ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第0E話 鳥になった私

「これが、君に合わせて作った箒だ。先週も伝えたが、今からこの箒で、もう一度試運転をしてもらう。微調整をすれば、君だけのために作られた、世界にたった一つの箒の完成だ」

 

あれから一週間、ドイツ・シュヴァルツヴァルト自信満々、といった様子のエイブル・スパドモアから箒を受け取る。世界に一つ——なんとも魅力的な響きである。その柄はハリー・ポッターの使っていた『ニンバス二〇〇〇』よりもなめらかで、すっきりしている。エイブルさんの話によると、ダイヤモンドを使って手作業で研磨しているらしい。

ふと柄の先端を見ると、「1」の数字が刻印されていた。

 

「これ、何ですか?」

「あぁ、製造番号だ。これも、手作業で彫り込んでいる」

「えぇっ! じゃあこれが、その箒の『一番目』……?」

「その通り。名前はまだ教えられないが、量産品が発売されたら、ロゴが浮き出てくるような仕掛けをしておいたのでね。楽しみにしていてくれ」

 

なんということだろうか。製造番号『一番』。これが箒でなくとも、職人の手で作られたその『一番』の価値は、おそらくマグルの世界であっても変わらないだろう。そう意識すると、この手にある洗練された箒が、まるで純金のようにずっしりしているような気がした。無論、その飛行性能のため実際にはとても軽いのだが。

 

「私からの、ちょっとしたサプライズだ。本来、一ケタは欠番なんだがね。特別な時だけ、使うことにしたんだ。……さあさあ、最後の仕上げに協力しておくれ」

 

言われるがまま、その『一番』にまたがった。マダム・フーチが飛行訓練のとき言っていたように、地面を軽く蹴る。すると、芝生の生えた地面が押し下げられた。否、箒が、わたしが、浮いた。

 

「すごい! わたし、飛んでる!」

 

何もすごいことは起きていない。ただ、魔女が箒で飛んでいるだけだ。しかし、わたしにはそれが特別だった。自分はたった今、陸から離れ、空の自由を手にしたのだ。

 

「どうだね? その『一号』は」

「最高です! わたし、こんな……。ありがとう、ございます……!」

「——実は、君みたいな人は珍しくはないんだ。ニンバスやら、コメットやら……。そんな量産型の箒を持って、私のところにやってくる。

もちろん、その箒を捨てて我が社の箒を買えとは言わない。たとえ他社製品でも、私はそれにチューニングを施してやる。

すると、みんな君みたいな顔をして、嬉しそうに飛んでいく。それで、私まで嬉しくなってくる。これはやめられないよ——」

 

 

「おかえりなさいませ、アルーペ。

……箒は上手くできたのですね。良かったです」

 

飛んだまま『転移』して自宅に戻ると、アリスが待ち構えていた。わたしは地面にそっと降り立った。うむ、実に魔女っぽい。箒を担ぎ上げ、『袋』にしまい……。あれ?

 

「どうかしましたか?」

「あれ? この箒……」

 

たった今しまったはずの箒を再び取り出し、その箒に、いや、その周りの『空気』に目をやる。そして、わたしは見た。

 

「この箒も、魔力を貯めているみたいだね」

 

見た、というのはもちろん光学的にではない。魔力が、箒に吸い込まれ蓄えられていく魔力が、『感じられた』のである。

 

「それはつまり、杖のように、ですか?」

「うん。でも、風属性だけみたい。そっか、『グラビ石』を使ってるって言ってたもんね」

 

ミーティスの技術で作られたそれを使っているなら、同じ種類の魔力を使っていても何もおかしなことではない。しかし、これは……。

まさかね、とつぶやきつつも、箒をしっかり握り、数メートル先に『転移』を試みた。——成功した。

アリスもすぐにこの意味を理解した。先ほど転移魔法を使ったばかりで、杖にはほとんど風属性の魔力が残っていなかったはずだ。それなのに、この状況では連続して二回目のそれを発動できた。つまり、この箒の魔力を使っても魔法が行使できるということだ。

転移魔法一回ぶんほどしか容量はないが、飛行での魔力の消費は供給を下回っているため、よほど魔力の薄い空間でない限り、全て使い切っても飛べなくなる心配はない。

 

「また、思わぬ利益を手に入れましたね」

「なんか不思議だね。まあ、いつもいちいち箒を出してる余裕があるとは限らないし、無属性魔力の対策を忘れていていいってことじゃないんだけどね……」

 

使える魔力が多くて困ることはない。対策をした後も無駄となることはないだろう。

それにしても、思っていたよりミーティスの魔法は世界中で活躍したりしているのかもしれない。暇があれば、それを探して旅でもしてみようか——。

 

 

さらに一ヶ月ほどが経った。魔法嫌いのマグル、ダーズリー一家に監禁されていたハリー・ポッターが、ロンとフレッド、ジョージ・ウィーズリーの手によって救い出されたことなぞ露知らず、わたしは自宅の書物を読みあさっていた。

転生のこと、杖に魔力を供給する方法、過去の他の魔法族との交流、特にホグワーツとのこと、このどれか一つでも見つかればいいのだが、今のところ役に立ちそうな資料は皆無である。どうやらあまり書物に記録を残すという文化がなかったらしい。しかし、どこかに必ず記録が存在するのが世の常であると思うのだが……。

一旦打ち切りそろそろ昼食を食べようか、というとき、来客を知らせるベルが鳴った。すぐに玄関へと直行、そこに立っていたのは箒(に含まれると判断されたデッキブラシ)を持ったキキちゃんだった。

 

「アルが新しい箒を手にしたって聞いてね。やっと暇ができたから来てみたのよ」

「いらっしゃい。ごめんね、お昼まだなんだ。ちょっと待っててね」

「分かったわ。あたしはさっき夕食を済ませたところよ」

「夕食……? あぁ、そっか」

 

一瞬面食らったが、すぐに時差の存在を思い出す。イギリスでは昼間だが、日本ではとっくに日が沈んでいるのだろう。つまり、時間を忘れてここにずっといては日本で寝る時間がなくなるということでもある。時差ぼけ解消の魔法がかかっているとはいえ、肉体的な疲労を無しにできるほど強力なものではない。

とりあえずはキキちゃんを応接間に通し、自分はさっさと昼食を済ませてしまうことにした。向こうで日付が変わるまでには返ってもらった方がいいだろう。

 

「アリス、退屈させちゃうからキキちゃんとお話してて」

「了解しました」

 

 

「アル、魔法作っちゃうんだって!? すごいじゃない!」

 

味わう暇もなく昼食を片付け応接間に戻って来れば、目を輝かせてキキちゃんがすっ飛んできた。どうやらアリスから話を聞いたらしい。

実を言うと、このことは秘密にしておき、いきなり完成品を見せて桔梗を驚かせる予定だったのだが。しかし、話さないでおいてくれ、と頼み損ねた自分が悪いのであって、アリスを責めることはできない。

恐らく、アリスはこの一ヶ月のことを話していたのだろう。どこまで詳しく話したかは分からないが、わたしからの説明は必要なさそうだ。

 

「で、折角アルもちゃんと飛べるようになったんだしさ、練習も兼ねてそのへんぶらっと飛んでみない?」

「いいね! わたしもちょっと、そうしてみたいって思ってた。……さすがにこれでもドーバー海峡は越えられそうにないけど」

 

箒を持って来た時点で予想はついていたが、息抜きにはちょうどである。エイブルに箒をもらってから一ヶ月、まだまともに飛んでいなかったので試運転にもちょうどいいタイミングだ。問題があるとすればマグルに見られてしまう可能性だが(少なくともホグワーツの魔法界では禁則事項である)、幸いにも視覚妨害の魔法は風属性であり、箒に溜まっている魔力を使える。

時計に目をやると、午前十一時。日本ではもう日が沈んで午後七時であるが、まだ時間は十分にある。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

 

キキちゃんは並んで空へと舞い上がる。あっという間に、自宅は豆粒のような大きさになった。もっとも、魔法で内側だけ拡張しているので、もともとたいした大きさではないのだが。

もうすこし上昇すると、自宅敷地の防衛魔法の範囲外となった。環境の制御から外れたことで、空中の風が地上よりもはるかに強いことを思い出すことになる。法律上はこのまま大気圏の中は『敷地』なのだが、魔法はそこまでご都合主義ではないようだ。

 

「アル、大丈夫?」

「うん。なんとか。すごいね、鳥になったみたい!」

「嬉しそうで何よりだわ。こう、身をかがめてできるだけ風に押されないように——。そうそう、そんな感じ」

 

キキちゃんが基本を教えてくれることもあり、新しい箒は難なく使いこなすことができそうだ。『前世』からの箒の使い手である我が親友にして大先輩の腕は、間近でみてもなかなかのものである(それにしがみつく黒猫の方も地味にすごい)。キキちゃんは最初からこのために来てくれたのではないか、というのは考えすぎだろうか。

記念に一枚、と袋からカメラを取り出し(落とさないでよ、とキキちゃんがひやひやしていた)、自宅のほうに向けてシャッターを切った。左手は箒に添えたまま。

 

「片手で五百ミリ、ぶれちゃったかもなぁ」

「さすがに、両手を離すのはもっと慣れてからにしてね……」

 

さらにそこから離れると、自宅とそれを囲う森は急に視界からふいに姿を消した。遠くまで見渡しても、あるのはマグルの住宅街だけである。キキちゃんが驚いているようなので、あの空間は無害な訪問を目的とする人がそこに近づいたときにしか認識できないようになっている、と説明した。ちょうど、ダイアゴン横丁のマグル避けと似たようなものか。

段々と建物が増えていき、まもなくキングス・クロス駅が眼下に現れ、ホグワーツでの生活の始まりを思い返すことになった。とりあえずは、ここで一旦引き返すようだ。自宅の方角は、その魔力を探知することで分かるので、帰りはわたしがキキちゃんを先導する。

こんどは、少し速度を上げる練習を兼ねての飛行。速ければ速いほど、その制御は難しくなる。しかし、流石は最高級を名乗る箒だけあり、それはあまり苦にならなかった。自分が制御し損ねても、箒の方が勝手に行きたい方を向いてくれる、という具合である。まっすぐ戻ったため、往路の半分ほどの時間で到着した。

 

「ありがとう、キキちゃん」

「えっ? あたし、お礼されるようなことなんて……」

「おかげで、だいぶちゃんと飛べるようになったよ。——わたしも、キキちゃんのためにしっかり勉強しないと」

「……じゃあ、楽しみにしておくわ。あんまり無理はしないのよ」

 

再び応接間に戻り、ホグワーツのこと、ここ一ヶ月のこと、魔法のこと、久々に話に花を咲かせていると、アリスが手紙を持ってやってきた。手紙は三通あり、二通はホグワーツから、もう一通はハーマイオニーからだった。

 

「ありがとう、アリス。えーっと、なんでホグワーツから二通?」

「片方はあたし宛てみたいね。どうしてここにいるって分かったのかしら」

 

ふくろう便の驚異的な追跡力はともかく、その手紙の内容は例年通り『九と四分の三番線』からホグワーツ特急に乗ること、新しい教科書として『ギルデロイ・ロックハート』の本を七冊買わなければならないことだった。

対し、ハーマイオニーの手紙は、ロンたちのハリー救出作戦が上手くいったか心配、勉強で忙しい、そしてダイアゴン横丁で会わないかというあんばいだった。キキちゃんのところまで郵便を送るのは時間がかかるので、そっちにも伝えて欲しい、と付け足されている。

 

「キキちゃん、来られる?」

「ええ。多分学校が始まるまで、特に予定はないわ」

「了解、ハーちゃんから返事が来たら伝えるね」

 

紙を取り出し、万年筆のキャップを外し、「二人ともいつでも大丈夫」と返事を書いた。そういえば、万年筆についても何も調べてないや——。

そんなことを思いながら窓を開けて杖を振ると、ハトのマルローネが一直線に飛んできた。決して強制的に引きつけた訳ではなく、魔法で指示を飛ばしているだけである。たまに無視されることもない訳ではない。

 

「マリー、ハーちゃんのところまでお願いね。最近あんまり運動してないでしょ、太っちゃうよ」

「マリーは偉いのね。うちのジジなんて、すっごく生意気なんだから……」

 

そうだったかな、と思い返すアルーペだが、そもそもジジを見かけたことがほとんどないことに気がついた。キキちゃんとはほとんど一緒にいるはずなのに、ジジがついて来ていることはあまりない。そのことを聞いてみると、返ってきたのは意外な答えだった。

 

「人見知りというかなんというか……。あたし一人のときじゃないとなかなか来ないのよね。『前世』ではそんなことなかったんだけど……」

「なるほど。警戒を解いてもらえば近くに来てくれるかな……」

 

ここまで言って、アルーペはこれまで当然のように受け流していた『ジジの存在』そのものが疑問を持つべきことであったことに気がついた。

 

「——って、一緒に転生してきたの?」

「そう。本人はそう言ってるけどね……。疑うわけじゃないけど、ほんとかどうかも分からないのよ。少なくとも、この年齢になってあんなにピンピンしてるんだから、ただの猫じゃない事は明らかよ」

 

自分が誰だったのか分からないよりはよっぽどマシじゃないか、とも思わないわけではないが、これは切実な悩みであることに違いない。しかし、どちらにしろ簡単に解決できる疑問ではない。先は長そうである。

 

 

ダイアゴン横丁に転移すると、ちょうど目の前にハーちゃんが待っていた。転移の瞬間は気付かれないようになっているので、向こうから見ればいつのまにかわたしとキキちゃんが出現していたことになる。

 

「おはよう、ハーちゃん」

「えっ……? あ、おはよう、いつのまにか来てたの?」

「ごめんね、びっくりさせちゃった?」

 

今日はウィーズリー一家もダイアゴン横丁に来ることになっているのだが、わたしたちが先着だったらしく、まだその姿は見えない。もっとも、まだ待ち合わせの時刻には十分もあるのでそれは当然とも言える。

退屈なのでなにか話題を探していると、新しい教科書の一覧をざっと見たキキちゃんがそれをくれた。

 

「ところで、新しい教科書、ほとんどこのギルデロイ・ロックハート、って人の本なのね。こんどの『闇の魔術に対する防衛術』の先生は、相当この人がお好きなのかしら」

「これだけ選ばれるぐらいだから、きっと優秀な方に違いないわ。もしも機会があるのなら、私、是非ともお会いしたいわ」

 

ハーちゃんが目を輝かせてそう答えている間、ちょうどその願いを叶える術が見つかった。

 

「サイン会……。ギルデロイ・ロックハート……。自伝、私はマジックだ、八月十四日、午後十二時半から……。フローリッシュ・アンド・プロッツ書店……」

「アルーペ、そんなこと、どこに書いてあるの?」

「えっと、あの人が持ってるチラシに、そう書いてあったよ」

 

『あの人』とは、二十メートルは離れた位置に立っている魔女だ。チラシに書かれた文字はそう大きいものではなく、普通の人間なら内容は読み取れないだろう。

 

「アル、目いいのね」

「魔法で多少は補助したけど、視力には自信あるよ」

「そんなことってあるのね。人間の視力は生活環境で変わるから、アフリカのほうだと六・〇とかいくのよ」

 

遠くを見る機会が多いそういった人々は、少なくとも健康なら視力が高いことが多い。そして、そんな人々でも都市部で暮らせば視力は一般的な程度にまで落ちてしまう。とはいえ、我々一族は『一般的な環境』に当たるはずなのだ。何故視力が良いのかといえば、それこそ魔法的な何かなのだろう。

 

「あはは、ハーちゃんは相変わらず物知りだね。六・〇ってどのくらいなの?」

「確か、視力一・〇が五メートル先の一・五ミリメールのものを見分けられる視力だったはずよ。六・〇なら、三十メートル先が同じぐらい見分けられるらしいわ」

「えぇっ、すごい! 魔法で補助しても、そんなにはいかないよ……。

まあ、望遠レンズ越しなら楽々だけどね!」

 

役に立つのか立たないのか、それは分からないが、この話題は時間を潰すには十分なものだった。まもなく、ハグリッドに連れられたハリー・ポッターとウィーズリー一家がやって来た。ハリーはウィーズリー家に泊まっていたはずなのだが、何故か別の方向からの登場であった。

話を聞いてみれば、煙突飛行での移動に失敗し、『夜の闇(ノクターン)横丁』に迷い込んだところをハグリッドに助けられたらしい。

 

それぞれで買い物を済ませたのち、フローリッシュ・アンド・プロッツ書店で合流した。ちょうど、ギルデロイ・ロックハートのサイン会が開かれているところで、人だかりは店の外にまで溢れていた。

 

「ロックハートさん、ずいぶんと人気みたいだね。そんなにすごい人なのかな?」

「すごいわよ、彼は。なんでも知ってるもの」

「モリーさんも、ロックハートさんのファンなんですね」

 

わたしの言葉に答えたのは、ロンの母、モリー・ウィーズリーであった。聞く限り、それが事実なら彼の功績は確かに「すごい」といえるものだ。

人の流れに乗って何十分かが経って、ようやくギルデロイ・ロックハートの姿を目にすることが許された。カメラを持った小柄な男が、ロンの足を踏みつけながら構図を確保しようとしている。

 

「どいてくれ、『日刊予言者新聞』の写真なんだ」

 

だからどうしたっていうんだ、そうこぼすロン越しに、わたしはそのカメラを凝視して品定めしていた。カメラを持っている人がいるとどうしても気になってしまう。

 

「あれは……。ニコン……?」

 

わたしの目が正しければ、男が持っているカメラは自分のものと同じく日本製の、『普通の』カメラである。しかし、男は先ほど『日刊予言者新聞』の写真だと言った。魔法界の写真というからには——。

 

「あの、すいません、それで撮った写真って、動くんですよね」

「あ? ああ、当たり前だろうが。写真は動くもんだ」

 

仕事中に話しかけられるのはあまり気分の良いことではないのだろうが、男はわたしの問いに答えをくれた。見た目に反して、というと失礼だが、優しい人なのかもしれない。

そして、やはり撮っているのは『動く』写真らしい。マグルのカメラを使って、そんなことができるというのか。これ以上の追求は許されるか、と少し悩むが、貴重な機会だ。質問を続けることにした。

 

「でもそれ、カメラはマグルのだよね。魔法がかかってるのは、フィルムですか?」

「そりゃそうだ、常識だぞ。……欲しいのか?」

「えっ?」

「マグルのカメラやってるんだろ? 興味があるなら、一本ぐらいやるぞ」

 

唐突であった。訳も分からずそれを受け取った。しばらくその場で固まり、やっとのことでお礼の言葉を絞り出した。

そして、早速カメラを取り出しそのフィルムを装填。見た目は普通の三十五ミリフィルムだが、いつもの魔法で現像しても『動く写真』になるのだろうか。

男のほうもこちらのカメラに興味を示している様子であったが、まもなく自分の本来の仕事を思い出すことになった。

 

「おーい、こっちへ来てくれ! ハリー・ポッターとのツーショットだ!」

 

見れば、ハリーがロックハートに肩を掴まれ、捕まえられていた。

わたしと男は同時にそこにカメラを向けたが、シャッターを切るのはこちらの方が少し早かった。

それもそのはず、男のカメラは古いもので、ピントを手動で合わせる必要がある。対し、わたしのカメラはモーター駆動により自動でピント合わせをしてくれるのだ。この技術は、マグルの世界において素人が写真を楽しむことを格段に容易なものにしたんだとか。

 

「それは……オートフォーカス、とかいうやつか……?これがマグルの最新技術……」

「う、うん。これはちょっと古いし中級機だけど……。

Fマウントなら、オートフォーカス機でも古いレンズをマニュアルでそのまま使えるとか聞いたことがあります」

 

魔法界の住人がどれほどマグル製品の情報を集めることができるのかは謎だが、詳しく紹介するのには時間が足りない。

その後、このサイン会はロックハートの「私が『闇の魔術に関する防衛術』の教師だ」という重大(?)発表で幕を下ろした。無事に、といえるのかは分からないが、とにかく買い出しは終了。あとは九月一日がやってくるのを待つだけとなった。




タイトルはまた魔女の宅急便から。これはサントラじゃなくてヴォーカルアルバムですけどね。
イメージアルバムの『ナンパ通り』を、本編に合わせてアレンジしたのが『海の見える街』の後半。歌にしたのが『鳥になった私』。このへんよく間違えられます。

箒に魔力
 カメラの話がありましたが、あれはモノにも魔力を充填できるという伏線でした(大嘘)

たいした大きさではない
 ※豪邸です

箒にしがみつく黒猫
 なんで落ちないのかほんと不思議。柄に爪をグサってやってるのかな?

500mm
 AF REFLEX 500mm F8。ミノルタは世界で唯一反射望遠レンズでオートフォーカスを実現しました。なおアルのα-7000ではMF限定の模様。

ハトのマルローネ
 マリー「やっと出番かよ」

ジジを見かけない
 うp主が忘れてるだけなのを適当に言い訳しておきました

ハーマイオニー
 原作だと両親も一緒に来ていましたが、こっちのハーマイオニーは一人です。たくましいですね。
 この影響でルシウスがアーサーを叩く理由がひとつ減りましたが、原作を読んでいるみなさんはどんな人かはお分かりだと思います。
 そもそもカットされましたけどね。

オートフォーカス
 実際にα-7000で試したら、室内ではとても使えたもんじゃないです。とほほ。
 外付けストロボの補助光を使ったことにでもしておきましょう。

Fマウント
 最近雲行きが怪しいニコンの一眼レフが採用していたマウント(レンズを装着する規格みたいなもの)。アルーペの言う通り、多少制限はあるものの最近のデジタル機でもマニュアルフォーカス銀塩フィルム時代のレンズが使えます。

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