ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第16話 スリザリンの継承者

「うそ……。これ、結構マズいかも……」

 

無傷の『日記』を前に、アルは顔を青くする。まさか、アルに来てもらってなお行き止まりだというのか。

 

「えぇっ。ちょっとアル、冗談やめてよ」

「冗談だったらよかったね……。この『日記』——リドルの本体だと思うんだけど、かなり強力な防衛魔法がかかってる……」

 

とりあえず状況を把握しなおす。こちらから攻撃することはほぼ不可能。相手の攻撃手段は、バジリスクの牙。リドルはポッターの杖を持っているが、何もしてこないところを見ると、少なくとも今は杖を使うことはできないのだろうか。

 

「……やばいわね」

 

ひたすら考えた。他になにかできること——。フォークスはバジリスクの気を引くのでせいいっぱい。『帽子』は使い方がわからない。あとは——。

 

「ポッター、どうにかならないの?」

「ええっ!?」

 

そういえば、まだハリー・ポッターは何もしていない。知らないうちにバジリスクの突進を何回か受けていたようで、少し服が乱れている。

 

「『生き残った男の子』なんでしょ。なんとかしてよ」

「僕自身にはなんの力も無いって、さっき言ったの聞いて——」

 

あたしの無茶振りに答えようとするポッターだが、その口は飛んできた何かで塞がれた。ポッターが手に取ったそれは『組分け帽子』だった。おそらくバジリスクの尻尾に飛ばされてきたのが丁度顔に命中したのだろう。

 

「フォークスも、こんなの何に使えって……。うん?」

 

ポッターは帽子の中に手を突っ込んで顔をしかめる。引き抜いてみると、先に大きなルビーがついた金属の棒が顔を出した。どうやら帽子の中の空間が拡げられているようで、その棒にはまだ先があるようだった。

さらに引き出すと、それは剣の柄であることが分かった。帽子を掴んで下に向けると、銀色に輝く剣が滑り出て床に落ちた。

 

「これ、『グリフィンドールの剣』じゃない?」

 

アルはまたころりと表情を変えた。この剣に心あたりがあるらしい。あたしは名前を聞いたことすらないのだが。

 

「アル、知ってるの?」

「うん。ゴドリック・グリフィンドールが『小鬼』に造らせた、とりあえずなんかすごい剣。何かの本に書いてあったんだけど……。なんだったっけ」

 

悩むアルを横目に、ポッターはすぐに剣を拾い上げた。『なんかすごい』ではあまりにも大雑把だが、『小鬼』の技術が優れていることはなんとなく知っている。三脚をぶつけるよりは遥かに効果があるはずだ。

 

「これならバジリスクを倒せるかもしれない!」

 

やっと心強い武器を味方にすることができた。しかし、アルの表情は晴れない。

 

「どうかしたかしら?」

「ううん、なんでもないよ」

 

こんどの憂いは、先ほどまでの戦況に対するものとは違っているように伺えた。しかし、それが何なのかまでは分からなかった。

 

「なんてことだ……」

 

リドルの声がして振り返ってみると、ポッターがバジリスクに噛まれそうになりながら、口蓋に剣を突き立てたところだった。バジリスクの魔力は弱まり、動きは止まっていた。

よくやった、見直したぞポッター。心の中でガッツポーズをとろうとしたが、リドルの冷たい声がそれを邪魔した。

 

「ハリー・ポッター。君は死んだ」

 

あたしは気づいた。ハリーの右腕には深い傷ができている。そして、こちらに投げ飛ばされてきた『バジリスク』の折れた牙が、その原因を物語っている。

 

「最期ぐらい静かに見守ってやろうじゃないか」

 

ポッターが座り込むのに合わせるように、リドルもその場に腰を下ろす。そう、まだリドルから攻撃手段を奪っただけで、リドルそのものにはまだ対処できていないのだ。

それだけなのに、こちらでは人が一人死にかけている。

 

「最上位の治癒魔法ならもしかしたら……。でも魔力が足りないし、成功率も雀の涙……」

 

アルはバジリスクの毒を中和する方法を必死に考えているが、答えは得られそうにない。上位の魔法を失敗したときの代償はとても大きいと聞いている。この状況で下手なことをすべきではなさそうだ。

 

「この鳥にも君に残された時間の短さが分かるらしい。死を泣いてもらえるなんて、光栄だな」

 

ポッターの腕にフォークスが止まっている。ここからはよく見えないが、どうやら涙を流しているらしい。

 

「ん? 不死鳥の涙?」

 

聞いたことがある。不死鳥の涙には、なにか特殊な効果があったはずだ。確か——

リドルは顔色を変えて、慌ててフォークスを追い払おうとした。

 

「お、おい、ダンブルドアの鳥、そこから離れろ!」

 

——最大級の『癒し』。

ハリーの腕の傷はみるみるうちに塞がれていき、顔にも生気が戻ってきた。

フォークスはポッターが復活したのを確認すると、まっすぐに『日記』へ飛び、それをあたしたちの目の前に持ってきた。

アルは少し戸惑っていたが、あたしはすぐにその意図を理解した。

 

「そうね、バジリスクの毒牙ほどの強力な魔法なら……!」

 

足下に転がっていたバジリスクの牙を拾い上げ、全力で『日記』にむけて振り下ろす。

耳をつんざく悲鳴が轟く。声の主はリドルだったが、その輪郭は曖昧になり、そしてだんだん姿が見えなくなってきた。やはり、この『日記』が本体だったようだ。

 

「こんどのトドメは頂いたわよ」

 

リドルが消えるのを見届ける。魔力が消えるのが感じられる。本当に片がついたようだ。貴重そうなので、バジリスクの牙は慎重に梱包して『袋』にしまっておいた。ポッターがバジリスクの口の中に刺さった『グリフィンドールの剣』を引き抜いていた。そして、アルは眼鏡を外すとジニーのもとへ駆け寄った。

 

「ジニーちゃん、もう大丈夫だよ。トム・リドルはもういないから」

 

ジニーは自分のおかれている状況——倒れたバジリスクと穴の空いた『日記』を目にすると、突然ぶわっと泣き出した。

 

「どうしよう、私、退学に……」

「ダンブルドア先生がそんなことするわけないよ。ほら、帰ろう」

 

アルはジニーをそっと立ち上がらせ、あたしたちとにも声をかけつつ『部屋』の出口へと向かった。

去り際に立ち止まって、もう一度振り返って『部屋』を見る。なにやら悲しみを感じる表情だった。

 

「安らかに、おやすみなさい……」

 

アルの気持ちがなんとなく分かったが、とりあえず今はそうしておいた方がいいような気がして、なにも言わないでそれを見ていた。

 

 

「……ジニー!?」

 

フォークスの案内に従ってマクゴナガル先生の部屋に入ると、一瞬の沈黙の後、ウィーズリー夫妻のアーサーとモリーがジニーのもとに駆け寄ってきた。

そして、その向こうには我が目を疑うような表情のマクゴナガル先生もいた。

 

「一体、どうやって……。特にミーティス、あなたは……」

 

驚くのも無理はない。本来なら、アルはまだ医務室で石になっているはずなのだから。ポッターは『グリフィンドールの剣』、あたしは穴の空いた『日記』、そしてアルは『組分け帽子』をそれぞれ先生の前の机に置いた。

 

「あの、パメラが——。校長先生はご存知ですか?」

 

アルはまず自分がいかにしてここにいるかの説明を始めるらしい。

 

「ミネルバから話は聞いとるよ。『霊力』を使えることも知っている」

「それなら話は早いですね。パメラがキキちゃんたちが『部屋』に向かっているのを見つけたんです」

 

なるほど、ロックハートの部屋に向かう途中に察知した魔力は、パメラのものだったのか。アルーペは話を続けた。

 

「それで、なにかあった時のために『霊力』でわたしを生き返らせて……? っていうのも変だなぁ。死んじゃってたわけじゃないし。とりあえず、復活させてくれたんです」

 

詳しい方法はともかく、とりあえずマクゴナガル先生とダンブルドアは理解したようだった。しかし、今度はアルが疑問を見つけた。

 

「あれ、キキちゃんたちはどうやって『部屋』を見つけたの?」

 

そういえば、ずっと石だったアルは知らないのか。

 

「実は、アリスさんに探してもらったのよ。事件の特徴を書き出して、条件に合う生き物がいないか。

ポッターたちは、石になったハーマイオニーが切り取られた本のページを握ってたのを見つけたわ。アリスさんからの返事が来るのとほぼ同時だったけれどね」

「へえ、アリスが……」

 

アルとの話が終わると、ポッターが続きを説明した。『日記』に記憶が残されていたトム・リドルという人物がのちのヴォルデモート卿で、ジニーがその『日記』に乗っ取られていたことを明かしたが、特にお咎めはなかった。

 

「ジニー・ウィーズリーは今すぐ医務室に行きなさい。処罰はもちろんなし。もっと賢い魔法使いでさえ、奴に騙されてきたのじゃ」

 

ダンブルドアは部屋の扉を開き、ジニーに促した。医務室と聞いたウィーズリーは心配そうにダンブルドアに尋ねた。

 

「そういえば、ハーマイオニーは……」

「ちょうど先ほど、マンドレイクの薬をみんなに飲ませたところじゃ。回復不可能な障害はひとつもなかった」

 

これにはあたしもほっと胸をなでおろした。ジニーに続いて、ウィーズリー夫妻、そしてマクゴナガル先生も部屋を後にした。ダンブルドアはこちらに向き直って口を開いた。

 

「さて、君たちの処置だが——」

 

処置? この状況で、まさか処罰を受けるようなことがあるのか……? 一瞬動揺したが、その心配はなかった。

 

「以前、君たちがこれ以上校則を破ったら退学だ、と言ったな。前言撤回じゃ。四人には『ホグワーツ特別功労賞』と、そうじゃな、一人につき一五〇点をグリフィンドールに与えよう」

 

ダンブルドアはにっこりと笑ってそう告げた。なんというか、点の入れ方がいつも極端である。とりあえず、喜ばしいのは確かだった。

 

「ところで……」

 

ダンブルドアはまだ話を続ける。視線は『五人目』に向けられていた。

 

「ギルデロイ、ずいぶんと慎ましいな? どうしたのかね?」

「えっ? 先生、いらっしゃったんですか」

 

アルもその存在に気づいていなかったようだった。ポッターはたった今思い出したように、説明を始めた。

 

「ロックハート先生は、『忘却術』が——ロンの杖で、逆噴射して……」

「先生、先生って、もしかして私のことでしょうか」

「この通りです」

 

ロックハートの惨状を見て、ダンブルドアは驚いているようだった。

 

「なんと、自らの剣に貫かれたか。

……ロックハート先生も医務室に送ってやっとくれ」

 

これはもう話は終わりでよい、ということだろうか。

そう思って五人で立ち上がると、ダンブルドアはポッターを呼び止めた。

 

「ハリーとはまだ話したいことがある。もうちょっと付き合ってくれるかの」

 

つまり、二人きりでないと話せないので、他の四人はとっとと出ていってくれ、ということだろう。特にここに残る理由もないので、言われたとおりにマクゴナガル先生の部屋を後にした。マクゴナガル先生が厨房に手配をしてくれたらしいので、今夜は宴会があるだろう。

——途中でいやに機嫌の悪そうなルシウス・マルフォイとすれ違ったことは、記憶のゴミ箱に追いやられた。

 

 

宴会はこれまでにないほどの盛り上がりで、大半はすでに日付を越していることにも気づいていなかった。学校からの祝いとして期末試験は中止になり、そして何故かロックハートが学校を去るという発表では、先生までもが歓声を上げた。

そんななか、アルだけは何かをじっと考え込むように顔をしかめていた。先生方の話が一段落ついたところで、本人にだけ聞こえる声でそっと声をかけた。

 

「バジリスクを倒しちゃってよかったのか、って思ってるんでしょ」

 

アルは少し驚いていたようだが、どうやら図星だったようで、苦笑いで答えた。

 

「あ、やっぱり分かってた? キキちゃんには隠し事できないね」

 

恥ずかしそうに目を逸らして、かぼちゃジュースをすすった。

 

「……アルはサラザール・スリザリンの『意思』を確かに受け取ったんでしょ。ちゃんとした『継承者』が現れてくれて、彼も救われたんじゃないかしら」

 

アルが後悔していたこと。現在では正しく受け継がれず、歪んだ純血主義の言い訳として使われ、それを加速させてしまったスリザリンの思想、名声。リドルに操られていたとはいえ、本来の『サラザール・スリザリン』を伝えられる、本人が遺した数少ない手段であったバジリスクを失ってしまってよかったのか、ということだった。

 

「そ、そうだね。わたしが——」

 

アルはようやく気づいたようだ。あの『部屋』でバジリスクが、スリザリンがアルに託したもの。

 

「そう。あんたが真の『スリザリンの継承者』よ」

 

 

日が経つのはあっという間で、すぐに二年目も終わりを迎えた。ホグワーツ特急の六人がけのコンパートメントは、わたしとキキちゃん、そして黒猫一匹で独占するには少し広すぎた。

 

「目を見ると死ぬヘビの目を、生きたまま見ることが条件だなんて、スリザリンも変なことを考えるわね」

「そういえば、ゴドリック・グリフィンドールとか他の創設者さんは、スリザリンみたいに何か遺してたりしないのかな?」

 

ふと湧き出た疑問を口にすると、キキちゃんはすぐに答えた。

 

「アルが胸ポケットに刺してるそれは違うの?」

「うーん。モノそのものじゃなくて、そこに残された情報とか、そういうのがないかなって」

「なるほどね。スリザリンの『思想』も一種の抽象的な情報だったってことかしら」

「まあ、そんな感じかな」

 

ミーティスの謎の解明に役に立つのか否かは分からないが、とりあえず『創設者』のことを知りたい、と思っていた。キキちゃんは少し悩み、そしてはっと何かを思い出した。

 

「そういえば、『帽子』に話を聞くってのはどうなったのかしら?」

 

これを聞いて、思わず座席から飛び上がってしまった。

 

「……そう、それだよ! 丁度いい機会だったのに! すっかり忘れてた!」

 

絶好の機会を逃してしまった。ゴドリック・グリフィンドールの意思そのものと呼べるあの『帽子』が、校長の手を離れることなど二度とある気がしない。

 

「危ないから座りなさい。あの状況で落ち着いて『帽子』と話ができたとは思えないわ」

「うーん。そうかもしれないけど、なんとなく、あの『帽子』がすごい秘密を持ってる気がするんだ」

 

こんな万年筆を貰っているんだ、ちょっとやそっとの関わりではないことは確実だろう。そしてそのグリフィンドールが直々に遺した『帽子』だ。でも、そんな理論を抜きにしても、あの『帽子』には何かあると、本能が訴えている。

 

「それもまた『前世』の記憶?」

「ううん。既視感とはまた違う感じ。というか、既視感はずっとあったせいで、もう慣れちゃってきちゃったみたい」

「そう。アルの家のことは調べたら分かるかもしれないけど、前世のことはどうすればいいのかしらね……」

 

答えは見当たらない。ぼーっと後ろに流れる緑の風景を眺める。だんだん高く昇るようになった太陽の光が、ガラス越しに優しく半身を照らしている。

いろいろと抱えこみすぎちゃったなぁ。迷った時にいつも助けてくれるのはキキちゃんだ。改めてそんな親友のほうに向き直ると、まもなく一つの問いをくれた。

 

「それで、スリザリンの『意思』って、具体的にはどういうことだったのかしら?」

「どうしたの? いきなり。そうだね、言葉にするのは難しいけど……」

 

なんとかして『意思』を『言語』に圧縮しようと考えた。なるほど、サラザール・スリザリンが意思を文字で遺さなかった理由が分かった気がした。もしかすると、今浸透してしまっている歪んだ考えも、言葉にする過程でこうなってしまったのかもしれない。

 

「だいたい……」

 

慎重に言葉を紡ぐ。

 

「——互いにとって悪い結果を招きかねないので、選ばれた存在以外に魔法を教えるべきではない。純血の魔法使いは選ばれた存在であるから、魔法を正しく使い、誇りをもって尊敬されるような人間になれ。仲間を守るための努力は惜しむな。

……こんなところかな? 陳腐な言葉でしか表現できないけど……」

 

さすがに口下手すぎたか。苦笑いしていると、真剣に聞いていたキキちゃんが思慮深く言った。

 

「へぇ。本音か建前かは置いといて、割とまともなこと言ってるじゃない。少なくとも、ドラコ・マルフォイは『誇りをもって尊敬される』人間とは程遠いわね」

「昔からそういう考え方もあったみたいだね。魔女狩りやらなんやらで、マグルに対する恨みみたいなのがあったからだとか」

「でも、今の純血主義を掲げているような奴らは、きっとそんなこと考えてないわよ。ただ権力を得て威張りたいだけ。そういう人たちから、純血の『誇り』なんて感じられるはずがないわ。自分は何もしなくてもマグルより偉いんだ、って思い込んでる」

 

やっぱり、そうだよね。ため息をついて、また窓の外を眺め始めた。複雑な想いに満ちた心の中とは裏腹に、雲一つない突き抜けるような青空が広がっている。キキちゃんもわたしの向かい、窓側の席に移り、同じ空を見上げた。

 

「大丈夫よ。あたしはここにいるから」

 

キキちゃんがなにかつぶやいた。よく聞こえなかったが、とても安心する響きだった。精神的な疲労に、気温もちょうど良く、列車の振動も相まって、気づけばわたしは意識を手放していた。

 

 

「キキちゃーん。もう着いたよー」

「うーん? あれ、あたし、いつの間に……」

 

わたしは到着五分前の放送に起こされたが、キキちゃんはそのまま寝ていた。五分間寝顔を眺めてから起こすと、大きな伸びをして立ち上がった。隣で丸くなって寝ていたジジもゆっくりと体を動かす。そういえば、キキちゃんの猫って——

 

「そういえば、ジジくんって学校ではどうしてるの?」

「あたしのところにも寝るとき以外来てくれないのよね。

割と猫に変身したマクゴナガル先生とかと仲が良かったりして? あたしたちのことを上から目線で語ってそうね」

「どうなの? ジジくん」

 

ジジに問い詰めてみたが、答えは猫語ですら帰ってこなかった。

キキちゃんはコンパートメントの扉を開けようとし、窓の外を見て顔をしかめた。同じ方を見ると、ホームはまるで通勤電車の車内のような人口密度で、迎えに来た親が必死に我が子を探している。重大な事件があったため、一刻も早く無事を確認したいのだろう。

 

「混みすぎね。アル、ここから転移できるかしら?」

「大丈夫だよ。ジジくんが協力してくれれば、だけど」

 

そう言うと、ジジは座席からキキちゃんの肩に飛び移った。向こうの言葉は分からないのに、人間の言葉は分かっているらしいのが少しずるい。それにしても、いつ見ても猫の脚力には驚かされる。そんなことを思いながら、自宅への転移魔法を発動した。こんなふうにしてキキちゃんと自宅に戻るのも、もう慣れてきた。

 

「おかえりなさいませ、アルーペ。あの……」

 

今年のアリスは、玄関の外で出迎えてくれた。しかし、去年と同じで、何かすぐにでも言わなければならないことがあるように慌てた様子である。

 

「えっ、なに、アリス。また変な手紙でも——」

「幽霊が、また……」

 

キキちゃんは慌てて振り返り、すっとんきょうな声をあげた。つられて後ろを向くと、そこには学校で待っていたはずのパメラがいる。

 

「おかえり、アルーペ。一足先に戻らせてもらってたわ。

やっぱり幽霊として、たまには驚いてもらいたいわね」

 

冗談じゃない、といった顔でアリスはパメラを睨みつけている。

 

「パメラが頑張ってくれなかったら、わたしもキキちゃんも、ここにいなかったかもしれないよ」

 

アリスにそっと言って、この空気をどうにかしようとした。狙い通り、アリスは少しだけ険しい表情を崩してくれた。

 

「そうなのですか?」

「うん。そして、怪物の正体がバジリスクだ、ってキキちゃんの情報から調べ出してくれたのはアリスでしょ」

 

そう言うと、パメラは驚いたように声を上げる。

 

「ほんと? あの手紙がなかったら、いくらあたしでも対策はできなかったわ」

 

つまりは、お互いわたしたちのために尽くしてくれた立場、というわけだ。やり取りを黙って聞いていたキキちゃんが、ふとパメラに問いかけた。

 

「医務室にあなたはいなかったけど、いつ読んでたのかしら?」

「キキさん、あの手紙、職員室に落としていっていたわよ。ほら」

 

パメラは手紙を取り出した。よく見れば差出人であるアリスの名前が書いてあったが、拾った時に気づかなかったのだろうか。

 

「ええっ。あたしとしたことが、うっかりしてたわ」

「なるほど、本当に幽霊さんがアルーペを助けてくれたんですね。

……お礼を言っておきます。ありがとうございます」

 

アリスは慌ててパメラに軽く頭を下げたが、パメラは冷静だった。

 

「そんな、お礼なんて。でも、もしもお休みの間だけここに置いてもらえるなら、それは嬉しいかもしれないわ。あと、念のためもう一度言っておくと、あたしの名前はパメラ、よ」

 

アリスは少し決断をためらったが、わたしもその方が嬉しいな、と伝えれば、二ヶ月だけなら、と居候を許可してくれた。

話が一段落ついたので、キキちゃんのほうに向き直って確認を始めた。

 

「じゃあ、キキちゃん。いつも通り、ここには誰かしらいるはずだから、連絡は要らないよ。そっちは要連絡、だよね?」

「ええ。買い物に付き合わないといけなかったり、向こうの友達にうまく誤魔化して自慢話をしないといけないことがちょくちょくあるからね」

 

うまく誤魔化す、というのは、もちろん関係者以外に魔法の存在を公開するわけにはいかないので、キキちゃんは普通の外国の学校に行っているだけ、ということになっているからだろう。役所の手続きとか色々、どうなっているのかはとても不思議である。

 

「それじゃ、またね」

 

キキちゃんは魔法陣の中に立った。去年よりも、すこし賑やかな見送りとなった。




††スリザリンの継承者††

とどめを刺す桔梗
 賢者の石では不遇だったので。
 戦闘終了のトドメなので経験値+10%(イリスのアトリエ並のシステム)

アリスに相談
 色々怪しい動きをしていたのはこのため。
 隠す必要ない気がするけど……。

男二人きり
 そういう需要はありません。
 ……無いよね?

純血主義
 ぶっちゃけ適当ですが、あまりサラザールを悪者にはしたくない派です。

なんだか色々とやりたいことがあって時間が足りてません。
少なくとも電車に乗っている間はスマホしか使えないので、執筆に充てられる時間が削られることはありませんが……。
アトリエオンライン? スマホ版マリアト? なんですかそれ?

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