ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

16 / 27
第10話 秘密の部屋

「『閲覧禁止の棚』? 確かに私はその許可を出すことができますが……。何故ですか?」

 

九月二日の放課後、マクゴナガル先生の研究室。『閲覧禁止の棚』とは、同じ階にある図書館の、通常では生徒には見せられないような危険な書物が置いてある棚である。去年、そこに無断で立ち入った男がいるとかいないとか。

そこに入る許可を得ようとここを訪ねたわけであるが、理由か。ちょっと説明が難しい。

 

「友達のため、じゃダメですか?」

 

これは嘘ではない。本来の目的を、限りなく抽象的に言い表した言葉だ。普通なら、こんな曖昧な理由では許可はくれないだろう。そう思って説明の文章を考えていたが、マクゴナガル先生の答えは、良い方向に期待外れであった。

 

「……よろしい。あなたが何を考えているのかは分かりませんが、きっと無意味なことはしないと信じましょう。

サインをするので、少し待っていてください」

 

驚きを隠せないまま、許可証を受け取った。経緯はどうあれ、これは研究を大幅に加速させることのできる特急券となり得るだろう。

しかし、乗車券がなくては特急列車には乗れない。この場合は、自分の努力が乗車券となるのだろうか。早速図書館に向かい、躊躇なく閲覧禁止の書架に足を踏み入れた。

 

「うわぁ、なんて読むんだろう、これ……」

 

マダム・ピンスの監視を受けながら目を向けると、閲覧禁止の棚には、とても読み解けない象形文字のような文字で書かれた本、タイトルの書かれていない本、不気味な雰囲気を放つ本、色々な本が詰め込まれていた。

この中から、魔法を『作る』ことについて書かれたものを見つけ出さなければならない。なんとか読める本を取り出してみても、書いてあるのはたいてい危なげな魔術の「使い方」である。別に、殺人を代償として魂を分割したいわけではない。

 

「『オレと爆弾』……。なにこれ、錬金術の参考書かな……。永遠の命は要らないけど、錬金術も使えたら面白そうだなぁ。へぇ、不死鳥の涙には強力な癒やしの効果が……。でもそれを採取することは不可能って、ダメじゃん……」

 

結局、その日のうちには役に立ちそうな書籍を見つけることはできなかった。『閲覧禁止の棚』だけでも一度には見渡せないほどの量があり、この中から洗い出すのは骨が折れるだろう。

外で一般書籍の捜索をしていたキキちゃんと合流し、次回の捜索範囲を考えながら図書館から出ようとすると、自分の名前を呼ぶ声がした。廊下の反対側にいた声の主は、薄茶色の髪の毛のすこし小さめな少年だった。昨日の組み分けで見かけた覚えがあるので、一年生だろう。片手には小さなカメラをしっかり握りしめていた。

 

「えっと、あなたがアルーペさん、ですか? ぼく、コリン・クリービーです」

「よ、よろしく、コリンくん。どうしたの?」

「アルーペさんが、カメラに詳しいって聞いたんです。さっきハリーさんの写真を撮らせてもらったので、動く写真にしたいんですけど……」

「ごめんね、マグルの写真しか分からないんだ……。動く写真は研究中。もうちょっと分かったら教えてあげられるかもしれないけど……」

 

コリンはすこし残念そうな顔をしたが、分からないことは仕方がない。この少年はとりあえずハリーの写真を欲しがっているようなので、とりあえずは動かない写真として魔法で即時現像した。これはコリンを尊敬させるのに十分だったらしく、キキちゃんにそろそろやめなさい、と小突かれるまでわたしは質問の雨に降られ続けた。

 

 

「ねえアルーペ、あのコリンって子、どうにかしてくれないか?」

 

翌日、ハリーは疲れ切った様子でアルーペにそう訴えかけてきた。何事かと聞き返すと、コリンは四六時中ハリーにつきまとって写真を撮っているらしい。それも、ハリーの時間割を暗記しているのではないかと思われるほど正確に目の前に現れるとか。

 

「君、カメラがどうとかってあいつと話してただろ?」

「そうだけど……。あっ、『動く写真』を現像する方法を調べなきゃいけないんだった!」

「多分もうその必要はないよ。あいつ、自力で『動く写真』を作ったみたいだ。現像液がどうこうって言ってた」

 

なるほど、やはり現像にもひと工夫必要なのか。ハリーのことは、自分でなんとかしてもらうしかない。別に、わたしがハリーをフィルムでぐるぐる巻きにしろと指示しているわけではないのだ。それに、魔法のフィルムは二十四枚撮り程度しかない。そんなに安いものでもないため、あの一年生が何本も買っているとは考えにくい。そのうちフィルムが尽きて撮ろうにも撮れなくなるだろう、とハリーには伝えておいた。

しかし、はじめの週が終わる頃になっても、コリンのカメラはハリーを撮り続けているのであった。

 

 

土曜日の早朝。まだ日が昇りはじめたかどうかというころ、突然アンジェリーナ・ジョンソンに叩き起こされた。

 

「な、なに!? 地震でも起きたの!?」

「クィディッチの練習ですってよ。何を血迷ったのか、ウッドが一番乗りで練習をしようって……」

「……そういうことね。理解したわ」

 

あんまり理解したくないところだが。それは口に出さずに、あくびをしながらユニフォームを取り出す。アルの枕元にメモを残して談話室へ降りると、ちょうどポッターもオリバー・ウッドに引っ張り出されてきたところであった。

会話する気力などなく、無言でクィディッチ競技場の控室へと向かった。そこにはすでに他の選手たちがやってきていたが、しっかり意識を保持しているのはウッドだけのようだった。何やら競技場の図や矢印などが書かれた大きな紙を三枚ほど抱えている。

 

「ひと夏かけて、全く新しい練習方法を編み出した。競技場に出る前に、手短に説明したいと思う」

 

ウッドが杖で紙を叩くと、矢印が動いたりしながら説明をしてくれたが、それは一枚あたり二十分ほどかかりとても『手短』とは言い難いものだった。まともにこの話を頭に入れられる人はきっとこの場にいる半分にも満たないが、御構い無しに二枚、三枚と説明は続けられた。

 

「——というわけだ。分かったな? 何か質問はあるか?」

 

話が終わったことに気づき目を覚ました選手たちのうち、ジョージ・ウィーズリーが手を挙げた。

 

「なんでこの話を、昨日の俺たちの頭がまだ働いてるうちにしてくれなかったんだい?」

 

なんとか話を聞いていたあたしが『手短に』説明しなおすと、ウッドは早速控室から飛び出していった。後に続いて競技場に出ると、太陽はいつのまにかしっかり昇っていて、競技場を照らしていた。目覚ましと準備運動を兼ねて競技場をひとっ飛びしていると、観客席にアル、ハーマイオニーとロンが座っているのを見つけた。

 

「まだ終わってないのか?」

「いえ、まだ始まってすらいないわ」

 

「なんか変な音がするけど、なんなんだ?」

 

コーナーでフレッド・ウィーズリーを追い抜いたとき、声がかかった。確かに、パシャ、パシャ、とカメラのシャッターのような音が聞こえる。カメラといえばアルだが、アルのカメラは自動巻き上げなのでモーターの音も聞こえるはずだ。まさか、と思って観客席を見ると、その予想は的中してしまった。

 

「コリン・クリービーね。ハリー・ポッターの大ファンよ。さしずめ大物俳優をつけまわすパパラッチ、といったところかしら」

 

観客席のいちばん後ろの席から、小さなレンジファインダー機をハリーに向けてシャッターを切っている。望遠レンズを装着しているわけでもなく、そんなに素晴らしい写真が撮れているようには思えないのだが。

 

「スリザリンのスパイかと思ったよ」

「気持ちよくはないわね。でも、スリザリンにスパイは必要なさそうよ。ご本人さまたちが直々に視察にいらっしゃいましたからね」

 

地面のほうを見下ろしてみると、緑色のユニフォームを来たスリザリンの選手が入場してくるところだった。それにウッドも気づいたらしく、こう言いながらその集団の方へ飛んでいった。

 

「おかしい、今日この競技場を予約しているのは僕たちだ。抗議してこよう」

 

フレッド・ウィーズリーに続いて地上に降りた。ウッドはスリザリンのキャプテン、マーカス・フリントと口論していたが、体格の差は明らかで、若干頼りなく見えた。

 

「こちらはスネイプ先生から正式に許可をいただいているのでね。

『私、スネイプ教授は新人シーカー育成のためスリザリン・チームがクィディッチ競技場を使用することを許可する。』」

「新しいシーカー?」

 

ウッドが怪訝な表情を見せると、しっかりした体格の選手の中から、ひとり小柄な青白い顔が現れた。気取ったその表情に、その場にいたグリフィンドール・チーム選手の全員が顔をしかめた。

 

「ドラコ・マルフォイ……。ルシウス・マルフォイの息子じゃねえか。まさかお前が……」

「その通りだ。そしてそのルシウス・マルフォイが……」

 

マルフォイが父親の名を出すと、残りのスリザリン・チームの選手は待ってましたとばかりに手に持った箒を掲げた。全て新品の箒で、『ニンバス二〇〇一』の文字がピカピカに磨き上げられた柄に光っていた。

ウッドたちが唖然としていると、観客席から降りてきたアル、ハーマイオニー、ロン・ウィーズリーが駆け寄ってきた。

 

「一体どうしたんだ?」

「ウィーズリー、僕がスリザリンの新しいシーカーだ。父上がみんなに買ってくださった箒を賞賛していたところだよ」

「なんてこと……! いいわ、グリフィンドールの選手はみんな才能で選ばれているのよ。誰ひとり、お金で選ばれたりなんてしてないわ」

 

ハーマイオニーがきっぱりと言うと、マルフォイの顔が少し歪んだ。

 

「お前の意見など求めていない! この……『穢れた血』めっ!」

 

穢れた血……? どういうことだろうか。少なくとも良い意味の言葉ではなさそうだ。言われたハーマイオニーもアルも意味は分かっていない様子だった。しかし、その後の惨状から相当過激な言葉であったことを察するのは容易だった。フレッドとジョージがドラコに飛びかかろうとしてギリギリのところでフリントに止められ、他の誰かが「よくもそんなことを!」と金切り声を上げた。

そしてロン・ウィーズリーはポケットから杖を抜き、フリントの脇の下からドラコに突きつけた。

 

「ちょっとロン、その杖じゃ——」

「ナメクジ喰らえっ!」

 

アルもウィーズリーを止めようと杖を出したが、遅かった。『暴れ柳』に真っ二つにされたらしい杖は正常に動作せず、緑色の光線を術者であるウィーズリーのほうへ放った。

大きな爆発音とともに杖とウィーズリーは吹き飛ばされ、芝生に尻餅をついた。

 

「やっちゃったね……」

 

アルが吹っ飛んだロンの杖を自分の杖で『呼び寄せ』ると、ウィーズリーの杖は上半分と下半分で別々の場所から飛んできた。苦笑するアルに共感だ。

 

「ロン、ロン! 大丈夫?」

 

ハーマイオニーが駆け寄ると、ウィーズリーは口からナメクジを吐き出してそれに応えた。どうやらナメクジの呪いをかけようとしていたらしい。これがもししっかり相手に効いていたら、それはそれで問題になっただろう。

スリザリン・チームの選手たちは笑い転げていたが、ウィーズリーのそばには近寄りたくない、という様子だった。ちょっとイラっときたので、対戦相手のシーカーとして小言を投げておいた。

 

「あなたがその箒に見合う腕を持っているか、楽しみにしておこうかしらね」

 

 

ホグワーツの大広間ではハロウィン・パーティが開かれていた。その飾りつけは例年通りかそれ以上に豪華であったが、その中にハリー、ロン、ハーちゃんの姿はなかった。その理由は飾りつけなどそっちのけでかぼちゃ料理のご馳走に食らいついているわたしたちが知っていた。

 

「『絶命日パーティー』がこのかぼちゃパイよりも価値のあるものだとは到底思えないわ」

「でも、ハーちゃんは一度もこの料理を食べたことないんだよね……」

「はぁ。そういえば、去年は色々あったわね……」

 

一年前のハロウィン・パーティーのとき、ハーちゃんは地下の女子トイレにこもっていたところをトロールに襲撃されたのであった。わたしはトロールに対抗しようとして救出しようとして杖と万年筆を取り違えるという致命的なミスを犯したが、偶然か必然か、万年筆にかかっていた強力な防衛魔法に救われたのであった。

 

「パーティーが中断になったせいで、このケーキを食べ損ねたんだったかしら」

「心配しないで、短時間だけど食べ物を美味しいまま保管する魔法を修得したから」

「あら、それならハーマイオニーのぶん、取っておいてあげましょ」

 

言われなくとも、そのつもりだ。ケーキとその他のハーちゃんが好きそうな料理を少々皿に盛り、呪文を唱えた。覚えたての魔法で成功率が心許ないからだ。

 

「『エアハルトゥレッカー』!」

 

瞬きの間、料理は青色の閃光に包まれた。術がかかる前と見た目が変わったようには見えないが、これで三十分間は美味しいまま維持できるという。なお、重ねがけしたり三十分後にかけなおしたりしてもその効果が延長されることはなく、時が来れば一気に冷たくなってしまうらしい。

 

この後は昨年のような事件も起こらず、ハロウィン・パーティは平和に終わった。そのまま談話室に戻り、ベッドに潜り、特別な日は何事もなく過ぎ去っていく——。誰もがそう思っていた。

しかし、ぞろぞろと階段を昇り三階の廊下に出たとき、その考えは打ち砕かれることになった。いちばんに視界に入ったのは、松明の腕木に尻尾から吊り下げられた猫。その壁には、赤字で何やら書いてある。そして、廊下の真ん中にはハロウィン・パーティにはいなかったハリー、ロン、ハーちゃん。

 

「なんて書いてあるの……?」

 

いくら視力が良くとも、人垣を透視できるわけではなく、身長が高いわけでもないのでそれを視界に入れることは難しかった。しかし、誰かが静けさを破ってその文章を読み上げたことでその内容は明らかになった。

 

「『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけろ』! 次はお前の番だぞ、『穢れた血』め!」

 

聞き覚えのある声だ。一瞬だけ浮遊魔法を使うことで少し高めにジャンプすると、その正体を目にすることができた。青白い顔を少しだけ赤らめてそこに立っていたのは、ドラコ・マルフォイだった。

この声を不審に思ったのか、管理人のアーガス・フィルチも群衆を押し分けてその現場に駆けつけてきた。惨状を見ると、吊り下げられた猫を見て相当な衝撃を受けたのか、金切り声で叫び始めた。

 

「私の猫だ! 私の猫! ミセス・ノリスに何があったっていうんだ!」

 

そして、その場にいた四人の顔を順に見ると、なんの恨みがあるのか、その中から一人容疑者を選出した。

 

「お前だな! ハリー・ポッター! お前があの猫を殺したんだな! 今度は私がお前を殺す!」

 

フィルチがハリーに手を出すのではないかと思い杖を取り出そうとしたが、その必要はなかった。すぐ脇をダンブルドア校長、それに続いて何人かの教師が群衆を縫って向かっていったからだ。

ダンブルドア校長はミセス・ノリスを燭台から外すと、フィルチとその場にいたハリーたち三人をギルデロイ・ロックハートの部屋(本人が使うように言った)へ連れて行った。

 

 

事件があってから、ハーちゃんはいつも以上に図書館にこもっているようになった。『魔術理論』の本を読みながらメモ帳に万年筆を走らせていると、ハーちゃんが隣の席の椅子を引きながら愚痴をこぼすように話しかけてきた。

 

「『ホグワーツの歴史』が全部貸し出されてるのよ」

 

そういえば、ここしばらくハーちゃんと会話をしていなかったような気がする。彼女に限らず、『秘密の部屋』について調べることが流行っているようだ。

 

「でも、秘密の部屋の正体がわかったとか、そういう噂は聞いてないよ。『ホグワーツの歴史』には書かれてないんじゃないかな」

 

ここで、隣で魔法史の『「中世におけるヨーロッパ魔法使い会議」について羊皮紙一メートルの長さの作文を書く』という課題を消化していた(提出は今日のはずなのだが)キキちゃんがわたしに耳打ちするようにぼそりと言った。

 

「あの『ホグワーツの歴史』なら載ってるかしらね」

 

なるほど、それはありそうだ。後で見ておこうと、メモ帳の端に『ホグワーツの歴史』と走り書きした。

しかし、『秘密の部屋』の伝説はアルーペがそれを読む前に知れ渡ることになった。午後のはじめの相変わらず退屈な『魔法史』の授業で、ハーちゃんが唐突に『秘密の部屋』についての質問を投げかけたのだ。

 

「私がお教えしとるのは『魔法史』です。事実を教えているのであって、神話や伝説ではない」

 

ゴーストのビンズ先生は授業を再開しようとしたが、ハーちゃんの手は依然として天井に向いて挙げられていた。

 

「先生、お願いです。伝説とは必ず事実に基づいているものではありませんか?」

「そうとも言えましょう。しかし——」

 

自分の知る限り、ビンズ先生はこれまでで一番多くの視線を浴びていた。恐らく、彼の人生が始まってから、そして終わってからも一番であるのだろう。

 

「あー、よろしい。さて、『秘密の部屋』とは——。みなさん知っての通り、正確な年号は不明だがホグワーツは一千年以上前に——」

「九九三年よね」

 

キキちゃんが耳元で言った。確かそうだったはずだが、最近の『ホグワーツの歴史』には創設年は載っていないのだろうか。実は正確な値でなかったと判明して削除された、なども考えられる。

 

「——当時の最も偉大な四人の魔法使いによって創設されたのであります。そして、四つの学寮はその名前にちなんで名付けられました。すなわち、ゴドリック・グリフィンドール——」

 

思わず自分の手に持っている万年筆に目が向かった。

 

「——ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そして、サラザール・スリザリン——」

 

つまるところ、スリザリンの純粋な魔法族の家系にのみ魔法教育を与えるべき、という思想で他三人との間に亀裂ができ、やがてスリザリンはホグワーツを去ってしまったのだという。

これはわたしも初めて知ることだった。マクゴナガル先生からもらった『ホグワーツの歴史』に書かれているのかもしれないが、如何せん量が多すぎる。まだ一割も読み終わっていない。改定のとき内容が減らされた理由が理解できるようだ。

 

「——そして、『秘密の部屋』の伝説は、スリザリンはこの学校に他の誰にも知られていない隠された部屋を作った、という話です。それを開けるのはこの学校に現れる彼の真の継承者のみと。部屋の中には『恐怖』——なんらかの怪物が封印されていて、それを用いてこの学校からここで学ぶに相応しくない者を追放するということなのです」

 

早速この話に『恐怖』を覚えた生徒たちがざわめくが、ビンズ先生はまったくくだらない、という顔で続けた。

 

「これはただの伝説。実際にそんなものは存在しないのです。『部屋』もないし、怪物もいない」

「でも先生、『無い』ことを証明するのは不可能だと思いますよ?」

 

誰かが反論した。まったくもってその通りだ。特にこの魔法界では。しかし、ビンズ先生は『無い』という主張をひと時も曲げることはなく、まもなく教室はいつもの気怠い空気に包まれることとなった。

その後、未改訂版の『ホグワーツの歴史』を確認したが、この本はどうやらサラザール・スリザリンがホグワーツを離れる前のものだったらしく『秘密の部屋』についての手がかりとなることは書かれていなかった。

 

「怪物とは何なのか、継承者は誰なのか、それを判明させないといけないのね」

「怪物と出くわした時のためにも、わたしは魔法をどうにかしなくちゃ」

「そうね。頼んだわ、アル。

継承者……。ポッターだなんて噂もあるけど、とてもそんなふうには思えないわね。そんな素質のある人だったら、組み分け帽子がスリザリンに放り込んでいるわ」

 

帽子といえば、未だに校長室にあるであろうそれと対面することは叶っていない。『ホグワーツの歴史』によれば、あれはゴドリック・グリフィンドールが作ったものらしいのだ。ミーティスの謎、秘密の部屋の謎、この両方を一度に解決してしまうアイテムにもなり得る。キキちゃんのための魔法が出来上がったら、次はこれに対処せねばならないのだろう。図書室でそんなことを話していると、『閲覧禁止の棚』のほうから見覚えのある顔が出てくるのが目についた。

 

「あれ。ハーちゃん、どうしたの?」

 

ハーマイオニーは気づかれるとは思っていなかったらしく、少し動揺しながら小声で答えた。

 

「あとで教えるわ。今は急いでるの」

「そう……」

 

いかにも何か企んでいますよ、といった様子だったが、特に追求しないことにした。今は自分の研究を優先すべきだ。ハーちゃんならわたしの助けは不要だろう。一応どんな本かを確認してみると、題は『最も強力な魔法薬』とあった。

 

「こっちも負けてられないわね」

「そうだね」

 

次の本を探しに『閲覧禁止の棚』へ向かった。




マンドレイク
 今作では原作知識前提なのでカットしましたが、初日の授業でこれを扱いましたね。
 ……アトリエでは『マンドラゴラ』なんだよっ!

閲覧禁止の棚
 原作ではあらかじめ本を指定してマダム・ピンスに取ってきてもらうシステムでしたが、今作では棚のあるところに入れてもらって、出るときに本を確認するシステムとしました。
 やばい本だったら多分却下されます。

特急券
 快適に研究できるグリーン券はないんですか?

小さなカメラ
 映画見る限りたぶんレンジファインダー機です。メーカーはわからない(´・ω・`)
 追記 どうやらアーガスC3とかいうカメラらしいです。

新しい練習方法
 原作と違って桔梗のおかげで去年も優勝できたはずなのですが、一体何がウッドを動かしているのでしょうか……。

エアハルトゥレッカー
 ドイツ語で
 エアハルトゥング(erhaltung):保全
 レッカー(lecker):美味しい
 の意の二単語を混ぜました。カタカナにしてからテキトーに混ぜてるので綴りは分かりませんしドイツ語話者が見ても訳わからないと思います。

戦いのあった時代
 そんな時代うp主把握してないんですけどアルーペさん何言ってんですか

九九三年
 実は未改訂版にしか載っていなかった……とかいう勝手な設定です。
 原作で創設年を知る術はあったのかな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。