翌日、わたしたちはいつものように図書館で魔法の研究をしていた。いつもと少し違うのは、その時間だった。
本来ならば『薬草学』の授業がある時間だが、昨夜から今朝にかけて天候が悪化し、スプラウト先生がマンドレイクの防寒対策に付きっきりになっているせいで、それは休講となった。マンドレイクは石になった生徒を蘇生させるための薬の材料となるのだ。
「ちょっと騒がしくない? 普段は図書室なんて使わないくせに」
集中していたので気づかなかったが、キキちゃんの言う通り図書室はいつもより少し賑やかに感じられた。
声のする方に意識を向けてみると、どうやら昨日ヘビに殺されそうになっていたジャスティンの友人たちが、ハリー・ポッターについて話しているようだ。そういえば、『薬草学』の授業はハッフルパフ生との合同授業だったか。
「僕、ジャスティンに言ったんだ。自分の部屋に隠れてろって。もしポッターに狙われてるなら、しばらくは姿を見せない方がいいさ。あいつ、うっかりポッターにマグル出身だって漏らしちまったらしいんだ」
「アーニー。あなた、本気でそう思ってるの?」
その後聞こえた会話をまとめれば、サラザール・スリザリンをはじめヘビ語使いにはロクな魔法使いがいない、ハリーはフィルチ管理人と何かもめごとがあったに違いない、コリンも写真を撮りすぎてハリーの反感を買ったんだ、『例のあの人』に打ち勝てたのも、ハリーが強力な闇の魔法使いだからだ、という内容だった。
「あら、あそこにいるの、ポッターじゃない」
キキちゃんはハッフルパフ生たちの向こうにハリーがいるのを見つけた。それほど大きな声で言った訳ではないのだが、「ポッター」という言葉を聞き取り、ハッフルパフ生たちは過剰な反応を示した。
「ポポ、ポッターがどこにいるって?」
「後ろ」
「や、やぁ。僕、ジャスティンを探しに来たんだけど——」
ハッフルパフ生側から見れば、これではまるで宣戦布告をしに来たようなもの。ハリーはヘビにジャスティンを襲うのをやめるよう言ったと話したが、信じてもらえる様子は無いようだ。結局、ハリーは憤慨しながら図書室を後にすることとなった。
「ポッターの言っていることが事実で、かつスリザリンの継承者でもないとするとよ、アル。ポッターはどうしてヘビ語とやらを扱えるのかしら?」
「えっ? 英語を話せる日本人がいるみたいなものじゃないの?」
「これを見なさいよ」
キキちゃんは読んでいた本をこちらに見せて来た。題名は『魔法生物の言語』と何のひねりもないものだった。そのページにはヘビ語について事細かに解説されている——ように思われた。
しかし、そこにはこう書かれていた。『先天的にヘビ語を扱える魔法使いは限られている』、それこそスリザリンの子孫ぐらいしかいないのだろう。そして『後から習うこともとても難しい』、本の著者も『身につけることはできなかったため詳しくは書けない』、と。
「じゃあ、ハリーは本当にスリザリンのひひひひ孫だってこと?」
「グリフィンドールに入れられた以上、さすがにそれはないんじゃないかしら? とは思うんだけど、じゃあ何で使えるの、と聞かれたらどうにも説明がつけられないのよね」
「本人でさえ分かってないみたいだしね……。
あっ次、『変身術』でしょ? そろそろ行こう」
解けそうもない疑問は一旦横に置き、『変身術』の授業ヘと向かう。しかし、廊下の途中に大量の人が一箇所に集まっていて、道は塞がれてしまった。人だかりの中央いたのはハリー・ポッター。ちょうど、ハロウィンの時のように。
「まさか、また誰かやられたんじゃないでしょうね」
「残念だけど、そのまさかみたいだね……」
どうやら被害者はジャスティンとゴーストの『首なしニック』のようだ。既に死んでいてもお構いなしにやられる、この事実は騒ぎを一層大きなものにした。
クリスマス休暇にこの物騒な学校に残ろうという者は、魔法の研究のために残るわたしたちのほか、ハリーたち三人、フレッド、ジョージ、ジニー、そしてドラコと取り巻きの二人のみとなっていた。『継承者』の敵ではないはずの純血の生徒たちもいないのは、何か襲われる危険性の他に理由があるのだろうか。
*
「キキちゃんおはよう、メリー・クリスマス!」
「おはよう、アル。いやにテンションが高いわね。どうしたのよ」
「今日はキキちゃんに、最高のプレゼントを用意したんだよ」
そう言ったが、わたしは手ぶらだった。そして、それはキキちゃんにプレゼントの正体を明かすのに十分だった。座席の一割も埋まっていない大広間で朝食をとると、すぐに空き教室に直行した。もっとも、授業はないので全ての教室が空き教室のようなものなのだが。少し広めの空き教室を見つけて滑り込み、盗聴防止魔法をかける。
「ついにキキちゃんだけの専用魔法が完成しましたっ! 拍手!」
「わー」
「さて、茶番もこれくらいにして——」
新作魔法の習得講座は、そのまま正午を回るまで続いた。わたしの開発した魔法を使って決闘による実戦練習をしたのだが、キキちゃんが予想以上にしっかり使いこなすので、その相手はそれなりに大変だった。
「アル、すごいじゃない。もしかしたら、あたし自身よりあたしの能力を理解してるんじゃないかしら」
「どうだろうね?」
ちょっと照れくさいが、実際のところどうなのだろう。自分のことを客観的に見るのは難しいので、たしかにわたしはわたしのことがよく分かっているとは言い難いかもしれない。
気まぐれな階段がグリフィンドール寮への道を繋げてくれるのを待っていると、下の階に人影があるのを発見した。
「あれ、あそこにいるのはいつもドラコくんの横にくっついてる二人?」
「どうしてこんなところにいるのかしら? 怪しいわね」
クラッブとゴイルの周りにドラコ・マルフォイの姿は見当たらない。そして何故か、二人のスリザリン寮があるはずの地下ではなくこちらに向かって階段を上がって来ている。
「ねえ、そこの二人。ドラコくんがどこにいったか知らない?」
話しかけると、二人は困ったような表情で顔を見合わせた。ドラコとはぐれてしまったのだろうか、と思ったが、少ししてゴイルが強い違和感を発していることに気づいた。この魔力波長、明らかに——
「キキちゃん、この人、ハリーの杖を持ってるよ」
一瞬だった。二人が気づいた時には、いつのまにか背後に回り込んでいたキキちゃんに『足縛りの呪い』を食らっていたのだった。
「エクスペリアームス!」
ゴイルのポケットに『武装解除呪文』を叩き込むと、確かにハリーのものであるはずの杖が飛び出してきた。『球』を埋め込んでいたときに、そのすぐ隣にあるハリーの杖の魔力は常に感じることになっていたので、よく覚えていたのだ。
「どういうことか、教えていただけるかしら?」
「あー、ハーマイオニーは二人に伝えてなかったのか……」
クラッブが見かけに合わぬ口調で喋り出す。ハーマイオニー? 何故こいつの口からハーちゃんの名が?
「『ポリジュース薬』でクラッブとゴイルに変装したんだ。僕はハリーだよ。あともう少しで効果が切れるはずなんだけど……」
それを証明するように、ゴイルの身体はだんだん小さく、細くなっていく。クラッブのほうも、髪の毛が赤くなり始めていた。
「なるほど、ね。『
二人の『足縛りの呪い』を解除して立ち上がらせる頃には、二人はすっかり元のハリー・ポッターとロン・ウィーズリーの姿に戻っていた。
「すっげーな、キキ。いつのまにか『姿現し』が使えるようになったんだな」
「学校の中では使えないわよ。ただ走って回り込んだだけ」
「走っただけって、ぼくには突然消えて後ろに現れたようにしか見えなかったぜ?」
わたしがキキちゃんにプレゼントした魔法、それは自身や他のものの動きを加速させる魔法だった。
瞬発力がもともと高く素早い桔梗がこれを使えば、瞬間移動したかのように見えるほどのスピードを叩き出すことができる。箒の上で使えば、元々の最高速度まで一瞬で加速するのはもちろん、さらにスピードを出すこともできる。
もちろん利便性に見合った代償はあって、魔力の消費量が激しすぎるという欠点がある。まだ魔法変換の研究は完璧ではなく、どうしても構成が複雑で非効率になってしまう。
「それで、あんたたちはなんでクラッブとゴイルに化けてたわけ?」
「マルフォイが『継承者』なんじゃないかと思って、本人から聞き出そうと思ったんだ。
でも違った。あいつは自分も僕も継承者な訳がない、誰が継承者なのか分かったら手助けしてやりたい、と言ってたよ」
「あと、自分の屋敷の重大な秘密をぼくに教えてくれたぜ。『闇の魔術』の道具を隠し持ってるって。父さんに調べさせるように頼んでおこう」
「それは大発見ね。でも、やっぱりマルフォイは継承者じゃなかったのね。アルにもそんなこと言ってなかったし。——あんたたち、どこ行くのかしら? ここはまだ三階よ?」
ハリーとロンは階段を上りきった時点で廊下の方へ足を向けていた。グリフィンドール塔の入口は八階のはずだ。
「ハーマイオニーがこっちで待ってるんだ。その、女子トイレで——」
「あんたは男でしょう?」
「知らないのか? 三階の女子トイレには『嘆きのマートル』がいるから、ここを使おうなんて生徒はいないんだ」
なるほど、スネイプ先生から盗み出した材料を使って、そこでポリジュース薬をこっそり調合していたという訳か。マートルとやらが何なのかはよく分からないが、とりあえず行かせておくことにした。
「いいところで練習台が出てきてくれたわね」
「あはは、そうだね。わたしにも見えないスピードだよ、ほんとうに。でもすごいね、向こうも。ポリジュース薬って、調合するのけっこう難しかったと思うけど」
「ハーマイオニーに規則破りの味を教えたあの二人も、偉大と言えるかもしれないわね」
*
「あれ、なんだろう。アリスから連絡だ」
久々の晴れ晴れとした朝日を浴びながら起きると、『袋』から魔力による信号が送られてきた。これは自宅のものと内容が同期されるホワイトボードに変更が加えられたことを示すものだ。『変幻自在術』とは違って双方向に連絡が取れるものだとアリスは言っていた。そもそもそのなんとか術がよく分からないのだが。とにかく、ホワイトボードを取り出して内容を確認する。
『出た。至急帰宅願う。 アリス
一九九二年十二月二十七日 六時〇九分』
「——は?」
とりあえず、時計を見る。八時十六分。隣のベッドを見る。キキちゃんはまだ寝ている。
改めてホワイトボードを見るが、内容に変わりはない。一つ気づいたことといえば、いつもより若干字が荒れているということか。状況は分からないが、来いと言われたからには行くことにする。メモを残し、転移魔法を発動。本当、便利な魔法である。
久々の我が家。やはりここが一番安心できる。
そして、何かが『出た』らしいのに守護魔法が作動した形跡は見当たらない。効果が切れているわけでもなく、しっかりと防衛を続けてくれているはずだ。アリスから事情を聞き出すべく、庭を横切り玄関の扉を開けた。
「ただい——」
そして、ホワイトボードに書かれていた文言の意味を理解する。そこには『いた』。
「あら、あなたがここの魔女さん? お邪魔してるわよ」
気の抜けるような声だ。とっさに『それ』に向けて呪文を放ったが、声の主に当たることはなくすり抜けた。
——そう、すり抜けた。
「あら、それが挨拶? ひどいじゃないの。あたしはまだ何もしてないわよ!」
「『まだ』? これから何かするつもりってこと? そもそも、あなたは『何』なの? なんでここにいるの?」
「見ての通り、幽霊よ。なんでって——。
あれ……なんでだったかしら?」
またも気の抜ける答え方だ。とりあえず、脅威ではないと見てよさそうだ。改めて見てみれば、幽霊とはいえ可愛い見た目をしている。長い銀髪に、紫を基調とした足元まで覆う長いスカート。いや、幽霊なら足は無いのか。何故か手には傘を持っている。
そして、半透明で単色なホグワーツで見るゴーストとは違い、実体があるかのようにはっきり見ることができる。
「は、はぁ。それで、幽霊さん。お名前は?」
「あたしを追い出さなくていいの? まあ、仲良くしてくれるなら嬉しいわ。あたしはパメラ。パメラ・イービスよ」
さて、どうしたものか。幽霊自体はホグワーツで散々見慣れているが、自宅に現れるとなると別だ。少なくともアリスとの相性は最悪で、恐怖こそ抱いていないようだが玄関ホールの隅でパメラとできるだけ距離をおきたいという意思を全身で示している。
しかし、このまま追い出してしまうのも酷である。少なくとも、マグルの世界での扱いがここにいるより良いものである可能性は少ないだろう。そもそも、追い出すことが可能かどうかも定かではない。
それに、ここに出現されてしまったということはこの家の秘密といえるものを全て掌握することが可能であるということだ。そんなものを野に放っておいてはプライバシーもへったくれもない。
「……イービスさん、ホグワーツについて来る? お仲間さんもたくさんいるよ」
ならば、近くに置いておけばいい。知り合いに幽霊がいる、というのもなかなか面白そうだ。仲間にしておけば、思わぬところで役に立ってくれるかもしれない。
「ホグワーツ? なにそれ、魔女さん」
「わたしの行ってる学校。魔法学校だよ。名前言ってなかったね。わたしはアルーペ・ミーティス。アルーペでいいよ」
「よろしくね、アルーペ。あたしもパメラでいいわよ。あんまりよそよそしいの、好きじゃないのよ。それで、魔法学校? 面白そうじゃない。あたしも授業受けられるのかしら?」
とりあえず、興味は持ってもらえたようだ。それと、第一印象は最悪だったはずなのに、なぜか異様に親近感がわく。一応、自分もそうであると自覚しているのだが、のんびりとした性格が一致するからだろうか。
「それは多分無理だよ……。パメラは、昔魔女だったとかあるの?」
「分からないわ。生きていた頃のことなんて、ほとんど覚えてないの。いつどうやって死んだかさえも覚えてないしね。……でも、今魔法が使えることは確かよ」
「えっ?」
魔法が使える? どういうことだ。パメラは確かに魔法学校を知らないと言ったはずだ。それなのに、幽霊の状態で魔法を使うというのだ。
「あら、こんな弱々しい幽霊が魔法なんて、と思っているのかしら?」
「あっ、ちがうよ、そういう訳じゃ……」
「いいわ。見せてあげましょう。ダンズフレイム!」
パメラは手に持っていた傘を開くと先端を何もないほうに向け、呪文のような言葉を唱える。すると、傘の駒の全体から一箇所に集中するように炎が噴き出した。それ武器だったのかよ。
「うわあ、危ないっ!」
慌てて周辺の家具や壁、天井に防火処置を施す。いくら守護魔法があるとはいえ、内部から放火されてはたまらない。パメラはそんなわたしを見て、むすっとした顔で言った。
「友達の家を焼き尽くすほど馬鹿ではないわよ」
どうやら、いつのまにか『友達』まで昇格していたらしい。それにしても、本当に魔法が使えるとは驚きだ。それも、見たことのない種類の魔法で、威力もそこそこありそう。これで、知っているだけでも四種類の魔法と付き合っていかなくてはいけないことになってしまった。
「それで? そのホグワーツにはどうやっていけばいいの?」
「えーっと、幽霊でも一緒に転移魔法使えるのかな……」
さっそくパメラはホグワーツに移動する意思を見せた。なるべく早く戻りたいところだが、どうしよう。ホグワーツにいるゴーストとは違って任意の物に触れられるようなので、触れてもらえれば転移できるのだろうか。
「つまり、あたしはどうすればいいのかしら?」
「わたしに『触れて』いれば多分できると思うんだけど——」
「とりあえずはやってみましょ。ついて行けなくたって死ぬわけじゃない……というか、あたしもう死んでるもの」
言われた通り、とりあえず肩に『触れて』もらった。生身のような温かみはないが、それ以外は普通の人間に触れられているのと同じ感触だ。もしかしたら起きている生徒もいるかもしれないので視覚妨害の魔法をかけ、そのままグリフィンドールの談話室に向けて転移魔法を発動。談話室にあるふかふかの椅子に『目標』を置いてある。
「ただいま、キキちゃん」
そこに帰ってくるのを知っていたのか、キキちゃんが暖炉の前の椅子に座っていた。他の生徒は談話室にいないようなので、視覚妨害を解除する。後ろにはしっかりパメラの姿を確認することができた。
「おかえり、アル。——誰? 後ろにいるの」
「あら、お友達? あたしはパメラ。見ての通り、幽霊よ」
「は、はぁ。あたしはキキ。パメラはどうしてここに?」
キキちゃんは面食らいながらも、冷静に受け答えた。もしかすると、こういうことは『前世』で慣れっこだったのだろうか。あまりの反応の薄さに、むしろパメラが驚いていた。
「アルーペに提案されたのよ。理由はそっちに聞いて」
話を振られたので、情報保持のためパメラをここに連れてきたことを説明した。パメラに理由を聞かせるのも初めてだったが、異論はない様子だ。
「それじゃ、あたしはお仲間さんたちを探してくるわね。久々に広々と動き回れるわ」
話から解放されると、パメラは壁をすり抜けて城の散策へと出かけていった。幽霊は幽霊で便利かもしれない。もしかしたら、ホグワーツに沢山あるらしい秘密の抜け道なんかも見つけてくれるかも。
「……マクゴナガル先生には言っておいた方がいいんじゃないかしら? 幽霊とはいえ、非正規の方法で、城の防衛魔法をすり抜けて連れてきたのよ」
「そうだね。事後承諾になっちゃうけど……」
結果から言えば、マクゴナガル先生は快諾してくれた。むしろ、少し変わったゴーストとして興味を持ってもらったぐらいだ。自分やこの城の情報をしっかりと管理させるように、という条件付きであったが、元からそれが目的なので大したことではない。
「それってさ、パメラが見つけてきた抜け道とかも使い放題でいいよ、って言ってるようなものじゃないかしら?」
「想定してなかっただけだと思うけど……」
いたずらっぽく笑うキキちゃんに冷静な判断を返す。精神的な年齢は人格保持の『転生』のせいで自分よりはるかに上なはずなのだが、たまに子供っぽい時もある。年齢といえば、パメラは生まれてからいったい何年の時間を過ごしているのだろうか……。
*
「はい、魔法薬学の宿題。『満月草』についてのレポートを書け、だって」
「ありがとう」
「この材料、心当たりあるでしょ? しっかりバレてるみたいね」
医務室にいるハーちゃんに宿題を届けるのは、新学期が始まって以来日課となっていた。何故ここにハーちゃんがいるのか。彼女がハリー、ロンと共にポリジュース薬を使った際、スリザリンの女子生徒の髪の毛だと思って入れた毛が、実はその飼い猫のものだったらしい。結果、中途半端な変身をしたままになってしまったという訳だ。
ポリジュース薬の製法暗記テストでもしてみようか、とか考えていると、非常識な方向からの来客があった。
「あっ、パメラ。どうしたの?」
「あら、あなたがアルーペの話していた幽霊?」
マダム・ポンフリーの視線を気にもせず扉をすり抜け、医務室にパメラがやってきた。ちなみに、ハーちゃんには転移魔法で連れてきた、とは流石に言えないので、クリスマスに自宅から送りつけられた、と説明してある。嘘は言っていない。
「あなたがハーマイオニーさん? 思っていたより人間に近い見た目なのね」
「元々人間よ。アルーペ、この幽霊に何教えたのよ」
「間違って猫に変身しちゃったとしか……」
実際には事故を起こした直後の様子を事細かに説明してあげていたのだが、適当にやり過ごしておく。もし正直に言ったら——恐ろしい未来が見える。
「それで、何か言いに来たんでしょ?」
「そうそう。三階の女子トイレに、なんか怪しい日記? が転がってて、ハリー・ポッターが持って行っちゃったわ」
「怪しい日記?」
パメラによれば、その日記には『T・M・リドル』の名前が記されていて、中身は五十年前の日付以外に何も書かれていなかったという。何故トイレに転がっていたかといえば、誰かが個室にこもっていた『嘆きのマートル』に向けて投げ入れ、怒ったマートルが水で流し出したから、らしい。
「ハリーのとなりにいたロンって子は、魔力は感じられない、マグルの日記帳だ、って言ってたんだけれど、あたしは確かに魔力みたいな力を感じたわ」
「そんなものを一体誰が『投げ入れた』んだろう? 『T・M・リドル』なんて人、ホグワーツにいたっけ」
「ハーマイオニー、お得意の『本で読んだ』はリドルとやらの名前には発動しないのかしら?」
記憶の海を捜索しながら首を傾げると、それを見たキキちゃんがハーちゃんにも皮肉交じりの問いを投げるが、図書室の守神は首を横に振った。
「おあいにく様、ね。でも——」
「図書室に行けばわかるかもしれない、でしょ?」
「あら、よく分かったじゃない」
笑って答えるあたり、ハーちゃんはもうこの扱いには慣れているのかもしれない。調べ物がハーちゃんに頼めれば、わたしよりもう少し効率よく結果を出してくれそうだが、ミーティスのことである以上仕方がない。そんなことを考えながらふと後ろを振り返ると、ちょうどマダム・ポンフリーが薬を持ってこちらにやってくるところだった。
「幽霊の面会を許可した覚えは無いのですがね。ともかく、この調子なら明日には退院できますから、話はその後にしなさい」
特に拒否する理由もなかったので、パメラを手招きして大人しく医務室を後にした。
新キャラ登場。わかる人はタイトルでわかるやつ。
これでクロス原作タグも全回収。予定では新規キャラはあと1、2人だけ。
足縛りの呪い
某作品の誰かさんみたいにナイフでぶっ刺したりはしません。桔梗の高速移動はあれにヒントをもらったようなものですけどね。
加速キキ
RPG風に(前話後書き参照)
スキル『ゲシュヴィント』 MP-16、素早さ+128
ポリジュース薬
ゲーム版ではスリザリンの得点を減らすことができます。そりゃ禁書行きになるわけだ。
魔力消費
まだ魔法変換効率が悪い。相互変換すると消費量がえげつないです。
パメラ・イービス
『ユーディー』以降のアトリエシリーズの常連キャラ。
テーマ曲は『幽霊少女 for 作品名』となっています。
今話の副題はそれに倣いました。
傘の駒
布やビニールでできている部分。
プライバシーもへったくれもない
本に書いてあること、文面に書き残したこと、色々な情報がミーティス邸には眠っています。
幽霊/ゴースト
原作からいたのをゴースト、パメラを幽霊と表記することにします。
ハリポタのほうのゴーストは、原作者さんの解釈が若干異なるからです。
猫マイオニー
嬉しそうにパメラに語るアルーペを想像しましょう
パメラのスペック
前話後書きみたいな感じで書くならこうなります
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パメラ
・HP 0 物理攻 48 物理防 null
・MP 48 魔法攻 96 魔法防 32
・素早さ 32
・装備補正 なし
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夏って嫌い。
無気力になる(´・ω・`)