殺人犯は救世主   作:薬売り

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 今回が謝罪の連続投稿最終日になります。これからは不定期ですが投稿させていただきます。


第十九話 『殺人犯は容赦しない』

「お前ら、よくここまで耐えてくれたな。おかげで時間を稼ぐことが出来た。」

 

 死んだはずの玄龍が、凍えて震える程の冷気と共に現れた。

 

「玄龍?どうして止めるの…?さとり様の為だって言ったでしょ!?」

「そうか、そのさとりはお前に怒っていたぞ。なぁ?霊夢、魔理沙。」

 

 そう確認するように彼は右側から振り向きながら私たちに話しかけてきた。さとりとの会話では、そんな話をしていない。いや、原因が自身とペットだという話をしていたが、怒っているかどうかは定かではなかった。

 玄龍はニヤリと笑い、何かを口パクで伝えようとしている?

 

(嘘をつく時は…?)

 

 そういう事か…。いいわ。付き合ってあげるわ、その嘘に。

 

「もうカンカンだったわ。怒りながら八つ当たりのように私に弾幕撃ってきてたもん。ねぇ、魔理沙。」

「え、え?お、おう。もう、そりゃ、うん。凄かったぞ!」

 

 嘘下手か。

 

「そ、そんな…私は、さとり様のために…!!」

 

 お空のエネルギーの流れに乱れが生じる!今だッ!!

 

「反省してるなら、倒されてちょうだい!霊符『夢想封印』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のペットが、本当にご迷惑おかけしました!」

 

 さとりの綺麗な謝罪と、その横でしょんぼりと小さくなりながら腰を曲げているお空。そしてゆっくりと謝罪する怨霊の元凶であるお燐。

 

「いや、もういいわよ。分かったから。」

「謝罪は宴でしてくれ、そしたら全員許してくれるぜ。」

 

 異変解決後には宴をするのが恒例だ。異変の元凶である者が全て奢ることで丸く収まる。終わりよければすべてよし、といった精神だ。

 

「そうそう、俺の義手もお燐が直してくれるし、気にすんなよ。」

「お前は許さないぜ、玄龍。」

「え、なんで。」

「そうよ、どうして私たちに連絡しないのよ。無駄に心配したじゃない!」

「霊夢って心配するんだな。」

「あ?」

「って魔理沙が言ってた。」

「おいッ!!」

 

 相も変わらず、この殺人犯は掴みどころがない。私は魔理沙の胸ぐらを掴みながらも、玄龍に話しかける。

 

「今までここで働いてたってこと?」

「そうだな。居心地もいいし、のんびり暮らしてたよ。」

「そっか。まぁ、アンタがそれで満足してるならいいんじゃない?」

 

 一つだけ変わった部分がある。妙に棘のあるような雰囲気だった彼だが、何となく丸くなったような気がする。それもこの地霊殿のおかげか、単純に幻想郷に馴染んできたか。

 魔理沙が手首を苦しそうに叩いてきたため、手の力を緩める。

 

「ゴホッ…あー、まぁ、これで解決したし、宴会だな!」

「いや、まだだ。」

「おいおい、私との約束を破った上に宴会まで阻害する気か?」

「それはごめんって。そうじゃなくて、この異変がまだ終わっていないってことだよ。」

 

 笑ってふざけていた魔理沙もその言葉に思わず眉を顰める。

 

「それは、どういうことだ?」

「お空、その力はどうやって手に入れたんだ?」

「え…えーと、分からない。忘れちゃった。」

「あぁ、うん。そうですか…」

 

 玄龍は顎に手を置き、考えているような仕草をする。恐らく、お空は元々このような力がなかった。しかし、突然その力を得て、今回の異変を起こした。

 そこには、誰かの作為を感じるのだろう。それは私も同じだ。というより、この神力の特徴はもしかしたら…

 

「ねぇ、もしかしたら知り合いが原因かもしれない。」

「本当か?」

「霊夢にそんな知り合いいたか?」

「ほら、いるじゃない。最近引っ越してきた新参者の神が。」

 

 そういうと魔理沙は納得するように頷いた。地霊殿組は一様に首を傾げているが。

 あの新参者どもはなんでこう厄介なことをしやがるのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山。つい先月も訪れ、暫くは訪れることは無いと思っていたのだけれど、あのバカ三人衆は二度も、それも短期間にやりやがるとは余程制裁を欲しがっているということだ。

 

「なぁ、ここにお空に力を与えた神がいるのか?」

「いるぜ。アイツらが犯人っていうのも納得できるな。」

 

 玄龍も付き添いできてもらった。本来、地底の妖怪を地上に上がらせるのは幻想郷のバランス上原則禁止なのだが、玄龍は紫が言うには「彼は例外。」との事。元々、彼は紫が直々に幻想郷へ招待した人間。いや、元人間だ。例外というのも、アイツのメンツが立たないからだろうな。

 コイツ義手壊れてるから使い物にならないけど。

 

「そういえば玄龍。お空の暴走を止めた時、お前一体何をしたんだ?お前に太陽を凍らせる程の魔力なんかないだろ。」

 

 確かに、それは少し気になる。あの、戦闘が下手くそで能力頼りの玄龍があんな大層な魔法を扱えるとは思えない。というか、パチュリーでもあんな威力にはならない。何か裏があるはずだ。

 

「あぁ、そうだな。旧地獄って暑いだろ?だから涼むためだけに練習して軽い氷結魔法は覚えたんだよ。それを太陽の周りで発動し、同時に俺の能力で解いた。俺の能力、覚えてるか?解いた対象に使った能力を解くと反動で大きな力になるって。」

「なるほどね。解いた反動で太陽すら凍る氷結魔法へと変化したわけね。」

「まあ、あれは表面だけ冷えただけだけどな。あくまで目的はお空のエネルギーの枯渇だったからな。」

「私たち頼りの作戦ってことかよ…まぁ、お前らしいけどさ。」

 

 レミリアと戦った時にも思ったが、彼の戦い方は自分の弱さを認めた上で周りの資源を活用することを前提としたものだ。

 なんというか、向こうの世界でもそんな能力があったのに、よく慢心せずに自分が弱いと認識しているな。そう感心してしまう。

 

「あら?霊夢さんに魔理沙さんじゃありませんか。」

 

 聞き覚えのある声。どうやら探す手間が…と思ったがどうやら1人らしい。

 

「この寒い中参拝に来たのですか?そこにいらっしゃるのは新しい信者さんですか?私はこの神社の巫女兼現人神の東風谷早苗です!」

「鬼島玄龍だ。」

「今早苗に用はないんだよ、お前んとこの神に用があるんだ。」

「諏訪子様と神奈子様ですか?神社じゃないですかね。」

 

 なるほど、アイツらの場所さえ分かればこの自称現人神に用はない。

 

「あ、待ってください!私もここでの挨拶の仕方を学びました。この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」

 

 そう言って弾幕を出そうとする。お前の常識履き違えてるから。

 

「玄龍、アイツやって。今相手してあげられるほどの気力ない。」

「え、あぁ。分かった。」

 

 そういうと玄龍は早苗に真正面から近付く。早苗は流石に動揺して弾幕を引っ込める。

 

「玄龍さん、危ないですよ。一般の方は横で私の勇姿を観ていただいて…」

「ごめんな、霊夢を恨んでくれ。重力を『解く』。」

「え?きゃあああ!?」

 

 玄龍は重力を解いた後、早苗の腕を掴み上空に投げる。突然のことに何が何だか分からない早苗だが、すぐに霊力を使ってふよふよと降りてくる。

 

「ちょっと、何をするんですか!?危ないじゃないですか!」

「能力を『解く』。」

「グヘッ!?」

 

 玄龍が指を鳴らし、同時に早苗が地面に叩き付けられる。なんというか頼んだ私ですら可哀想に思ってきた。

 

「じゃ、行こうか。」

「あ、うん。」

 

 初対面の人を容赦なく地面に叩きつける玄龍に、改めて狂ってると実感した。


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