせるとかかしら?」
スニッチって、シーカーが捕まえるアレだったか。羽が生えてて不規則に空中を飛び回る虫みたいな球らしい。キキちゃんでも初見でそれは無理なんじゃないかな……?
「まさか。それはさすがに難しすぎるよ……」
「あ、あれ、ダンブルドア先生よ」
ついに試験内容が発表される。話をしていた人も、観客も、皆黙り込んだ。
「皆の者、準備は万全じゃろうな? これから君たちには、通常シーカーが捕まえるスニッチを捕まえてもらう」
そのまさかだった。発表から十時間も経っていないのにどうやって準備をしろというのか。さらに、プロでも捕まえるのに数十分かかるという話だ。一年生に捕まえさせるなど、無茶としかいえない。
「制限時間は一人一時間。箒はみな学校の『流れ星』を使う。何か質問は?」
質問はなかった。そりゃそうだ。単純で、そして困難。受験者は入り口に、その他は観客席に集められた。受験者は『準備運動』として競技場内を自由に飛び回っているが……。もうこの時点で勝敗は決まっているように見える。
「さすが『生き残った男の子』ね。動きが全く違うわ」
「あっちにも変なのがいるぞ。あれはワタナベとかいう奴じゃなかったか? あの箒でどうしてあんな加速ができるんだ」
数分後、再び集まった受験者たちはくじで順番を決めた。受験者は七人いたが、ハリーが一番、ドラコが六番、キキちゃんが最後だった。
「一番、グリフィンドール、ハリー・ポッター!! スタート位置につくのじゃ!」
ハリーが呼ばれ、競技場の端に立った。マダム・フーチがスニッチだけの入った箱をコートの中央に置いた。
「さん——にい——いち、始めぇ!!!」
スニッチが飛び出した。ハリーも同時に飛び出した——。
原作を読んでいること前提なので変化がないとことはバンバンカットさせていただきます。
座り心地
キキは椅子ソムリエ(大嘘)
詳しそうな桔梗
キキは転生専門家(大嘘)
空間把握、経路探索の魔法
結構チート。当初は使えないようにする予定だったが、話の流れで使ってしまった。
前の話でありましたが、一応「実際に探索しないと把握できない」という調整を加えています。
気味が悪い
変換→君が悪い→削除→きみ→君の名は。
(´・ω・`)
生ける屍の水薬
屍(特性:生きている)
HPが10%切ったら勝手に使われます(違
胸ポケット
アルーペが杖が入るように改造したらしい。
スネイプがグリフィンドールに加点
原作:-1点
今作:-3+1点
減ってる……
飛行訓練
今作では種類を問わずキキが乗った箒の性能は加速度25km/h/sとしています。ファイアボルトが24km/h/sなのでそこまでチートじゃないかな?
減速の魔法
「魔法名」が思い浮かばず地味かつ説明的な表現に……。ドイツ語でも使おうかな?
返せって言ったってお前のじゃない
正論である
房をぶつける
痛くなさそう
流れ星
ただ飛べるだけの粗悪な箒(らしい)。
今回は魔女宅のBGMの曲名からタイトルを選んでみた。