ハリー・ポッターと十六進数の女   作:‌でっていう

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第0A話 ユニコーンの血

早速、運の悪いことが起こってしまった。ロンの手が腫れ上がって気持ちの悪い緑色になっている。昨日、ハグリッドの手伝いをしていた最中にドラゴンに噛まれたのだが、どうやらその牙には毒があったようだ。はじめはドラゴンの存在がバレるのを恐れて医務室に行くのをためらっていたが、こうなってしまってはそうも言っていられない。幸い、マダム・ポンフリーは深くは追求しなかった。

授業が終わり、医務室にロンの様子を確認に向かうと、ロンは致命的な過ちを犯していたことが明らかになった。なんと、本を借りるという名目で脅迫をしに来たドラコ・マルフォイに、チャーリーからの手紙を挟んだままの本を渡してしまったというのだ。そもそもなぜ本を渡したのかも気になるところではあるが、そんなことを気にしていられるほど平穏なことではないというのは確かだった。

話し合いをしたかったところであるが、マダム・ポンフリーは病人と討論会を開催することは良いことではないと考えたらしく、わたしたちは医務室から追い出されてしまった。

 

 

「どうしよう、絶対邪魔しにくるよ……」

「でも、マルフォイは『透明マント』があるって知らないんでしょう? あの人がどう仕掛けてくるかは分からないけど、見つかるってことはそうそう無いんじゃないかしら?」

 

確かに、透明マントをしっかり機能させることができるのなら、ドラコがいようがいまいが関係はない。問題は、誰が運ぶ、かということだ。マントの中には二人程度しか入らないので、ハリーとロンで運ぶ予定だったので、ロンの代役を選ぶ必要がある。当然、そんな危険なことを進んでしたいという人間はいない。

 

「私は遠慮するわ」

「わたしも……」

「もちろん、あたしもよ。

こういうときは……」

 

厳正なるじゃんけんの結果 、ノーバートを塔まで運ぶのはキキちゃんに決定した。不満な様子に少々良心が痛んだが、じゃんけんに逆らうことは許されないのだ。許していただきたい。

 


 

あたしはノーバートの入った箱(ハグリッドがぬいぐるみやら食料のネズミやらを大量に入れたので余計に重い)をポッターと抱えながら、やっとのことで塔の階段の下までたどり着いた。ここまでにも大量の階段があり、運ぶのはとても楽とはいえなかった。しかし、ここまでの心労を吹き飛ばしてくれる光景が目の前に展開されていた。ドラコ・マルフォイが、夜中に出歩いてるのを見つけられマクゴナガルに捕まっていたのである。

 

「罰則です! スリザリンから二十点減点です!!」

「でも先生、ポッターがドラゴンを運んで——」

「『戯言薬』を飲めと頼んだ覚えはありません! スネイプ先生にも言いつけますよ!」

 

これを見るためにここまで頑張ってきたのだ。そう自分に言い聞かせると、最後の階段はとても楽に登ることができた。暑苦しい『透明マント』を脱ぎ去り、新鮮な空気を心に満たした。

 

「歌でも歌いたい気分よ! マルフォイが、罰則!」

「頼むから歌わないでね」

 

そうこうしているうちに、箒が四本、星のまたたく真っ暗な空から舞い降りてきた。見上げていると目が乾いてしまいそうだ。なにやら特殊な運搬具を使って、四人がかりで運搬するのだという。学生二人で持てる程度の重さなら箒は一本で済むと思ったのだが、どうやらこの世界ではそうもいかないらしい。

六人がかりでその器具にノーバートの入った箱をくくりつけ、ついにノーバートは旅立つこととなった。あまりいい思い出があったわけではないが、不思議と寂しさも感じられ、見えなくなるまで星空を見上げ続けた。

 

「ふぅ、これで一件落着ね。早く帰るわよ」

 

荷物も心も軽くなり、二人は長い螺旋階段を滑るように下っていった。苦労は必ず利益になって返ってくる、と久々に実感している。『魔女の宅急便』だってそうやって成り立っていた。しかし、すぐにそんな考えは裏切られた。あたしたちの荷物は軽くなりすぎていた。塔のてっぺんに『透明マント』を置いてきてしまっていたのである。それに気づかず階段を降りきって廊下に出ると、目の前に暗闇に、突然顔が現れた。管理人のフィルチだ。

 

「さて、さて。これは困ったことになりましたね……」

 


 

翌朝、各寮の得点を示す砂時計を見た人は、誰もが自らの目を疑うこととなった。グリフィンドールの得点が一五〇点も引かれているのだ。なぜこんなことになっているのか——それを知る人間はほんの一部だけである。

ここでいう『一部だけ』というのは、つまり『学校全体』で噂となっているということを意味する。クィディッチでの活躍で稼いでいたあたしとポッターの評判は一気に最低まで落ちてしまったようだ。この原点でグリフィンドールの優勝、すなわちスリザリンの敗北は絶望的となり、スリザリン以外の全てを敵に回したことになったらしい。

 

「ごめんね、わたしが行ってれば……」

「一週間もすればみんな忘れるさ」

 

アルとウィーズリーがフォローしてくれるが、その他大勢の周りからの目線がどうにかなるわけではない。試験勉強に没頭することで気を紛らわすことができるのがせめてもの救いだった。しかし、現実からは逃げきれなかった。五月も最後の一週間、というころ、あたしとポッターのもとに全く同じ手紙が届いた。

 

『処罰は今夜十一時に行います。

玄関ホールでフィルチ管理人が待っています。

M・マクゴナガル』

 

「十一時って……。キキちゃん、大丈夫? 一緒に行く?」

「罰を受けるのはあたしなんだから、アルに来させるのは悪いよ。仮にも学校の罰則だし、そんな危ないことはしないでしょうし……」

 

アルが同行を提案してくれるが、断った。危ないことはない……と信じたいところだが、この願いが成就するかは正直不安だ。なにしろ、この素晴らしく安全な『学校』には、賢者の石とかいう危険物とそれを守る『死』が配置されているのだ。罰則だって感動してしまうようなものに違いない。心配が顔に現れていたのか、アルから第二の提案があった。

 

「じゃあ、『これ』を渡しておくよ」

 

アルが『袋』から取り出した『それ』は、透き通るような濃い青、ちょうど自分の目と同じ色をした球体だった。受け取ってみると、ビー玉のような質感で、大きさ、重さもそれぐらいだった。

 

「これ、どうすればいいの?」

「持ってるだけでいいよ。でも、『袋』の中には入れないでね。ほんとうは、これが役に立つことが無いのが一番なんだけど、念のためだよ」

 

どうやら正体は教えてもらえないらしい。しかし、アルの指示に従っておけば、なんらかの利益が得られるのは確実だろう。『それ』を慎重に制服のローブの内ポケットに深く入れ、しっかりと口を閉じておいた。

 

あたしとポッター、そしてロングボトムが到着したとき、玄関ホールには既にフィルチとドラコ・マルフォイがいた。フィルチは昔のような体罰をしたいだの、逃げたらもっと酷いぞだの、ぐちぐち言いながらあたしたち四人を先導した。校庭を横切り、ハグリッドの小屋までたどり着いた。ハグリッドとならそこまで酷いことにはならないだろう、と一瞬ほっとしたが、その安心はフィルチにの言葉に潰された。

 

「おまえたちがこれから行くのは『森』の中だ。全員無傷で帰ってくるようなことがあったら、それは私の見込み違いになるなぁ」

「『森』だって!? そんなの夜に行く場所じゃない! 『狼男』やらなんやら、そんなのがいるって……」

 

マルフォイが悲鳴をあげると、フィルチはいやらしく笑みを浮かべた。まもなく、ハグリッドが闇の中から現れた。大きな石弓を持っているが、それが要るようなことにはなって欲しくない、とフィルチ以外の全員が思っているだろう。あたしはポケットに入れた『それ』がそこにあることを確認した。

フィルチが嫌味を残して立ち去ると、マルフォイが泣きそうな声で、行きたくないと訴えた。当然、その願いが聞き入れられることはなかった。

 

「これからすることはとても危険だ。軽はずみなことをしてはならんぞ」

 

だったらそんなことさせるなよ——と思ったが、罰則である以上仕方ないのだろうか。葬儀のような雰囲気でハグリッドについて『森』へと向かった。

 

「あそこを見ろ」

 

『森』の入口に到着すると、ハグリッドはランプを奥の方へ掲げて言った。光はわずかしか届いていないが、目を凝らすと辛うじてそれを反射する銀色の液体が地面を覆っているのが確認できた。

 

「ユニコーンの血だ。この森で、何者かがユニコーンを傷つけている。今週になって二回目だ」

「そんな……。それで、あたしたちは何をすればいいの?」

「みんなで、そいつらを助けてやって欲しい。助からないなら——せめて楽にしてやらねばならん」

 

それは罰則としてはいささか高度すぎはしないか。その辺の雑多な魔法生物ならまだしも、ユニコーンだなんて、只者ではないはずだ。

 

「ユニコーンを襲ったヤツが、ぼくらを先に見つけたら……?」

「心配するな、俺やファングがいればこの『森』に住むものはお前さんたちを傷つけることはねえ」

 

震える声で恐怖の質問を口から絞り出したマルフォイにハグリッドはこう答えたが、犯人が『この森に住むもの』であるという保証はないのではないか。不安しか残らない回答だが、これ以上考えても怖くなるだけなのでそのまま飲み込んでおくことにした。

信号弾の打ち方を確認した後、あたし、ポッターとハグリッドの組、ファング、マルフォイとロングボトムの組の二つに組み分けされた。範囲が広いので途中で二手に分かれるのだという。しばらくして現れた分かれ道で、あたしたちは左の道を進んだ。

 

「ねえ、ハグリッド。例えば『狼男』とかが、ユニコーンを襲うなんてあり得るのかしら?」

「いや、あいつらはそんなに速くねえ。ユニコーンは強い魔力を持った生き物だ。そう簡単には捕まらん」

 

犯人が『この森に住むもの』ではない可能性をそれとなく探ると、ハグリッドは平然と答えた。やったのはどんな生き物か、その続きは誰もが考えついただろう。しかし、それを口に出すものはいなかった。三人は黙々と血の散らばる道を進んだ。

ふと、何かが枯れ草の上を滑っていくような音がした。

 

「そこに隠れろ!」

 

ハグリッドに言われるまま、幹の太い木の陰に飛び込んだ。ハグリッドは石弓を構え、暗闇に目を凝らした。耳を澄ましているとその音はだんだん消えていき、どうやら『何か』は遠ざかっていったようだった。

 

「ここにいるべきではない何者かだ」

 

石弓を構えたまま歩き出すハグリッドに、これまで以上に感覚を研ぎ澄ませながらついていった。

まもなく、再び前方で物音がした。今度はさっきより大分派手な音だった。

 

「誰だっ! こっちには武器があるぞ! 姿を見せろ!」

 

そこに現れたのは、赤い髪の毛の人間——と思いきや、下半身は馬のような見た目をした生き物だった。

一瞬、ついに敵が現れたのかと思い杖を構えたが、ハグリッドはそうではないようだった。

 

「君か、ロナン。元気か?」

「こんばんは。……私を射ようとしたのですか?」

「あぁ、用心に越したことはない。最近、良からぬもんがこの森をうろついとる」

 

ハグリッドはロナンにあたしたちを紹介し、こちらにロナンは『ケンタウルス』であると紹介した。いくつかの本に書いてあったので存在は知っていたが、こんなおとぎ話のような生き物がいるなんて、いざ直接目にすると信じられない。

 

「今夜は火星がとても明るい」

「ああ」

 

ハグリッドは星空を見上げて肯定したが、ハリーはどれが火星なのかすら分かっていない様子だった。そして、火星を見つけることができたあたしにも、ロナンの言葉の意味はさっぱり分からなかった。

 

「なあロナン、怪我をしとるユニコーンがいるんだ。何か知らんか」

 

ハグリッドが質問をしても、ロナンは空を見上げるだけだった。しばらくして帰ってきた答えはこれだった。

 

「いつでも罪のない者が、真っ先に犠牲になる」

「ああ。で、何か変わったものを見なかったか?」

「火星がとても明るい」

 

まるで話が通じない。ケンタウルスって、まさかみんなこんな感じなのだろうか。その疑問はすぐに解けた。この後、ベインと呼ばれる別のケンタウルスも現れたが、反応は同じで進展はなかった。

 

「なにかあったら知らせてくれ。俺たちは行く。

——ただの一度も、奴らからまともな答えを貰ったことはない」

 

ベインから離れると、ハグリッドはいらついた様子で言った。きっと、彼らの間ではあれで通じているのだろう。

 

「……それで、さっきの音、今のケンタウルスだったのかしら?」

「いや、違う……。あれは蹄の音じゃない。ユニコーンを殺した奴の……」

 

その時、視界に赤い光が飛び込んできた。信号弾だ。はじめに、緊急事態があれば赤い信号弾を打つように言っていた。

 

「二人とも、ここで待ってろ! 絶対に離れるな!」

 

しばらくして、ハグリッドはロングボトムたちを連れて戻ってきた。そうとう怒っている様子である。どうやら、マルフォイがロングボトムをふざけて襲い、ロングボトムがパニックになって赤い光を打ったらしい。対策として、マルフォイたちのほうにハグリッドが付き、こちらにはファングが配属された。え、かなり心細いんですけど、このワンコ本当に役に立つんですかね……?

 


 

三十分も進むと、ユニコーンの銀色の血はだんだん濃くなってきているようにも思えた。痛々しいほどに広がっているところもある。ふと、視界に白く輝くものが飛び込んできた。近づいてみれば、まさにユニコーンであった。しかし、それは既に息絶えているようだった。

 

「——こんなに綺麗なのに。なんでこんな目に遭わなきゃいけないの……」

 

もう少しよく見ようとハリーが一歩踏み出したとき、さっきの滑るような音が間近に聞こえてきた。そして、闇の中から、フードを被った人間のような影が、獲物を求めるように地面を這ってきた。そいつはユニコーンの隣で跪き、頭と思わしき部分を傷口に近づけた。どうやらその血を飲んでいるようである。

逃げなければならない。本能がそう警告しているが、体が動かない。ファングだけは逃げ出してしまい、ポッターと二人きりでここに取り残されることになった。

フードを被った影は、ユニコーンの血の滴る顔を上げると、こちらに向かって素早く向かってきた。

これはもうおしまいだ。もしもアルがいてくれたらなんとかしてくれたかもしれないが、それはもしもの話。現実に、あたしたちは何もできずに、ユニコーン殺しの怪物に——

 

「えぇーい!」

 

気の抜けるような声とともに、視界に緑色の光線が走った。それが影に命中すると、それは数メートル向こうに吹っ飛んだ。影は逃げようとしたが、さらにどこからか現れたケンタウルスが追撃した。顔を上げた時には、影はいなくなっていた。

 

「だいじょうぶ?」

「怪我はないかい?」

 

突然のことに呆然としていると、声がかかった。そこに立っていたのは、ここにいるはずのないアル、そして先の二人よりも若く見える、また違うケンタウルスだった。アルと同じぐらいか、それ以上に真っ青な目をしている。

 

「え、えぇ。大丈夫よ。でもなんで、アルはなんでこんなところに? そしてあなたは誰? さっきの、あれはなんだったの?」

「まあまあ、キキちゃん、落ち着いて。ケンタウルス……なのかな? あなたは?」

 

アルに名前を聞かれたそのケンタウルスは、あたしたちに興味はないらしく、ひたすら傷跡のあるポッターの額を眺めていた。そういえば、影と会った時にその傷が痛んでいるようなそぶりを見せていた。

 

「ポッター家の子かね? 早く戻った方がいい。今、ここは安全じゃない。特に、君にとって」

 

ここから出た方がいいのは言われなくとも明確なことである。が、最後の一言がどうしても気になる。このケンタウルスは、確かにポッターの傷跡を見てそう言っていた。

 

「それで、君は?」

「キキちゃんに呼ばれたから、急いできました」

 

呼ばれた? あたしに? 助けを求めたかったのは事実であるし、来れるなら是非来て欲しいとは思っていたが、呼ぶ手段なんてなかった。

手段……なるほど、そういうことか。あたしの推測は正しかったらしく、アルは自分のポケットを叩いた。あたしのポケットにはアルから渡された『あれ』が入っている。なにか危険があれば、伝わるようになっていたのだろう。

ケンタウルスのほうは納得いかない様子だったが、話を続けることにしたらしい。

 

「私の名前はフィレンツェだ。一人ぐらいは私に乗ってもらった方が速く戻れそうだが……」

「わたしは大丈夫だよ。勝手に来ただけだし、いざとなったらすぐにでも帰れるから」

「あたしは箒があるわ」

 

そんなわけで、ポッターはフィレンツェの背中に乗り、あたしは箒で地面を低空飛行して速度を稼ぐことにする。アルもあたしの箒に乗ってもらうことにする。たぶん、あたしが操作する箒なら問題はない……はずだ。

いざ帰ろう、というとき、聞き覚えのある蹄の音がどこからか聞こえて来た。

 

「フィレンツェ! なんということを!」

 

茂みから追加で二人のケンタウルスが飛び出して来た。怒鳴ったのはベインで、その前に立っているのはロナンだ。

 

「ヒトを背中に乗せるなど! 君はただのロバなのか? 恥ずかしくないのか!」

「この子が誰だか分かっているのですか? ポッター家の子です。一刻も早くここを出た方がいい」

 

ベインとフィレンツェの間に挟まれたロナンは、落ち着かない様子で、おそるおそる口を挟んだ。

 

「私は、フィレンツェが最善と信じることをしていると思っている」

 

しかし、これは逆にこの争いに油を注ぐこととなってしまったようだった。

 

「最善? ケンタウルスは予言されたことだけに関心を持てばよい! ロバのように走り回ることじゃない!」

「あのユニコーンを見ただろう? それが何を意味するか、君には分からないのか? それとも惑星が、それを教えてくれないのか?」

 

フィレンツェも怒って前脚を振り上げたので、乗っているポッターは危うく落とされるところだった。

 

「私はこの森に忍び寄るものに立ち向かう。人間と手を組んででもだ」

 

それだけ言うと、フィレンツェはくるっと方向を変えてまた走り出した。箒で飛ぶと、地面の細かい凹凸を気にしなくて済むので歩くより断然楽だった。フィレンツェはポッターの質問にも答えず、しばらく無言でひたすら走っていた。ポッターのほうも空気を読んだのか何もしゃべらなかった。

しかし、しばらくしてフィレンツェは突然立ち止まった。後ろを飛んでいたあたしは危うくぶつかるところであった。少し何かを考えると、ポッターに向かって話しかけ始めた。

 

「ハリー・ポッター。ユニコーンの血が何に使われるか知ってるか?」

 

答えはノーだ。あたしも知らない。角やら毛やらを魔法薬の調合には使ったが、それっきりである。

 

「ユニコーンの血は、たとえ生死の境をさまよっているような状態でも、その命を長らえさせてくれる。恐ろしい代償を払ってね。

自分の命のために、純粋で、無防備で、神聖な命を奪う。得られる命は、呪われた命なんです。死にながら生きているようなもの」

 

では一体、誰がそれを必要としているのか。その答えは浮かんでこなかった。一生呪われるなら、死んだ方がマシである。だが、アルには心当たりがあったらしい。

 

「賢者の石……」

 

かすかな声で呟いたが、フィレンツェには聞こえたようだった。なるほど、すっかり忘れていたが、そんなものを狙っている奴がいるという話があった。

 

「そうだ。それさえあれば、呪われた命にそう長く耐える必要はない」

「じゃあ、ユニコーンを狙っているのは、賢者の石を狙ってる人と同一人物ってことかしら?」

 

つまり、さっきの影はスネイプかクィレルのどちらかであった、ということになるのかということだ。

 

「いえ、そうとは限りません。『石』を盗むのは、血を飲むのとは違って、別に本人でなくても良いのです。

……力を取り戻すために長い間待ち続けている誰か。思い浮かびませんか?」

 

誰の事だろうか。さっぱりわからない。しかし、ポッターは答えが分かっているようだ。もっとも、表情を見る限り、それを口に出したいかどうかは別らしい。アルのほうも顔をゆがめている。こっちはいつもの『既知感』だろうか。

 

「あやつが死んだと言う者もいる。人間味のかけらでも残ってれば、死ぬこともあるだろうが……」

「それじゃ、僕が見たのはヴォ——」

 

「大丈夫か!?」

 

ようやく口を開いたポッターが言い切る間も無く、ハグリッドが前方から走ってきた。とりあえず、大丈夫だ、と返した。

 

「ユニコーンが、この向こうで亡くなってたわ」

 

それだけ報告すると、ハグリッドは急いで飛んで行った。フィレンツェもポッターを降ろすと森の中に消えていった。

 

「アル、なにか分かったのかしら?」

「うーん、なんかね、入学してからの『既知感』の集大成みたいな、そんな感じだった。でも、やっぱり記憶としては思い出せないの。絶対知ってるはずなのに」

 

やはり『既知感』だったらしいが、謎は深まるばかりなのであった。




話数は16進数でした。本編でのアラビア数字は16進数、というルールを踏まえて察してた人もいたかも? あとがきは例外ですけど。

じゃんけん
 魔法的拘束力をもつじゃんけんとか存在してほしくない。

私、わたし、あたし
 さあ、どれが誰でしょう?

暑苦しい透明マント
 男女が二人きりで入っています。

ドラゴンを一人で
 原作にて、キキは一人で漁船を運んでます。

みんな忘れる
 自分だけはちょくちょく思い出して定期的に後悔しないといけないアレ

五月も終わりに
 5月21日に書きました

信号弾
 弾?

マルフォイがネビルを襲う
 ネビルに貞操の危機

緑色の光線
 ミーティスの魔法の光線の色は属性で決まります。緑色は土属性です。

箒に二人乗り
 魔女宅原作だとできない設定だったはずです。

ヴォなんとかさん
 ハリー視点じゃないから名前出て来てないんだよね

今話はなぜかいつもよりサクサク書けました。なんでだろう? と思って読み返したら、内容が薄い……。

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