「おはよう、アル!」
「おはよう、キキちゃん!」
ミーティス家の庭、十時三十分。キキちゃんは時間ぴったりに来た。
「アル、例の袋は?」
「ちゃんと用意しておいたよ」
自分の腰についているのとよく似た袋をキキちゃんに渡した。この袋は自宅に新設した倉庫に接続されている。キキちゃんは持ち物をすべてその袋に放り込んだ。
「じゃ、行くよ!」
キキちゃんの手を取り、転移魔法を発動する。行ったことない駅とかでなく転移の勝手が分かるキングス・クロス駅で助かった。転移先は駅前のロータリー。人がたくさんいるが、現れる瞬間は非魔法族には分からないようになっている。
さて、九番、十番線のホームまで来てみたが、当然九と四分の三番線ものは見当たらない。駅員に聞いたところで頭のおかしい人だと思われるのは明白だ。マクゴナガルの話を聞く限り、魔法というのはマグル(非魔法族)に知られてはいけないらしいので尚更よくない。
「九と四分の三……、九・七五……」
「九と四分の三ってことは、少なくとも九と十の間ってことよね……」
九と十の間……まさかね。
九番線と十番線の間の柱をじっと見てみる。見た目は他と変わらないただの柱だ。では、手を触れてみると……? 手は冷たいレンガに触れることはなく、そのまますり抜けてしまった。
「キキちゃん、これって」
「入ればいいのかしら?」
「試すしかないよ!」
壁に向き直り、ゆっくり距離を詰める。一歩、二歩……。柱は目と鼻の先だ。
……そして一歩。普通なら柱に衝突して鼻を擦りむきでもするだろう。しかし、そうはならなかった。
柱を通り抜けた先には別のホームがあった。頭上の札を見れば、『9 3/4』と書かれている。そして、ホームには紅色の蒸気機関車が十両ほどの客車を従えて止まっていた。正解だったようだ。
発車時刻まで三十分だが、既にホームには人がごった返していた。みんな私服なので、マグルの通勤ラッシュと言っても信じてもらえるだろう。
「うわぁ……。この様子だと、もう席は空いてないかもしれないね……」
「もしかしたら、混んでるのはホームだけかもしれないわ。はやく乗るわよ」
キキちゃんの助言に従い、人ごみをかき分け、早足で列車のドアへと向かった。どうやら予想は当たったらしく、コンパートメントはほとんど空だった。揺れが少ないだろうと思い、車両中央のコンパートメントに乗り込んだ。
「そういえばアル、何か話すことがあるとか言ってなかったかしら」
あっ、そうだった。キキちゃんに『ミーティスの魔法』の説明をしておくことにしたんだった。胸ポケットから杖を取り出し、持ち手側をキキちゃんのほうに向けて、尾部にはめられている五つの宝石を見せた。わたしの目の色と同じ青色だ。
五個の宝石にはそれぞれ、土、風、水、火の四つの属性と、どの属性にも該当しない、いわゆる無属性の魔力が貯められている。
魔法を行使する際にはこの魔力を消費し、消費する魔力の量や種類が多いものほど難易度が高いとされる。たとえば、アルーペがよく使う転移魔法は風属性の魔法だ。
無属性の魔力だけは特別で、他の四種類の魔力に変換することができるうえに、他の魔力よりも大量に杖に蓄えることができる。
消費した魔力は、それぞれの魔力に対応した物質から空間などを通して受け取ることで回復する。その多くは自然の物質である。例えば土属性の魔力は、土や草木から受け取ることができる。
「……って感じだよ」
「へぇ……。なんか、複雑ね」
「そうだね……。今説明したほかにも演算がどうとか色々あるみたいなんだけど、まだ詳しくは理解してなくて……」
ミーティス家の魔法に関する資料はミーティス家の書庫にごっそりとあるが、アルーペはまだその半分も読んでいない。
そんなことを話しているうちに、ドアの外から発車を告げる放送が聞こえてきた。
ガタン、という衝撃とともに列車は走り出し、ロンドンを離れた。
「でも、あんまり他の人には話さない方がいいかもしれないわね」
「え? どうして?」
わたしの話に、キキちゃんはなぜか神妙な顔をしてそう指摘した。
「自分にない力、特にそういう使い勝手のいいのは、気味悪く思うような人間もいるのよ。もちろんあたしは違うけど」
なるほど、マグルに対して魔法界が隠されているのと同じような理屈か。たしかにマクゴナガルさんは『姿現し』はとても難易度の高いものだと言っていた。それと似たような転移魔法を一年生なんかが使っているところを見られたら、なんというか、説明がめんどくさそうだ。
やがて家屋は減っていき、窓の外には田園風景が広がるようになった。土属性の魔力が溢れかえっているようだ。
話が終わると、コンパートメントをレールのジョイント音だけが支配した。しばらく無言で景色を眺めていたが……。あれ、今度はキキちゃんの番じゃないのか?
「それじゃ、キキちゃんも話してよ」
「え?」
あれ? 想定外の反応だ。勘違いだった?
「えっと、前会った時からなんか話したそうな感じだったから……?」
「え、えぇ。その通りよ。」
どうやら勘違いではなかったが、少し探りすぎていたらしい。なにか話すのが悩ましいことなのだろうか。
「いいわ。話すわよ。あなた相手にずっと隠しごとなんて落ち着かないし。アル、あなたは『転生』って言われて分かる?」
「転生? いわゆる『生まれ変わり』のこと?」
えっと、確かブッキョー? の概念だったか。前世での行いによって動物になったりホトケになったりだとかいうやつ……? まあ、単に生まれ変わりという意味で使っているようだけど……。
「そうなるわ。で、あたしはここに『転生』してきたわけ」
えっと、つまり? 最初に会った同年代の魔女が、転生者? それって——
「なにそれすごくない!?」
転生者ということは、少なくともここでの年齢よりは人生を積んでいるのである。同じ年齢なのに、同じ年齢でないのである。さっきの忠告は豊富な人生経験によるものだったのか、どうりで説得力があったわけだ。そんな素晴らしい方とお友達になれるだなんて……!
「え、いや、そんな……」
「人生の先輩じゃないですか!」
「だから、そんな大したことしてないって。飛ぶことと薬を作ることしかできないんだから……。でも、いいわね。ちょうどあたしも過去の振り返りってことで……」
キキちゃんは、いや、『キキ』は自分自身のことを確かめるかのように昔話を始めた。
キキの『一生』の話が終わるころには、窓の外は畑すら見当たらない荒地となっていた。
「……で、気づいたら稲田登戸っていったっけ? そこの病院で産声を上げていたのよ。さすがにその時の記憶はないし、その時は昔の記憶も読み込めなかったけどね」
なるほど……。この目の前の少女の姿を見るだけでは想像もつかない長い話だ。だがしかし、それ以上に気になることがあった。
「キキちゃんが言ったこと、どこかで聞いたようなことある気があるような……。デジャヴというか……、キキって名前自体にも聞き覚えが……。これだけじゃないよ。この学校についてのことも……」
再び沈黙が訪れた。キキちゃんはなにか深く考え込んでいるようだ。ホグワーツのことに加え、なぜかキキちゃんの『前世』の話にまで感じられる既知感。前者はどこかで聞いたとしても説明がつくが、後者は明らかに異常だ。
——この沈黙を破ったのはわたしでもキキちゃんでもなかった。
「車内販売はいかがー?」
そういえば、お腹が減ってきたような。お昼はとっくに過ぎていた。魔法界の食べ物はどんなものなのか、カートに目をやると、お世辞にも美味しそうとは言えない毒々しい色の菓子が目に飛び込んできた。
「それ、ちょうだい」
そして、マジか。キキちゃんが買ったのはその毒々しい菓子だった。
「えっ、それ……」
「だって『百味ビーンズ』よ。面白そうじゃない?」
言われてみれば、中身だけ見て商品名を見ていなかった。なるほど、『百味』か。見た目だけで判断するのもよくないな。何事も挑戦だ。
一粒、口に入れる。キキちゃんと目があう。
あ、不味い。これは色々と不味い。とっさに窓を開け放って口の中の忌々しい異物を吐き出した。
「美味しい! あらアル、どうしたの?」
「『どうしたの』じゃないよ! なにこれ!」
「何味だった? あたしはたぶんスイカよ」
「土。」
うん。二度と『百味ビーンズ』は食べない。こいつの恐ろしさは『土。』が可愛く思えるほどであることをまだ知らなかったわたしは、そう心に誓った。
「……で、なにか分かった?」
「えぇと、もしかしたら、なんだけど……」
悩んでも答えが出なさそうなので、大先輩キキ様に話を伺うことにした。さすがというべきか、なにか考えがあるようだ。キキちゃんは口を開きかけた。だがそれは、コンパートメントの扉が開く音で阻止された。
「ぼくのヒキガエルを見なかった?」
なんなんだお前は。思わず心の中で叫んだ。挨拶もせず、名乗りもせず、おまけに内容はヒキガエル。キキちゃんなんかもう少しで怒鳴りつけそうな顔をしている。
「知らないわ。そもそもあなたは誰? 女の子のいる部屋のドアをいきなり開けるなんて失礼よ。ノックぐらいしなさいよ」
「ご、ごめん……。ぼくはネビル・ロングボトム。もし見つけたら……」
ネビルと名乗った少年はそのまま隣のコンパートメントへ逃げていった。きちんとノックはしたようだ。キキちゃんは扉をあからさまに勢いよく閉めると、先ほどの話を続けようとした。
「……で」
「ネビルのカエルを見なかった?」
またも弾丸のような来客。キキちゃんはそのまま無言で扉を閉めた。ブチッという音が聞こえてくるようだ。ふさふさした栗色の髪の女の子は勢いよく扉を開き、逆ギレして叫んだ。
「話も聞かずに閉めるなんて失礼じゃない!」
「ノックもしないで扉を開けて、名乗りもしないでカエルの話をするのは失礼じゃないのかしら?」
「それは……」
「分かったなら帰ってちょうだい」
女の子はため息をつくと雑に扉を閉めて帰って行った。ため息をつきたいのはこっちだ、と言わんばかりにキキちゃんは扉を睨んでいる。たしかに、とても快いとは思えない。挨拶は大事だ。
「そういえば」
こういうときは話題を変えるに限る。『袋』の中に手を入れて……、これだ。分厚い本。表紙には『ホグワーツの歴史』と書かれている。
「寮が四つあるんだって。この本に書いてあったんだけど……」
「マクゴナガル先生がくれたやつね。あたしも読んだわよ。ちょっとだけだけど……」
何故、二人とも同じ本を読めたのか。二冊用意した訳ではない。例の『袋』、それぞれの倉庫と同期しているが、もう一つ共用の倉庫を用意し、そことも同期するようにしておいたのだ。
「で、キキちゃんはどこの寮に入りたい?」
「そうだね……。スリザリンってとこはあんまよくないらしいわ。『例のあの人』とかいう、なんか面倒くさそうなのがそこ出身らしいわね。あと、さっきの子みたいなのがいないところがいいわ」
「へぇ。わたしはグリフィンドールがいいなぁ。ホグワーツの校長先生、偉大な方らしいんだけど、その人がそこ出身で、他にも優秀な魔法使いはそこから出てるとか」
その後、寮に関する話から『例のあの人』のこと、どうやら『生き残った男の子』とやらが同学年にいるらしいことなどと話を広げた。当初話していたことはすっかり忘れて、いつの間にやら『ホグワーツの歴史』の研究が始まっていた。
「へぇ、電子機器が使えない……。わたしのカメラもだめかなぁ……」
「カメラ? どんなの?」
「日本のミノルタって会社の一眼レフなんだけどね。電気で動いてる部分を魔法に置き換えれば使えるかなぁ」
カメラが電子制御になったのは割と最近の話だが、わたしのは電子部品の塊みたいなやつだ。カメラを取り出してキキちゃんに向けると、よし、いいノリだ。察してポーズをとってくれた。ちょうど窓から光が差し、通路側にいるキキちゃんを撮るには都合の良い光線だ。
ボタンで露出を調整して、ピントを合わせて、ガシャーとフィルム送りの音。
「そうそう、フィルムを現像できる魔法を作ったんだ。ちょっとやってみるね」
「ほんと!? すごいじゃない!」
キキちゃんが顔を輝かせている。人前でやるのは結構恥ずかしいなぁ。魔法のイメージを頭で組み立てて、魔力を込めて……。
ところが、何度目かわからない邪魔が入った。
「おや? 『生き残った男の子』は女の子だったのか?
……どうやらこのコンパートメントじゃないらしいな」
青白い顔の、いかにもお坊ちゃま、という気取った雰囲気の男の子が入ってきた。えらいぞ、ちゃんとノックをしていた。
「おや、マグルのカメラに魔法をかけるのかい? 僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイ。横にいるのはクラッブとゴイルだ」
一応、名乗った。左右に少し体が立派過ぎるボディーガードのような人がくっついていることに目をつぶれば、今までの来客の中では一番マシといったところだろう。キキちゃんの受け答えも普通だ。
「あたしはキキ。こっちは黒猫のジジよ」
「アルーペ・ミーティスだよ。どうしたの?」
「『生き残った男の子』のハリー・ポッターがいると聞いてね。どうやらここではなかったようだ。それで、そっちの子はなにをしようとしてるんかい?」
「魔法でフィルムの現像をしようとしてるとこだけど……」
「それは凄いな。見せてもらえるかい?」
ギャラリーが一人増えてしまった。しかも、魔法界での有名人らしい人に興味があるということは、この人は元から魔法族の人なのだろう。なんとか心を静めて杖を振れば、現像焼き付けををすべてすっ飛ばして写真が印刷された。成功だ。キキちゃんが拍手をくれた。
しかし、ドラコのほうに視線を移すと、こっちは残念そうな顔をしていた。
「えっと……」
「それ、動かないのか? マグルの写真みたいだな……。もっと上達することを期待しているよ。
まあいい、僕はハリー・ポッターを探しに行く」
それだけ言い残し、ドラコは去っていった。そういえば教科書や『ホグワーツの歴史』に載っている写真は動いていたような。目の錯覚ではなかったのか。というか魔法界ではアレが普通なのか。
魔法でフィルムを未使用の状態に戻し、キキちゃんにせがまれるまま何枚も写真を撮っていると、外はすっかり暗くなってきた。
また、ドアがノックされた。
「私、ハーマイオニー・グレンジャー。もうじき着くらしいわ。着替えておいたらどうかしら?」
「わざわざどうも。グレンジャー。少しは学習したようね」
先ほどの女の子だ。ハーマイオニーはまた思いっきり扉を閉めた。意図はさっぱり分からなかったが、嘘をついているわけではないようなので制服に着替えておくことにしよう。
まもなく、到着の放送が入った。荷物は学校に運んでくれるらしいが、『袋』に全部収めてしまったわたしたちには関係のない話だった。やがて、先の方に明かりとホームが見えてきた。眺めているうちにホームはどんどん近づき、ゆっくりと停車した。
ホームに出ると、空気は想像よりも冷たく湿っていた。どうやら近くに湖があるらしい。
「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ! もういないかな? イッチ年生! 早く! さあ、イッチ年生! ついて来い!」
なにやら威勢のいい声が聞こえてきた。声の方向を見ると、毛むくじゃらの大男が立っている。キキちゃん三人分くらいの横幅に、一・五人分くらいの身長だ。まさか、魔法学校にはこんなのが大量にいるのか? 魔法、なんでもありだな。
大男について、快適とは言い難い凹凸の激しい道を少し歩くと、予想通り湖が見えてきた。その向こうは岩山に隠れてよく見えない。
さらにもう少し進むと、急に視界が開けた。そして、その場にいる誰もが唖然とした。
向こう岸には崖が反り立ち、その上には巨大な城がそびえていた。皆が見とれていると、四人ずつボートに乗るよう指示された。なるほど、湖のこちら側に木製のボートがたくさんある。だが、対岸に船着き場のようなものは見えない。どこへ行こうというのか。
二人でボートに乗り込むと、さっきの栗色……ハーマイオニーも続けて乗ってきた。ジジまでカウントされているのか、次の人は次のボートに乗っていったようだ。
「グレンジャーじゃない、なんであなたが乗ってくるのよ」
「順番なんだから仕方ないでしょ。そういえばあなた達のお名前を聞いてなかったわ。教えてくれるかしら」
「仕方ないわね。あたしはキキ。こっちは黒猫のジジ」
「アルーペ・ミーティスです」
これっきりでハーマイオニーは会話を打ち切り、景色に集中することにしたらしい。いよいよあと数十メートルほどに迫ってきたホグワーツの城を眺めていると、再び大男が「頭を下げろ!」と指示をした。
前を向くと、おっと、危なかった。カーテンのように伸びている蔓草に直前で気づき、慌てて頭を下げた。どうやら城の崖下の洞窟に入ったようで、トンネルを抜けると、そこは雪国……ではなく船着き場が見えてきた。
「毎年一人ぐらい、頭打ってる人がいてもおかしくなさそうね」
遠くから先ほどの男の子がヒキガエルを発見した声が聞こえた。大男が全員の到着を確認して扉を叩いた。扉はすぐに開き、中から見覚えのある魔女が出てきた。
「あれって、マクゴナガル先生……?」
「そうっぽいわね」
「マクゴナガル先生、イッチ年生のみんなです」
「ご苦労様。ここからは私が」
しばらくしてわたしたちに気づいたマクゴナガル先生は、キキちゃんが手を振ると、笑顔で返してくれた。すぐにまじめな顔に戻った先生についてホールの大きな扉(中からざわめきが聞こえる)を横切り、隣の小さな部屋に一年生は押し込められた。
「ようこそホグワーツへ」マクゴナガル先生が言うと、いよいよか、とみんなはざわつきだした。
「さて、今からこの扉をくぐり全生徒で合流します。新入生の歓迎会を行いますが、その前に組み分けの儀式をいたします。
寮は四つあって、学校にいる間はそこで生活することになります。ですから、組み分けはとても大切なことです。ホグワーツにいる間、皆さんの善い行いは寮の得点となり、規則を破れば減点となります。学年末には最高得点の寮に優勝杯が渡されます。
まもなく始まりますから、身なりを整えておきなさい」
それだけ言うと、マクゴナガル先生は組み分けの準備に扉の向こうへ消えた。みんな、口々にどうやって組み分けをするのだろう、と話を始めた。中には、とても痛い試験をするんだ、などと言っている人もいる。そんなはずはない、と思いたいのだが、何があっても不思議ではない。呪文を暗唱している声まで聞こえる。
まもなく、マクゴナガル先生が戻ってきた。
「これから組み分けの儀式を行います。一列でついてきなさい」
大きな扉が開け放たれ、大広間の全貌が明らかとなった。
無数の蝋燭が宙に浮いて部屋を照らし、天井には星空が広がっていた。魔法で本物の星空に見せているのだ、というハーマイオニーの声が聞こえた。
それぞれの寮のものと思われる四列の長机があり、その上には一定間隔で金色の皿が置かれている。前方にはもう一つ机があり、教師達が座っていた。
そしてその机の上に、マクゴナガル先生が汚いボロボロの三角帽子を置いた。なんだか妙に惹かれる力を感じる帽子だ。先の既視感のようなものもあるが、今回はまた別のものもある。そういえば、結局キキちゃんからお話聞いてなかったな……。
寮に着いたら今度こそ聞いてやる、と決心しまた帽子を見ると、なにやら口のような裂け目が現れた。いや、口そのものだ。なんと、帽子は口を動かして歌い始めた。歌の内容は自分が組み分けの帽子であることと、各寮の紹介だった。
「なぁんだ、試験なんてないじゃない」
なぜ『ホグワーツの歴史』に組み分けのことが載ってなかったのかは謎だが、とりあえず帽子をかぶるだけなら簡単だ。多分間のページが抜けていてでもしたんだろう。
「今からABC順に一人ずつ名前を呼びます。前に出て、帽子を被ってください」
わたし、『A』なんですけど。結構最初のほうじゃん……。
「……アボット、ハンナ!」
なんだ、姓が先か。まるで日本みたいだ。金髪のおさげの女の子が前に転がり出た。帽子を被って——
沈黙——
「ハッフルパフ!」
本当に被るだけなんだ、安堵の声があちこちから聞こえた。ハーマイオニーはグリフィンドールだった。やがて、アルーペの番がやってきた。
「ミーティス、アルーペ!」
深呼吸して、ゆっくり前に進み出た。なんだか緊張するな。マクゴナガルの方をちらっと見ると、何か願っているようだった。そういえば、マクゴナガル先生はどっかの寮監だとか言っていた。どこだったかな。
椅子に座ると、組み分け帽子を被せられた。帽子は——脳内に直接話しかけてきた。
「おやおや、これは……」
「な、なんですか」
「いや、どこかで会ったような気がしてね。お父さんやお母さんがホグワーツだったかい?」
「いいえ、わたしの家はこれが初めてらしいですが……」
「ふーむ、そうか……。少し君と話がしてみたいが、今は無理だな。私はいつも校長室にいる。気が向いたら来なさい。
グリフィンドール!」
マクゴナガル先生が笑顔になるのが見えた。どうやらグリフィンドールの寮監らしい。机に向かおうと向きなおると、ハーマイオニーがため息をついているのが見えた。見て見ぬふりをし、席についた。
しばらくしてキキちゃんの組み分けが行われたが、同じくグリフィンドールとなった。隣に座ったキキちゃんは安堵の表情だった。キキちゃんの後の数人でまもなく組み分けは終わり、白い髭の老人が立ち上がった。あれは校長のアルバス・ダンブルドアだ。『ホグワーツの歴史』に写真が載っていた。
「おめでとう! 新入生のみなさん! では、歓迎会を始める前に二言三言、言わせていただきたい。では……ふたこと、みこと! 以上!」
拍手が巻き起こった。謎にテンションの高いおじいさん、という感じだが、隣にいた上級生がいつもこんなだよ、と教えてくれた。机に目線を戻すと、おぉ。さっきまでなにもなかった大皿が食べ物で満たされていた。
「そういえばキキちゃん、日本の食べ物とここの食べ物、結構違うんじゃない?」
「そうよ。……ここのも美味しいけど、あんま健康的じゃなさそうだわ」
日本の食べ物も食べてみたいな——。そう思っているうちに、胃袋はデザートを吸い込んでいた。うん、久々によく食べた。
皿から食べ物が消えると、ダンブルドア校長が立ち上がり、広間は一気に静かになった。
「みなよく食べ、よく飲んだであろう。新学期にあたり、伝えておくことがある。
新入生の諸君。校内にある『森』に入ってはならんぞ。立入禁止じゃ。また、管理人のフィルチさんからは、今年いっぱい四階の右側の『廊下』には入らないように、とのこと。とても痛い『死』が待っているそうじゃ。」
えっと、ここは『魔法界一安全』な場所ではありませんでしたか。なんですか『死』って。わたしの英語が間違っていなければ、安全からは一番遠い言葉だと思うんですけど。同じことを考えた生徒の言葉があちこちから聞こえてくるが、ダンブルドア校長の話はそれっきりだった。
「合言葉は?」
「カープト・ドラコニス」
監督生のパーシー・ウィーズリーが太った婦人の肖像画に合言葉を聞かれ、答えた。この建物の中の肖像画はみんな動いているようで、意思の疎通もできるようだ。ドラコが言っていた写真と同じように、絵も動くのが当たりまあ絵なのだろうか。
肖像画が扉のように開き、グリフィンドール寮の談話室が露になった。穴によじ登り談話室に入ると、座り心地の良さそうな椅子とソファーがたくさんあった。指示に従い女子寮への螺旋階段を上ると、やっと部屋が見えてきた。
部屋はわたしとキキちゃん、ここまでは良かったのだが、さらにハーマイオニーまで一緒のようだ。幸いにも、ハーマイオニーが到着する前にわたしたちは寝てしまった。後から来たハーマイオニーがどんな反応をしたかは神のみぞ知るところである。
仕様変更で特殊タグとやらが使えるようになったらしい。面白いんだけど使い所が謎。
倉庫を新設
ミーティス邸の空間は歪みまくっている。
十両の客車
映画だともっと短かった気がするけど無難に十両で。
通勤ラッシュ
実際にはホームに人はそこまでいない。地獄は車内だ。小田急を使っているうp主が言うんだから間違いない。
側廊下式コンパートメント車
映画1巻に出てきた感じの客車。廊下と個室がついています。
巻によって種類が変わってたりする。
無言で眺める
列車の中でボーッとするのっていいですよね。
キキの過去
角野栄子『魔女の宅急便』シリーズを全6巻お買い求めください。
ついでに特別編2巻も買いましょう。
稲田登戸
向ヶ丘遊園の旧駅名。近くの病院の名前は稲田登戸病院のままだったが、最近潰れた。
2017.09追記 跡地にマンションが建つようです。
土。
たぶん句点と鉤括弧が並ぶのは最初で最後。
弾丸のような
自己紹介する弾丸を想像しよう。
ミノルタのカメラ
α-7000をイメージ。まだ一般向けのデジタルカメラはない時代。
ボタンぽちぽち
α-7000はSSやF値をダイヤルではなくボタンで調整する。
Watanabeより後、YやZから始まる姓
8種類ぐらいあるらしい。
〜制作裏話〜
暑くなってきた(2016/7/15)。頭が蒸発しそう(´・ω・`)
非常食の備蓄法に「ローリングストック法」ってのがあったんだけど、まんま小説の書き溜めだった。